イヌのアトピー性皮膚炎における腸内細菌叢の変化と糞便移植の有効性を明らかに
アニコムと東京農工大学の共同研究成果
本研究成果は、米科学誌『Scientific Reports』にて5月31日にオンライン公開されました。
【原論文情報】
論文タイトル:Pilot evaluation of a single oral fecal microbiota transplantation for canine atopic dermatitis
著者名:Koji Sugita, Ayaka Shima, Kaho Takahashi, Genki Ishihara, Koji Kawano, Keitaro Ohmori
雑誌名:Scientific Reports volume 13, Article number: 8824(2023)
https://www.nature.com/articles/s41598-023-35565-y
CADを取り巻く背景
CADは、イヌにおける最も一般的なアレルギー性皮膚疾患で、発症すると皮膚の痒みや炎症、脱毛や細菌の二次感染などを引き起こし、イヌの生活の質(QOL: Quality Of Life)を著しく低下させます。CADの発症には、遺伝的な要因、ダニ・花粉などの環境中のアレルゲンに対する免疫の異常応答、皮膚のバリア機能の低下など複数の因子が関わっています。CADの既存療法には、炎症や痒みを抑える薬の投与や減感作療法などがあります。しかしながら、その複雑な病態のために、根治や臨床症状の長期的なコントロールが難しく、代替療法の探索が求められています。
本研究では、腸内に存在する様々な細菌の集団である、腸内細菌叢に着目しました。腸内細菌叢は、ヒトだけでなく動物においても、免疫調節や代謝調節など、身体の様々な機能の恒常性維持に重要な役割を担っています。そのため、消化器疾患のみならず種々の疾患においても、腸内細菌叢の多様性の減少が関連していることが知られています。しかしながら、CADに罹患しているイヌと健常なイヌとの腸内細菌叢の違いは、これまであまり詳細に調べられてはいませんでした。
また上述のように、腸内細菌叢と疾患とが関連することから、腸内細菌叢を標的とした治療法が存在します。FMTはその一つで、健常な生体の腸内細菌を、疾患をもつ生体の腸へと移植する方法です。イヌでのFMTの臨床研究例は消化器疾患に限定されますが、ヒトではアトピー性皮膚炎に対するFMT治療に効果があるという臨床結果も報告されています。
そこで本研究では、東京農工大学と共同で、CADに罹患しているイヌの腸内細菌叢と、健常なイヌの糞便を用いたFMTのCADに対する治療効果を調査しました。
本研究の成果
本研究ではまず、東京農工大学でCADの罹患・非罹患の診断が行われたイヌを対象に、当社の研究施設にて腸内細菌叢検査を実施しました。その結果、CADに罹患しているイヌの腸内細菌叢では、健常なイヌの腸内細菌叢と比較して、フソバクテリア門の細菌が減少していました。
次にCADに罹患しているイヌに対して、健常なイヌの糞便を用いたFMTを東京農工大学にて実施しました。FMT実施前後の痒み・皮膚炎症度と腸内細菌叢を比較したところ、FMT実施後には痒み・皮膚炎症度いずれも改善され、腸内細菌叢の多様性も増加していることが明らかになりました。さらにFMT実施前は腸内細菌叢の中で存在量の少なかったフソバクテリア門の細菌が、FMT実施後に増加していたこともわかりました。
これらのことから、腸内細菌叢はCADの新たな治療標的になり得ること、さらにCADにはFMTによる治療が有効であることが示されました。
CADによるイヌのQOL低下を防ぐために
本研究では、FMTによって、CADの痒みと皮膚炎症状の改善が見られました。腸内細菌叢を治療標的としたFMTを定期的に実施することで、CADの症状を長期的にコントロールできる可能性があります。当社では、CADで苦しむイヌを救うためにも、FMT療法の実用化に向け引き続き取り組むことが重要であると考えています。
本研究の成果は、当社グループの取り組みの一つである健康寿命の延伸を、さらに一歩進めるものとなりました。今後も様々な研究を通じて、獣医療の発展と動物福祉の向上を目指してまいります。
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