「第8回ヘルスケア・イノベーションフォーラム」開催
肥満症をめぐる医療・制度・社会的課題を多分野の視点で議論
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肥満症は、QOL(生活の質)の低下や他の健康障害を引き起こす慢性疾患であるにもかかわらず、自己管理の問題と軽視されがちであり、誤解や偏見(オベシティ・スティグマ)も存在する。当事者の声を届ける仕組みの不在、専門的な診断・治療体制の不足といった社会的・医療的・制度的課題も複合的に存在する
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肥満症の治療は、健康障害を軽減するだけにとどまらず、高血圧や2型糖尿病など医療財政に大きな影響を与える生活習慣病のリスク低減にもつながる。そのため、肥満症治療は将来的な医療費の適正化にも資する可能性がある
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イノベーティブな研究成果による新たな治療選択肢の登場により、肥満症治療に対するアプローチや支援を見直すべき大きな転機を迎えている。今後、当事者のQOL向上や、合併症リスクの軽減などが期待されている
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医療、政策、経済、産業など各分野の関係者が連携し、社会全体で肥満症という疾患に対する理解を促進するとともに、治療環境と制度の整備を進めていくことが、今後の持続可能な医療体制の実現に向けては不可欠である
日本イーライリリー株式会社(本社:兵庫県神戸市、代表取締役社長:シモーネ・トムセン、以下「日本イーライリリー」)と米国研究製薬工業協会(PhRMA)は7月18日(金)、「第8回ヘルスケア・イノベーションフォーラム」を東京都内で開催、政策関係者、有識者、産業界関係者、報道関係者など合計345名が参加しました。

本年のフォーラムは、社会課題である肥満症を議題として取り上げ、「イノベーションによる健康寿命の延伸と国民皆保険の持続性:肥満症を例にして」をテーマに開催されました。肥満症領域の専門家である医師、元財務事務次官、元厚生労働省医務技監、米国イーライリリー・アンド・カンパニーのパトリック・ジョンソンが登壇し、肥満症を取り巻く現状と構造的課題を共有するとともに、持続可能な医療制度の構築に向け、医療・制度・社会の観点から必要な対策についてなど、多角的な議論を交わしました。
日本における肥満症は、単なる肥満(BMI≧25)の状態ではなく、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される状態を指し、医学的に治療が必要な慢性疾患です。日本においてその経済的損失は2019年で約7.6兆円(約508億ドル)、2030年には約11.1兆円(約741億ドル)に達するとの試算もあります1。
肥満症を適切に治療することで、当事者の健康状態やQOLを向上させる可能性があります。また、医療財政にとって大きなインパクトを与える生活習慣病の発症や悪化のリスクを低減することで、将来的な医療費の適正化に寄与する可能性もあります。そのような中、近年、新たな治療選択肢の登場や研究結果の発表が相次いでいます。肥満症治療は、アプローチや支援を見直すべき時を迎えています。
一方、一般社会においては、「肥満は自己管理の問題」として軽視されがちです。そのような誤解や偏見(オベシティ・スティグマ)が肥満症の適切な治療の導入を妨げている可能性もあり、社会課題となっています。また、患者会が存在しないことにより、当事者の声が制度設計に反映されにくいといった現状もあります。さらには、健診制度の構造上、肥満症が指摘される仕組みはなく、医学的に治療が必要な肥満症が見過ごされる可能性があるという課題も指摘されています。専門的な治療体制や薬物治療に対応可能な施設が限られた状況であることから、医療提供体制のさらなる充実も求められています。
本フォーラムは、肥満症診療における制度的・社会的な課題への理解を深めたうえで、肥満症治療の環境整備に向けた具体的なアクションや肥満症治療がもたらす可能性について、医療・政策・経済・産業の各分野の有識者が多角的な視点から議論しました。
以下、本フォーラムの登壇者のコメントを一部ご紹介します。
<登壇者のコメント(一部抜粋)>
門脇 孝氏(虎の門病院 院長、日本医学会・日本医学会連合 会長)
「肥満症は、肥満があり、かつ肥満に伴う健康障害を合併している状態であり、医学的に治療が必要な慢性疾患です。肥満症によって、当事者のQOLが低下することに加え、更に他の健康障害を引き起こしたり、既に患っている疾患を悪化させたりするリスクがあります。そのため早期の発見と適切な治療介入が重要です。一方、これまで治療選択肢が限られていたこともあり、他の慢性疾患と同じレベルでは必要な治療がなされてきませんでした。 また「肥満は自己管理の問題」といったスティグマが当事者や医療従事者を含む社会全体に根強く存在していることから、必要な医療支援にたどり着けていないケースも多く想定されます。その背景には、肥満症の診断や治療に対応できる専門的な治療体制および治療薬処方が可能な施設が限られている現状などの、構造的な課題もあります。今後、必要な医療を必要な方へ適切に届けていくためには、政府・自治体・学会・アカデミア・企業などの関係者が連携し、最新のエビデンスに基づいた疾患啓発と医療提供体制の拡充を進めていくことが不可欠です。肥満症を社会全体で正しく理解したうえで、適切な支援体制を構築することが求められています。」
鈴木 康裕氏(国際医療福祉大学 学長、厚生労働省 初代医務技監)
「現在の健診制度では、メタボリックシンドロームを対象とした評価が中心であり、医学的に治療が必要な“肥満症”が見過ごされやすいという構造的な課題が指摘されています。現行の健診・保健指導では、主に肥満の有無の確認と生活習慣の改善指導に重点が置かれており、医学的な治療対象となる肥満症のスクリーニングには十分に対応しきれていないのが実情です。さらに、肥満症について制度的・政策的に明確な位置づけもまだ十分にされておらず、健診制度や保険制度の設計や運用においても、今後より一層の対応が求められます。肥満症患者を早期に発見・診断するためには、健診制度の見直しを含む制度全体のアップデートが必要です。例えば、「健康日本21」など国民の健康づくりに関する基本的な方針の中に、肥満症への対応を組み込むことも一つの方策といえます。持続可能な国民皆保険制度の観点からも、肥満症への対策は医療費のみならず、介護費の抑制や労働生産性の向上といった広範な社会的効果をもたらす可能性がある重要な施策であり、政策的優先度を高めていくことが求められます。」
岡本 薫明氏(元財務事務次官)
「肥満症は、医療費の増大や労働生産性の低下など、社会的・経済的に大きな負担をもたらしうる疾患です。しかし、肥満症治療への政策対応は十分とは言えません。その背景には、政策関係者の間で、肥満症治療薬を含む生活習慣病に関する治療薬について、患者のQOL向上への寄与や医療保険財政への影響に関するエビデンスが不十分であるとみなされているという面があるように思います。今後、肥満症治療の意義を政策の中で正しく評価し、適切に位置づけていくためには、臨床的な有用性だけでなく、社会的・経済的な負担の軽減を裏付けるエビデンスの構築が不可欠です。また、それらの知見を政策立案者や国民に向けてわかりやすく伝える仕組みづくりも重要です。加えて、治療手段の進化も欠かせません。継続的な治療イノベーションの創出と、必要な治療が適切に社会へ届けられる制度の整備に向けて、政府・保険者・企業などの幅広い関係者の協働が、今後の鍵になると考えます。」
パトリック・ジョンソン(イーライリリー・アンド・カンパニー エグゼクティブ・バイスプレジデント 兼 リリーインターナショナル事業本部 プレジデント)
「世界の肥満人口は10億人以上にのぼり、肥満症は、高血圧や2型糖尿病、心血管疾患など、200以上の健康状態と関連する慢性疾患です。しかし、他の慢性疾患と同じレベルの医療がなされていません。日本における肥満率は成人、小児ともに上昇しており、その経済的、健康的負担は深刻です。2030年までに、医療費や生産性の損失を含めた肥満症の経済的影響は11兆円を超えると予測されています。スティグマや自己責任論が根強く、肥満症のある人が必要な医療を受けることを妨げています。肥満症のある人は、他の慢性疾患と同様に、医療、生活習慣、外科的支援を含む包括的なケアを受ける権利があります。現在利用可能な革新的治療法は、食事や生活習慣の改善とともに、肥満症対策における転換点を示していますが、生活の質を向上させ、合併症のリスクを減らし、日本社会の経済的負担の増加を抑えるためには、政策や治療体制の見直しが必要です。」
日本イーライリリーと米国研究製薬工業協会は、これからも、イノベーションによる健康寿命の延伸と国民皆保険の持続性の確保のため、幅広い関係者と協働してまいります。
以上
第8回ヘルスケア・イノベーションフォーラム 概要

開催日 |
2025年7月18日(金) |
主催・共催 |
日本イーライリリー株式会社 米国研究製薬工業協会(PhRMA) |
開催形式 |
ハイブリッド(会場及びオンライン) |
テーマ |
イノベーションによる健康寿命の延伸と国民皆保険の持続性:肥満症を例にして |
参加者 |
オンライン参加者を含め345名 政策関係者(国会議員、関係府省・機関)、アカデミア・研究機関、産業界関係者、報道関係者 など |
登壇者 (敬称略) |
パネルディスカッション及びQ&A ・門脇 孝 虎の門病院 院長、日本医学会・日本医学会連合 会長 ・岡本 薫明 元財務事務次官 ・鈴木 康裕 国際医療福祉大学 学長、厚生労働省 初代医務技監 ・パトリック・ジョンソン イーライリリー・アンド・カンパニー エグゼクティブ・バイスプレジデント 兼 リリーインターナショナル事業本部 プレジデント モデレーター ・吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー) 主催者挨拶 ・ハンス・クレム 米国研究製薬工業協会(PhRMA)日本代表 ・シモーネ・トムセン 日本イーライリリー株式会社 代表取締役社長 |
後援 |
厚生労働省、米国大使館・商務部、兵庫県、神戸市、神戸医療産業都市推進機構、在日米国商工会議所、新時代戦略研究所 |
特別協力 |
大阪商工会議所 |
ヘルスケア・イノベーションフォーラムについて
「ヘルスケア・イノベーションフォーラム」は、健康寿命の延伸と持続的な国民皆保険制度における創薬イノベーションの役割を議論する場として、日本イーライリリーと米国研究製薬工業協会(PhRMA)が共催で、2018年より毎年開催しています。同フォーラムでは、その時々の政策課題に応じたテーマを設定し、日本のオピニオンリーダーによる議論を通じて、政策にかかわる関係者が取るべきアクション等についてメッセージを発信しています。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)について
PhRMAは、世界の主要な研究開発志向型革新的医薬品企業を代表する団体です。PhRMA加盟企業は、人々の生活を変革し、健康的な人生を送ることができる世界を創るために、革新的な医薬品の開発に注力しています。PhRMAは、患者さんが疾患の予防、治療、および治癒に必要な医療にアクセスし享受できる解決策を求めて活動しています。直近10年間で、PhRMA加盟企業は新たな治療・治癒の研究開発のために8,500億ドル以上を投資しました。
日本イーライリリーについて
日本イーライリリー株式会社は、米国イーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人です。日本の患者さんが健康で豊かな生活を送れるよう、日本で50年にわたり最先端の科学に思いやりを融合させ、世界水準の革新的な医薬品を開発し提供してきました。現在、がん、糖尿病、アルツハイマー病などの中枢神経系疾患や自己免疫疾患など、幅広い領域で日本の医療に貢献しています。詳細はウェブサイトをご覧ください。
References:1:World Obesity Federation, https://data.worldobesity.org/country/japan-105/#data_economic-impact
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