後継者への移行期間、企業の半数が「3年以上」
新型コロナの影響で事業承継への意識が変化した企業は8.7%
企業経営者の高齢化が進んでいる。また、全国の後継者不在率は2020年時点で65.1%(帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査」2020年11月発表)となり、後継者不在による事業承継問題はこれまで以上に顕在化している。他方、政府は2021年度予算に事業承継支援として100億円近くを計上し、事業承継とM&A支援をワンストップで行う体制を4月より開始した。政府主導で企業に対して積極的に働きかけるプッシュ型のサポートを中心に、支援策は一層推し進められている。
<調査結果(要旨)>
■本調査の詳細なデータは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
後継者への移行期間、企業の半数以上が「3年以上かかる」
事業承継を行う際の後継者への移行期間[1]を尋ねたところ、「3~5年程度」とする企業が26.9%で最も高かった。次いで「6~9年程度」が13.8%で続き、「1~2年程度」が11.3%、「10年以上」が11.2%と近い水準で続いた。総じて移行期間に「3年以上」を要する割合は51.9%となり、半数を上回った。なお、「移行期間を必要としない」は8.9%だった。
他方、「移行期間が長いと後継者のリーダーシップが発揮できず、モチベーションも低下すると思うので、後継者を決めてからは1年以内に交代させたい」(鉄スクラップ卸売、福島県)など、後継者への移行に対する企業の考え方はさまざまにあげられた。
後継者への移行期間、「3年以上」の割合は中小企業が大企業を大きく上回る
事業承継を行う際の後継者への移行期間を規模別にみると、大企業で「3年以上」かかる割合は41.0%だった。一方で、中小企業は54.1%、小規模企業は55.7%となり大企業より10ポイント以上高かった。中小企業からも「優良な中小企業も現在の相続税のルールでは後継者が借金を背負うことになるので困っている」(機械工具卸売、香川県)といった税制上の問題や、「事業承継ができる人材を中小零細企業が見つけることはかなり困難」(生菓子製造、福岡県)などの声が聞かれた。
後継者への移行期間、業界別では建設業における長期化が目立つ
業界別にみると、『建設』では3年以上かかる割合が59.9%でトップだった。また、「6~9年程度」「10年以上」においても業界別で最も高かった。建設業からは、「後継者となる子どもが若いため、今から工事部の統括部長として現場経験を積ませている」(土木工事、長崎県)や「技術者の育成は10年程かかり、さらに後継者には3~5年である程度の仕事と経営手法を学んでもらわねばならないのでなかなか難しい」(木造建築工事、福岡県)といった意見があげられた。建設業では、例えば経営業務の管理責任者として5年以上の経験を有した者の在籍がなければ建設業許可を引き継げないなどの条件が多く、こうした背景も移行期間が長期化する一因となっている可能性がある。
また、『製造』(54.8%)や『卸売』(52.2%)も半数超となり、全体(51.9%)を上回った。一方で、『農・林・水産』は32.1%、『金融』は23.6%で、他業界と比較すると割合は低かった。
新型コロナの影響で事業承継の意識が変化した企業は8.7%に
2020年2月以降、国内では新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染が拡大し、社会情勢は大きく変化した。そうしたなかで自社の事業承継に対する意識に変化があったかを尋ねたところ、「意識が変化した」企業は8.7%だった。他方、「特に変化なし」は79.8%となり、8割近くにのぼった。
「意識が変化した」割合の内訳をみると、新型コロナの影響で「事業承継の時期を延期」と考えている企業は4.3%で、意識が変化した様態としては最も高かった。一方、「事業承継の時期を前倒し」は3.5%だった。また、「廃業予定から事業承継に変更」は0.4%、「事業承継予定から廃業予定に変更」は0.5%だった。
事業承継への意識に変化があった企業からは、「新型コロナによる経営環境の変化に対応するため、事業承継を延期する」(貸事務所、愛知県)や「このような状況で長期的な展望が見通せないので、事業承継についても現実味を感じられない」(建築用木製組立材料製造、岩手県)、「弊社では息子への事業承継を計画しているが、新型コロナ下での事業承継は社外的にあまり良い印象がしないので、時期を延期した」(電気配線工事、大阪府)のような意見が聞かれた。また、「新型コロナの影響で借入金も増えたので簡単にはいかない」(食料・飲料卸売、岐阜県)のような、財務面における課題を踏まえて延期したという声も見られた。
今後の見通し ~ 長い移行期間を見据え、「備えあれば憂いなし」の事業承継を ~
本調査では、事業承継を行う際の後継者への移行期間において3年以上かかると考えている企業は半数を超えていることが明らかとなった。なかでも中小企業は大企業よりも移行期間を長期的に考えている傾向が強く、税制上の問題や後継者となり得る人材の育成・決定、経営者保証の観点を課題にあげる意見が多くみられた。業界別では建設業で移行期間の長さが目立ち、その背景には建設業許可の引継ぎに際して経営業務管理責任者としての在籍年数などが問われるといったさまざまなルールによる影響も想定される。
また、新型コロナの影響による事業承継の意識の変化については、約8割の企業では特に変化がなかった。一方で、「新型コロナの影響で借入金が増大し、事業承継にも大きく影響した」(電子応用装置製造、東京都)といった財務面の影響をあげる声や、新型コロナ関連の対応に追われて事業承継が手につかないという意見もみられた。
2020年時点の国内における平均社長年齢は調査開始以来で初めて60歳を超え(帝国データバンク「全国社長年齢分析」2021年2月発表)、後継者不在率は依然として6割を上回るなど、事業承継の必要性は一段と増している。そうしたなか、政府は企業に対してプッシュ型の支援を展開しており、事業承継引継ぎセンターにおける成約件数は増加傾向にあるなど明るい兆しもみられる。さらに2021年4月には旧来の支援組織を改組し、今まで別部門だった親族内承継と第三者承継の支援をワンストップで行う体制を始動させるなど円滑な事業承継に向けた積極的な取り組みがみられ、今後も事業承継は活発化することが見込まれる。
事業承継をする際に引き継がれる項目は経営権や財産のみならず、ノウハウや許認可、取引先との信頼関係など多岐にわたり、枚挙にいとまがない。そのため、企業においてはいずれ来る事業承継に向けて長期的な視点で準備を行うことが重要となる。実際に「既に事業継承を実施したが、時間をかけて準備していたので特に問題はなかった」(ソフト受託開発、福岡県)のような好例があげられている。企業が有する貴重な技術やノウハウなどを次世代に繋いでいくためにも、「備えあれば憂いなし」の事業承継に向けて官民ともに啓発や支援を加速させることが肝要といえよう。
- 事業承継を行う際の後継者への移行期間を尋ねたところ、「3年以上」を要する割合は51.9%と半数超にのぼった。内訳をみると「3~5年程度」が26.9%で最も高く、「6~9年程度」が13.8%で続いた
- 後継者への移行期間を規模別にみると、3年以上かかる割合では「大企業」は41.0%だった。一方で、「中小企業」では54.1%、「小規模企業」では55.7%で高水準となり、全体の割合(51.9%)を上回った
- 後継者への移行期間を業界別にみると、3年以上かかる割合では『建設』が59.9%で最も高く、内訳の「3~5年後」「6~9年後」「10年以上」においても同様の傾向が表れた。次いで『製造』(54.8%)、『卸売』(52.2%)が続き、一方で、『農・林・水産』(32.1%)や『金融』(23.6%)では他業界と比較すると割合は低かった
- 2020年2月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響で社会情勢が大きく変わるなか、事業承継に対する意識に変化があったか尋ねたところ、「特に変化なし」とした企業は79.8%だった。それに対して、「事業承継の時期を前倒し」(3.5%)や「事業承継の時期を延期」(4.3%)といった「意識が変化した」企業は8.7%だった
■本調査の詳細なデータは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
後継者への移行期間、企業の半数以上が「3年以上かかる」
事業承継を行う際の後継者への移行期間[1]を尋ねたところ、「3~5年程度」とする企業が26.9%で最も高かった。次いで「6~9年程度」が13.8%で続き、「1~2年程度」が11.3%、「10年以上」が11.2%と近い水準で続いた。総じて移行期間に「3年以上」を要する割合は51.9%となり、半数を上回った。なお、「移行期間を必要としない」は8.9%だった。
企業からは、「後継者は決定しているが自社は技術系のため、3~5年の育成期間が必要」(電気通信工事、鹿児島県)や「建設業は人材が資本で、中小では特に人材育成が課題」(はつり・解体工事、千葉県)、「スキルだけでなく経営者としての思考性が大事で、10年以上はじっくりと時間をかけたい」(電気機械器具卸売、愛知県)といった声が聞かれた。
他方、「移行期間が長いと後継者のリーダーシップが発揮できず、モチベーションも低下すると思うので、後継者を決めてからは1年以内に交代させたい」(鉄スクラップ卸売、福島県)など、後継者への移行に対する企業の考え方はさまざまにあげられた。
- [1]後継者への移行期間とは、「後継者を決めてから事業承継が完了する期間」を示し、後継者の育成期間なども含める
後継者への移行期間、「3年以上」の割合は中小企業が大企業を大きく上回る
事業承継を行う際の後継者への移行期間を規模別にみると、大企業で「3年以上」かかる割合は41.0%だった。一方で、中小企業は54.1%、小規模企業は55.7%となり大企業より10ポイント以上高かった。中小企業からも「優良な中小企業も現在の相続税のルールでは後継者が借金を背負うことになるので困っている」(機械工具卸売、香川県)といった税制上の問題や、「事業承継ができる人材を中小零細企業が見つけることはかなり困難」(生菓子製造、福岡県)などの声が聞かれた。
後継者への移行期間、業界別では建設業における長期化が目立つ
業界別にみると、『建設』では3年以上かかる割合が59.9%でトップだった。また、「6~9年程度」「10年以上」においても業界別で最も高かった。建設業からは、「後継者となる子どもが若いため、今から工事部の統括部長として現場経験を積ませている」(土木工事、長崎県)や「技術者の育成は10年程かかり、さらに後継者には3~5年である程度の仕事と経営手法を学んでもらわねばならないのでなかなか難しい」(木造建築工事、福岡県)といった意見があげられた。建設業では、例えば経営業務の管理責任者として5年以上の経験を有した者の在籍がなければ建設業許可を引き継げないなどの条件が多く、こうした背景も移行期間が長期化する一因となっている可能性がある。
また、『製造』(54.8%)や『卸売』(52.2%)も半数超となり、全体(51.9%)を上回った。一方で、『農・林・水産』は32.1%、『金融』は23.6%で、他業界と比較すると割合は低かった。
新型コロナの影響で事業承継の意識が変化した企業は8.7%に
2020年2月以降、国内では新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染が拡大し、社会情勢は大きく変化した。そうしたなかで自社の事業承継に対する意識に変化があったかを尋ねたところ、「意識が変化した」企業は8.7%だった。他方、「特に変化なし」は79.8%となり、8割近くにのぼった。
「意識が変化した」割合の内訳をみると、新型コロナの影響で「事業承継の時期を延期」と考えている企業は4.3%で、意識が変化した様態としては最も高かった。一方、「事業承継の時期を前倒し」は3.5%だった。また、「廃業予定から事業承継に変更」は0.4%、「事業承継予定から廃業予定に変更」は0.5%だった。
事業承継への意識に変化があった企業からは、「新型コロナによる経営環境の変化に対応するため、事業承継を延期する」(貸事務所、愛知県)や「このような状況で長期的な展望が見通せないので、事業承継についても現実味を感じられない」(建築用木製組立材料製造、岩手県)、「弊社では息子への事業承継を計画しているが、新型コロナ下での事業承継は社外的にあまり良い印象がしないので、時期を延期した」(電気配線工事、大阪府)のような意見が聞かれた。また、「新型コロナの影響で借入金も増えたので簡単にはいかない」(食料・飲料卸売、岐阜県)のような、財務面における課題を踏まえて延期したという声も見られた。
今後の見通し ~ 長い移行期間を見据え、「備えあれば憂いなし」の事業承継を ~
本調査では、事業承継を行う際の後継者への移行期間において3年以上かかると考えている企業は半数を超えていることが明らかとなった。なかでも中小企業は大企業よりも移行期間を長期的に考えている傾向が強く、税制上の問題や後継者となり得る人材の育成・決定、経営者保証の観点を課題にあげる意見が多くみられた。業界別では建設業で移行期間の長さが目立ち、その背景には建設業許可の引継ぎに際して経営業務管理責任者としての在籍年数などが問われるといったさまざまなルールによる影響も想定される。
また、新型コロナの影響による事業承継の意識の変化については、約8割の企業では特に変化がなかった。一方で、「新型コロナの影響で借入金が増大し、事業承継にも大きく影響した」(電子応用装置製造、東京都)といった財務面の影響をあげる声や、新型コロナ関連の対応に追われて事業承継が手につかないという意見もみられた。
2020年時点の国内における平均社長年齢は調査開始以来で初めて60歳を超え(帝国データバンク「全国社長年齢分析」2021年2月発表)、後継者不在率は依然として6割を上回るなど、事業承継の必要性は一段と増している。そうしたなか、政府は企業に対してプッシュ型の支援を展開しており、事業承継引継ぎセンターにおける成約件数は増加傾向にあるなど明るい兆しもみられる。さらに2021年4月には旧来の支援組織を改組し、今まで別部門だった親族内承継と第三者承継の支援をワンストップで行う体制を始動させるなど円滑な事業承継に向けた積極的な取り組みがみられ、今後も事業承継は活発化することが見込まれる。
事業承継をする際に引き継がれる項目は経営権や財産のみならず、ノウハウや許認可、取引先との信頼関係など多岐にわたり、枚挙にいとまがない。そのため、企業においてはいずれ来る事業承継に向けて長期的な視点で準備を行うことが重要となる。実際に「既に事業継承を実施したが、時間をかけて準備していたので特に問題はなかった」(ソフト受託開発、福岡県)のような好例があげられている。企業が有する貴重な技術やノウハウなどを次世代に繋いでいくためにも、「備えあれば憂いなし」の事業承継に向けて官民ともに啓発や支援を加速させることが肝要といえよう。
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