物価上昇でも賃金上がらず困窮 日常的に”減らす・買わない・使わない”ものとは?【低所得のひとり親家庭2,000名超による回答】
5割が世帯年収200万円未満・・・ 暮らしの実態を調査
認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン(本部:東京都大田区、代表理事:小泉 智)は2017年より日本国内の子どもの貧困対策事業として、低所得のひとり親家庭への食品支援事業「グッドごはん」を運営し、ひとり親家庭への食品配付を行っています。
当団体は、グッドごはんを利用するひとり親家庭を対象に、前年の収入や暮らしの状況に関するアンケート調査を毎年実施しています。この度の調査の結果、健康や子どもの教育が阻害されるほどの経済的困窮に苦悩しながら、物価上昇の中で賃金が上がらず、一層困難を深めるひとり親家庭の実態が明らかとなりました。
アンケート概要
「ひとり親家庭の収入・暮らしの状況に関するアンケート」
・実施日程:2025年2月4日~2月20日
・対象者:グッドネーバーズ・ジャパンのフードバンク事業「グッドごはん」の利用者 ※利用者は、原則としてひとり親家庭等医療費受給者証保有者に限る(ひとり親家庭等医療費受給者証とは、18歳未満の子どもを養育し、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭等に交付される医療費助成制度の医療証)
・回答方法:アンケート回答フォームへの入力(オンライン)
・回答者数:2,345名
・回答者属性:
- 性別:女性 2,252名|男性 68名 (無回答除く)
- 年代:10代 1名|20代 70名|30代 519名|40代 1,201名|50代 525名|60代以上 24名 (無回答除く)
- 居住地域:首都圏(主に東京・神奈川・埼玉・千葉) 1,031名|近畿(主に大阪・京都・兵庫・奈良)851名|九州(主に佐賀・福岡)463名
年間の就労収入「200万円未満」が7割近く 非正規雇用で働く事情とは
回答者(グッドごはんを利用するひとり親家庭の保護者)の就労のみによる2024年の年収(手取り)を見ると、65.9%が200万円未満、さらに4人に1人は100万円未満という厳しい状況が明らかになりました。

就労形態については、回答者の半数が非正規雇用で就労している(2024年末時点)ことがわかりました。

非正規雇用で就労する理由についての回答(自由記述)では、その形態で就労することを積極的に希望していないものの、病気や障がいをもつ子どもをケアするための時間の確保、自身の年齢が高いこと、お金を得るためすぐに働き口を確保する必要性などが影響し、非正規で就労するケースがみられました。
「娘が心の病気を抱えているので、時間に融通が利くパートしか選択肢が無いため」
「離婚する事が決まり、職を探したが、年齢的なものと、障害を持つ子どもの育児をしながら就ける職場が、パートしかなかった為」
「正社員雇用は、シングルを理由にすべて断られたため」
「本当は正規雇用になりたいですが、雇ってもらえるところがありませんでした。子供のことで休みがちになる可能性がある、残業が出来ないとなると正規雇用は難しいです。年齢もあるようですが。」
「直ぐに働き始めることができたのが派遣だったため」
「転職時、生活費が足りなくなり直ぐに仕事を決めなくてはならなくなり、契約社員になってしまった」
物価上昇の中で賃上げなく、さらに生活困窮
就労している回答者に対し、2024年の職場での「賃上げ」の状況について質問した結果、賃上げにより昇給があったと回答した人はわずか2割にとどまりました。

また、「職場で賃上げがあり、それに伴って自分の給料も上がった」と回答した人においても、その昇給額が昨今の物価上昇に対して十分ではない様子がうかがえます。
同回答者に対し、賃上げ後の月収(手取り)の変化について尋ねたところ、4割以上が月に3,000円未満の増加にとどまることがわかりました。

収入や暮らし全般の不安・心配事に関する自由記述回答では、物価上昇の中で賃上げがない、または不十分なことによる困窮について訴える声が多く寄せられました。
「賃金があがらないのに物価があがる一方で、子供の学費もあるし、この先不安しかない。」
「時給は上がりましたがたった10円です。月に1000円プラスになったかなというくらいでほぼ変わらないです。物価高に対応していくのは難しく、娘にご飯を食べさせる為に私が食事を我慢するしかないです。」
「収入は増えないのに物価が高くなるばかりで、副業をしたいが子供がひとりで過ごす時間が増えてしまうため踏み切れない。結果生活苦から抜け出せない。将来のための貯金もできず、不安しかない」
「物価は上昇し続けているが賃金はほとんど上がらないため、日々の生活が苦しいのと貯蓄が全くできない」
世帯全体の年収と貯蓄の状況
回答者の世帯全体における2024年の年収(各種社会手当・養育費・同居家族の収入含む)について回答を得た結果、世帯年収が200万円に満たない回答者が5割に及びました。

また、回答者の世帯全体における貯蓄額について質問したところ、「貯蓄はない」が最も多い割合を占めました。

経済的に厳しい状況の中、さまざまな事由により困窮から脱却する糸口を見出せず、困難を深めるケースは少なくありません。回答者からは、下記のような声があげられました。
Aさん 40代 | 世帯年収200万円未満 | 養育する子ども1人
「体調を崩しがちで低収入、物価が上がるが対応できずにいる。将来の不安感も大きく、仕事のストレスもあり、精神的にも不健康。いろんな面で息子への悪影響が心配だがどうすることもできず悪循環になっている。」
Bさん 20代 | 世帯年収200万円未満 | 養育する子ども2人
「正規雇用でないため、この先収入が増えることがないと言われてしまっているのが一番の心配です。手に職をと思い勉強している最中ですが、1人での子育て、家事、フルタイムでの仕事、頼れる親族もいなく思うように進めず歯痒いです。」
Cさん 40代 | 世帯年収200万円未満 | 養育する子ども1人
「私自身体調に波があり、仕事を見つけるのが難しい。以前、フルタイムで働いていたが、子供も1人だけの時間や学童の時間が長くなり、尿もれや夜中泣き出す、など精神的に不安定になってしまい、パートにした。就業したのは良いが持病再発で職場に行けなくなった。」
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コラム:生活保護について
生活に困窮している場合、一定の要件を満たせば、国が提供する生活保護制度を利用する権利があります。しかし、「グッドごはん」を利用するひとり親家庭の中には、生活保護の受給を検討しながらも、周囲からの不理解等さまざまな事情により制度の利用に至らなかったケースがみられます。
以下、グッドネーバーズ・ジャパン発行『ひとり親家庭の生声白書』よりグッドごはん利用者からの声を引用
「生活保護はやめてくれと身内から懇願されています。」
「一度生活保護を受けたことがあるが友達に否定されたり友達がいなくなったり、病院に受診しに行くと酷い扱いをされ鬱が悪化した。」
「私の両親が生活保護制度に反対のためどうしたらよいのか…」
「生活保護を受けたほうが普通に生活出来るのではないかと一度役所に相談へ行ったこともありますが、担当の方の本音として、生活保護を受けることで暮らしが制限を受けるということに加え、何より子供たちが一番苦労するかもしれないと聞きました。生活保護を受けていることがどこからか周りに知られて、いじめの対象になったりすることもあると。そんな事実を聞かされると何もかも怖くて、本当に切羽詰まって助けて欲しい時はどうしたらいいのかわかりません。」
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物価上昇で一層の苦境 自分の食事を減らさざるを得ない実情
本調査では、長引く物価上昇によりさらなる生活苦に陥るひとり親家庭の状況も明らかとなりました。
物価上昇が続く中での暮らしぶりを問う質問において、「非常に苦しい」「やや苦しい」と回答した人の割合は計95.8%にのぼりました。

また、上記質問で「非常に苦しい」「やや苦しい」と回答した人に対し、「物価上昇の影響により普段の生活でよくとっている行動」に関する選択肢の中であてはまるものを選択する(複数選択可)形式で質問した結果、「自分の食事の量や回数を減らす」が最も高い割合で選択されました(※)。また、「野菜を買わない」「家で冷暖房器具を使わない」など、健康への影響が懸念される行動が比較的高い割合を示しています。

(※ 本調査回答者を対象に当団体が実施した食生活の状況に関する最新調査結果について、近日中に当団体プレスリリースにて公開予定です。)
物価上昇による暮らしの困難や不安感について、回答者からは下記のようなコメントが寄せられました(自由記述回答)。
「価格高騰が続いていて、安いものしか買えないため、栄養がとれない。成長期の子どもがいるので、とても心配。」
「市民税非課税世帯からは、ほんの僅かに外れているので臨時的な国の支援はあまり届きません。物価高騰は追い打ちになっており、将来への教育費の不安や日々の暮らしが辛くなる事があります。」
「お米を食べさせてあげたくても、高くて買えない。自分さえ我慢すればよいと思っていたが、白飯の回数を減らしてパンや粉ものにしているのが気がかり。白米を思いっきり食べさせてあげたいけど、食べ盛りの高校生にきついことをさせている気持ちでいっぱいです。」
「光熱費、保険料とかも上がって支払う事がきつい。寒くても暖房を控えて布団に包まる生活。先が見えない。」
物価上昇の影響は、子どもの学習や体験活動の面にも及んでいます。物価上昇が続く中での暮らしぶりが「非常に苦しい」「やや苦しい」と回答した人に対し、物価上昇の影響で「子どもの学習面や体験活動についてあきらめた経験のある事柄」について聞いたところ、6割近くが「子どもの誕生日や季節のイベントに際して特別な食事や品物を用意すること」「習い事を始めさせること」を選択しました(複数回答)。
また、およそ2割が「学用品を用意すること」「進学」を選択したほか、3割が「習い事を続けさせること(習い事をやめた)」を選択しました。

子どもが適切な学習環境や体験機会を得ることは成長過程において不可欠である一方、物価上昇によりそれがかなわず、苦悩する声が聞かれました(自由記述回答)。
「収入を増やしても税金も上がり手取りがあまり増えないのに、物価は高騰。生活するのもやっとで、子供が欲しい物、行きたい所に連れて行けない自分がもどかしくなってしまう時があります。」
「子供の経験・体験が少ない分、周りのお友達に話がついていけていないところがある。物価高で生活は更なる節約を超えてただただ我慢する日々で、ふっとしたときに惨めになる。」
「物価高で生活がどこまで続けられるか不安。進学も諦めることになりそうで申し訳ない」
「物価が上がり貯蓄ができないので、塾含め大学進学のための費用が用意できない。」
経済的困窮の背景にある社会の課題
本調査より、経済的困窮や物価上昇に対する困難を抱えるひとり親家庭の実態が浮き彫りとなりました。
このような貧困の背景には、個人の努力や選択だけでは解決できない、社会構造上の問題が存在していると言えます。たとえば、フルタイムで働いても十分な賃金が得られず、生活に困窮すること。子育て、病気や障がい、家族の介護などは誰にでも起こり得る事象であるものの、それらにより就労環境が著しく制限されること。さらに、日々の生活を直撃する物価上昇などといった要因は、個人の責任を超えた社会全体の課題であり、特に脆弱な立場の人々に対し深刻な影響を及ぼします。
その結果、適切な食事や、子どもの学習・体験の機会を諦めざるを得ない状況が生じ、子どもたちの健康や教育、さらには将来への可能性を狭めるリスクが高まります。また、保護者自身が心身の健康を損ない、悪循環に陥るケースも少なくありません。
このような貧困を放置することは、個々の家庭の問題にとどまらず、社会全体における格差の拡大や、将来的な労働力の減少、医療・福祉コストの増大といった課題を引き起こす可能性があります。
すべての子どもたちの健やかな成長、そして、未来の社会を守るため、社会全体で貧困問題に取り組むことが不可欠です。
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■団体について
特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパンは、国際組織グッドネーバーズ・インターナショナルの一員として、2004年に開設されました。「子どもの笑顔にあふれ、誰もが人間らしく生きられる社会」を目指し、国内外の子ども支援を行っています。公益性の高い団体である「認定NPO法人」として東京都から認可を受けています。
■ひとり親家庭のフードバンク「グッドごはん」とは
「グッドごはん」とは、ひとり親家庭等医療費受給者証をもつ、所得が限度額未満のひとり親家庭を対象に、食品を毎月無料で配付する事業です。2017年9月の事業開始以降、延べ12万を超える世帯に食品をお渡ししてきました*。
首都圏、近畿および九州における約50か所*の配付拠点にて、企業や個人の寄付によって集まったお米や調味料、レトルト食品、お菓子など、約10,000円相当のカゴいっぱいの食品をひとり親家庭に配付しています。
*2025年2月時点(配付拠点数は月により変動)
https://www.gnjp.org/work/domestic/gohan/
※通常、配付拠点に直接取りに来られる方を対象に食品を配付しています
※生活保護受給中の方は対象外です
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