連続クリック反応でPROTACの効率的合成に成功 ~3種類の機能性分子の迅速な集積を実証、創薬研究の加速に期待~
【研究の要旨とポイント】
連続クリック反応を用いて、創薬分野で注目されるPROTAC(標的タンパク質分解誘導化合物)の効率的合成手法を開発しました。
保護基を必要とせず、3種類の機能性分子を迅速に集積できることを実証しました。
モジュール集積型の本手法により、PROTAC開発および創薬研究の加速が期待されます。
【研究の概要】
東京理科大学先進工学部生命システム工学科の吉田 優准教授、同大学大学院 谷長 優里氏(修士課程2年)、織本 雅久氏(2023年度修士課程修了)、山田 佳鳳氏(2024年度修士課程修了)、横浜市立大学大学院の宮本 真歩氏(修士課程2年)、国立医薬品食品衛生研究所の横尾 英知博士、出水 庸介博士の研究グループは、3種類の異なる反応部位をもつ三官能性プラットフォーム(*1)を創製し、この分子上で連続クリック反応を実施することで、PROTAC(標的タンパク質分解誘導化合物)を迅速かつ効率的に合成する手法を開発しました。
クリック反応は分子同士を迅速かつ特異的、そして効率的に結合して新しい化合物を形成するために使用される一連の化学反応です。複雑で多段階の合成を必要とせず、目的の化合物を簡便かつ高収率で得られることから、2022年にはクリックケミストリーの概念を打ち出したバリー・シャープレス氏ら3名がノーベル化学賞を受賞しました。
本研究では、連続的にクリック反応を進行させること(連続クリック反応)に成功し、この連続クリック反応を通じて、創薬分野で注目されるPROTAC(標的タンパク質分解誘導化合物)の効率的な合成を実現しました。具体的には、VHL E3ユビキチンリガーゼリガンドVH032を持つアルキンとのCuAAC反応(*2)を経て、EGFR(上皮成長因子受容体)リガンドとのSuFEx反応(*3)による連結により、EGFRの分解活性を持つPROTAC合成を成功させました。さらに、残ったアクリルアミド部位に対して、蛍光団を持つチオールを作用させるとMichael付加反応が進行し、3連続のクリック反応によって、3種類の機能性分子の集積を実証しました。
モジュール集積型PROTAC合成法を開発したことにより、リガンド部位、物性などを調整するユニット、プローブのための機能性部位などを容易に導入できるようになり、PROTAC探索や、本手法を活用した医薬品などの開発を加速することが期待されます。
本研究成果は、2025年11月28日に国際学術誌「Bulletin of the Chemical Society of Japan」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】
クリック反応は、多様な官能基と共存可能で効率的な化学反応として、創薬や材料化学などで広く活用されています。一方、PROTACは、標的となるタンパク質分解を誘導する次世代医薬品候補として注目されていますが、その合成は煩雑な工程が必要であり、新薬の開発・実用化に向けて、構造最適化が大きな障壁となっています。
本研究グループでは、以前にアジド基、アルキニル基、フッ化スルホニル基という3種類の置換基を有するプラットフォーム分子を創製し、この分子上での連続クリック反応により、部品となる分子を3工程で集積できる手法を開発していました。
今回、この手法をPROTAC合成に応用することで、複数の生物活性リガンドと第3の機能性分子を短工程で集積する新しい手法の開発を目指しました。
【研究結果の詳細】
本研究では、アジド基、フッ化スルホニル基、アクリルアミド基を有する三官能性プラットフォーム分子を用いて、3種類のクリック反応を連続的に行う新しいPROTAC合成手法の開発を目指しました。
まず、VHL E3ユビキチンリガーゼリガンドVH032をアルキン誘導体に変換し、プラットフォーム分子のアジド基とのCuAAC反応により、トリアゾール中間体を94%の収率で合成しました。
次に、この中間体のフッ化スルホニル基とEGFRリガンドのフェノール性ヒドロキシ基とのSuFEx反応により、PROTACを合成しました。特筆すべきは、これらの反応はVH032部分の複数の官能基や残ったアクリルアミド基を損なうことなく、選択的に進行し、保護基を必要としなかったことです。
残ったアクリルアミド基を利用して、蛍光色素を持つチオールとのMichael付加反応により、蛍光標識PROTACを合成することができました。
これにより、E3リガーゼリガンド、標的タンパク質リガンド、蛍光色素という、3種類の機能性分子をひとつの分子上に集積させることに成功しました。
研究を主導した吉田准教授は「複数の官能基を併せ持った分子の開発において、保護・脱保護や縮合反応などを利用した合成法では制約が大きな課題でした。私たちが精力的に研究してきた集積型クリックケミストリーが役立つと期待して本研究に着手しました。本技術を活用することにより、医薬品などの効率的な開発が可能になると期待しています」とコメントしています。
-
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(23K17920、23H04926)、旭硝子財団の助成を受けて実施したものです。
【用語】
*1 三官能性プラットフォーム
3種類の異なる反応部位を有する分子。それぞれの反応部位で異なるクリック反応を行える。
*2 CuAAC反応
銅触媒を用いたアジド―アルキンの付加環化反応。トリアゾール環を形成する代表的なクリック反応のひとつ。
*3 SuFEx反応
硫黄―フッ素交換反応。フッ化スルホニル基とフェノールなどが反応してスルホン酸エステルを形成する高選択的なクリック反応。
【論文情報】

|
雑誌名 |
:Bulletin of the Chemical Society of Japan |
|---|---|
|
論文タイトル |
:Rapid synthesis of PROTACs by consecutive click assembly |
|
著者 |
:Yuri Taninaga, Gaku Orimoto, Maho Miyamoto, Kaho Yamada, Hidetomo Yokoo, Yosuke Demizu, Suguru Yoshida |
|
DOI |
※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20251218_1175.html)をご参照ください。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像
