優れた性能を示す電極触媒を簡便に作製する手法を開発 ~少ない貴金属で白金触媒と同等の性能、水素社会の実現に貢献~

東京理科大学

【研究の要旨とポイント】

水素社会の実現に向け、効率的な水素発生反応を可能にする電極触媒の開発が求められています。

気液界面合成と電気化学的酸化法を用いた簡便な手法で合成することで、最も優れた水素発生反応触媒として知られる白金と同等の顕著な触媒性能を示すビス(ジイミノ)パラジウム配位ナノシートの作製に成功しました。

作製したナノシートは化学構造中に金属イオンが疎に配置されているという構造なので、少量の貴金属で作製でき、省資源と高性能を両立できます。

【研究の概要】

東京理科大学 研究推進機構 総合研究院の前田 啓明講師、西原 寛教授らの研究グループは、気液界面合成と電気化学的酸化法を用いた簡便な手法で、最も優れた水素発生反応触媒として知られる白金と同等の顕著な触媒性能を示すビス(ジイミノ)パラジウム配位ナノシートの開発に成功しました。

カーボンニュートラルな社会の実現に向けて、環境負荷が低い水素が次世代エネルギーとして期待されています。そのためには、効率的な水素発生反応(HER)を可能にする電極触媒の開発が不可欠です。ビス(ジイミノ)金属錯体配位ナノシートは、大きな表面積をもち、効率的な物質・電子輸送が可能であることから、高活性なHER触媒として有望視されています。また、ナノシートは化学構造中に金属イオンがまばらに配置されているという構造なので、必要な金属の量が少なくて済むというメリットもあります。

本研究グループはこれまで金属錯体二次元物質である配位ナノシートの開発に取り組んできました。今回、これまでに積み上げた配位ナノシートに関する知見をもとに、気液界面合成と電気化学的酸化法を用いて、少ない貴金属(パラジウム)で高活性なHER電極触媒を簡便な手法で作製することに成功しました。

作製したビス(ジイミノ)パラジウム配位ナノシート(PdDI)は、適切な活性化後、電流密度が10 mA/cm2に達するオーバーポテンシャルが34 mV、交換電流密度が2.1 mA/cm2と、最も優れたHER 触媒として知られる白金と同等の顕著な触媒性能を示すことが確認されました。

今回開発した貴金属使用量の少ない電極触媒は、水素社会の実現に貢献すると期待されます。本研究成果は、2024年11月28日に国際学術誌「Chemistry A European Journal」にオンライン掲載されました。また、本論文は同誌掲載号のCover Featureに選出されました。

【研究の背景】

水の電気分解により水素を発生する水素発生反応(HER)は、環境にやさしく持続可能な水素製造法として期待されています。しかし、現在の電極触媒は高価な貴金属を多く使用することから、金属の消費量の少ない代替触媒の開発が進められています。

金属イオンと有機配位子からなる金属錯体でできた配位ナノシートは、材料の組み合わせによって異なる物理化学特性を示し、導電性をもつ配位ナノシートは、電極触媒として注目されています。ビス(ジチオラト)金属錯体を主骨格とする配位ナノシートは代表的な導電性配位ナノシートです。この配位ナノシートは、電気伝導性、二次元性、多孔性により、大きな表面積と効率的な物質・電子輸送が実現できるため、HER触媒として期待されています。

本研究グループは、これまでにビス(ジチオラト)金属錯体ナノシート(MDT, M=Pd, Pt)のHERにおける電極触媒性能を調べ、電流密度10 mA/cm2に達するオーバーポテンシャルは、PtDTで約410 mV、PdDTで約560 mVと高い性能を示すことを報告しています。さらに本研究グループは、金属イオンとヘキサアミノベンゼン配位子からなるビス(ジイミノ)金属配位ナノシート(MDI、M=Co、Ni、Cu)についても研究を進めており、10 mA/cm2に達するオーバーポテンシャルは227 mVと非常に高いHER触媒性能を示すことを発表しています。

こうした成果を踏まえ、本研究では、ビス(ジイミノ)金属配位ナノシートの中でも、低い金属原子密度を実現する多孔性骨格であり、少ない貴金属量で高活性触媒を実現できる可能性が高い材料として、パラジウムを用いたPdDIナノシートに着目しました。

【研究結果の詳細】

本研究ではまず、気液界面合成による化学酸化および電気化学酸化を用いてPdDIを合成しました(以下、C-PdDIおよびE-PdDI)。X線光電子分光法(XPS)とラマン分光法を用いて化学組成と構造を解析した結果、C-PdDIおよびE-PdDI いずれもビス(ジイミノ)パラジウム錯体からなる配位高分子であることが確認できました。

次に、LSV(Linear Sweep Voltammetry)試験で、活性化したE-PdDIおよびC-PdDIの触媒性能を他の金属電極や配位ナノシートと比較しました。その結果、活性化E-PdDIの触媒活性はC-PdDIよりも高く、白金電極に匹敵するという驚くべき結果が得られました。これは、C-PdDIがグラッシーカーボン回転ディスク電極上に転写されているのに対し、E-PdDIは電極上に直接形成されたPdDIが電極からのスムーズな電子輸送を実現したためと考えられます。

これらの結果は、PdDI構造中のPdの疎な配置により、白金電極に含まれる白金原子よりも少ないパラジウム原子で、高活性のHER電極触媒を製造できたことを意味しています。PdDIが少量の貴金属で効率的なHER触媒を製造するのに有用な配位高分子であることを示す成果であり、水素社会に向けた技術開発を加速させる成果であると言えます。

研究を行った前田講師は「本研究室がこれまでに開発した配位ナノシートの特徴を活かし、少量の貴⾦属(パラジウム)で高い活性をもつ水素発生電極触媒を簡便な手法で作製できました。本技術が実用化すれば、水素発生電極触媒の低価格化や高活性化に寄与できると期待しています」と語っています。

※本研究は日本学術振興会の科研費(JP19H05460, 22K14569, 22K05055, 24H00468)、ホワイトロック財団、の助成を受けて実施したものです。

【論文情報】
雑誌名:Chemistry A European Journal

論文タイトル:Synthesis of Bis(diimino)palladium Nanosheets as Highly Active  Electrocatalysts for Hydrogen Evolution

著者:Hiroaki Maeda, Eunice Jia Han Phua, Yuta Sudo, Sayoko Nagashima,  Wentai Chen, Mayumi Fujino, Kenji Takada, Naoya Fukui, Hiroyasu Masunaga,  Sono Sasaki, Kazuhito Tsukagoshi, Hiroshi Nishihara

DOI:10.1002/chem.202403082

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上場
未上場
資本金
-
設立
1881年06月