ワンポットで3種類のクリック反応を連続的に実行可能に ~わずか3工程で高機能分子を合成~
【研究の要旨とポイント】
3種類の異なる置換基(アジド基、アルキニル基、フッ化スルホニル基)を有するプラットフォーム分子を合成することに成功しました。
プラットフォーム分子で連続したクリック反応を実現し、部品となる分子を3工程で集積できるワンポット合成法を確立しました。
本研究をさらに発展させることで、複雑で高機能な分子を簡便合成できるようになり、創薬、有機化学、材料化学など、広範な分野での応用が期待されます。
【研究の概要】
東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科の吉田 優准教授、同大学大学院 先進工学研究科 生命システム工学専攻の安田 貴裕氏(2024年度 修士課程1年)、織本 雅久氏(2023年度 修士課程修了)の研究グループは、アジド基、アルキニル基、フッ化スルホニル基という3種類の置換基を有するプラットフォーム分子を創製し、この分子を連続したクリック反応に利用することで、部品となる分子を3工程で集積できる手法を開発しました。
クリック反応の代名詞であるアジド−アルキン環化付加により、トリアゾール類を生成する手法は、医学や創薬分野で応用されています。この反応は、他の置換基が存在しても悪影響を受けずに進行するため、信頼性の高い方法として広く活用されています。一方で、アジド基とアルキニル基を併せ持つ分子において、選択的なクリック反応を実現することは非常に困難でした。これに対して、本研究グループは、アジド基とアルキニル基に加え、フッ化スルホニル基を有する新たな3分岐型プラットフォーム分子を設計し、それぞれのクリック反応が高選択的に進行するかどうかを評価しました。
本研究では、分子内でアジド−アルキン間の副反応が起こらないよう、置換基の鎖長を調整したプラットフォーム分子を合成しました。このプラットフォーム分子を用いることで、フッ化スルホニル基におけるアルコールとの硫黄−フッ素交換反応(SuFEx反応)、アジド基、アルキニル基におけるアジド−アルキン環化付加(CuAAC)、歪み促進型アジド−アルキン環化付加(SPAAC)など、各種クリック反応が容易に進行することが明らかになりました。これにより、部品となる分子をプラットフォーム分子に集積できることが確認されました。また、一連の反応をワンポットで行う手法を確立したことで、本合成法が効率的かつ実用的であることも実証されました。
本研究成果は、2025年1月8日に国際学術誌「Chemical Communications」にオンライン掲載されました。
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【研究の背景】
クリック反応では、複雑な合成工程を経ることなく、分子同士を結合させることができます。特に、3種類の異なる置換基を有するプラットフォーム分子を用いた連続的なクリック反応は、より複雑で高機能な分子の創製に応用できるため、創薬、材料化学、ケミカルバイオロジーをはじめとした広範な分野で注目されています。これまで、さまざまなプラットフォーム分子が開発されてきましたが、アジド基とアルキニル基を有するプラットフォーム分子を用いて効率的で選択的なクリック反応を実現することは、容易ではありませんでした。そのため、アジド基とアルキニル基を有するプラットフォーム分子を用いて、より高機能な分子を合成する手法が切望されていました。
今回、本研究グループは、アジド基、アルキニル基、フッ化スルホニル基という異なる3種類の置換基を有するプラットフォーム分子を設計し、その合成に取り組みました。また、連続的なクリック反応に応用できるか否かを評価するため、プラットフォーム分子を用いたさまざまな反応を検討しました。
【研究結果の詳細】
① 3分岐型プラットフォーム分子の合成
はじめに、トリプルクリック反応のコアとなる3分岐型プラットフォーム分子の合成を行いました。tert-ブトキシカルボニル(Boc)基を有するアジドを出発物質として、N-プロパルギル化、Boc基の脱保護、エテンスルホニルフロリドとの1,4-付加反応を経て、アジド基、アルキニル基、フッ化スルホニル基を有するプラットフォーム分子を合成しました。しかし、分子内でアジド基とアルキニル基からトリアゾールが形成される副反応が生じ、24時間後には全体の40%、72時間後には全体の75%が分解することがわかりました。この分解を抑制するため、アジド基を含む置換基の鎖長を伸ばした新たなプラットフォーム分子を合成しました。これらの分子では、アジド基とアルキニル基の間の分子内反応が抑制され、室温で良好な安定性を示すことが確認されました。
② ワンポット合成法の確立
合成したプラットフォーム分子と硫黄−フッ素交換反応(SuFEx反応)、アジド−アルキン環化付加(CuAAC)、歪み促進型アジド−アルキン環化付加(SPAAC)など、各クリック反応が円滑かつ選択的に進行することが確認できたため、ワンポット合成法の検討を行いました。アセトニトリルを溶媒として使用することで、プラットフォーム分子と(1)フェノールとのSuFEx、(2)シクロアルキンとのSPAAC、(3)ベンジルアジドとのCuAAC、が連続的にワンポットで進行できることを実証しました。このとき、同一の反応容器に、(1)~(3)で集積する3種の部品となる分子と触媒・試薬等を順に加えていくだけで、途中での精製操作等を行うことなく、目的とする3種の分子が集積した生成物を効率的に合成できました。
本研究を主導した吉田准教授は、「私たちは、ライフサイエンス研究に革新をもたらす新しい分子の創出を目指しています。今回、部品となる単純な分子を一挙に集積し、より複雑な分子を効率的に合成できる手法を開発しました。本手法により、多機能性分子や多様な中分子を簡便合成できることから、創薬科学、ケミカルバイオロジー、材料科学への応用が期待されます」と、コメントしています。
※本研究は、日本学術振興会の科研費(23K17920)、旭硝子財団の助成を受けて実施されました。
【論文情報】
雑誌名:Chemical Communications
論文タイトル:Three-step click assembly using trivalent platforms bearing azido, ethynyl, and fluorosulfonyl groups
著者:Takahiro Yasuda, Gaku Orimoto, and Suguru Yoshida
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