◆革新的エネルギー技術実証衛星◆固-固相転移型潜熱蓄熱材による超小型衛星搭載バッテリーの温度安定化効果を確認 / 関西大学
~電力に頼らない人工衛星用温度管理新手法の実証に成功~
学校法人関西大学(理事長: 芝井 敬司)は、新日本電工株式会社(代表取締役社長: 青木 泰)と共同開発した無機系固-固相転移型潜熱蓄熱材(Solid-Solid Phase Change Material, SSPCM)を活用した人工衛星用電源温度安定化デバイス (以下、本デバイス) を超小型衛星「DENDEN-01」に搭載し、その温度安定化効果を確認しました。
本デバイス (図1) は、関西大学らのグループが開発した超小型人工衛星「DENDEN-01」(プロジェクトマネージャー:山縣雅紀 化学生命工学部 准教授)(図2) に搭載され、日本時間12月9日(月)に国際宇宙ステーション(ISS)から放出されました。その後、試験電波による通信によって衛星情報の取得に成功し、その情報から、寒冷時のバッテリー温度が設計どおりの下限温度を下回ることなく、適正温度範囲に維持されていることが確認されました。この無機系SSPCMによる機器温度安定化効果の宇宙実証は世界初となります。
【本件のポイント】
・固-固相転移型潜熱蓄熱材を活用した電源温度安定化デバイスの宇宙実証に成功。
・宇宙の極限環境でも、バッテリーを適正温度範囲に維持。
・宇宙空間での電源安定化技術として、将来的な人工衛星や探査機への応用を目指す。
【DENDEN-01について】
DENDEN-01は2021年度末に国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)およびNPO法人大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)により公募された「学術利用及び人材育成を目的とした『きぼう』からの超小型衛星放出機会の提供プログラム(J-CUBE)」の2021年度打ち上げ枠(国内先進ミッション枠)に採択された超小型衛星。本衛星では、「固-固相転移型潜熱蓄熱材(SSPCM)」を活用した電源温度安定化装置はじめ、今後の超小型衛星開発に貢献する複数のエネルギー技術および高負荷ミッションの軌道上実証を行っています。

▼本件の詳細▼
関西大学プレスリリース
https://www.kansai-u.ac.jp/ja/assets/pdf/about/pr/press_release/2024/Nojr23.pdf
▼報道に関する問合せ▼
関西大学 総合企画室 広報課
担当:小林、伊地知(いじち)、明原
TEL: 06-6368-0007
E-mail: kouhou@ml.kandai.jp
新日本電工株式会社 総務部 広報IR課
担当:喜久山
TEL:080-4169-8190
E-mail: kikuyama@nippondenko.co.jp
補足資料
固-固相転移型潜熱蓄熱材による超小型衛星搭載バッテリーの温度安定化効果を確認
〜電力に頼らない人工衛星用温度管理新手法の実証に成功〜
学校法人関西大学(理事長: 芝井 敬司)は、新日本電工株式会社(代表取締役社長: 青木 泰)と共同開発した無機系固-固相転移型潜熱蓄熱材(Solid-Solid Phase Change Material, SSPCM)<※1>を活用した人工衛星用電源温度安定化デバイス (以下、本デバイス) を超小型衛星キューブサット<※2>「DENDEN-01」に搭載し、その温度安定化効果を確認しました。
本デバイス (図1) は、関西大学らのグループが開発した超小型人工衛星「DENDEN-01」(プロジェクトマネージャー:山縣雅紀 化学生命工学部 准教授)(図2) に搭載され、日本時間12月9日(月)に国際宇宙ステーション(ISS)から放出されました。その後、試験電波による通信によって衛星情報の取得に成功し、その情報から、寒冷時のバッテリー温度が設計どおりの下限温度を下回ることなく、適正温度範囲に維持されていることが確認されました。この無機系SSPCMによる機器温度安定化効果の宇宙実証は世界初となります。


本デバイスは図3に示すとおり、DENDEN-01の内部下方 (-Z面側) に搭載されており、その内部には円筒形リチウムイオン電池2セルが含まれます。+Z面側には搭載機器で最大のサイズである通信機が設置されており、両者の温度変化を計測しています。また、衛星の外装パネルの温度も計測対象としています。

図4(a)は、12月25日に取得した衛星情報データを基に、日照域から日陰域へ移行する際の本デバイス(BAT)、搭載機器(通信機)、構造パネル (-Zおよび+Zパネル) それぞれの温度変化を比較したものです。本デバイス(BAT)および通信機のそれぞれに最近接の構造パネル(-Zパネルおよび+Zパネル)と通信機の温度は急激に低下する一方で、本デバイス(BAT)はほぼ一定の温度を維持しました。この結果は、SSPCMが蓄熱と放熱を適切に制御し、バッテリー温度の急変を防ぐ役割を果たしていることを示しています。
翌日の12月26日、衛星が日陰から日照へと移行した直後の記録を図4(b)に示します。この日は、初期運用期間内で最も日照時間が短く、衛星の本体および内部機器が特に低温環境にさらされた状態で行われました。この条件下で、通信機は-8℃まで低下した一方で、本デバイス(BAT)は設計上の下限温度である0℃を維持しました。
以上の結果から、開発したSSPCMが宇宙空間においてバッテリー温度の急激な低下を防ぎ、バッテリー動作に適切な温度範囲を保持できる、優れた性能を発揮できるが実証されました。


図4 SSPCMを活用した電源温度安定化デバイス(BAT)、衛星搭載機器(通信機)、構造パネル (-Zおよび+Zパネル)の温度変化: (a) 12月25日、(b)12月26日の記録
人工衛星の中でも100kg未満の衛星は超小型衛星と呼ばれ、その中でも1辺10cmの立方体を基本構造として規格化されたキューブサットの開発・利用が急速に進んでいます。しかし、キューブサットには電力、重量、サイズの制限があり、熱容量も小さいため、宇宙空間の急激な温度変化に弱いという課題があります。特に、搭載機器の一つである電源は、低温にさらされることで性能が極端に低下し衛星のトラブルにつながります。この課題に対して信頼性の高い電力供給を実現するために、関西大学と新日本電工は宇宙環境の厳しい温度変化に対応し、蓄熱・放熱が行われるよう転移温度や転移応答性を最適化した二酸化バナジウム(VO2)系SSPCMを共同開発し、山縣雅紀准教授らのグループによってデバイス化に成功しました。この温度安定化デバイスの実現により、キューブサットなど超小型衛星の運用における電力消耗を低減し、さらに電源を一定の温度範囲に維持することで安定した電源性能を発揮することが期待されます。
<今回の実証結果により、SSPCMが超小型衛星において有効に機能し、電源に限らず様々な機器の温度管理手法としての実用化に向けた大きな一歩となりました。今後も「DENDEN-01」の運用を通じてさらなるSSPCMの効果評価を進め、次世代の超小型衛星運用技術の確立を目指します。
関連情報
衛星詳細は2024年6月25日付報道発表資料をご参照ください
DENDEN-01プロジェクト公式ウェブサイト
https://denden01.kansai-u.space/
関西大学 化学生命工学部 化学・物質工学科 極限環境化学研究室
https://kyokugen.kansai-u.space/
新日本電工株式会社
【補足説明】
<※1> 固-固相転移型潜熱蓄熱材(SSPCM)
熱エネルギーを蓄えるために化学変化を利用する固形の蓄熱材。相転移温度にて結晶構造が変化し、熱を吸収または放出することができる。一般的な潜熱蓄熱材は温度が変化すると固体から液体、または液体から固体へ変化し、この過程で熱を吸収または放出することができるが、SSPCMは、温度が変化すると物質がある結晶構造の固体から別の結晶構造の固体へと相変化するのが特徴。そのため液漏れや気化の危険性を排除することができる。
<※2> キューブサット(CubeSat)
10 × 10 × 10 cmを1つのユニット(1U)とした、超小型衛星の規格の一つ。ここ10年ほど、世界的に宇宙の商業利用が進んだことで、キューブサット規格の地球観測衛星や通信衛星などが、安価に大量に打ち上げられている。
【研究・開発に関する問合せ】
関西大学 研究推進・社会連携事務局
担当:産学官連携コーディネーター 山本
TEL:06-6368-3120
E-mail:michyama@jm.kansai-u.ac.jp
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