分娩後異常出血の新分類「PRACE」

―CT検査による重症度の層別化で母体救命率向上へ―

国立大学法人熊本大学

(ポイント)

  • 全国43施設による多施設共同研究において、重症の分娩後異常出血に対してダイナミックCTを行 

    った患者の約3割に「PRACE」と呼ばれる特徴的な所見が認められました。

  • PRACEを認めた症例は、子宮動脈塞栓術を必要とするリスクが顕著に高いことが明らかになりました。

  • 本成果により、重症の分娩後異常出血症例においてCT画像所見に基づいた迅速な治療判断が可能となり、母体の救命率向上が期待されます。

(概要説明)

熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学の近藤英治教授らの研究グループは、日本全国の周産期医療施設と連携し、重症の分娩後異常出血症例を対象とした大規模な後ろ向き共同研究を実施しました。その結果、ダイナミックCT画像の早期相において子宮内腔への造影剤漏出を認める「PRACE(postpartum hemorrhage, resistance to treatment, and arterial contrast extravasation)」という特徴的な所見が、子宮動脈塞栓術などの介入的治療を必要とするリスクと強く関連していることが明らかになりました。

従来、分娩後出血の重症度は主に出血量に基づいて判断されてきましたが、本研究は、画像診断により通常の処置では止血が難しい可能性のある症例を早期に鑑別できる可能性を示しています。今後、この所見を活用した診断アルゴリズムの導入により、母体死亡のさらなる減少につながることが期待されます。

本研究成果は、2025年(令和7年)5月23日米国東部時間10時に、国際科学雑誌「JAMA Network Open」に掲載される予定です。

 なお、本研究は、日本産科婦人科学会周産期委員会の支援を受けて実施されました。

(説明)

[背景]

出産後の大量出血は、母体の生命に関わる危険な状態を引き起こします。救命のためには、出血の原因を迅速かつ正確に特定し、早期に適切な治療を行うことが重要です。これまで重症度は主に出血量に基づき判断されてきましたが、通常の治療で止血が難しいタイプの出血があり、その早期識別法は確立されていませんでした。

[研究の内容]

熊本大学の近藤英治教授を中心とする研究グループは、日本全国43の高度医療機関と連携し、2021年に発生した重症の分娩後異常出血352例について調査を行いました。造影剤を急速に血管投与し、複数回撮影することで血管や血流の状態変化をより鮮明に捉えることができる「ダイナミックCT」検査を行うと、撮影の早期相において子宮内腔への造影剤の漏出を認めることがあります。これは、子宮から動脈性の出血が生じていることを示しており、子宮収縮薬などの従来の治療では止血が難しいタイプの出血と考えられます。この分娩後異常出血の新しい所見を、近藤英治教授らはPRACE(postpartum hemorrhage, resistance to treatment, and arterial contrast extravasation)として提唱しました。本研究では、PRACEの頻度とその臨床的意義、また子宮動脈塞栓術などの治療介入との関連性を検証しました。

[成果]

調査対象の352例のうち、205例にCT検査が実施され、そのうち約3割(32.2%)にPRACEの所見が確認されました。PRACEの症例では、出血量が有意に多く、血液を固める成分であるフィブリノゲンの減少も見られました。また、輸血量が多く、子宮動脈塞栓術が行われた割合は86.2%に達し、PRACE陰性群における実施率(28.6%)と比較して大きな差が認められました。さらにPRACEの所見がある場合、子宮動脈塞栓術を要するリスクが顕著に高いことが示されました(オッズ比 27.7)。

[展開]

 本研究は、出産後の大量出血に対する管理において、CT画像診断を活用することで出血の重症度を早期に見極め、迅速な治療選択を行うことの重要性を示しました。今後は、PRACEの識別を組み込んだ治療アルゴリムの開発とその普及が求められます。これにより、全国の医療機関において出産後の大量出血に対する重症度の層別化が進み、迅速かつ適切な治療が選択されることで、母体の救命率のさらなる向上が期待されます。

(論文情報)

論文名:Dynamic CT Findings as Indicators of Uterine Artery Embolization in Postpartum Hemorrhage

著者:Munekage Yamaguchi, Eiji Kondoh et al.

掲載誌:JAMA Network Open

doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.12209

URL: https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2834367

【お問い合わせ先】

熊本大学大学院生命科学研究部 産科婦人科学

担当:山口宗影(特任准教授)

電話:096-373-5269

 e-mail:munekage@hotmail.co.jp

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業種
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本社所在地
熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1
電話番号
096-344-2111
代表者名
小川 久雄
上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月