「230円の社食も高い」 当事者が語る、“今起きている”貧困の実態 フルタイム就労でも低収入、食を諦める母――困窮する親子の暮らしとは? 【ひとり親家庭の声】
認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン(本部:東京都大田区、代表理事:小泉 智)は2017年より日本国内の子どもの貧困対策事業として、低所得のひとり親家庭への食品支援事業「グッドごはん」を運営し、ひとり親家庭への食品配付を行っています。
グッドごはんを利用するひとり親は非正規雇用で就労しているケースも多く、今般の物価上昇の中で賃金が上がらず、一層困窮した生活を強いられています。30代女性・友美さん(仮名)もその一人です。フルタイムで働いているものの生活は厳しく、自らの食事を抜いてしのぐことも少なくありません。
低所得のひとり親当事者へのインタビューを通じて浮かび上がった、切迫した暮らしの実情をお伝えします。
物価上昇でも収入は増えぬまま さらなる困窮に直面
認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン(以下、グッドネーバーズ・ジャパン)は2025年2月、フードバンク「グッドごはん」を利用するひとり親家庭へアンケートを実施し、収入や暮らしの実態について調査しました*。
その結果、回答者の5割が世帯年収200万円未満(各種社会手当・養育費・同居家族の収入含む)であると答えました。また、職場での賃上げにより昇給があった人は、回答者のわずか2割にとどまるなど、厳しい状況が明らかとなりました。(調査結果詳細)

当事者の声が明かす、食べることすらままならない暮らしの実態
グッドネーバーズ・ジャパンによる食品支援「グッドごはん」を利用する友美さん(仮名・30代女性)は、元配偶者と離別後、13歳の長男・5歳の長女と暮らしています(年齢はインタビュー当時)。
フルタイムの契約社員として働いており、非課税世帯には該当せず、所得税等が控除された後の就労収入は手取りで月に16~18万円ほどです。そのほか、児童扶養手当や児童手当を1か月あたり計6万円ほど受給しています。
子どもの父親から養育費は受け取っておらず、経済的に余裕のない暮らしを余儀なくされています。
2025年2月にグッドネーバーズ・ジャパンの職員が友美さんへ行ったインタビューを通じ、外からは見えづらい切迫した暮らしの実像が浮かび上がりました。

――食品支援を利用される中で、特に受け取って嬉しい食品はありますか。
友美さん やっぱりお米が嬉しいですね。それから、お肉も助かります。子どもたちはお肉が大好きなんです。そぼろ食べたいとか、牛肉食べたいとか、肉の種類の指定までしてくれるくらい好きで。
ですが、家計が厳しいので、お肉を買うのは私のお給料日のときだけです。月に一度のその日だけお肉を買って、食卓に出しています。
――近頃は物価高の影響もあり、たくさんのグッドごはん利用者の方が食事の用意に苦労されているので、私たちも懸念しています。
友美さん 物価高の影響は本当に大きいです。野菜も買えませんし…。そんな中、収入は変わらないので、お給料を上げていただけないか職場に交渉しているところです。
――物価高の一方、お給料が変わっていない状況なのですね。今の職場では、どのような形態で働かれているのですか。
友美さん フルタイムの契約社員として働いており、11年目になります。5年目に時給が25円上がったのですが、それ以降一度も昇給はなく、今の時給は1,475円です。
より良い条件で働けたらと思い、転職を考えて求人を調べたりはしているのですが、今の仕事で1日に長時間拘束され、求人の面接などに行く時間をとることができません。
木曜日は午前中で仕事が終わりますが、午後は子どもの学校行事や病院の付き添いなど、平日でなければ対応できない用事や家事に充てる必要があります。また、土曜日の午前中も勤務があるので、自由に動ける時間が限られており、思うように転職活動が進められていない状況です。
――時給制の場合、勤務した時間分のお給料が支払われるので、お仕事を休みながら転職活動をすることも難しいご状況だと思います。今のお仕事の拘束時間が長いとのことですが、1日に何時間ほど勤務されているのでしょうか。
友美さん 終日勤務する日は、午前は8時15分~12時15分、お昼休憩を挟み、午後は2時45分~6時45分の計8時間が基本的な就労時間です。全体の拘束時間としては10時間半ですね。
――お昼休憩が2時間半もあるのですね。どのように過ごされているのですか。
友美さん 休憩の時間が少し長いので、一度帰宅して家事をしたり、近くに住む高齢の父の様子を見に行ったりしています。職場の人から社員食堂に誘われたらその場には行きますが、食事が230円からで、私にとっては結構な値段です。なので自分は食べず、お茶で済ませることがほとんどです。
――お昼ご飯を召し上がらず、そのまま午後の仕事をされることが多いのですね。
友美さん そうですね。残業がある日も多く、退勤後に娘を保育園へ迎えに行き、帰宅するのは夜8時頃になります。
――帰宅後はどのように過ごされているのですか。
友美さん まず、子どもたちに夕食を食べさせます。娘は保育園で食べてきてはいるのですが、お家で一緒に食べたいみたいで。どうやら保育園で18時以降に残る子は少ないらしく、保育園での夜ご飯の時間が寂しいから、お家でみんなと食べたいと言っています。

――お母さん、お兄ちゃんと一緒に食べたいのですね。
友美さん そうですね。ただ、私は夕食をとらない日もあるんです。経済的なこともあり、我が家では1日に炊けるお米は3合までと決めているので、私の分を削るときもあります。
そうして夕食の時間が終わると、寝るのは22時、23時頃になってしまいます。通園のため娘は翌朝6時半に起きなければなりません。なので、早く寝かせようと電気を暗くすると、息子が学校の勉強をできなかったり。一つしかない部屋で3人一緒に過ごしているので引っ越したいのですが、予算内の家賃でなかなか物件が見つからず、公営住宅の抽選にも毎回外れている状況です。
――住居の面でもご苦労があるのですね。他にご心配・不安に感じていることはありますか。
友美さん ひとり親という理由で差別をされていると感じることがあり、残念に思っています。たとえば、息子がお友達から食事に誘われて「行けない」と言うと、周りは息子がひとり親家庭だと知っているので「お前の家は貧乏だからな」という反応をされることがあるそうです。そういった状況もあり、ひとり親だということを周りに知られないようにするために、私はあまり人と積極的に交流しないようにしています。
――ひとり親という理由で、そのような反応をされることがあるのですね。
友美さん はい。ひとり親に対する差別がなくなればいいなと思います。
友美さんは、日々の生活で多くの困難を抱えながら子どもを育てています。それらの困難は決して、友美さん個人の努力次第で乗り越えられるものではありません。
フルタイムで働いても、得られる収入は生活を支えるには十分とは言えず、さらに、物価の上昇が家計を圧迫しています。こうした問題は、個人の努力の範疇で解決できるものではなく、社会全体で取り組むべき課題です。
友美さんはインタビューの最後に、こう語りました。
「この食品支援がなかったら、自分たちはどうなっているのだろう?と感じます。」
この言葉には、日々の暮らしに対する切実な不安が滲んでいます。しかし、こうした現実が社会の中で表面化されないまま、貧困の実態が見過ごされてしまうことは少なくありません。
誰もが安心して暮らせる社会を築いていくため、貧困の現実に社会全体で向き合い、解決に向けて行動することが不可欠です。
*アンケート概要
「ひとり親家庭の収入・暮らしの状況に関するアンケート」
・実施日程:2025年2月4日~2月20日
・対象者:グッドネーバーズ・ジャパンのフードバンク事業「グッドごはん」の利用者 ※利用者は、原則としてひとり親家庭等医療費受給者証保有者に限る(ひとり親家庭等医療費受給者証とは、18歳未満の子どもを養育し、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭等に交付される医療費助成制度の医療証)
・回答方法:アンケート回答フォームへの入力(オンライン)
・回答者数:2,345名
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■団体について
特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパンは、国際組織グッドネーバーズ・インターナショナルの一員として、2004年に開設されました。「子どもの笑顔にあふれ、誰もが人間らしく生きられる社会」を目指し、国内外の子ども支援を行っています。公益性の高い団体である「認定NPO法人」として東京都から認可を受けています。
■ひとり親家庭のフードバンク「グッドごはん」とは
「グッドごはん」とは、ひとり親家庭等医療費受給者証をもつ、所得が限度額未満のひとり親家庭を対象に、食品を毎月無料で配付する事業です。2017年9月の事業開始以降、延べ13万を超える世帯に食品をお渡ししてきました*。
首都圏、近畿および九州における約50か所*の配付拠点にて、企業や個人の寄付によって集まったお米や調味料、レトルト食品、お菓子など、約10,000円相当のカゴいっぱいの食品をひとり親家庭に配付しています。
*2025年4月時点(配付拠点数は月により変動)
https://www.gnjp.org/work/domestic/gohan/
※通常、配付拠点に直接取りに来られる方を対象に食品を配付しています
※生活保護受給中の方は対象外です
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