蜂蜜のせき止め成分を世界で初めて同定
10年以上の歳月をかけ、新規化合物「メルピロール※1」を発見
【研究背景】
咳は病院を受診する理由でもっとも多い症状のひとつであり、近年は、長期間つづく咳を訴える人の受診が増加傾向にあります。咳は喉に入り込んだ異物を排除するための防御反応で、風邪やインフルエンザによって引き起こされる上気道感染症などが原因で起こります。対処法は一般的に鎮咳薬の使用や水、蜂蜜などを用いて喉を潤すことが有効とされています。
蜂蜜はミツバチが作り出す天然の甘味料で、花蜜(ネクター)や甘露をミツバチの体内酵素と共に巣の中で熟成させることで作られます。欧米では、咳止めシロップ(医薬品)として処方され、日本でも風邪のひき始めに蜂蜜を飲ませる古くからの習慣がありました。また、世界保健機関(WHO)は、蜂蜜が咳やその他の上気道感染症の治療に有効であることや1歳以上の⼦どもに与えるのに⼀般的で安全であることを発表しています。近年のレビュー論文では、咳の頻度や咳の重症度といった上気道感染症の改善には、蜂蜜が通常のケアよりも優れていると結論づけられています。
しかし、蜂蜜がもつ鎮咳作用の活性成分や作用機序は明らかになっておらず、当社では活性成分の探索を10年以上にわたり続けてまいりました。
本研究では、咳誘発モデルを用いた試験において、蜂蜜による鎮咳作用を評価しました。また、蜂蜜中の活性成分を調べるため、蜂蜜を分画し、各画分の咳に対する評価・成分比較を行い、活性成分の同定や化学合成を試みました。
【研究結果】
蜂蜜に含まれる鎮咳成分には「メルピロール」と「フラジン」があり、それらの活性はDMに匹敵することが分かりました。
●アカシア蜂蜜を投与した群では、水を投与した群に比べ、咳の回数が有意に低減した。蜂蜜は胃内へ直接投与した ため、蜂蜜の鎮咳作用はのどを潤すことによるものではないことが確認された。 ●活性のある蜂蜜画分に多く含まれる成分を調べた結果、2つの成分を発見した。活性成分のうち、1つは「フラジン」、もう一方は新規化合物であることが分かった。その新規化合物を、「メルピロール」と名づけ、化学合成にも成功した。 ●鎮咳活性を調べたところ、メルピロールとフラジンを投与した群は、水を投与した群に比べて咳の回数が有意に減少し、その活性の強さは鎮咳薬(DM)に匹敵するものであった。 |
※1:メルピロールは当社が発見・命名。フラジンのフラン環がピロール環に置き換わった構造式を持つ。メルはラテン語で「蜂蜜」の意味で、メルピロールは「蜂蜜由来のピロール」という意味。
【研究詳細】
蜂蜜が咳を鎮めることは多くの論文で報告されている。しかしながら、その活性成分や作用機序については明らかにされていない。そこで、咳誘発モデルを用い、蜂蜜及び蜂蜜に含まれる成分に鎮咳作用があるかを調べた。
<鎮咳作用の確認>
咳誘発モデルを用いた試験において、鎮咳薬(DM)とアカシア蜂蜜を投与した群では、水を投与した群に比べて、咳の回数が有意に減少した(図1)。蜂蜜は口からでなく胃内へ直接投与しているため、本研究における蜂蜜の鎮咳作用は、のどを潤すことによるものではないことが確認された。
<鎮咳成分の同定>
蜂蜜※2を分画し、LC/MS多変量解析により、鎮咳活性のある画分とない画分の成分を比較した。活性のある画分に多く含まれる2つの成分を、活性成分の候補とした。
2つの成分を詳細に分析したところ、1つは「フラジン」であり、もう一方は、フラジンに構造が似た新規化合物※3であることが分かった。新規成分を、「メルピロール※4」と名づけた(図2)。
蜂蜜から単離精製できるメルピロールはごく微量なので、化学合成法を開発し、合成試料を用いて詳細に鎮咳活性を調べたところ、メルピロールとフラジンの群は、水を投与した群に比べて咳の回数が有意に減少し、その程度は鎮咳薬(DM)と同等以上であった (図3) 。
両化合物の作用機序を調べたところ、シグナル伝達物質である一酸化窒素(NO)を介して咳を鎮めることが示された。
以上のことにより、蜂蜜に含まれる鎮咳成分として「メルピロール」と「フラジン」があり、鎮咳薬(DM)に匹敵する活性があることが分かった。
※2 アカシア蜂蜜と同程度の鎮咳作用が確認されたヒルガオ蜂蜜を用いた。
※3 フラジンのフラン環がピロール環に置き換わった構造式を持つ。
※4 メルはラテン語で「蜂蜜」の意味で、メルピロールは「蜂蜜由来のピロール」という意味。
【今後について】
本研究では、蜂蜜の鎮咳成分と、作用機序の一端を解明することができました。今後、未解明の成分と作用機序の研究を進め、蜂蜜のさらなる機能性の解明や品質の担保につなげてまいります。
引き続き当社は、はちみつ、ローヤルゼリーなどのミツバチ産品に関する有用性研究や素材開発を通し、予防医学の観点から「アピセラピー」を追究することで、お客さま一人ひとりの健康寿命を延伸し、社会に貢献してまいります。
<文献情報>
論文タイトル: Identification of a New Pyrrolyl Pyridoindole Alkaloid, Melpyrrole, and Flazin from
Honey and Their Cough-Suppressing Effect in Guinea Pigs
著者:谷 央子1、山家 雅之1、関谷 知樹2、礒濱 洋一郎2、越野 広雪3、野川 俊彦3、八巻 礼訓1、高橋 俊哉3
所属:1 株式会社山田養蜂場、2東京理科大学 薬学部、3理化学研究所 環境資源科学研究センター
掲載誌:Journal of Agricultural and Food Chemistry
掲載日:2023年9月8日
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