ミント由来成分とトウガラシ由来成分の併用で抗炎症効果が数百倍に増強 ~身近な食品成分の組み合わせを活用した生活習慣病予防に期待~
【研究の要旨とポイント】
ミントとトウガラシという身近な植物に由来する成分を組み合わせることで、炎症を抑える効果が単独時と比べて約700倍に増強されました。
これらの成分はそれぞれ異なる仕組みで体に作用していることから、両成分を併用することで互いが補完し合い、極めて強力な相乗効果が生じることが示唆されました。
植物由来成分の相乗作用を活用することで、少量でも高い効果を発揮する機能性食品やサプリメントの開発につながり、生活習慣病の予防や健康寿命の延伸、医療費抑制に貢献することが期待されます。
【研究の概要】
東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科の有村 源一郎教授らの研究グループは、身近な植物由来成分を組み合わせることで、炎症を抑える効果が飛躍的に高まることを実験的に示すとともに、その作用機序を明らかににしました。本研究成果は、慢性的な炎症を基盤とする生活習慣病の予防や進行抑制を、日常の食生活から支援できる可能性を示すものです。
本研究では、マウスの細胞を用いて、ミント由来のメントール、ユーカリ精油由来の1,8-シネオールといった香気成分と、トウガラシ由来の辛味成分であるカプサイシンの組み合わせが抗炎症効果に与える影響を評価しました。
その結果、炎症を引き起こす遺伝子の発現抑制効果が、メントールとカプサイシンの併用時は単独使用時と比較して約700倍に増強されることを確認しました。1,8-シネオールとカプサイシンの併用時は単独使用時の約150倍の効果増強が見られました。このような複数の植物由来成分の組み合わせによる抗炎症効果の大幅な増強はこれまでほとんど報告されていない現象です。
さらに本研究では、この増強効果が偶発的なものではなく、異なる細胞内シグナル経路(*1)が同時に働くことによって生じる新しい作用様式に基づくものであることが示されました。これにより、経験的に知られてきた特定の食品成分の組み合わせによる相乗的な効果に対して、明確な分子レベルでの根拠を与えることができました。
本研究成果は、2026年1月23日に国際学術誌「Nutrients」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
近年、植物由来の天然化合物(フィトケミカル)が持つ抗炎症作用が注目されており、特に複数の成分を組み合わせることで相乗的な効果が得られる例が報告されています。例えば、シリビニンとジベンゾイルメタンの組み合わせや、チコリ酸とルテオリンの組み合わせ(*2)などで、相乗的な抗炎症効果が確認されています。
しかし、これまでに報告されている相乗効果は数倍程度にとどまっていました。また、どのような組み合わせにすればより強い効果を生むのか、その分子メカニズムについてもよくわかっていませんでした。
有村教授はこれまで、植物が作り出す多様な生理活性物質が、植物自身でなく、動物や人の体にもさまざまな作用を及ぼす点に強い関心を持って研究を続けてきました。有村教授は、「植物の香りや辛味といった成分は⾝近な存在である一方、その生理機能の多くはまだ⼗分に解明されていません。特に、漢方薬やエスニック料理などにおいて香辛料やハーブが古くから組み合わせて使われてきたことに着目し、経験に基づいた合理性があるのではないかと考えたことが本研究の出発点となりました」と、本研究の動機についてコメントしています。
【研究結果の詳細】
研究グループはまず、ミントに含まれるメントール、ユーカリ精油の主成分である1,8-シネオール、キク科の生薬の1種であるソウジュツ由来のβ-オイデスモール、トウガラシ由来のカプサイシンという4種類の植物由来成分を用意しました。それらをマウス由来の免疫細胞にそれぞれ単独で投与し、炎症反応を誘導した後、炎症の原因となる炎症性サイトカインTNF-α遺伝子(Tnf)(*3)の発現を測定しました。すべての成分がその発現を抑制しましたが、特にカプサイシンで高い効果が示され、他の成分と比較して100倍以上低い濃度でも効果が現れました。
次に、カプサイシンをベースに他の成分を併用投与し、同様の測定をしたところ、驚くべき相乗効果が得られました。炎症性サイトカイン遺伝子の発現は、メントールとカプサイシンの併用では699倍、1,8-シネオールとカプサイシンの併用では154倍もの増強が確認されました。β-オイデスモールとの併用でも4.9倍の効果増強がありました。別の炎症性サイトカイン遺伝子であるインターロイキン-6(Il6)においても、メントールでは28.3倍、1,8-シネオールでは5.9倍の相乗効果が確認されました。
遺伝子発現量だけでなく、実際の炎症性サイトカインの発現量の計測結果においても、同様の相乗効果が確認されました。
さらに、この相乗効果のメカニズムを調べたところ、各成分は異なる経路で作用することが分かりました。メントール、1,8-シネオール、β-オイデスモールは、細胞膜上のTRPチャネル(*4)と呼ばれるセンサーを活性化し、細胞内にカルシウムを流入させる経路で働きます。一方、カプサイシンはTRPチャネルを介さず、PKM2-LDHAなど細胞内の別の分子を直接標的とする経路で作用していました。つまり、異なる作用経路を持つ成分を組み合わせることで、互いが補完し合い、極めて強力な相乗的抗炎症効果が生じることが示唆されたのです。
本研究成果は、慢性的な炎症を基盤とする生活習慣病の予防や進行抑制を、日常の食生活から支援できる可能性を示しています。本研究で見出された植物由来成分の相乗作用を応用することで、少量でも高い機能性を発揮する食品、サプリメント、調味料、香辛料などの開発が期待されます。これは過剰摂取の回避やコスト低減にもつながり、誰もが日常的に取り入れやすい健康維持法の実現に貢献します。また、天然由来成分を活用する安全性や持続可能性の高いヘルスケア技術として、健康寿命の延伸や医療費抑制への貢献が期待されます。
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本研究は、JSPS科研費(24K01723)および東京理科大学研究費の助成を受けて実施したものです。
【用語】
*1 シグナル経路
細胞が外部からの刺激を感知して、細胞内に信号を伝えることで増殖や分化などの応答を誘導する化学プロセスの経路。
*2 シリビニンとジベンゾイルメタン、チコリ酸、ルテオリン
シリビニンはマリアアザミ、ジベンゾイルメタンは甘草、チコリ酸はチコリ、ルテオリンは野菜・果物に含まれる植物由来成分。
*3 炎症性サイトカイン
炎症反応を引き起こすタンパク質。代表的な炎症性サイトカインはTNF-αやインターロイキン-6など。
*4 TRPチャネル
温度や刺激性化合物を感知する感覚センサー型イオンチャネル。2021年にデイヴィッド・ジュリアス博士が「温度と触覚の受容体の発見」としてノーベル生理学・医学賞受賞。
【論文情報】

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雑誌名 |
:Nutrients |
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論文タイトル |
:Functional phytochemicals cooperatively suppress inflammation in RAW264.7 |
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著者 |
:Kaori Terashita, Masato Kohakura, Katsura Sugawara, Shinichi Miyagawa, Gen-ichiro Arimura |
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DOI |
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