“海風トラベラー”と“灯台時間”で描く新しい旅のかたち「海と灯台サミット2025」を開催しました
日時:2025年10月20日(月)~21日(火) 場所:TOKYO FMホール(東京都千代田区)

日本財団「海と灯台プロジェクト」を運営する一般社団法人 海洋文化創造フォーラムは、2025年10月20日(月)と21日(火)の2日間、TOKYO FMホール(東京都千代田区)にて「海と灯台サミット2025」を開催しました。
「旅と灯台」をテーマに、研究者や学識経験者が灯台の価値を多角的に議論する学術会議、クイズプレーヤー・伊沢拓司さんをはじめ多彩な識者が“灯台時間”を語る「海と灯台サミット シンポジウム」、そして全国13団体による灯台利活用モデル事業の中間報告会が行われ、灯台を通じて地域・人・海の新しい関係を描く2日間となりました。このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
伊沢拓司と6人の有識者が「灯台時間」の謎に迫るシンポジウム
海と灯台サミットのメインプログラム「シンポジウム」は3部構成。日本財団・海野常務と伊沢拓司さんによるオープニングトークに続き、伊沢さんと6人の識者がそれぞれの専門分野から「旅と灯台」について考える2つのトークセッションを行いました。
オープニングトーク「海風が導く新しい旅のかたち ― 灯台体験アップデート論」
オープニングトークでは、伊沢拓司さんと灯台との“意外な関係”が明らかに。伊沢さんは「ここ数年では出雲日御碕灯台や潮岬灯台に行きました。実は、結構灯台が好きなんですよ」と笑顔で語り、会場を驚かせました。さらに「もともと海岸や岬の地形が好きで、北海道をよく巡っていました。海岸線を歩くと灯台に出会うことも多く、こんな場所から遠くまで見渡せたら気持ちがいいなと感じます。僕、灯台側の人間かもしれないです」と続け、会場に温かな笑いと共感が広がりました。

続いて海野常務は、全国1万人を対象に行った調査から「52%の人が灯台を訪れた経験があり、48%は一度も行ったことがない」というデータを紹介。「まだこの半分の人に、灯台の魅力を届ける余地がある」指摘し、「どうすれば『行ってみたい』と思ってもらえるか、今日はそのヒントを探りたい」と期待を込めました。
続けて海野常務は、クイズ王で知られる伊沢さんに向けて「答えのないクイズ」を出題。「灯台が東京ディズニーランドに勝っているところを3つ挙げてください」との問いに、伊沢さんは間髪入れずに「入るためのお金が比較的安い」「あまり待たない」「海上交通の役に立っている」と軽妙に回答し、会場を沸かせました。
続く第2問「灯台を思わず行きたくなる場所にするには?」に対し、伊沢さんは「最近は“そこにしかないもの”を求めて旅する人が多い。普段人があまり来ていないところを逆手に取り、灯台を『ここにしかないプレミアムな体験ができる場所』として宣伝できれば、もっと人が集まると思う」と語りました。

さらに第3問「何度も行きたくなる灯台の条件とは?」では、北海道・サロマ湖にある小さな灯台の思い出を紹介した伊沢さん。「何の説明文もなく名前すら分からないけれど、ここにしかない体験がそこにある。あの気持ちをもう一度味わいたくて、2度3度と行ってしまう」と話し、「地域や地形に依存する部分もあるが、見せ方などを工夫すれば、(多くの灯台で)ここにしかない体験を作れるのでは」と指摘。「“灯台かくあるべし”よりも“この土地はかくあるべし”というマクロな視点」で地域の体験をデザインすることが大切であると述べました。
伊沢さんの見事な回答を受け、海野常務は旅行のスタイルが団体から少人数や個人へ、消費型から体験型へ変化し、“移動する時間そのもの”を価値として楽しむ人が増えていることを指摘。自分でハンドルを握り、バイクや車で海沿いを走りながら、青い空・白い波・潮騒や潮風を感じる道のり、移動体験そのものを楽しむ人たちを指す言葉として『海風トラベラー』という新たなカテゴライズを提案しました。
伊沢さんは「僕、結構それかもしれない」と応じ、自分で車を借りて海沿いを目指す旅を何度もしていると語りました。続けて、「名前がないような場所を訪ねてその景色を楽しんだり、磯の音を聞いていいなと思ったりするんです。そういう意味では、自分は『海風トラベラー』なのかもしれないと、初めて自認しました」と述べると、会場に大きなうなずきが広がりました。

テーマ1「『海風トラベラー』は灯台を目指す」
1つめのトークセッションは、海辺を移動しながらその土地の風や光、出会いを味わう――そんな“海辺を旅する人”を意味する「海風トラベラー」という新しい概念をもとに、旅を楽しむ人の視点から灯台の魅力を考えました。

一般社団法人グリーンスローモビリティ協議会理事⾧の三重野真代さんは、大分県の関崎灯台で、ゆっくりと海風を感じながら走る小型電動車「グリスロ(グリーンスローモビリティ)」を二次交通として活用している事例を紹介。「移動には、目的地へ行くための“派生的需要”と、移動そのものを楽しむ“本源的需要”がある。本源的需要の乗り物は、トロッコ列車や馬車など“オープンな乗り物”。風や海の匂い、鳥の声などを五感で感じながら移動すると、脳も心もすごく楽しい」と語り、灯台に向かう道そのものを「体験」としてデザインする意義を強調しました。伊沢さんは「車に乗るときに窓を開けたり、オープンカーを借りて走ったりすると、体験が全然違ってくる」と自身の体験を重ね、「街によって風の匂いや音が違っていて、そこにリピートしたくなる旅の楽しさがありますよね」と話しました。
北海道開発技術センターの中村幸治さんは、能登半島の禄剛埼灯台を訪れた際に感じた感動を振り返りつつ、北海道で進める「シーニックバイウェイ北海道」の活動を紹介しました。「シーニックとは“景色の良い”、バイウェイは“寄り道脇道”。目的地だけでなく、道中の寄り道こそが旅を豊かにする」と語り、灯台を活かしたドライブ観光の可能性に言及しました。さらに、「現地に行かないと手に入らない灯台カードや、そこに行かなければアクセスできないQRコードなど、さまざまな仕掛けで道中を楽しんでもらい、ワクワク感を抱いたまま灯台に向かってもらえたら良いのでは」と提案しました。伊沢さんは「旅の目的地となり得る場所は限られているが、寄り道や脇道は人によって見る場所が全然違うから、無限の観光地になる可能性がありますね」と応じました。
バイク愛好家で動画クリエイターのせんちゃんは、ライダーとしての実体験を踏まえて「ライダーにとって走ることが旅の主役。風の匂いや場所による温度の変化などを五感で感じながら移動できるのがバイクの楽しみです」と話し、「ライダーはこの道を走ろうと決めてから、その道の近くで目的地を探す。主役は道なので、まさにシーニックバイウェイですね」と感想を述べました。さらに、「灯台には夕日が合う。そこにバイクがあればかなり映える」と話し、「よい写真が撮れる撮影ポイントの情報と、駐輪スペースや休憩スポット、トイレの情報などがあるとライダーが立ち寄りやすく、SNSでの発信も増えるのでは」と、環境整備と情報発信の両立を提案しました。伊沢さんも「季節や時間帯によって撮れる写真が違うはず。どの時期にどんな写真が撮れるかを発信すれば、“次はこの写真を撮りに行こう”と、何度も来たくなる灯台になりえる」と語り、リピーターを生む仕掛けの重要性を示唆しました。

セッションの終盤には、三重野さんが「観光の世界では“見る(Seeing)”から“する(Doing)”、そして“ある(Being)”へと価値が移行している。灯台は自分を見つめ直す旅の場所として、学びや気づきのあるデスティネーションになりうる」と述べました。中村さんは「灯台がある地域の人々が、そのことに誇りを持てるような文化を根付かせたい。灯台が持つ歴史性、周辺環境も含めた景観性、バックボーンなどをどう伝えていくかが大事」と語り、せんちゃんは「コレクター向けの灯台カードがあれば、ライダーは必ず行く。さらに、灯台の近くにカフェや集いの場が生まれればコミュニティづくりにつながり、また来たいと思う人も増えるのでは」と続けました。伊沢さんも「発掘した地域の魅力をどう伝えるのかが大事。旅が好きな人が、そこまで熱量の高くない人を巻き込んでいけると、一気に灯台に行く人が増えると思うんですよね。地域の魅力をどうプレゼンしていくかは、僕のようなメディアに出ている側の人ががんばらなきゃいけないなと思いました」と応じました。
テーマ2「#灯台時間 ~海の体験をアップデートする試み~」
2つめのトークセッションでは、“灯台に着いてからどう過ごすか”という時間の過ごし方に焦点を当てました。訪れることそのものが目的だったこれまでの灯台体験を、より豊かに味わうため、このパートでは「癒し」「歴史」「食」という3つの視点から、灯台の新しい魅力を掘り下げました。会場ではまず、各地の灯台で行われている取り組みを紹介する映像が上映され、それぞれの映像をもとに登壇者が専門分野の視点からコメントを寄せました。

岩崎ノ鼻灯台(富山県高岡市)からは、「灯台×癒し」をテーマに地域の魅力を再発見する「伏木エリア魅力発掘プロジェクト」の活動が紹介されました。能登半島地震で被害を受けた伏木地区に立つこの灯台は、富山湾や立山連峰を望む絶景の地に立っています。プロジェクトのメンバーが投げかけた「なぜ絶景を見ると癒されるのか」という疑問に対し、立正大学心理学部客員教授の内藤誼人さんは「人類は何十万年も自然と一緒に暮らしていたので、自然豊かな場所にいると自然に心が落ち着いたり、癒されるようになっている」と説明。「自然は写真と違い、刻々と変化していく。その変化や風の音、目に入る風景が脳を刺激して、癒しの効果を持つ幸せホルモンの分泌にもつながる」と解説し、灯台での過ごし方について「一人で座り、のんびりと風の音や海の匂いを感じるのがおすすめです」と述べました。
長尾鼻灯台(鳥取県鳥取市)からは、「灯台×学び」をテーマに、弥生時代の遺跡や北前船の往来、さらに夏泊地区で400年以上受け継がれる海女漁など、海と人の関わりを後世に伝える活動が紹介されました。「歴史がある場所の楽しみ方とは」という現地からの問いかけに対し、お城好きで知られる気象予報士の久保井朝美さんは「歴史を楽しむときは“視点と仮説”が大事」と提言。「大好きなお城巡りをする時には、行きは攻める視点、帰りは守る視点で望むと、当時はこうだったのではないかという仮説が生まれ、お城をよりリアルに味わえる」と解説しました。続けて、「灯台も『なぜここにあるのか』という視点で見ると、海の難所なのか、風向きや港との関係はどうなのかなど仮説が生まれ、そこから物語が立ち上がっていく」と述べ、「そこに地元の食が加わると、より旅の楽しみが広がっていく」と旅の楽しみ方を提案しました。
佐田岬灯台(愛媛県伊方町)からは、「灯台×水産資源」の可能性を探求する「トウダイモトウマシ探求プロジェクトinえひめ」の活動が紹介されました。「灯台は潮流が速く、海底や地形が複雑な“海の難所”にあるが、だからこそ足元に豊かな漁場と上質な海産物がある」と話すプロジェクトメンバーに、紀行作家の山内史子さんも「『トウダイモトウマシ(=灯台下旨し)』は素晴らしいキーワード。私も仲間に入れていただきたい」と賛同。「海流や地形によって海の特徴はその場所ごとに異なり、同じ魚でもとれた場所によって味が違う」と指摘し、「灯台とその下の海、そこでとれた魚をつなぐ物語性が生まれるとインパクトがある」と評しました。

シンポジウムの最後には、伊沢さんが全体を振り返り、登壇者の言葉や映像で紹介された各地の取り組みを総括。「旅に『灯台』という焦点を定めることによって地域の人や文化が見えてきて、奥行きを感じられるのだと感じました。楽しみ方をたくさん提示していただきありがとうございました」と「灯台×旅」の可能性に期待を込めました。
シンポジウムのほか、初日には学術研究者らが登壇し、灯台の文化的・地質的価値や観光との関係を多角的に考察する学術会議「海と灯台学カンファレンス2025」が開催されました。「旅の目的地としての灯台が創る未来」をテーマに、考古学や歴史学、地質学、地域計画学などの視点から、持続可能な観光や地域づくりに向けた研究成果や課題が共有されました。
また2日目には、「海と灯台プロジェクト2025 中間報告会」が行われ、持続可能な灯台利活用事業の開発に取り組む全国13団体が、今年度のこれまでの取り組みと今後の見通し、期待する成果などを発表しました。
これらの内容については、後日「海と灯台プロジェクト」公式サイトにてレポートを掲載する予定です。
<イベント概要>

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名称 |
海と灯台サミット2025 |
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開催日時 |
2025年10月20日(月)、21日(火) |
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主催 |
一般社団法人海洋文化創造フォーラム |
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共催 |
日本財団 海上保安庁 |
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プログラム・時間 |
【10月20日(月)15:00~19:00 海と灯台学カンファレンス2025】 灯台の価値再発見と新たな価値の創造に向け、多彩な分野の専門家・学識経験者による研究者ネットワークで灯台を多角的に研究する取り組み「海と灯台学」の研究成果などについて発表する学術会議を開きました。 運営:一般社団法人海洋文化総合研究所 【10月21日(火)11:30~13:30 海と灯台サミット シンポジウム】 クイズプレーヤーの伊沢拓司さんをはじめ、各分野の第一線で活躍する多彩な識者が登壇し、“旅”を入口に灯台を訪れたくなる新しい体験のあり方について、観光・心理・地域づくりなど幅広い視点から紐解きました。 【10月21日(火)15:00~18:00 海と灯台プロジェクト2025 中間報告会】 灯台を訪れる人を増やし、海や周辺地域への興味関心を高めることを目的に、持続可能な灯台利活用事業の開発に取り組む全国13団体が、今年度のこれまでの取り組みと今後の見通し、期待する成果などを発表しました。 |
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会場 |
TOKYO FMホール(東京都千代田区麹町1-7 エフエムセンター2F) |
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来場者数 |
海と灯台学カンファレンス 41名 海と灯台サミット シンポジウム 135名 海と灯台プロジェクト2025中間報告会 106名 |
<団体概要>
団体名称:一般社団法人海洋文化創造フォーラム
URL:https://toudai.uminohi.jp/

日本財団「海と灯台プロジェクト」
人と海は、時間的にも空間的な意味においても「灯台」を境に関わってきました。航路標識として、従来の船舶交通の安全を担うという重要な役割から広がりつつある灯台。その存在意義について考え、灯台を中⼼に地域の海の記憶を掘り起こし、地域と地域、異分野と異業種、⽇本と世界をつなぎ、新たな海洋体験を創造していくプロジェクトです。海と灯台プロジェクトは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。
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