自宅介護者を対象とした調査で9割が直面していた「認知症の行動・心理症状(BPSD)」 全国WEB調査で浮き彫りになったBPSDと介護者のQOLへの影響

~永田智行先生に聞く、認知症介護における向き合い方と対応策~

大塚製薬

大塚製薬は、一人ひとりの可能性に向き合うトータルヘルスケアカンパニーとして、人々が身体的・精神的、そして社会的にも健康であるウェルビーイングの実現に向けて取り組んでいます。日本が超高齢社会に突入している中、「アルツハイマー型認知症患者と同居する家族介護者」に関する本調査では、自宅で支える家族介護者の9割で、焦燥感や攻撃的な言動などの「認知症の行動・心理症状(BPSD)」が確認されました。BPSDには様々な症状がありますが、なかでも、「叩く・つねる」「悪態をつく」「落ち着きがない」といった活動亢進(過活動)の症状は、BPSDのある方のうち7割以上に見られ、自宅介護の現場で広く生じている実態が明らかになりました。さらに、BPSDがある場合には、ない場合と比較して介護時間が週あたり約10時間増加するとともに、介護者の負担の増大および生活の質(QOL)の低下が示されました。*1,2

本ニュースレターでは、本調査に関わり関連論文の著者でもある医療法人永光会 あいらの森ホスピタル認知症疾患医療センター 永田智行先生のインタビューを通して、調査実施の背景、調査結果を紹介します。永田先生の「介護負担の増大は介護の質の低下、そしてBPSDの症状の悪化といった悪循環を招くことがある」との指摘を踏まえ、認知症介護における向き合い方と対応策についても取り上げます。

「アルツハイマー型認知症患者と同居する家族介護者」インターネット調査で見えた実態

本調査は、アルツハイマー型認知症患者さんを自宅で支える家族介護者705名(平均年齢54.6±11.5歳、女性 43.1%、84.0%が親・義理の親を介護)を対象に実施しました。患者さんの平均年齢は84.2±8.8歳であり、以下の3つの主なポイントが示されました。

調査結果サマリー

① 調査対象の90.6%に何らかのBPSDが認められ、なかでも「叩く・つねる」「悪態をつく」「落ち着きがない」といった活動亢進の症状は、BPSDのある人の73.4%に見られました。これらの症状は、介護者の心身の負担と強く関連していました。

② BPSDがある人を介護する介護者は、ない人を介護する場合に比べて、介護時間が週平均で約10時間多く、また“介護者の健康”および“社会とのつながり”に関する生活の質(QOL)の低下が示されました。

③ 介護サービス利用者のうち、BPSDがない場合と比べて、ある場合のほうが、介護者に介護サービスへの不満がみられました。また、活動亢進の症状に対して「対処法がない」と回答した人が16.6%にのぼり、支援や対応のあり方に課題があることが示されました。

調査の実施背景:インターネット調査による自宅介護の実態把握

近年、当事者の意思を尊重しながら共に生きる共生社会への転換が進められていますが、一方でこれまでの認知症に関する調査は、医療機関や行政のデータを基盤としたものが中心で、実際に自宅で介護を担う家族の声に焦点を当てた調査は限られていました。アルツハイマー型認知症におけるBPSDは介護負担に深刻な影響を与え、介護の質に影響を及ぼす可能性があるとされます。そのため、より実生活に近いデータを用いて、介護者が直面する課題や負担を明らかにすることを目的に、大塚製薬は全国の自宅介護者から直接声をきくインターネット調査および研究を実施しました。

【永田智行先生の解説】

2000年に介護保険制度が創設されて以来、約26年が経過し、地域による認知症の方への介護サービスの提供体制は着実に整備・拡充されてきました。 その一方で、症状のなかでも、記憶障害などの認知機能障害よりも、行動や心理面における症状、いわゆるBPSDが介護者の負担に大きく影響していることが浮き彫りになりました。こうした症状が介護者の日常生活にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることが、適切な支援体制の構築には不可欠であり、本調査は重要な意義を有すると考えています。

①アルツハイマー型認知症に伴うBPSDは9割以上で確認され、介護負担に大きく影響

本調査では、アルツハイマー型認知症患者の90.6%にBPSDが認められました。なかでも特に注目されるのが、BPSDの症状のひとつである「活動亢進」で「怒りっぽくなる」「落ち着きなく動き回る」といった行動が73.4%に見られました。こうした症状は、自宅介護の現場においても広く見られることが示されました。

なお、BPSDは、国際的な評価尺度であるNPI-Qに基づき、以下の4つのタイプに分類され、本研究でも同様の枠組みで分析を行いました。 

・活動亢進: 「興奮して怒鳴る」「急に叩く」「落ち着きなく動き回る」などの行動

・精神病様症状: 「妄想や幻覚」「夜間に落ち着きがなくなる」など、現実とは異なる認識や行動

・感情障害: 「ひどく落ち込む」「強い不安や抑うつ状態」

・アパシー: 「無気力」「無関心」「活動意欲の低下」など


解析の結果、これらすべての症状が介護者の心身の負担に関連していることが確認されました。特に、活動亢進や精神病様症状が、介護者の生活や健康状態により大きな影響を及ぼすことが示されました。

【永田智行先生の解説】

激しい動きや強い不安、気分の落ち込みといったBPSDの症状は、介護者の心理的・身体的な負担を増大させるだけではなく、その日常生活や健康状態をも著しく脅かす可能性があります。例えば、急に怒り出したり興奮したりして、周りの方に手を上げてしまったり、ご自身を傷つけたりする行動は、ご自宅での介護において非常に切迫した状況を招きやすいという特徴があります。こうした場面に直面し、ご家族が疲れ果ててしまうケースも決して少なくありません。症状が切迫性を伴いやすいかどうかは、介護の負担や対応の難しさを考えるうえで、非常に重要な部分であると考えます。

一方で、アパシーについては、介護者の負担感はあるものの、日常生活への直接的な影響は比較的限定的であることが分かってきました。こうした症状は、切迫性の高い他の症状とは切り分けて、時間をかけて対応を検討することが重要です。

 ②BPSDがある場合、介護時間が増加し、生活の質(QOL)が低下

分析の結果、BPSDがある場合、介護者の介護時間は週あたり平均で約10時間長いことが明らかになりました(25.7時間 vs. 15.0時間)。

また、“介護者の健康”に加え、外出や趣味といった社会的な活動の機会が減少することで、“社会とのつながりに関する生活の質(QOL)”の低下が示されました。

このことからBPSDがある場合の介護者において、高い介護負担ならびにQOLの低下が明らかになりました。

【永田智行先生の解説】

BPSDは単なる問題行動ではなく、本人が感じる不安や混乱を埋めようとして現れる反応です。認知機能の低下によって生じた空白を補おうとする、いわば「心の穴埋め」のような反応とも言えます。例えば、記憶の問題によって、「同居の家族が外出や入院などでの理由で不在にしている」という「記憶の更新」ができない場合、その家族を「探しに行く」という行動につながります。本人は強い不安や不快感を抱えており、探しに行くという行動に至っておりますが、周囲から見ると、独り歩きやさまよい(徘徊行動)による迷子と受け取られることがあります。

こうした状態に向き合い続ける介護者の心理的・身体的な負担は段々と大きくなります。だからこそ大切なのは、早い段階で周囲へ相談することや介護保険サービスなどの支援を受ける体制を構築することです。「自分がもっと頑張らなければ」と抱え込む必要はありません。負担が限界を超えると対応の質が低下し、それが症状の悪化を招くという悪循環に陥る可能性があります(図参照)。そうなる前に、介護保険サービスに加え、地域やボランティアなどの力を借りることが、在宅介護を続けていくうえでの大きな支えになります。

③BPSDがある家庭では介護サービスへの満足度が低く、対応策にも課題

今回の結果では、介護サービスを利用している介護者において、BPSDの有無によってサービスへの満足度に差がみられることが明らかになりました。BPSDのない方の介護者では不満はみられなかったのに対し、BPSDがある方の介護者ではサービスへの不満がみられました。

また、活動亢進に対して介護者が行っている対応としては、「落ち着かせるような声かけや対応」が最も多く57.1%を占め、次いで「他の介護者と一緒に対応する」が20.5%となっており、自宅介護の現場では主にコミュニケーションや人手による対応が中心であることが分かりました。「お薬を投与する」は11.3%、「刺激の少ない場所へ隔離する」は11.5%にとどまり、「身体的に拘束する」は3.0%でした。さらに、約6人に1人(16.6%)が「対処法がない」と回答しており、症状への対応に困っている方が一定数存在することが示されました。

【永田智行先生の解説】

BPSDがある方の介護を担うご家庭ほど、介護サービスを利用していても満足度が低いという結果が出ています。これは、BPSDを有する認知症の方本人がサービスを拒み、受け入れが遅れるなどの問題が背景にあると考えられます。認知症の方の場合、症状が強くなってからでは対応が難しくなるため、早い段階で支援につなげていくことが、結果として介護負担軽減につながります。ご家族だけで抱え込まず、専門家や医療機関、地域包括支援センターとも連携しながら、無理のない範囲で支援を組み合わせていくことが、介護を続けるうえで支えになります。

■BPSDと向き合うために知っておきたいこと

本調査からは、認知症の行動・心理症状(BPSD)が、支える側の負担や日常生活、さらには健康状態にも大きな影響を及ぼしている実態が明らかになりました。では、私たちはどのようにBPSDに向き合えばよいのでしょうか。永田先生は、次のように話します。

「本調査からも明らかになったように認知症の介護をするにあたってBPSDの影響は非常に大きいです。まずは何より、認知症の患者さんご本人も不安や不快感を抱えているという点を知っていただきたいと思います。BPSDは単なる問題行動ではなく、不安を解消しようとする『心の穴埋め』として現れることもあります。その背景にあるご本人の気持ちに目を向けることで、関わり方のヒントが見えてくることもあります。実際、ご家族がその思いに気づくことで、関係がスムーズになるケースも少なくありません。一方で、介護者の負担が大きくなり孤立してしまうと、適切な対応が難しくなり、介護の質の低下、そしてBPSD症状の悪化やさらなる負担の増加につながってしまいます。まずは一人で抱え込まず、お近くの地域包括支援センター、認知症疾患医療センターの相談窓口、認知症カフェや認知症の家族の会などを活用してください。また、インターネット上の体験談や便利なツールも積極的に活用し、周囲や社会とつながり続けることが大切です。もし、生活に支障が出るような切実な状況にあるときは、お薬の力を借りることも前向きに検討してよいのです。適切にお薬を活用することは、ご本人とご家族の穏やかな毎日を守るための選択肢の一つです。解決策があるということを知っていただき、周囲の助けを借りながら、介護者と認知症のご本人が少しでも笑顔で過ごせる時間を増やしていけるよう、共に歩んでいきましょう」。

*1 Nagata T, et al. Family Caregiver Burden and Neuropsychiatric Symptoms in Japanese Community-Dwelling People With Alzheimer's Disease: A Cross-Sectional Study

Using a Web-Based Questionnaire . Psychogeriatrics. 2026;26: e70143.

*2 Shinagawa S, et al. Caregiver burden and quality of life associated with behavioral and psychological symptoms of Alzheimer's disease: a web-based cross-sectional survey study. J Alzheimers Dis. 2026;110:628-638.

【調査概要】

  • アンケート実施期間:2023年11月13日~2023年11月27日

  • アンケート方法:インターネット調査

  • 対象:19歳~79歳のアルツハイマー型認知症の患者と同居する二親等以内の家族介護者で自身が介護している、または自身も一部介護している人705名

  • 調査・研究主体:大塚製薬株式会社


医療法人永光会 あいらの森ホスピタル 院長

認知症疾患医療センター センター長

永田智行(ながたともゆき)先生

2003年東京慈恵医科大学医学部卒業後、順天堂大学神経学講座、東京慈恵医科大学精神医学講座にて研修。2013年同大学院医学研究科博士課程修了。2015年より医療法人永光会あいらの森ホスピタル副院長、2016年院長就任、現在に至る。認知症診療を専門とし、BPSD対応や家族支援、地域包括ケアに取り組む。

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会社概要

大塚製薬株式会社

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URL
https://www.otsuka.co.jp/
業種
製造業
本社所在地
東京都千代田区神田司町2-9
電話番号
03-6717-1400
代表者名
井上 眞
上場
未上場
資本金
200億円
設立
1964年08月