「産後うつ病の高リスク者を33.5%減」:遠隔健康医療相談サービス(産婦人科・小児科オンライン)の効果として実証
〜横浜市・東京大学との共同実証事業(ランダム化比較試験)〜
この度、株式会社Kids Public (東京都千代田区 代表:橋本直也)は、横浜市「令和2・3年度オンライン健康医療相談モデル事業における成果連動型業務委託」(以下、モデル事業)における業務委託を受け、令和2年9月1日~令和4年2月28日まで横浜市に在住の妊産婦へオンライン医療相談(遠隔健康医療相談)や医療・健康情報を提供しました。本事業に関して国立大学法人東京大学の研究チームからの学術的評価を受け、妊娠中からオンライン医療相談を提供されたグループでは産後うつ病高リスク者の割合が相対的に33.5%低かったことが示されました。
■研究結果の概要 -産後うつリスクを相対的に33.5%低下-
本事業は主たる成果指標(メインアウトカム)を「産後3ヶ月時点での産後うつ病高リスク者の低減」とし、国立大学法人東京大学の研究者から、「ランダム化比較試験」の形式をとって客観的な学術的評価を受けました。
産後うつ病高リスクの判定は、国内外で最も頻用されているエジンバラ産後うつ病自己評価票 (Edinburgh Postnatal Depression Scale: EPDS) を使用しました。EPDSでは、合計点数9点以上であった場合に産後うつ病高リスク者とされています。
その結果、産後うつ病高リスクの発生割合は介入群(サービス提供あり)15.2%、対照群(サービス提供なし)22.8%であり、相対リスク(発生率の比)は 0.67(95%信頼区間[0.48, 0.93]で統計学的有意差あり)となりました。
すなわち、妊娠中からオンライン医療相談を提供されていたグループでは産後うつリスクが相対的に33.5%低かったことが示されました。
■モデル事業の背景
産後うつ病は、出産を迎えた女性に生じるうつ病であり、一般的に出産をした女性100人のうち10〜15人に起こります[1]。日本でも産後1〜3ヶ月の時期に約8人に1人の母親が産後うつ病を経験することがわかっています[2]。
また、産後うつ病は自殺につながる大きなリスクであり、その他にも児への愛着障害や虐待とも関連することが報告されています。産後うつ病の発症予防は、産後女性の命や家族の幸せを守るだけでなく、社会的コストの削減にもつながることが期待されます[3]。これまで医療機関や自治体が中心となって産後うつ病予防や早期発見のため、特に産後1ヶ月以内の女性に対してハイリスク者のスクリーニングやサポートに注力してきました。しかし、産後1ヶ月を超えた産後女性の全てに長期的な支援を対面で提供することは人的資源の観点から難しいというのが現状でした。
そこで、今回のモデル事業では、スマートフォン等を用いて自宅からオンラインで専門職へ相談できる環境を提供することで産後うつ病ハイリスク者を低減できるのではないかという仮説のもと、株式会社Kids Publicの「産婦人科オンライン・小児科オンライン」を妊娠期から産後まで提供することで、産後うつ病リスクを減らすことができるかどうかを検証しました。
■モデル事業の詳細
横浜市内に在住の妊婦を対象に、本事業への参加者(720名を目標)を募集し、ランダムに介入群(サービス提供あり)と対照群(サービス提供なし)へ振り分けました。令和2年9月1日〜令和3年3月7日の期間で事業参加者が734名(介入群: 365名、対照群: 369名)に達しました。
介入群には参加時〜産後4ヶ月まで、弊社のオンライン医療相談サービスや医療・健康情報を提供しました。提供したサービス内容の詳細は表1の通りです。
表1 提供サービスの内容
項目 | 提供対象 | 概要 |
夜間相談 | 介入群全員 | 平日18:00~22:00、予約制、10分間/回、ビデオ通話・音声通話・チャットを選択可能(産婦人科医、助産師、小児科医が対応) |
日中助産師チャット相談 | 介入群のうち産後の人 | 毎週月曜日、水曜日、金曜日(祝日除く)の13:00~17:00、予約不要、チャットのみ(助産師が対応) |
産後うつスクリーニング評価(産後2ヶ月) | 介入群のうち産後の人 | 産後2ヶ月時点で自動的にメールを送信、EPDSによるスクリーニングを実施、高リスク者には相談等を推奨 |
医療・健康情報配信 | 介入群全員 | LINEやメールで妊産婦・小児医療や子育てに関する情報を毎週配信 |
■モデル事業におけるサービス提供実績
サービス提供期間は令和2年9月1日~令和4年2月28日の18ヶ月間であり、サービス提供実績は表2の通りとなりました。
表2 産婦人科オンライン・小児科オンライン提供実績
項目 | 人数or件数 | 備考 |
介入群 | 365名 | |
相談数合計 | 983件 | |
夜間相談数* | 480件 | |
日中助産師チャット相談数* | 503件 | |
サービス利用者数合計** | 247名 | 68% (介入群のうち) |
夜間相談利用者数 | 181名 | 50% (介入群のうち) |
日中助産師チャット相談利用者数 | 168名 | 46% (介入群のうち) |
* 相談対応が実際に実施された数
** 夜間相談または日中助産師チャット相談のいずれかを一度以上利用した人数
ユーザーアンケートにより、夜間相談の疑問解決度は92%、再利用意向度は99%でした。日中助産師チャット相談の不安・疑問解決度は99%、心身の負担軽減度は96%、継続利用意向度は99%でした。
以上から、オンライン医療相談(産婦人科オンライン・小児科オンライン)の提供は、妊産婦の不安や疑問の解決に貢献し、心身の負担軽減につながり、満足度が高かったものと考えられました。
ユーザーアンケートで得られたコメントを一部紹介します。
【夜間相談】
- 明快な説明をしていただき理解が進みました。正確な情報をいただき、過度な心配もしなくなりました。ケアの仕方のアドバイスも参考になりました。
- 氾濫するネット上の情報に翻弄されていましたが、医師の判断を聞けて冷静になれ、安心しました。
- このご時世ですので、今まで以上に病院へはできるだけ行きたくはなく、オンラインで予約・相談できたのはとても助かります。
- 不安な気持ちに寄り添い、質問の返事を分かりやすく言葉を選んで話をしてくださいました。
- 先生とお話をして、とてもほっとしました。心配で眠れなかったのが解消しました。
- 受診してまで聞くことではない疑問を、気軽にラインで聞くことができてとても良かったです。
【助産師日中チャット相談】
- 多少気になるが、通院するまでもない(またはするべきかわからない)レベルのことがLINEで気軽に聞けるのが良かったです。確か肌荒れと鼻水のことでうかがったのですが、丁寧に対処法もあわせて答えてくださって、なによりも気持ちが楽になりました。
- とても便利なサービスで不安なこともその日のうちに解決できたので非常に助かりました。産後精神的にも不安なことが多い中、親切に寄り添って下さったので安心して利用ができました。
- 気軽な相談先があるということだけでも(実際に相談しなくても)安心できた部分がありました。
- 産後は子供がいて病院に行くのも一苦労ですが、オンラインで相談できたため、とても助かりました。母乳育児について、子供の便秘についてなど、病院で聞くにはちょっと、、ということも気軽に相談できたため、精神的に助けられました。産後鬱などの減少にも繋がるのではないかと思いました。
- チャットだと子どもの面倒を見ながらでも隙を見て気軽に相談でき、とても助かりました。
■産後うつ病高リスク者の減少効果
また、東京大学によって実施された産後3ヶ月時点での産後うつ病スクリーニングの結果、高リスク者(EPDSの合計点数9点以上)の割合は介入群で15.2%、対照群で22.8%であり、相対リスク(発生率の比)は 0.67(95%信頼区間[0.48, 0.93]で統計学的有意差あり)となりました。すなわち、妊娠中からオンライン医療相談を提供されていたグループでは、産後うつ病の高リスクとなる女性の割合が相対的に33.5%低かったことが示されました。特に、介入群のうち実際にオンライン健康医療相談サービスを利用したことがあると答えた214名(利用ありと答えた介入群の人)とそれ以外の425名(利用なしと答えた介入群及び対照群の人)を比較したところ、利用ありの人は11.2%、利用なしの人では23.1%と、相対リスクで0.49(95%信頼区間[0.32, 0.74])となり、相対的に51%の低下が認められました。
なお、本事業で得られた成果は東京大学の研究者によって学術論文として発表予定です。
■実証事業を経て、2022年度横浜市港北区で継続実施
本実証実験では、横浜市港北区に在住の方を中心に、戸塚区、金沢区、泉区、緑区、神奈川区、西区などに在住の方にもご参加いただきました。本実証実験の結果を受け、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:科学的根拠に基づく政策立案)の実践として、主なフィールドであった港北区において2022年度の区の事業として産婦人科オンライン・小児科オンラインを継続することとなりました。
■産婦人科オンライン代表/本実証事業責任者 産婦人科医 重見大介 コメント
今回、横浜市と連携し、妊娠期からのオンライン医療相談の提供によって産後3ヶ月時点での産後うつ病高リスク者が減ったことを確認できました。この結果は、産後うつ病の有病率の高さや自殺との関連を鑑みると、産婦人科医として非常に意義の大きなものだと考えています。また、本事業には新規性の高い特徴が2つあり、それは成果連動型業務委託だったことと、ランダム化比較試験という手法をとったことです。前者は、事業提供者として質の高いサービスを継続して提供することのインセンティブになり、2年間に及ぶ実証事業の成功に繋がった要素だと考えています。後者は、客観的かつ学術的な効果検証のため、弊社とは独立して東京大学の研究者が、最もエビデンスレベルの高い研究手法であるランダム化比較試験の形を取って評価しました。これにより、本事業で得られた結果(遠隔健康医療相談の提供によって産後うつ病ハイリスク者が減ったこと)についてきちんと因果関係まで検証できたことになります。本事業にご参画いただいた全ての関係者と、ご参加いただいた全ての妊産婦さんへ、心より感謝申し上げるとともに、産後うつ病になってしまう女性を1人でも減らすことができるよう、今後も全力を注いで参ります。
引用文献
[1] Royal College of Psychiatrists. Postnatal Depression.
[2] Tokumitsu, K, et al. Ann Gen Psychiatry. 2020;19:41.
[3] Centre for Mental Health and London School of Economics, The costs of perinatal mental health problems. 2014.
■お問い合わせ先
株式会社Kids Public 広報室(担当:春山)
https://kids-public.co.jp/
所在地:東京都千代田区神田小川町1-8-14 神田新宮嶋ビル4階
TEL:03-6206-8803
E-Mail:contact@syounika.jp
設立日:2015年12月28日
代表者:代表取締役社長 橋本 直也(小児科医)
事業内容:「子育てにおいて誰も孤立しない社会の実現」を理念として、インターネットを通じて子どもの健康や子育てに寄り添う。
提供サービス:
【遠隔健康医療相談サービス】
「小児科オンライン」https://syounika.jp/
「産婦人科オンライン」https://obstetrics.jp
【医療メディア】
「小児科オンラインジャーナル」https://journal.syounika.jp/
「産婦人科オンラインジャーナル」https://journal.obstetrics.jp/
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