長期貯蔵でも沈降しない安定性の高い磁気粘弾性流体(MR流体)を共同開発
~ロボットなどの機械制御分野への応用展開に期待~
日本ペイントホールディングス株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役会長兼社長CEO:田中正明 以下NPHD)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(本部:神奈川県川崎市、理事長:石塚 博昭 以下NEDO)が進める有望な技術シーズを発掘するための先導研究プログラムに学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、総長:田中愛治、以下早大)と共同で参画しました。この度、NEDO、早大と共同で、長期貯蔵でも沈降しない高い安定性を持つ磁気粘弾性流体(MR流体)を開発しました。
MR流体は、鉄などの磁性粒子をオイルなどの分散媒体に分散させた流体で、外部から磁力をかけることで、様々な動きを制御することができ、車両のブレーキや制震機、ロボットのアクチュエーターなど機械制御技術への応用が期待されています。
従来のMR流体は、分散媒体中の磁性粒子が沈降しやすいため、長期間使用すると、装置が損傷したり、動作が不安定になったりするといった課題がありました。今回、当社が持つ分散方法や安定化技術という専門性を活用することで、磁性粒子の沈降を抑制するための側鎖を持つポリオキシレン脂肪酸アミド誘導体を分散媒体に適用しました。また、直径20~300nmのナノ粒子を分散媒体に添加することで、MR流体を半年間静置しても分離せず(図1)安定して、外部からの磁場に対して高い応力を発揮することに初めて成功しました。
今回の開発成果は、ロボットを始めとするさまざまな機械制御分野へ応用展開が期待されます。今後、NPHD、NEDO、早大は、このMR流体を使った、ロボット用柔軟アクチュエーターの共同開発を引き続き進めます。また、NPHDは、これまで塗料分野で培ってきた顔料などの微粒子の分散方法や安定化技術の知見を活かし、産業機械向けに最適化させた新たなMR流体の商品化に向けた開発を進め、さらなる応用分野の開拓を進めます。
そして、今後も研究開発を通じ、塗料を通じて社会課題を解決する取り組みを加速させ、多くの成果を顕現化させてまいります。
図1 開発したMR流体(左)と従来のMR流体(右)の沈降分離状態の比較(180日後)従来品では磁性粒子の分離が確認できるが、開発品では分散が維持されている
1.開発の背景
磁気粘弾性流体(MR流体)は、鉄などの磁性粒子をオイルなどの分散媒体に分散させた流体で、外部から磁場を加えることによって粘度が変化する特性を持ちます。車両のブレーキ、制震機などの制御に使うと、装置を簡素化できる、大きな減速比をとれる、逆可動性に優れるといった特長を持つほか、電気的な制御により俊敏な粘度制御が可能であるため、医療機器やハプティクス、VR(仮想現実)装置など、幅広い分野での利用が期待されています。
従来のMR流体は、磁性粒子が数十μmと比較的大きく、数カ月も長期貯蔵すると、磁性粒子が分散媒体中で沈降することにより、装置の損傷や動作が不安定になるといった課題がありました。一方で、沈降を抑制するため、数十nm~数百nmの比較的小さな磁性粒子を用いたMR流体も開発されていますが、磁性粒子が小さいために出力が小さくなるほか、微小な粒子そのものの材料コストが高く、一般的な産業に利用するには費用面で難しいのが現状です。
今回、NPHD、NEDO、早大は、「NEDO先導研究プログラム」において、長期貯蔵でも沈降しない高い安定性を持つMR流体を開発しました。
2.今回の成果
今回開発したMR流体は、大きな応力を発揮できる直径数μ~50μmの大きな磁性粒子を主成分として分散しつつ、磁性粒子の沈降を抑制するための側鎖を持つ
外部磁場に対応してMR流体が発生する応力は、分散させた磁性粒子の濃度に比例して大きくなるのが一般的です。しかし、磁性粒子の濃度を一定以上にすると、粒子の凝集が発生しやすくなり、流体の分散性は著しく低下します。また、反対に、滑らかな出力には、磁性粒子の濃度を低くする必要がありますが、濃度が低いと沈降しやすくなります。
今回開発したMR流体は、これらの課題を解決し、広い出力範囲をカバーしながら高い安定性を兼ね備えています。外部からの磁場(磁束密度)に対しては、従来品と同様に比例した応力を発揮しつつ、高い最大出力を発生できます。
【参考】
MR(magneto rheological)流体
<原理>
外部からの磁場の印加によって、磁性粒子の配列を制御し、流体の粘度を変化させることが可能。
MR流体に対して、外部からの磁場の制御により、剪断応力・流れ・圧縮力など、さまざまな運動制御が可能となるため、回転、制動、減速機、水・油圧アクチュエーター、免震ダンパーなどへの応用が検討されている。
以 上
MR流体は、鉄などの磁性粒子をオイルなどの分散媒体に分散させた流体で、外部から磁力をかけることで、様々な動きを制御することができ、車両のブレーキや制震機、ロボットのアクチュエーターなど機械制御技術への応用が期待されています。
従来のMR流体は、分散媒体中の磁性粒子が沈降しやすいため、長期間使用すると、装置が損傷したり、動作が不安定になったりするといった課題がありました。今回、当社が持つ分散方法や安定化技術という専門性を活用することで、磁性粒子の沈降を抑制するための側鎖を持つポリオキシレン脂肪酸アミド誘導体を分散媒体に適用しました。また、直径20~300nmのナノ粒子を分散媒体に添加することで、MR流体を半年間静置しても分離せず(図1)安定して、外部からの磁場に対して高い応力を発揮することに初めて成功しました。
今回の開発成果は、ロボットを始めとするさまざまな機械制御分野へ応用展開が期待されます。今後、NPHD、NEDO、早大は、このMR流体を使った、ロボット用柔軟アクチュエーターの共同開発を引き続き進めます。また、NPHDは、これまで塗料分野で培ってきた顔料などの微粒子の分散方法や安定化技術の知見を活かし、産業機械向けに最適化させた新たなMR流体の商品化に向けた開発を進め、さらなる応用分野の開拓を進めます。
そして、今後も研究開発を通じ、塗料を通じて社会課題を解決する取り組みを加速させ、多くの成果を顕現化させてまいります。
図1 開発したMR流体(左)と従来のMR流体(右)の沈降分離状態の比較(180日後)従来品では磁性粒子の分離が確認できるが、開発品では分散が維持されている
1.開発の背景
磁気粘弾性流体(MR流体)は、鉄などの磁性粒子をオイルなどの分散媒体に分散させた流体で、外部から磁場を加えることによって粘度が変化する特性を持ちます。車両のブレーキ、制震機などの制御に使うと、装置を簡素化できる、大きな減速比をとれる、逆可動性に優れるといった特長を持つほか、電気的な制御により俊敏な粘度制御が可能であるため、医療機器やハプティクス、VR(仮想現実)装置など、幅広い分野での利用が期待されています。
従来のMR流体は、磁性粒子が数十μmと比較的大きく、数カ月も長期貯蔵すると、磁性粒子が分散媒体中で沈降することにより、装置の損傷や動作が不安定になるといった課題がありました。一方で、沈降を抑制するため、数十nm~数百nmの比較的小さな磁性粒子を用いたMR流体も開発されていますが、磁性粒子が小さいために出力が小さくなるほか、微小な粒子そのものの材料コストが高く、一般的な産業に利用するには費用面で難しいのが現状です。
今回、NPHD、NEDO、早大は、「NEDO先導研究プログラム」において、長期貯蔵でも沈降しない高い安定性を持つMR流体を開発しました。
2.今回の成果
今回開発したMR流体は、大きな応力を発揮できる直径数μ~50μmの大きな磁性粒子を主成分として分散しつつ、磁性粒子の沈降を抑制するための側鎖を持つ
(図2)を分散媒体に適用するとともに、さらに磁性粒子よりも小さな(20~300nm)ナノ粒子を所定量添加、分散することを特徴としています(図3)。ポリオキシレン脂肪酸アミド誘導体と小さなナノ粒子により、大きな磁性粒子の沈降を抑制することが可能となりました。これにより、半年間の静置状態でも沈降せず、外部からの磁場に対して高い応力を発揮することに成功しました。
外部磁場に対応してMR流体が発生する応力は、分散させた磁性粒子の濃度に比例して大きくなるのが一般的です。しかし、磁性粒子の濃度を一定以上にすると、粒子の凝集が発生しやすくなり、流体の分散性は著しく低下します。また、反対に、滑らかな出力には、磁性粒子の濃度を低くする必要がありますが、濃度が低いと沈降しやすくなります。
今回開発したMR流体は、これらの課題を解決し、広い出力範囲をカバーしながら高い安定性を兼ね備えています。外部からの磁場(磁束密度)に対しては、従来品と同様に比例した応力を発揮しつつ、高い最大出力を発生できます。
【参考】
MR(magneto rheological)流体
<原理>
外部からの磁場の印加によって、磁性粒子の配列を制御し、流体の粘度を変化させることが可能。
<用途>
MR流体に対して、外部からの磁場の制御により、剪断応力・流れ・圧縮力など、さまざまな運動制御が可能となるため、回転、制動、減速機、水・油圧アクチュエーター、免震ダンパーなどへの応用が検討されている。
以 上
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