「管理組合収支」が老朽化マンションの未来を分ける 建設工事費高騰時代の資産価値と管理
【調査概要】
調査期間:2024年1月~2025年12月
調査機関:マンションリサーチ株式会社
調査対象:全国の中古マンション
サンプル事例数:526,545事例
調査方法:公開されている中古マンションの売出情報を収集し、統計処理を施して集計しました。
建設工事費の高騰がマンション市場に与える影響
現在、マンション市場を取り巻く環境は大きく変化しています。特に大きな問題となっているのが、建設工事費の高騰です。資材価格の上昇、人件費の高騰、職人不足、物流コストの上昇など、複数の要因によってマンションを新たに建設するためのコストは上昇しています。
建設工事費が上昇すれば、当然ながら新築マンションの販売価格にも影響します。事業者にとっては、土地を取得し、建物を建設し、販売するという一連の事業において、建築費が大きく上昇すれば、これまでと同じ価格でマンションを供給することは難しくなります。
その結果として、販売価格を引き上げるか、事業用地の取得価格を抑えるか、あるいは新築マンションの供給そのものを減らすという判断が必要になります。特に、土地価格が高い都市部では、建設工事費の上昇を販売価格にすべて転嫁することが難しいケースもあります。購入者の所得や住宅ローンの借入可能額には限界があるためです。
つまり、建設工事費の高騰は単に「新築マンションの価格が上昇する」という問題にとどまりません。新築マンションの供給戸数そのものを減少させる要因にもなります。
新築供給の減少はマンションの高齢化を加速させる
一方で、新築マンションの供給が減少するということは、住宅ストック全体に占める既存マンションの割合が高まることを意味します。
現在の日本では、すでに多くの分譲マンションが建設されています。今後、新築マンションの供給が減少する一方で、既存のマンションは時間の経過とともに築年数を重ねていきます。つまり、マンションストック全体が構造的に高齢化していくことになります。
以下のグラフは、各年度における築40年以上の分譲マンションの推定棟数の推移を表したものです。

推計では、2050年には約70%の分譲マンションが築40年以上になるとされています。
これは非常に大きな意味を持ちます。現在、築40年というと「築古マンション」という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし、将来においては築40年以上のマンションが決して特殊な存在ではなくなります。むしろ、マンション市場の中心を構成する重要なストックになっていく可能性があります。
つまり、今後のマンション市場では「新築マンションが次々に供給され、古いマンションが市場から退出していく」という構造ではなく、「既存のマンションを長期間使い続ける」という考え方がより重要になります。
老朽化するマンションが増えるからこそ「管理」が重要になる
このような環境を考えると、今後のマンション市場において「管理」という概念をこれまで以上に意識する必要があります。
マンションは、建物が完成した時点で価値が確定するものではありません。外壁や屋上防水、給排水管、エレベーター、電気設備など、さまざまな設備や共用部分を長期間にわたって維持・更新していく必要があります。
建物は時間の経過とともに劣化します。しかし、適切な修繕を行えば、その劣化の進行を抑え、住みやすさや安全性を維持することができます。逆に、必要な修繕を先送りすれば、劣化が進行し、将来的により大規模な修繕が必要になる可能性があります。
特に重要なのは、マンションの管理は単なる清掃や設備の点検だけではないという点です。長期的な修繕計画を策定し、必要な資金を積み立て、適切な時期に修繕を実施するという、長期的な経営に近い側面があります。
マンションの所有者は、それぞれが個別に建物を所有しているように見えます。しかし、共用部分については区分所有者全員で維持していかなければなりません。そのため、マンション全体の将来を見据えた管理組合の運営が非常に重要になります。
マンション管理は住みやすさだけでなく資産性にも影響する
また、マンション管理の重要性は、住みやすさの維持だけにとどまりません。資産性を維持するうえでも重要な役割を果たします。
マンションの資産価値は、そのマンション単体で決まるものではありません。周辺のマンションや同じエリアの物件と比較されたうえで、購入者からどの程度魅力的に評価されるかによって決まります。
例えば、同じ駅から徒歩10分、同じ築年数、同じような専有面積のマンションがあったとします。一方のマンションは、修繕計画が明確で、必要な修繕が適切に実施され、管理組合の財務も安定している。一方、もう一方のマンションは修繕が先送りされ、将来的な工事費の見通しも不透明である。
この2つのマンションが同じ価格で売りに出された場合、購入者はどちらを選ぶでしょうか。
当然、建物の状態や管理状況が良好なマンションの方が選ばれやすくなります。つまり、適切な管理は、マンションの魅力を相対的に維持するための重要な要素になります。
マンション適正評価から見える「管理組合収支」と「建築・設備」の関係
では、実際にマンションの管理状態と資産性にはどのような関係があるのでしょうか。
マンション管理業協会が公開しているマンション管理適正評価を分析すると、興味深い傾向が確認できました。
マンション管理適正評価では、マンションの管理状態を5つのカテゴリーに分類し、ソフト面とハード面の両面から評価します。ソフト面には管理組合の運営や財務などが含まれ、ハード面には建物や設備の維持管理状況などが含まれます。
この5つのカテゴリーの中で、特に「管理組合収支」と「建築・設備」の2つのカテゴリーに強い相関性(相関係数0.67)が見られました。

「管理組合収支」は、組合運営のための安定的な財務基盤を評価する項目です。一方、「建築・設備」は、マンションを長く使い続けるための建物や設備の維持管理体制を評価する項目です。
つまり、管理組合の財務が安定しているマンションほど、建物や設備の維持管理もしっかり行われている傾向があるということです。
修繕費高騰時代には管理組合の財務力がより重要になる
この関係性は、今後のマンション市場においてさらに重要になると考えられます。
現在は建設工事費が高騰しています。新築マンションを建設するためのコストが上昇しているということは、既存マンションの大規模修繕や設備更新に必要な費用も上昇する可能性があります。
例えば、同じ工事内容であっても、過去と現在では必要な費用が大きく異なる可能性があります。人件費や資材価格が上昇すれば、修繕積立金の現在の水準では、将来的な工事費を十分に賄えないケースも考えられます。
そのため、単に「現在、修繕積立金が積み立てられている」というだけでは十分ではありません。今後必要となる修繕工事の費用を見据えたうえで、積立金の水準が適切であるかを検証する必要があります。
管理組合収支が安定しているということは、単に現在の財務状況が良いということではありません。将来の修繕工事費の高騰を見据え、必要な資金を確保できる体制が整っている可能性が高いということです。
管理状態の良いマンションほど価格が上昇しやすい
さらに、マンション適正評価の総合評価である5つ星評価をもとに、星の数ごとの資産性を分析しました。なお、星5評価が最高評価となります。(2025年対2024年比)

今回の分析では、「価格が上がったマンション割合」と「平均価格上昇率」に注目しました。
「価格が上がったマンション割合」とは、それぞれの星評価を受けているマンションのうち、どの程度の割合のマンションで価格が上昇しているかを示したものです。
一方、「平均価格上昇率」は、価格が上昇したマンションについて、どの程度価格が上昇しているのかを示しています。

分析結果をグラフにすると、星の数が多くなるほど、「価格が上がったマンション割合」と「平均価格上昇率」のいずれも高くなる傾向が確認できました。
もちろん、マンション価格は立地や築年数、専有面積、駅距離、市場全体の価格動向など、さまざまな要因によって決まります。そのため、管理状態だけが価格上昇の要因であると断定することはできません。
しかし、管理状態の良いマンションほど、資産価値が維持され、価格が上昇しやすい傾向があるということは重要な示唆です。
※本分析では、2025年および2024年に実際に成約した中古マンションの価格データを基に、マンションごとの価格変動率を算出し、該当物件に付与されている「マンション管理適正評価制度」の評価点と突合する形で集計を行いました。同一物件同士の事例を比較する事で、年度ごとに集計される事例のエリアや築年数によるばらつきを無くし、適切に結果を反映する事を可能とします。
これからのマンション選びは「管理」を見る時代へ
これまでマンションを購入する際には、駅距離、立地、築年数、間取り、眺望、ブランドなどが重視されてきました。もちろん、これらの要素は今後も重要です。
しかし、今後はそれらに加えて「どのように管理されているマンションなのか」という視点が、これまで以上に重要になります。
特に、築年数が経過したマンションが増加する中では、築年数だけでマンションを評価することは難しくなります。同じ築40年のマンションであっても、適切な修繕が行われてきたマンションと、必要な修繕が先送りされてきたマンションでは、建物の状態や将来的な負担は大きく異なるからです。
今後のマンション市場では、「築年数が古いから価値が低い」という単純な評価ではなく、「古くても適切に管理されているか」という視点がより重要になります。
老朽化時代におけるマンション管理の本当の価値
建設工事費が高騰し、新築マンションの供給が減少する一方で、既存マンションの老朽化は進んでいきます。
このような時代において、マンション管理は単なる維持費ではありません。建物を長く使い続けるための投資であり、住みやすさを維持するための仕組みであり、将来の資産価値を守るための重要な要素です。
特に、今後は修繕工事費の高騰が予想されるため、管理組合の財務基盤が安定しているかどうかが、マンションの将来を大きく左右する可能性があります。
これからのマンション市場では、「新しいマンションだから価値がある」という考え方だけではなく、「長い年月を経ても、適切に管理され、必要な修繕が行われているマンションだから価値がある」という評価が重要になっていくでしょう。
マンションの資産価値は、建物が完成した瞬間に決まるものではありません。日々の管理、修繕計画、管理組合の財務運営、そして区分所有者の意識によって、時間をかけて維持されていくものです。
築40年以上のマンションが市場の大半を占める時代が到来するのであれば、これからのマンション選びにおいて最も重要な問いの一つは、「このマンションは、これまでどのように管理され、これからどのように管理されていくのか」ということになるのではないでしょうか。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表研究員
福嶋総研代表研究員。早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。
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【マンションリサーチ株式会社について】
マンションリサーチ株式会社では、 不動産売却一括査定サイトを運営しており、 2011年創業以来「日本全国の中古マンションをほぼ網羅した14万棟のマンションデータ」「約3億件の不動産売出事例データ」及び「不動産売却を志向するユーザー属性の分析データ」の収集してまいりました。 当社ではこれらのデータを基に集客支援・業務効率化支援及び不動産関連データ販売等を行っております。
会社名: マンションリサーチ株式会社
代表取締役社長: 山田力
所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階
設立年月日: 2011年4月
資本金 : 1億円
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