『日本人の長寿を支える「健康な食事のあり方」に関する検討会報告書(案)』に対する見解
2014年10月7日に厚生労働省(厚労省)は公式サイトで『日本人の長寿を支える「健康な食事のあり方」に関する検討会報告書(案)』(以下「報告書(案)」)を公開しました。この検討会は「健康寿命の延伸」の基盤となる「健康な食事」を、「健康な心身の維持・増進に必要とされる栄養バランスを基本とする食生活が、無理なく持続している状態」と定義しその目安を示すことで、国民や社会の「健康な食事」の理解を深め、「健康な食事」に取り組みやすい環境の整備を図ることを目的として設置されました。今回の「報告書(案)」の内容に対し、生活クラブ生協連合会(全国21都道府県・組合員数約34万人)は以下のとおり見解を表します。また、2月12日にはパブリックコメントを提出しました。
『日本人の長寿を支える「健康な食事のあり方」に関する検討会報告書(案)』に対する見解
まず、第一に、今回の「健康な食事」について、社会的な視点から「地域の特性を生かした食料の安定供給の確保や食生活に関する教育・体験活動などの取組み」に触れられたことを評価します。
その一方で、「報告書(案)」では食品・食材の安全性および国内の安定的生産について言及されていないことが大きな問題点であると考えます。「健康な食事」はカロリーと食塩量などの「食べ方」のみで得られるものではなく、食材そのものが健全であることが大前提です。食品添加物や遺伝子組み換え食品、生産工程で使用する農薬や抗生物質、包装・容器に含まれる環境ホルモンなどの化学物質、福島第一原発事故以降の放射性物質による食品汚染など、予防原則にもとづく国民への注意喚起や「知る権利」を保障する情報公開の視点に立った、表示基準の見直しや環境整備についての言及があって然るべきです。今回、「健康な食事を普及するためのマーク」の導入が示されていますが、こうした観点が欠落したままでは、国民の日々の食事のあり方に大きな誤解と混乱を招くことを危惧します。
また、「健康な食事を普及するためのマーク」は弁当や総菜ごとに表示できることとしていますが、これも本来の食事による健康管理に多大な誤解を与えるものです。「健康な食事」のための栄養バランスは、『日本人の食事摂取基準(2015年版)』にもあるように、最低でも「1日当たり」の単位で考えることが必要であり、部分的に保障されるものではないからです。
世界的にみると、国による健康政策には二つの異なる考え方があります。ひとつはアメリカに代表される「国民の自己責任による健康政策」で、食品や栄養補助食品、健康産業などが市民の自助努力を支えるとする立場です。もう一つの考え方がEUに代表される健康政策で、「健康は市民の権利」という観点に立脚して社会の役割を明確にしたものです。この政策はWHO(世界保健機関)の「オタワ憲章」(1986年)に明文化され、2005年のバンコク憲章で“Health Promotion”として採択されました。『ヘルスプロモーションのすすめ』(島内憲夫・助友裕子 著 2000年 垣内出版)によれば、その考え方で「重要なことは、健康のための基盤としての平和・住居・食べ物・収入・安定した生態系・生存のための諸資源、社会的正義と公正の確保である」とされています。
日本における健康増進政策は1998年に『健康日本21』が策定されました。以来「健康増進法」の制定(2002年)等を経て、私たちの国はより自己責任色の強い健康観へと進み始めました。端的な例として、「成人病」という呼称をより個々人の責任が鮮明となる「生活習慣病」に政府主導で言い換え定着させてきたことにも表れています。前掲書の中でも「政府は公的責任を回避している」と指摘されています。
私たち生活クラブ生協は、健康な食の根源は健全な食材にあるという考え方に基づき、消費者自身の手により国内の生産者と直接提携を重ねながら、健康な原材料、環境、工程で生産される食材を多く実現し共同購入してきました。そこから私たちが学んだことは、健康な食の実現には、個人レベルの消費生活に止まらない、生産・流通・消費・廃棄に関わる社会規模の協働やそれを支える国の制度づくりが不可欠であることです。約半世紀にわたる経験にもとづいても、今回発表された「健康な食事」の定義および施策が甚だ断片的で、そもそも食材そのものに関する言及がないことや、結果として「健康は買うもの」に矮小化されかねないことなどにおいて大きな問題があると考えます。
今後の具体化において、国民が主体的に食材を選択し、正しい栄養知識にもとづく食生活が営まれる方向で施策が見直されることを期待するものです。
以上
参考:
厚労省:『日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方に関する検討会』の報告書を取りまとめました
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000059935.html
パブリックコメント全文
http://prtimes.jp/a/?f=d2456-20150216-7265.pdf
『日本人の長寿を支える「健康な食事のあり方」に関する検討会報告書(案)』に対する見解
まず、第一に、今回の「健康な食事」について、社会的な視点から「地域の特性を生かした食料の安定供給の確保や食生活に関する教育・体験活動などの取組み」に触れられたことを評価します。
その一方で、「報告書(案)」では食品・食材の安全性および国内の安定的生産について言及されていないことが大きな問題点であると考えます。「健康な食事」はカロリーと食塩量などの「食べ方」のみで得られるものではなく、食材そのものが健全であることが大前提です。食品添加物や遺伝子組み換え食品、生産工程で使用する農薬や抗生物質、包装・容器に含まれる環境ホルモンなどの化学物質、福島第一原発事故以降の放射性物質による食品汚染など、予防原則にもとづく国民への注意喚起や「知る権利」を保障する情報公開の視点に立った、表示基準の見直しや環境整備についての言及があって然るべきです。今回、「健康な食事を普及するためのマーク」の導入が示されていますが、こうした観点が欠落したままでは、国民の日々の食事のあり方に大きな誤解と混乱を招くことを危惧します。
また、「健康な食事を普及するためのマーク」は弁当や総菜ごとに表示できることとしていますが、これも本来の食事による健康管理に多大な誤解を与えるものです。「健康な食事」のための栄養バランスは、『日本人の食事摂取基準(2015年版)』にもあるように、最低でも「1日当たり」の単位で考えることが必要であり、部分的に保障されるものではないからです。
世界的にみると、国による健康政策には二つの異なる考え方があります。ひとつはアメリカに代表される「国民の自己責任による健康政策」で、食品や栄養補助食品、健康産業などが市民の自助努力を支えるとする立場です。もう一つの考え方がEUに代表される健康政策で、「健康は市民の権利」という観点に立脚して社会の役割を明確にしたものです。この政策はWHO(世界保健機関)の「オタワ憲章」(1986年)に明文化され、2005年のバンコク憲章で“Health Promotion”として採択されました。『ヘルスプロモーションのすすめ』(島内憲夫・助友裕子 著 2000年 垣内出版)によれば、その考え方で「重要なことは、健康のための基盤としての平和・住居・食べ物・収入・安定した生態系・生存のための諸資源、社会的正義と公正の確保である」とされています。
日本における健康増進政策は1998年に『健康日本21』が策定されました。以来「健康増進法」の制定(2002年)等を経て、私たちの国はより自己責任色の強い健康観へと進み始めました。端的な例として、「成人病」という呼称をより個々人の責任が鮮明となる「生活習慣病」に政府主導で言い換え定着させてきたことにも表れています。前掲書の中でも「政府は公的責任を回避している」と指摘されています。
私たち生活クラブ生協は、健康な食の根源は健全な食材にあるという考え方に基づき、消費者自身の手により国内の生産者と直接提携を重ねながら、健康な原材料、環境、工程で生産される食材を多く実現し共同購入してきました。そこから私たちが学んだことは、健康な食の実現には、個人レベルの消費生活に止まらない、生産・流通・消費・廃棄に関わる社会規模の協働やそれを支える国の制度づくりが不可欠であることです。約半世紀にわたる経験にもとづいても、今回発表された「健康な食事」の定義および施策が甚だ断片的で、そもそも食材そのものに関する言及がないことや、結果として「健康は買うもの」に矮小化されかねないことなどにおいて大きな問題があると考えます。
今後の具体化において、国民が主体的に食材を選択し、正しい栄養知識にもとづく食生活が営まれる方向で施策が見直されることを期待するものです。
以上
参考:
厚労省:『日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方に関する検討会』の報告書を取りまとめました
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000059935.html
パブリックコメント全文
http://prtimes.jp/a/?f=d2456-20150216-7265.pdf