【八戸高専】学生がサウナ繰り返し入浴時の人体内外に生じる伝熱変化を評価し、学会で優秀賞を受賞
~第59回日本伝熱シンポジウムにて優秀プレゼンテーション賞を受賞~
八戸工業高等専門学校(青森県八戸市 校長圓山重直 以下「八戸高専」)の機械システムデザインコース工学専攻2年、石橋 輝(ひかる)さんと古川 琢磨助教の研究グループは、実地試験および数値解析の観点からサウナ入浴時の人体周囲の伝熱量を定量的に明らかにしました.また従来広く使用されている生体温熱モデルに改善の余地があることを示しました.この成果は、第59回日本伝熱シンポジウムにて研究発表し、研究の独創性とそのわかり易さが評価され日本伝熱学会優秀プレゼンテーション賞を受賞しました.
研究概要
石橋さんと古川助教の研究グループはサウナ繰り返し入浴時のヒートショック予防の科学的提言に向けて研究を行ってきました.具体的には地元銭湯のサウナ室でのフィールドワークやコンピュータシミュレーションによるサウナ室内部,人体周辺の伝熱現象の解析を行い,サウナ入浴時の人体深部温度の上昇量を評価しました.その結果、従来提案されてきた生体温熱モデル(※1)ではサウナのような極限的高温環境の人体深部温度を精度良く評価できず,モデルパラメータの調整やモデルの高度化が必要性であることを明らかにしました.
研究背景
近年、サウナ繰り返し入浴による高いリラックス効果が注目されています.サウナ繰り返し入浴とはサウナ入浴,水風呂,休憩の動作を繰り返し行うものです.一般的にはサウナ入浴と水風呂での温度差が高いほど,休憩時のリラックス効果が高くなることが示唆されており,近年のサウナブームでは100℃以上を超えるサウナや,10℃以下の水風呂も散見されるようになってきました.しかしながら,このような水風呂,サウナの熱環境は人体の皮膚・深部温度に急激な温度差を生成させる環境であるともいえ,高齢者やサウナ入浴初心者のヒートショック事故の危険性は非常に高いと考えられます.
しかし,これまでヒートショック予防を考慮した繰り返し入浴方法は具体的には提案されていません.このような入浴方法を提案するためにも、サウナ繰り返し入浴のような急激な温度変化をもたらす熱環境での人体内外の温度分布の正確な予測のため高精度なモデルの開発が必要です.石橋さんと古川助教らの研究グループでは従来広く使用されている生体温熱モデルのサウナ入浴時に対する適用可能性について評価した上で、シミュレーションを行い新たなモデルの必要性を確認しました。
高専生の活躍
石橋輝さんは本研究プロジェクトに2020年から参加しました.サウナ室内部のふく射伝熱量を評価するために,サウナ室のふく射平衡温度(※2)を測定し、サウナ室内部がふく射環境的に5~6℃程度冷却されていることを示唆しました.これまでサウナ室内部のふく射平衡温度は測定された報告例はなく,初めての測定例となりました.
また,人体を模擬した解析メッシュを使用してシミュレーションを行い,人体周辺におけるふく射伝熱量の定量的な算出を行いました.(図2,図3参照)シミュレーションの結果,赤外線ヒーターといった指向性のあるヒーターでは人体周辺でふく射起因の局所温度は10~20℃程度も人体部位によって変動することが明らかとなりました.本結果から,赤外線ヒーターを用いたサウナ室内部の熱バランスを改善する必要性があることを明らかにしました.
さらに,共同研究者の西館来夢さんとシミュレーションで導出されたふく射伝熱量を使用して,人体内部の深部温度の時間変化予測を行いました.(図4参照)予測には生体温熱モデルのモデルパラメータを調節することによって,実験結果をある程度再現可能であることが明らかとなりました.しかしながら,定量的には一致しておらず,モデルの改良が必要であることが示されました.
本研究結果は、5月18日~20日,長良川国際会議場で開催された第59回日本伝熱シンポジウムで研究発表されました.(図5参照)研究発表では,そのわかり易さと研究の独創性が評価され日本伝熱学会優秀プレゼンテーション賞を受賞しました.
図 5 表彰状を手にする石橋さん(前列右から2人目)、指導教員の古川助教(前列右端)と圓山校長(同左から2人目)
今後の展望
サウナ繰り返し入浴中での人体深部温度,皮膚温度の実験および数値解析の比較から従来の生体温熱モデルプログラムでは休憩時の深部温度の遅延を予測することは困難であることが明らかとなりました.従来の生体温熱モデルは,人体を皮膚,深部の二層しか模擬していないため深部温度変化の遅延を再現するには,筋肉,深部層などの中間層をモデル化する必要性があると考えられます.今後は多層モデルを考慮した温熱プログラムを使用して,繰り返し入浴中の深部温度変化量をより定量的に評価する予定です.これらモデルを構築,応用することにより,性別,体重,年齢,身長等に応じた個人差も考慮した深部温度予測手法の開発を目指します.そして,万人に対応可能なヒートショック予防法の科学的提言を行っていく予定です.
用語
※1 生体温熱モデル:空間の温湿度,人体周辺での伝熱量を入力することにより,人体の皮膚温度・深部温度を予測可能なモデル
※2 ふく射平衡温度:ふく射(電磁波)による影響を考慮した温度
【八戸工業高等専門学校について】
八戸工業高等専門学校は、青森県初の工学系の国立高等教育機関として1963年に設立され、設立当初から5年一貫教育による実践的な技術者の育成を目標にして、多くの優秀な技術者・研究者を育てています。
また、本校独自の学習プログラムとして正解のない研究テーマに挑戦することを目的とした自主探究活動(Self-Directed Research)が導入されています。この学習プログラムを通して学生は「問題解決能力」だけでなく、これからの技術者・研究者に必須となる「問題発見能力」を養うことができます。
【学校概要】
学校名:独立行政法人国立高等専門学校機構 八戸工業高等専門学校
所在地:青森県八戸市大字田面木字上野平16番地1
校長名:圓山 重直
設立:1963年
URL:https://www.hachinohe-ct.ac.jp
事業内容:高等専門学校・高等教育機関
【本リリースに関する報道お問い合わせ先】
独立行政法人国立高等専門学校機構
八戸工業高等専門学校 総務課総務係
TEL:0178-27-7223
Email:somu-o@hachinohe-ct.ac.jp
https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/60th/
石橋さんと古川助教の研究グループはサウナ繰り返し入浴時のヒートショック予防の科学的提言に向けて研究を行ってきました.具体的には地元銭湯のサウナ室でのフィールドワークやコンピュータシミュレーションによるサウナ室内部,人体周辺の伝熱現象の解析を行い,サウナ入浴時の人体深部温度の上昇量を評価しました.その結果、従来提案されてきた生体温熱モデル(※1)ではサウナのような極限的高温環境の人体深部温度を精度良く評価できず,モデルパラメータの調整やモデルの高度化が必要性であることを明らかにしました.
研究背景
近年、サウナ繰り返し入浴による高いリラックス効果が注目されています.サウナ繰り返し入浴とはサウナ入浴,水風呂,休憩の動作を繰り返し行うものです.一般的にはサウナ入浴と水風呂での温度差が高いほど,休憩時のリラックス効果が高くなることが示唆されており,近年のサウナブームでは100℃以上を超えるサウナや,10℃以下の水風呂も散見されるようになってきました.しかしながら,このような水風呂,サウナの熱環境は人体の皮膚・深部温度に急激な温度差を生成させる環境であるともいえ,高齢者やサウナ入浴初心者のヒートショック事故の危険性は非常に高いと考えられます.
しかし,これまでヒートショック予防を考慮した繰り返し入浴方法は具体的には提案されていません.このような入浴方法を提案するためにも、サウナ繰り返し入浴のような急激な温度変化をもたらす熱環境での人体内外の温度分布の正確な予測のため高精度なモデルの開発が必要です.石橋さんと古川助教らの研究グループでは従来広く使用されている生体温熱モデルのサウナ入浴時に対する適用可能性について評価した上で、シミュレーションを行い新たなモデルの必要性を確認しました。
図 1 サウナ繰り返し入浴とその問題点
高専生の活躍
石橋輝さんは本研究プロジェクトに2020年から参加しました.サウナ室内部のふく射伝熱量を評価するために,サウナ室のふく射平衡温度(※2)を測定し、サウナ室内部がふく射環境的に5~6℃程度冷却されていることを示唆しました.これまでサウナ室内部のふく射平衡温度は測定された報告例はなく,初めての測定例となりました.
また,人体を模擬した解析メッシュを使用してシミュレーションを行い,人体周辺におけるふく射伝熱量の定量的な算出を行いました.(図2,図3参照)シミュレーションの結果,赤外線ヒーターといった指向性のあるヒーターでは人体周辺でふく射起因の局所温度は10~20℃程度も人体部位によって変動することが明らかとなりました.本結果から,赤外線ヒーターを用いたサウナ室内部の熱バランスを改善する必要性があることを明らかにしました.
さらに,共同研究者の西館来夢さんとシミュレーションで導出されたふく射伝熱量を使用して,人体内部の深部温度の時間変化予測を行いました.(図4参照)予測には生体温熱モデルのモデルパラメータを調節することによって,実験結果をある程度再現可能であることが明らかとなりました.しかしながら,定量的には一致しておらず,モデルの改良が必要であることが示されました.
図 2 サウナ室におけるシミュレーションモデル
図 3 人体周辺のふく射熱流束の分布
図 4 生体温熱モデルと実験との比較,生体温熱モデルの結果はモデルパラメータを調整したものである
本研究結果は、5月18日~20日,長良川国際会議場で開催された第59回日本伝熱シンポジウムで研究発表されました.(図5参照)研究発表では,そのわかり易さと研究の独創性が評価され日本伝熱学会優秀プレゼンテーション賞を受賞しました.
図 5 表彰状を手にする石橋さん(前列右から2人目)、指導教員の古川助教(前列右端)と圓山校長(同左から2人目)
今後の展望
サウナ繰り返し入浴中での人体深部温度,皮膚温度の実験および数値解析の比較から従来の生体温熱モデルプログラムでは休憩時の深部温度の遅延を予測することは困難であることが明らかとなりました.従来の生体温熱モデルは,人体を皮膚,深部の二層しか模擬していないため深部温度変化の遅延を再現するには,筋肉,深部層などの中間層をモデル化する必要性があると考えられます.今後は多層モデルを考慮した温熱プログラムを使用して,繰り返し入浴中の深部温度変化量をより定量的に評価する予定です.これらモデルを構築,応用することにより,性別,体重,年齢,身長等に応じた個人差も考慮した深部温度予測手法の開発を目指します.そして,万人に対応可能なヒートショック予防法の科学的提言を行っていく予定です.
用語
※1 生体温熱モデル:空間の温湿度,人体周辺での伝熱量を入力することにより,人体の皮膚温度・深部温度を予測可能なモデル
※2 ふく射平衡温度:ふく射(電磁波)による影響を考慮した温度
【八戸工業高等専門学校について】
八戸工業高等専門学校は、青森県初の工学系の国立高等教育機関として1963年に設立され、設立当初から5年一貫教育による実践的な技術者の育成を目標にして、多くの優秀な技術者・研究者を育てています。
また、本校独自の学習プログラムとして正解のない研究テーマに挑戦することを目的とした自主探究活動(Self-Directed Research)が導入されています。この学習プログラムを通して学生は「問題解決能力」だけでなく、これからの技術者・研究者に必須となる「問題発見能力」を養うことができます。
【学校概要】
学校名:独立行政法人国立高等専門学校機構 八戸工業高等専門学校
所在地:青森県八戸市大字田面木字上野平16番地1
校長名:圓山 重直
設立:1963年
URL:https://www.hachinohe-ct.ac.jp
事業内容:高等専門学校・高等教育機関
【本リリースに関する報道お問い合わせ先】
独立行政法人国立高等専門学校機構
八戸工業高等専門学校 総務課総務係
TEL:0178-27-7223
Email:somu-o@hachinohe-ct.ac.jp
~2022年度、高等専門学校制度は創設60周年を迎えます~
https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/60th/
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