細胞移植による機能的なリンパ節の再生に世界ではじめて成功 ~添加物不要かつ簡便な細胞積層技術。二次性リンパ浮腫の根本治療実現に大きく前進~

東京理科大学

【研究の要旨とポイント】

細胞移植による機能的なリンパ節の形成に世界ではじめて成功しました。

添加物を用いずに遠心力を利用した細胞積層技術で、従来手法と比較して大幅に細胞の積層を簡便化しました。

がんの外科的手術等において、リンパ節郭清の結果として発症する二次性リンパ浮腫の根本治療実現に大きく近づく成果です。

【研究の概要】

東京理科大学 薬学部 生命創薬科学科の草森 浩輔准教授、尾花 柊氏(博⼠課程2年)、同大学 薬学部 薬学科の板倉 祥子助教、西川 元也教授らの研究グループは、細胞移植による機能的なリンパ節の再生に世界ではじめて成功しました。

本研究により、がんの外科的手術等において、リンパ節郭清の結果として発症する二次性リンパ浮腫の根本治療の実現に大きく近づきました。

がん治療におけるがんの転移予防を目的として、リンパ節郭清(*1)が広くおこなわれており、それにつれて郭清後に発症する二次性リンパ浮腫治療の必要性が高まっています。しかしながら、リンパ節は一度切除すると自然には再生しないため、現在の治療法には限界があり、根本的な治療法の開発が強く求められています。

本研究では、遠心力を利用した細胞積層技術によって作製された、リンパ管網を有する細胞構造体(Centrifuge-based bioengineered Lymphatic Tissue:CeLyT)が、リンパ浮腫モデルマウスにおける浮腫を効果的に治療できることを示しました。

マウス、またはヒトの細胞を用いて作製したCeLyTは、組織外側に間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cell:MSC、*2)、内側にリンパ管内皮細胞(lymphatic endothelial cell:LEC、*3)を含むリンパ管網を有する細胞構造体です。この手法は添加物を用いる必要がない上、従来手法よりも簡便に作製できます。

リンパ節を郭清することにより作製したリンパ浮腫モデルマウスにCeLyTを移植したところ、長期間にわたり生着し、リンパ流を回復させました。さらに、CeLyTはリンパ節と類似した機能を有する構造を形成し、移植後100日にわたりリンパ浮腫を抑制しました。


本研究成果は、2025年11月19日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

図. 本研究の概要。遠心力を利用した細胞積層技術によって作製したCeLyTはマウスに長期間生着し、リンパ節の形成を誘導した。

【研究の背景】

がん治療において、悪性細胞の転移を防ぐため、外科的にリンパ節を切除するリンパ節郭清(lymphadenectomy:LD)が広くおこなわれています。一方で、がんの発症率も増加しているため、リンパ節郭清の合併症である二次性リンパ浮腫の発症も増加しています。

リンパ節は一度切除すると自然には再生しないため、その機能が喪失することで二次性リンパ浮腫が発症します。これはリンパ節が喪失することでリンパ管の機能に障害が生じ、リンパ液の流れが滞り、間質液の貯留や四肢の蜂巣炎など再発性の合併症を引き起こすもので、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させます。

二次性リンパ浮腫に対する標準治療は圧迫療法ですが、これは一時的に浮腫の進行を抑制するにとどまり、持続的な改善効果は限定的です。その他の治療法も試みられていますが、いずれも根本的な解決には至っておらず、新たな治療戦略の開発が強く求められています。

【研究結果の詳細】

本研究では、リンパ節郭清後に自然再生ができないリンパ節機能の再構築を目指し、二次性リンパ浮腫の根本治療の実現を目標にしました。これを達成するため、免疫調整機能を持ち、長期間生着が可能な間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cell:MSC)と、生体内でリンパ管を形成可能なリンパ管内皮細胞(lymphatic endothelial cell:LEC)からなる細胞構造体の作製を目指しました。

三次元的な細胞構造体作製のための従来の細胞積層化技術において、機能性タンパク質による細胞のコーティングが必要でした。しかしながら、機能性タンパク質のコーティングは、作製プロセスが非常に複雑で、タンパク質の免疫原性が問題になることが報告されていました。

研究グループは、機能性タンパク質の添加や複雑な操作を伴わない方法として、遠心力を利用した技術の開発に成功しました。この技術は、最適化された遠心条件下において、細胞を均一かつ再現性よく積層可能であり、従来手法よりも簡便なことが特徴です。

この技術を用いて、MSC、LEC、MSCの順に積層させることで、CeLyT(Centrifuge-based bioengineered Lymphatic Tissue)が作製されました。また、細胞積層後に数日間培養することで、組織内部にリンパ管網の形成が確認されました。

リンパ節郭清を行ったマウス(LDマウス)のリンパ節郭清部位にCeLyTを移植したところ、組織は長期にわたり生着が確認され、リンパ流の回復が確認されました。また、CeLyT移植後、LDマウスに二次性リンパ浮腫の抑制が効果的にみられ、この抑制効果は移植後100日の長期にわたり持続しました。さらに、移植部位にはリンパ節が形成されていることが確認されました。

形成されたリンパ節は、移植されたCeLyTと宿主であるマウス由来の内皮細胞や免疫細胞から構成されていました。さらに、免疫刺激物質であるCpG1018を投与したところ、正常なリンパ節と同等の免疫反応を誘導することが示されました。加えて、生体リンパ節が有するろ過機能も再現が確認され、このリンパ節が切除されたリンパ節に類似した役割を持つ組織であることが裏付けられました。

本研究により、LECとMSCを遠心細胞積層技術により積層したCeLyTがリンパ節を再構築し、二次性リンパ浮腫に対する有効な治療法として有望であることが示されました。患者のQOL向上への寄与が期待されます。また、一度切除されたリンパ節を、細胞移植により再生できたことは、世界ではじめての成果です。

  • 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業 基盤研究(B)(23H03749)、AMED研究費(A409TS)、JST SPRING(JPMJSP2151)、野口遵研究助成金、JSPS特別研究員奨励費(25KJ2110)の助成を受けて実施したものです。

【用語】

*1  リンパ節郭清

がん治療の外科的手術をおこなう際、がんそのものだけでなく周囲のリンパ節を切除すること。がんはリンパ節を通じて全身に転移するため、その可能性を排除するための処置。

*2  間葉系間質細胞 MSC

間葉系間質細胞(MSC:mesenchymal stromal cells)のこと。細胞医薬としても応用されており、多様な細胞に分化する幹細胞様の機能や特性を有する。

*3 リンパ管内皮細胞 LEC

リンパ管の壁を構成する内面にある単層の細胞。リンパ液の循環や輸送、免疫細胞の移動に重要な役割を持つ。

【論文情報】

雑誌名

:Nature Communications

論文タイトル

:Reconstruction of the lymphatic system by transplantation of a 

 centrifuge-based bioengineered lymphatic tissue

著者

:Shu Obana, Shoko Itakura, Mutsunori Murahashi, Makiya Nishikawa,              Kosuke Kusamori

DOI

10.1038/s41467-025-65121-3

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未上場
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1881年06月