認知症をめぐるビジネスケアラー・ワーキングケアラーの実情を考えるシンポジウムを開催しました

~実態調査結果から、企業が認知症を「自分ごと化」してとらえる重要性が明らかに~

株式会社日本総合研究所

● 介護を受ける家族の認知機能障害が重度になるほど、介護に当たって「仕事に影響がある」と答えたビジネスケアラー・ワーキングケアラーの割合が高い
● ビジネスケアラー・ワーキングケアラーの約4割もの人々が「正しく認知症を学ぶ機会」「家族の認知症を早期発見・診断するための支援」を企業に求めている
● 企業は、従業員が仕事と介護を両立できるよう、認知症の早期段階から準備・対策しておくことが重要である

 株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 谷崎勝教、以下「日本総研」)と日本イーライリリー株式会社(本社: 兵庫県神戸市、代表取締役社長: シモーネ・トムセン、以下「日本イーライリリー」)は、2025年5月14日(水)、「認知症をめぐるビジネスケアラー・ワーキングケアラー(注1)の実情を考えるシンポジウム ~共生社会の実現に向けて、企業に求められる役割と取組み~ ビジネスケアラー・ワーキングケアラー向け調査結果を通じて」(以下「本シンポジウム」)を東京都内で開催しました。

 本シンポジウムには、企業、政策、メディアの関係者など140名以上が参加しました。初めに株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ 部長/プリンシパル 紀伊 信之(きい のぶゆき)が、基調講演として「認知症について企業に求められる役割~調査結果から見える実態と課題~」について発表しました。その後のパネルディスカッションでは、当事者団体、企業、そしてシンクタンクの方々が登壇し、「企業に求められる役割と必要な取り組み」をテーマに議論しました。

 基調講演では、日本における認知症を取り巻く環境を紹介したうえで、企業が従業員の仕事と介護の両立を推進するためには、認知症、特に早期段階の認知症にフォーカスを当てることが重要であることを説明しました。併せて、「ビジネスケアラー・ワーキングケアラー、特に認知症家族介護者の実態・意識等調査」(以下「本調査」/別添資料参照)の結果を示しました。

 本調査は、認知機能の低下を0~7の8段階(認知機能が低下するほどスコアが高い)で示すAD8-J(注2)スコア(以下「スコア」)を「0~1」「2~4」「5~7」のグループに分けて調査を実施し、介護が必要な家族の認知機能が低下しているほど、仕事への影響が大きいことが明らかとなりました。例えば、「介護精神ストレスで仕事に集中できない」では、スコア0~1のグループでは42.4%、2~4のグループでは54.8%、5~7のグループでは76.4%との結果となり、スコアが高いほど仕事に集中できなくなる人が増加しました。また、「介護の肉体的な疲労が残ってしまい、仕事に身が入らない(35.2%、54.4%, 68.1%)」(数字はスコア「0~1」「2~4」「5~7」のグループ順。以下同様)「介護のために仕事の業務を減らす(38.4%、46.8%、67.8%)」「介護のために仕事のスケジュールや労働時間の調整を勤め先に依頼する(40.8%、57.6%、 67.8%)」においても同様に認知機能障害が重度であるほど仕事への影響が大きくなる結果となりました。

 次に、ビジネスケアラー・ワーキングケアラーが企業に求める制度・支援では、「正しく認知症を学ぶ機会(46.2%)」や「家族の認知症を早期発見・診断するための支援(44.3%)」などが半数近くの割合に上る結果となっています。そして、認知症に関連した家族の介護に関して企業に求める制度としては、「家族介護を支援する制度の周知の機会(50.5%)」「正しく認知症を学ぶ機会(43.4%)」「家族の認知症を早期発見・診断するための支援(42.6%)」が上位となりました。

 これらの結果に基づいて、基調講演では、企業が認知症を「自分ごと化」してとらえることの重要性について紹介されました。

 パネルディスカッションでは、「自分ごと化」してとらえた企業にどのような取り組みが求められるかについて、当事者団体、企業、とシンクタンクの方々による議論が行われました。企業に求められる取り組みとして、①企業の状況に応じた仕事と介護の両立ができる制度設計、②従業員に向けて、認知症に対する正しい知識や認知症の人に対する正しい理解を学ぶ機会の提供、③認知症になった従業員が働き続けることができる職場環境整備、④従業員とその家族・周囲の人たちの認知症の早期発見・早期診断・早期対応の支援が挙げられました。

<登壇者コメント>

〇公益社団法人 認知症の人と家族の会 下坂 厚(しもさか あつし) 氏

認知症が軽度の段階からいろいろな人とつながることができれば、心理的負担の軽減に寄与する。また、軽度の段階で対応できれば、今後の生活設計や選択肢は広がる。自身は、若年性アルツハイマー型認知症と診断された際、仲間に迷惑をかけたくないという思いから会社を退職してしまった経験がある。「診断を受けると、仕事をやめなければならない」という思いになりがちだが、診断された当時に正しい知識があったとしたら、退職せずに働き続けるという選択肢もあったかもしれない。認知症になった本人やその家族に加えて、企業にとっても、早い段階で準備や対策を行うことが重要である。企業として何ができるかということを一緒に考えてほしい。

〇公益社団法人 認知症の人と家族の会 代表理事 鎌田 松代(かまだ まつよ) 氏

従業員の認知症に対する正しい知識・認知症の人に対する正しい理解が進むことが重要である。認知症は誰でもなり得る病気であり、認知症を知っておくことは「備え」である。そのことで同僚や自分の家族の小さな変化に気付き、早い段階での相談や受診などへの対応ができる。認知症への備えがあることは、介護しながら仕事も継続する両立支援にとっても重要である。認知症基本法の理念である共生社会実現のため、企業にも社会的な責任が求められており、企業が認知症を自分ごと化し、自主的な取り組みを推進することを期待する。

〇大成建設株式会社 管理本部 人事部 人財いきいき推進室 室長 北迫 泰行(きたさこ やすゆき) 氏

当社でも親が団塊の世代である「団塊ジュニア世代」の従業員が大変多く、社内で実態調査をしたところ、介護に関する悩みや不安を抱えている従業員は多い。特に、認知症への関心も高まっていると感じており、認知症関連のセミナーやイベント開催への従業員からのニーズは大きい。不安を抱える従業員や困っている従業員をサポートすることが仕事と介護両立には重要であり、企業として認知症にしっかりと向き合っていくことが必要である。

〇株式会社イトーヨーカ堂 サステナビリティ推進部 総括マネジャー 小山 遊子(こやま ゆうこ) 氏

介護に直面している従業員が多いが、育児と比べて介護は周囲から見えにくいという特徴があり、困っている従業員が一人で抱え込んでしまう傾向にある。認知症を含めて、介護に直面する従業員が正しい知識を持ち、どういった支援や制度があるかを知っていれば、準備や対策が可能になる。従業員に認知症に関する正しい知識を持ってもらうということは、従業員本人やその家族が認知症当事者になった際に適切な対応ができるようになることに加えて、店舗に来店されるお客さんへの対応という観点でも重要である。

〇特定非営利活動法人 日本医療政策機構 シニアマネージャー 栗田 駿一郎(くりた しゅんいちろう)氏

一つは対顧客・社会への視点です。MCIと合わせた認知症の人の数は約1000万人を超えています。彼らも大切な自らの商品やサービスの消費者であると認識することで、商品・サービスの改善にもつながります。もう一つは対従業員・家族への視点です。人手不足が深刻な昨今、より長く働き続けてもらうための工夫は不可欠です。従業員やその家族が認知症になったとき、どのようにして共に歩めるかを考えることが求められています。

 日本イーライリリーと日本総研は、これからも認知症を巡るステークホルダーと連携し、認知症に対するスティグマの解消や認知症の人を含めた共生社会の実現に向けて貢献してまいります。

                                            以上

実施概要

日時:          2025年5月14日(水) 14:00~15:30

形式:          会場(日本総研・社会価値共創スタジオ)およびオンライン

―プログラム―   

開会の挨拶:       株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ 部長/プリンシパル 紀伊 信之(きい のぶゆき)

基調講演:        「認知症について企業に求められる役割~調査結果から見える実態と課題~」

             株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ 部長/プリンシパル 紀伊 信之

パネルディスカッション: 「企業に求められる役割と必要な取組み」

パネリスト:       公益社団法人認知症の人と家族の会 下坂 厚 (しもさか あつし)氏

             公益社団法人認知症の人と家族の会 代表理事 鎌田 松代 (かまだ まつよ)氏

             大成建設株式会社 管理本部 人事部 人財いきいき推進室 室長 北迫 泰行(きたさこ やすゆき)氏

             株式会社イトーヨーカ堂 サステナビリティ推進部 総括マネジャー 小山 遊子 (こやま ゆうこ)氏

             特定非営利活動法人日本医療政策機構 シニアマネージャー 栗田 駿一郎(くりた しゅんいちろう)氏

モデレーター:      株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 部長/プリンシパル 紀伊 信之

閉会の挨拶:       日本イーライリリー株式会社 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 ニューロサイエンス領域本部 医学部長 小森 美華(こもり みか)                               

※本シンポジウムの企画・運営およびビジネスケアラー・ワーキングケアラー、特に認知症家族介護者の実態・意識等調査、については日本イーライリリーの委託を受けて日本総研が実施しました。

(注1)仕事をしながら家族介護を行う方(経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」より参照)

(注2) 家族・介護者の情報に基づく軽度認知障害および認知症の簡易的・初期的な評価法。2点以上はMCI(軽度認知障害)もしくは認知症の可能性がある。得点が高いほど認知機能障害は重度。

日本における認知症を取り巻く環境について

厚生労働省の将来推計によると、国内の認知症の人の数は2040年には約600万人に達すると予測されています#1。それは国民の約7人に1人、高齢者の約15%が認知症となる推計です#1。近い将来、自分自身や身近な人が認知症になることが誰にとっても起こるようになります。また、介護離職者の退職理由においては、認知症の介護を要因とする退職が2番目に多く、認知症の介護離職が社会課題となっています#2。2030年には、家族を介護する833万人(認知症の方の介護以外も含む)のうち、約4割の約318万人がビジネスケアラー・ワーキングケアラーになると予測、経済損失が9兆円に上る試算されています#3。一方、2024年1月には、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されたり、近年の新しい治療法の登場があったりと、認知症を取り巻く環境は変化しています。このような背景から、企業は認知症を自社の課題としてとらえ、認知症の家族の介護を行う従業員や認知症の本人となる従業員が、働きやすい環境を提供することが求められていると考えられます。

#1令和5年度老人保健事業推進費等補助金「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」

#2令和5年度 老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業「介護離職者の離職理由の詳細等の調査及び勤労世代の介護離職防止に資する介護保険制度の広報等の作成」

#3 経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者ガイドライン」

株式会社日本総合研究所について

日本総合研究所は、生活者、民間企業、行政を含む多様なステークホルダーとの対話を深めながら、社会的価値の共創を目指しています。シンクタンク・コンサルティング事業では、パーパス「次世代起点でありたい未来をつくる。傾聴と対話で、多様な個をつなぎ、共にあらたな価値をつむいでいく。」を掲げ、次世代経済・政策を研究・提言する「リサーチ」、次世代経営・公共を構想・支援する「コンサルティング」、次世代社会・市場を創発・実装する「インキュベーション」を、個人間や組織間で掛け合わせることで、次世代へ向けた価値創造を強力に推進しています。

https://www.jri.co.jp/

日本イーライリリーについて

日本イーライリリー株式会社は、米国イーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人です。日本の患者さんが健康で豊かな生活を送れるよう、日本で50年にわたり最先端の科学に思いやりを融合させ、世界水準の革新的な医薬品を開発し提供してきました。現在、がん、糖尿病、アルツハイマー病などの中枢神経系疾患や自己免疫疾患など、幅広い領域で日本の医療に貢献しています。詳細はウェブサイトをご覧ください。

https://www.lilly.com/jp

■別添資料

「アンケート調査概要」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/pdf/company/release/2025/0522-1.pdf

「ビジネスケアラー・ワーキングケアラー、特に認知症家族介護者の実態・意識等調査」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/pdf/company/release/2025/0522-2.pdf

■本件に関するお問い合わせ

【報道関係者様】 広報部             山口  電話: 080-7154-5017
【一般のお客様】 リサーチ・コンサルティング部門 徳永  メール: tokunaga.yota@jri.co.jp

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会社概要

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業種
情報通信
本社所在地
東京都品川区東五反田2-18-1 大崎フォレストビルディング
電話番号
03-6833-0900
代表者名
谷崎勝教
上場
未上場
資本金
100億円
設立
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