転職サービス「doda」、「賃上げ」に関する調査実施 4割弱の個人が、希望する賃上げが叶わない際は転職検討個人賃上げ率の実態と希望に、最大10倍のポイント乖離
~ 「成長実感の未充足」や「キャリアアップが見込めない焦燥感」の表れ ~
【調査結果サマリー】 ◆大企業で76.1%、中・小企業の64.1%が賃上げを実施(予定含む) 業種別ではトップが「メーカー」(80.6%)、次いで「金融」(75.2%)「IT・通信」(74.1%) ◆企業が賃上げのため実施した対策で最も多かったのは「人事制度改定」(38.9%) ◆ “実績”上昇率で、最も多かったのは「2.1%~5%」(21.8%) “希望”上昇率の最多は“実績”と同じものの、回答割合は33.0%と“実績”を10ポイント強上回る 次点の“希望”上昇率は「5.1%~10%」(31.6%)で、“実績”とは10倍のポイント乖離 ◆個人の4割弱(36.0%)が、希望する賃上げが叶わない場合は転職を検討 |
<調査背景>
賃上げに関連する企業発表や報道は、特に2022年年末以降に相次ぎ、30年以上にわたって賃金が伸び悩んできた状況が転機を迎えていると言われるほど、大きな潮流を生んでいます。
同時に、前国会(2023年6月21日閉会)で閣議決定された、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と成長戦略を取りまとめた「新しい資本主義」でも、賃上げはその狙いに大きく据えられ、政府・企業双方において重要トピックとなっています。
もちろんビジネスパーソンにとっても、就労の継続や退職、また転職において、賃金に関する要素は比重の高い関心事です。
そこで今回は、賃上げの実態や目的などに着目し、企業人事担当者(以下、「企業」)とビジネスパーソン(以下、「個人」)へ調査を実施しました。結果から、賃上げが転職市場にどのように影響を及ぼしているのか、「個人」はこの潮流をどのように捉えると良いかなど、dodaキャリアアドバイザー*1による解説やdoda編集長の総括コメントを通じて紐解きます。
※1 dodaキャリアアドバイザー:業界、職種、エリア別の動向などに精通し、キャリアカウンセリングを経て求人のご紹介から転職先決定までトータルにサポートする専任担当。
<調査結果>
■「賃上げ」の最新実態と目的
大企業で76.1%、中・小企業でも64.1%が賃上げを実施
業種別ではトップが「メーカー」(80.6%)、次いで「金融」(75.2%)「IT・通信」(74.1%)
企業へ2022年年末以降での賃上げ実施状況を尋ねたところ、全体で67.8%が実施(予定含む)と回答しました。従業員数でみる企業規模ごとの内訳は、1,000名以上の大企業*2で76.1%、10~999名の中・小企業*2でも、64.1%が賃上げを実施または予定していることが分かりました。この結果から、賃上げの機運は決して大企業のみでなく、中・小企業にまで広がっていることがうかがえます(【図1】参照)。
業種ごとに確認すると、賃上げに踏み切った企業が多かったのは「メーカー」(80.6%)で、次いで「金融」(75.2%)「IT・通信」(74.1%)という結果になりました(【図2】参照)。
<dodaキャリアアドバイザーの解説>
図2の上位業種では、新型コロナウイルス感染症の影響を受け自粛傾向にあった採用活動の再始動、2025年の崖(2025年問題)によるDX人材のニーズ増加、90年前後の好景気に大規模採用したバブル期世代の定年退職に伴う人手不足を見越した採用ニーズの高まり等がみられます。人材獲得が激化する中、企業では、従業員満足度の向上や定着率向上の施策が重要になっており、各社で残業時間削減・リモートワークの推進などの働き方改革、待遇改善などの施策に取り組み始めています。リモートワークが難しい職種を抱える業種でも、長期休暇の奨励や男性育休取得の推進など、働き方の柔軟化を補完する堅実な待遇改善に取り組む企業も増えています。
このように、従業員満足度の向上や定着率向上の動きが高まったことが、賃上げ実施割合を押し上げた要因の一つと考えられます。(参照:doda編集長、dodaキャリアアドバイザーによる動向解説「転職市場予測2023下半期」*3)
実施目的は、人材への投資要素が回答上位を占める
賃上げの目的を複数回答で尋ねたところ、1位の「物価上昇への対応」(55.5%)以降、「社員エンゲージメント向上」(38.3%)「定着率向上」(34.9%)と続き、こちらでも、各社“人への投資”に力を入れている様子が見受けられます。なお、4位以下は、「労働組合や社員からの要求」(27.6%)「新規人材獲得」(24.7%)「政府による要求」(10.2%)「その他」(3.6%)の並びになりました(賃上げの目的、複数回答、n=339)。
※2 従業員数でみる企業規模の定義:大企業 1,000人以上、中企業 100~999人、小企業 10~99人(出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)
※3 転職市場予測2023下半期:転職市場の動向や、求人が増える業界・職種など、doda編集長と16人のキャリアアドバイザーが解説するdodaオリジナル記事。詳細はこちら<https://doda.jp/guide/market/>
※全業種分類:IT・通信、メディア、金融、メディカル、メーカー、商社、小売・流通、レジャー・外食、エネルギー、建設・不動産、コンサルティング、人材サービス、その他
■個人の受け止め方と「賃上げ」の仕組み
個人の一部は、原資を取り合うことへの懸念からネガティブな所感を持つ
賃上げのため企業が実施した対策で最も多かったのは「人事制度改定」(38.9%)
個人に対して、賃上げの発表が相次ぐ状況をどのように受け止めているか尋ねたところ、大多数が「好ましい」(65.6%)「どちらかというと好ましい」(27.4%)と回答しましたが、割合は小さいものの「どちらかというと好ましくない」(4.2%)「好ましくない」(2.8%)の回答も確認できました。
回答理由を確認すると、「成果を上げていない人まで賃上げ対象になることへの疑問」「企業成長が伴っていない状態での賃上げに現実味を感じていない」などがみられ、賃上げの原資を取り合うことや原資確保の不確実性に不安を感じている様子がみてとれました。
実際に今回賃上げを決定した企業はどのような工夫を施し賃上げを実施したのかを確認すると、最も多く回答が集まった対策は「人事制度の改定」(38.9%)となりました。賃上げ目的で大きなボリュームを占める“人材への投資傾向(定着率向上、新規獲得)”を裏付けるように、ジョブ型雇用への移行を含め、必要な人材の確保へ重きを置いている傾向がうかがえます(【図3】参照)。
■個人の賃上げ実績と希望、転職意向への影響
“実績”上昇率で、最も多かったのは「2.1%~5%」(21.8%)
“希望”上昇率の最多は“実績”と同じものの、回答割合は33.0%と“実績”を10ポイント強上回る
次点“希望”上昇率は「5.1%~10%」(31.6%)で、“実績”とは10倍のポイント乖離
個人の4割弱(36.0%)が、希望する賃上げが叶わない場合は転職を検討
個人に対し賃上げの実績と希望する上昇率を調査したところ、実績で最も割合が多かった上昇率は「2.1%~5%」(21.8%)で、「基本給・時給単価」で給与に反映されていることが分かりました【図4】参照)。
次に、どのくらいの上昇率を希望するかを尋ねると、上がり幅は実績と同じ「2.1%~5%」でしたが、回答割合は実績を10ポイント強上回る33.0%になりました。次に希望する割合が高かった上昇率は「5.1%~10%」で、回答割合は31.6%に上っています。「5.1%~10%」の上昇が叶った実績割合は3.6%にとどまっており、希望回答と比較すると10倍以上の乖離がみられました(【図5】参照)。同時に進む物価高騰が「5.1%~10%」という賃上げ希望につながっていると推測できます。実際に賃上げを好ましくないと回答した理由からも、”軽微な上昇では連動して上がる所得税の影響で逆に可処分所得が下がるのでは“と懸念する様子がみられました。
併せて、希望する賃上げが叶わない場合、転職を検討するかと尋ねたところ、検討すると答えた割合は4割弱(36.0%)に上りました(【図6】参照)。
<dodaキャリアアドバイザー 解説>
個人が就労の継続もしくは退職(転職)を検討するとき、昇給やキャリアアップの可能性は、判断軸として重要な要素です。図6の調査で、希望する賃上げが見込めないのであれば転職を検討するという回答が計36.0%を占めた結果は、実質賃金としての満足度が得難いという側面の他にも、賃金が(十分に)上がらないことによる「成長実感の未充足」や「キャリアアップが見込めない焦燥感」も内在していると考えられます。前述の状況においては、転職を通じて新しい環境や業務経験の拡充を求めるケースが多くみられ、図6の調査結果でも、同様の要因が一因として考えられるでしょう。
■転職サービス「doda」編集長総括
今回、「賃上げ」をテーマに企業とビジネスパーソンに向け調査を行いました。
結果からは、人材への重視度や投資傾向の高まりが随所にみてとれました。さらに、最新(2023年7月20日時点)の「doda転職求人倍率*4」は2.26倍という高い数値を示し(【図7】参照)、「転職市場予測2023下半期*3」でも、下半期転職市場は総じて「求人」が増加し活況の見込みを発表しています。転職希望者には追い風が吹いているといえます。
この追い風に乗って良い転職を実現するには、まずは「社会を知り、自分を知る」ことを意識することが重要です。「自分を知ること」で自分の強みや就きたい仕事は何かを理解し、志望業界や企業のニーズを知る(社会を知る)ことで、現在の市場価値や、さらに市場価値を高めるために何が必要かを知ることができます。個人が自分の「キャリア」に対して主体性を持って取り組む意識と行動を指す「キャリアオーナーシップ*5」を育む要になる考え方です。
今回取り上げた賃上げという潮流は、転職市場全体や志望する業界研究、また企業の人材への姿勢を映す一つの切り口として捉えられるのではないでしょうか。
社会ニーズを理解し自分の市場価値に取り入れていく一歩を見据えた転職活動が、一時的ではない中長期的な賃上げに(生涯年収アップ)つながるポイントになるでしょう。
転職活動について悩みや不安をお持ちの際は、dodaキャリアアドバイザーにご相談ください。
※4 doda転職求人倍率:dodaの会員登録者(転職希望者)1人に対して、中途採用の求人が何件あるかを算出した数値。中途採用市場における需給バランスを表すもの。最新doda転職求人倍率はこちら<https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/?version=pc>
※5 キャリアオーナーシップ:個人一人ひとりが『自らのキャリアはどうありたいか、如何に自己実現したいか』を意識し、納得のいくキャリアを築くための行動をとっていくこと(引用:経済産業省、「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」報告書)
■解説者プロフィール doda編集長 加々美 祐介(かがみ ゆうすけ)
2005年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。人材紹介事業、転職メディア事業で法人営業、およびマネジメントを担い、一貫して企業の採用支援、個人の転職支援に従事。
2013年にはカルチャー変革の仕組みづくりと推進をミッションとした新規部署を立ち上げ、企業変革を成功に導くためのチェンジマネジメントを主導。2014年には人事部門も管掌し、人事制度企画や採用、異動・配置転換、組織・人材開発など、ビジョンの実現と経営戦略の実行に向けた、戦略人事全般を担う。2019年、新しいマッチングサービスを開発する新規事業開発部門を立ち上げ、本部長に。ダイレクトリクルーティング全般、そしてハイクラス転職サービス「iX」(現「doda X」)の事業・プロダクト開発を牽引。2021年には執行役員に。2023年4月、doda編集長、プロダクト&マーケティング事業本部 事業本部長に就任。
■調査概要:「賃上げ」に関する調査
<個人向け調査>
対象者:全国に住む、転職を検討しているまたは興味がある20~60歳代男女、会社員(正社員・契約社員)※人事担当を除く
集計対象数:500名
調査手法:インターネット調査
調査期間:2023年6月26日~6月29日
集計方法:労働力調査2022年の構成比に合わせて割付回収を実施
<企業向け調査>
対象者:全国に住む、企業の人事担当者
集計対象数:500名
調査手法:インターネット調査
調査期間:2023年6月26日~6月29日
集計方法:労働力調査2022年の構成比に合わせて割付回収、全体構成比により近づけるためウェイトバック集計を実施
■転職サービス「doda」について< https://doda.jp >
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