優れた徐放性を有するDNAハイドロゲル ~構成ユニットであるDNAナノ構造体の最小化・最適化に成功~
【研究の要旨とポイント】
DNAハイドロゲルは有望な薬物送達システム(DDS)として期待されていますが、ゲルの構成ユニットであるDNAナノ構造体の形成には多種類の比較的長い核酸を必要とすることが、臨床応用に向けた課題でした。
本研究では、2種類の短い核酸から構成されるDNAハイドロゲルの調製に成功しました。
開発したハイドロゲルは構造的に安定であり、担持させた抗がん剤を徐放し、高い抗腫瘍作用を示しました。
本研究で示されたDNAハイドロゲルの設計指針をもとに、低分子医薬品、抗原、細胞など、さまざまな生理活性物質に対する新たなDSS開発が進むことが期待されます。
(動画)Takumi型核酸ユニットで優れた徐放性を有するDNAハイドロゲルを作製
【研究の概要】
東京理科大学 薬学部 薬学科の西川元也教授、板倉祥子助教、同大学薬学部 生命創薬科学科の草森浩輔准教授、金健氏(博士後期課程3年)らの研究グループは、DNAを基本構成ユニットとするハイドロゲル(DNAハイドロゲル)の構造と活性の相関を解明し、生体滞留性が高いDNAハイドロゲルを調製するためのDNAユニットの条件を特定しました。さらに、マウスを用いた実験から、本研究で調製したDNAハイドロゲルは、抗がん剤を徐放し、それにより高い抗腫瘍作用を示すことを確認しました。
DNAハイドロゲルは、有望な薬物送達システム(DDS)材料として注目されつつあります。西川教授らもこれまでに、DNAハイドロゲルが徐放機能と免疫アジュバント作用をあわせ持つ抗原‧アレルゲンデリバリーシステムとして有用であることを実験的に示す論文を発表するなど、DDS材料としての可能性に着目してきました。しかし、DNAハイドロゲルの構成ユニットであるDNAナノ構造体の形成に多種類の比較的長い核酸を必要とすることが、臨床応用に向けての大きな課題でした。
そこで本研究では、DNAナノ構造体の最小化・最適化に取り組み、2種類の短い核酸から構成されるDNAハイドロゲルの調製に成功しました。開発したハイドロゲルは構造的に安定で、抗がん剤ドキソルビシンを担持させて担がんマウスに投与したところ、高い抗腫瘍作用が確認されました。
この研究は、薬物徐放型DDSとして有望視されるDNAハイドロゲルにおいて、その構成ユニットである DNAナノ構造体の最小化・最適化を達成した成果であり、今後のDNAハイドロゲル設計に新たな指針を与えるものです。
本研究成果は、2024年12月2日に国際学術誌「Journal of Controlled Release」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
ハイドロゲルは、大量の水を含み、三次元網目構造を特徴とする高分子材料です。ハイドロゲルは、低分子医薬品、抗原、細胞など、さまざまな生理活性物質を担持し、持続的に放出することができるため、徐放性ドラッグデリバリーキャリアとして注目を集めています。そうしたハイドロゲルを構成する材料として注目されているものの一つがDNAです。DNAは生物の遺伝情報を担う物質として知られていますが、さまざまな分子と特異的・選択的に相互作用する特性を持つため、高分子材料としても魅力的な物質です。
ハイドロゲル材料としてDNAを用いる利点は、適切なDNA配列を選択することにより、その物理化学的性質を自在にプログラムできることです。近年のDNAナノテクノロジーの進歩により、さまざまなDNAナノ構造体やハイドロゲルが形成可能となり、DNAリガーゼを用いる方法などが提案されています。しかし、DNAリガーゼを用いる場合、生体への思わぬ影響が懸念されるという問題点があります。
この問題を解決するために開発されたのが、多足型構造核酸(polypod-like structured nucleic acid; polypodna)です。多足型構造核酸は、あらかじめ設計された3種類以上のオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を用いて、DNAリガーゼを用いずに構築可能なことから、生体適合性が高いことが期待されます。しかし、この方法でDNAハイドロゲルを調製すると、多くの種類のODNが必要になるという潜在的な欠点がありました。
そこで本研究では、DNAハイドロゲルの調製コスト、設計の難易度、配列依存的なオフターゲット効果のリスク低減を目的に、構成ユニットであるDNAナノ構造体の最小化・最適化を試みました。
【研究結果の詳細】
本研究では、1種類のODNで形成させたDNAナノユニットを2種類混合することで、DNAハイドロゲルを調製しました。さらに、ODNの長さを最小化するために、異なる長さのODNを用いてさまざまなタイプのDNAナノユニットを設計し、その構造と生体投与後の滞留性などのハイドロゲル特性との関係を評価することにより、生体滞留性に優れるDNAハイドロゲルに適したDNAナノユニットの条件を探りました。
その結果、DNAハイドロゲルの調製に必要なODNを、最小限(2種類)に抑え、長さも34塩基長と短縮化することに成功しました。ODN数はDNAハイドロゲルの調製コストに直結することから、わずか2種類の短いODNで調製可能になることで、従来の方法よりも高純度かつ低コストで容易に作製できるようになると期待されます。さらに、ハイドロゲルの網目サイズが小さく、担持させた化合物の徐放に適していることも示唆されました。
そこで実際に、この手法で調製したDNAハイドロゲルに抗がん剤ドキソルビシンを担持させて担がんマウスに皮下投与したところ、ドキソルビシン溶液やドキソルビシンとDNAナノユニットの混合溶液を皮下投与した場合よりも高い抗腫瘍効果が確認できました。また、今回調製したDNAハイドロゲルの体内残存時間は多足型構造核酸ベースのDNAハイドロゲルよりも長く、薬物徐放型DDSとしての高いポテンシャルを示す結果となりました。また、今回開発したDNAハイドロゲルでは投与部位に顕著な炎症は観察されず、安全性が示唆されたことからも今後の応用が期待できます。
研究を主導した西川教授は「今回、マウスを用いた実験から、最小化・最適化したDNAハイドロゲルが、徐放機能を有するデリバリーシステムとして有用であることを実証できました。このDNAハイドロゲルは、低分子医薬品だけでなく、抗原やアレルゲンを含む中分子・高分子医薬品を投与する際にも、その効果を高めることができると期待されます」と、本研究の意義を語っています。
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本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(21K12691)、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウト(JPMJTM20CH)、公益財団法人小林財団の助成を受けて実施したものです。
【論文情報】
雑誌名:Journal of Controlled Release
論文タイトル:Biocompatible DNA hydrogel composed of minimized Takumi-shaped DNA nanostructure exhibits sustained retention after in vivo administration
著者:Jian Jin, Kosuke Kusamori, Takumi Tanifuji, Yoshifumi Yamagata, Shoko Itakura, Makiya Nishikawa
DOI:10.1016/j.jconrel.2024.11.052
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