肌が薄くなるのは酸素不足? ~皮膚の低酸素状態が幹細胞に与える影響を解明~
日本メナード化粧品株式会社(愛知県名古屋市中区丸の内3-18-15、代表取締役社長:野々川 純一)は、これまでに幹細胞による皮膚再生のメカニズム解明に向けて研究を続けてきました。今回、皮膚内の酸素濃度が皮膚の再生には重要であり、酸素不足が幹細胞のエネルギー産生を低下させ、皮膚の再生を滞らせることを発見しました。

メナードは、幹細胞による皮膚の再生に着目し、2003年から長年にわたり、そのメカニズム解明に向けた研究を進めてきました。今回の研究では、特に皮膚内の酸素濃度が表皮の再生に与える影響について解析を行いました。
その結果、平均的な皮膚内の酸素濃度である3%の環境下では、表皮幹細胞が活発に働き、正常に表皮が再生されていることが確認できました。一方で、酸素濃度を0.5%まで低下させると、表皮の再生が大きく阻害されることが明らかになりました。
この理由として、表皮幹細胞は酸素を使いミトコンドリアを介してエネルギーを産生し、それによって表皮を再生しています。そのため、酸素が不足するとエネルギー産生が不十分になり、表皮の再生能力が低下すると考えられました。
さらに、頬の皮膚内部を観察したところ、酸素を運ぶ毛細血管の量が少ない人ほど、表皮が薄い傾向にあることが確認されました。これは、加齢や生活習慣などの影響により毛細血管の機能が低下して皮膚への酸素供給が不足し、幹細胞の働きが弱まり、表皮の再生が滞っているためと考えられました。
これらの結果から、皮膚の再生能力を維持するためには、皮膚内に酸素を十分に行き渡らせることが重要であると分かりました。そのためには、毛細血管の維持やフェイシャルマッサージで血行を促すこと、また酸素の運び手である赤血球の機能を向上させることが有効であると考えられました。今回の発見をもとに、皮膚の再生を促すための新たな技術開発へとつなげていきます。
なお、本研究の成果の一部は2025年9月15日から18日にかけてフランスのカンヌで開催される第35回国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)学術大会にて発表します。
〈参考資料〉
1.低酸素状態では、表皮の再生が滞る
一般的に細胞培養は、大気と同じ酸素濃度(約21%)で行います。しかし、実際の皮膚内の酸素濃度は、平均約3%、場所によっては0.5%程度と、より低い環境にあると言われています。そこで、この皮膚特有の酸素環境が表皮幹細胞の機能にどう影響するかを調べるため、平均的な皮膚内の酸素濃度3%(生理的条件)とより低い酸素濃度0.5%(低酸素条件)で表皮幹細胞を培養し、幹細胞の状態を比較しました。その結果、低酸素条件で培養した表皮幹細胞は一般的な生理的条件と比べて、ミトコンドリアの活性とATP※1 産生がともに低下していることが明らかになりました(図1)。さらに表皮幹細胞を培養し三次元培養表皮モデルを作製したところ、生理的条件では層構造の整った正常な表皮が形成されたのに対し、低酸素条件では層が少なく薄い表皮しか形成されませんでした(図2)。
※1 ATP(Adenosine triphosphate、アデノシン三リン酸):ATPは、生物がエネルギーの貯蔵と輸送に使用する分子。ATPが分解されることでエネルギーが産生される。


2.表皮幹細胞が新しい表皮細胞を生み出すためには、酸素が必要
表皮幹細胞が細胞分裂を行い、新しい表皮細胞を生み出すことで皮膚が再生されます。表皮幹細胞のエネルギー代謝を詳しく解析したところ、細胞分裂が活発な時ほど、細胞内のエネルギー産生器官であるミトコンドリアの活性が高まることがわかりました。さらに、分裂が活発な状態では、酸素の消費量とエネルギー源であるATPの産生量も増加することが確認されました(図3)。
このことから、表皮幹細胞の細胞分裂に不可欠なエネルギーの産生には、酸素が重要な役割を果たしていると考えられました。
これらの結果から、酸素が不足すると表皮幹細胞は細胞分裂に不可欠なエネルギーを十分に産生できなくなり、その結果、新しい表皮細胞を生み出せなくなることで表皮の再生が滞ってしまうことが示唆されました。

3.毛細血管の状態は、表皮の再生に影響する
皮膚に酸素を供給する毛細血管の状態が、表皮の再生能力にどう関わるかを明らかにするため、解析を行いました。皮膚を傷つけることなく内部を観察できるLC-OCT※2 を用い、毛細血管の状態と表皮の厚さとの関係を調べたところ、毛細血管が少ない人は表皮も薄いことが明らかになりました(図4)。このことから、毛細血管が減って皮膚に十分な酸素が供給されなくなると、表皮の再生能力が低下し、表皮の再生が滞り、表皮が薄くなってしまうことが示唆されました。
※2 LC-OCT:皮膚の内部構造を高解像度で取得できるシステム Line-field Confocal Optical Coherence Tomography

今回の研究により、表皮の再生能力が発揮されるためには、皮膚内部への酸素供給が重要であることが明らかになりました。このことから、再生能力を維持するためには、毛細血管の維持やフェイシャルマッサージによって皮膚の血行を促し、皮膚内部に酸素を行きわたらせることが有用だと考えられます。さらに、酸素の供給にはその運び手である赤血球の機能も重要です。メナードではこれまでに、加齢によって機能低下した赤血球の割合が増えることを明らかにし※3、赤血球を生み出す造血幹細胞の機能を高めて新しい赤血球の産生を促す成分を見出してきました※4。このような成分を活用することも、皮膚内部に酸素を行きわたらせるうえで役立つと考えられます。今後は本研究の成果を、皮膚の再生を高めるための新しい技術開発へとつなげていきます。
※3 2024年7月3日配信ニュースリリース
加齢に伴う疲れやすさに赤血球の機能低下が関与することを発見
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000064.000048666.html
※4 2024年8月27日配信ニュースリリース
霊芝の胞子油に造血幹細胞を増やす効果を発見
~ケイヒ、高麗人参と組み合わせることで疲労改善効果を確認~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000066.000048666.html

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