指定難病「重症筋無力症」の予後予測に有用なマーカーを発見~治療の最適化による副作用軽減・生活の質改善に期待~
千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学 桑原聡 教授、医学部附属病院脳神経内科 鵜沢顕之 助教、大学院医学薬学府 特別研究学生 小島雄太(京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経内科学 博士課程4年生)らの研究グループは、京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経内科学 水野敏樹 教授、能登祐一 学内講師との共同研究において、重症筋無力症の治療後の早期に抗アセチルコリン受容体抗体(注1)価減少率を調べることによって、治療後の経過(予後)を予測できることを明らかにしました。
臨床現場で予後や治療反応性の予測が可能になれば、その患者さんに合ったステロイド(注2)の用量を調整しやすくなり、ステロイド以外の治療を選択しやすくなります。このような治療法の最適化により重症筋無力症の治療による副作用の軽減や生活の質の改善が期待できます。
本研究成果は、科学雑誌Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatryにオンライン掲載されました。
臨床現場で予後や治療反応性の予測が可能になれば、その患者さんに合ったステロイド(注2)の用量を調整しやすくなり、ステロイド以外の治療を選択しやすくなります。このような治療法の最適化により重症筋無力症の治療による副作用の軽減や生活の質の改善が期待できます。
本研究成果は、科学雑誌Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatryにオンライン掲載されました。
- 研究の背景
重症筋無力症は、抗体の産生を抑えるステロイドを始めとした免疫治療の発展によりその生命予後が著しく改善されてきましたが、長期的に完全寛解(内服薬を用いなくても症状が無い状態)に達するのは日本の重症筋無力症の患者さんのうち10%以下であり、多くの患者さんはステロイドの長期内服を余儀なくされます。また重症筋無力症の症状が軽微でも、ステロイド長期内服による様々な副作用が生活の質を低下させることが知られています。しかし、重症筋無力症において予後の予測や治療法の選択に有用で臨床現場で使える指標は乏しいのが現状でした。
- 研究の結果
その結果、抗アセチルコリン受容体抗体減少率が0.64%/日より高い群では、低い群と比較して治療開始1年後のMM達成率が有意に高く、より早期にMMを達成していることが明らかになりました(図2)。対象となった患者の92%がステロイドによる治療を受けていましたが、抗アセチルコリン受容体抗体価の減少率が高い人ほど治療1年後の予後が良好で、ステロイド内服量も少ないことがわかりました。
この結果から、抗アセチルコリン受容体抗体価の減少率はステロイド治療への反応性を反映し重症筋無力症の治療予後を予測する有用なマーカーとなりうると考えられます。
- 今後の展望
- 論文情報
雑誌名:Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
著者:Yuta Kojima,Akiyuki Uzawa,Yukiko Ozawa,Manato Yasuda,Yosuke Onishi,Hiroyuki Akamine,
Naoki Kawaguchi,Keiichi Himuro,Yu-ichi Noto,Toshiki Mizuno,Satoshi Kuwabara
- 用語解説
(注2)ステロイド:ステロイドは本来、副腎皮質で産生されるホルモンの一種であり、生体内に不可欠な機能を有しています。薬剤としては炎症やアレルギー反応を抑える効果があり、重症筋無力症、膠原病などの自己免疫疾患、アレルギー性疾患の治療薬として幅広く用いられています。服用方法、服用量や服用期間によって、感染症、骨粗鬆症、糖尿病、消化管潰瘍、白内障など様々な副作用をきたすことがあり注意を要します。
(注3)軽微症状(Minimal manifestation:MM):重症筋無力症による軽微な筋力低下症状はあるものの、生活や仕事など日常生活に支障はない状態を指します。ステロイドなどの免疫治療を行なっても、症状が消失する完全寛解を達成する患者はごく少数であり、様々な副作用を生じうるステロイド量を減らすためにもMMを重症無力症における治療目標とすることが推奨されています。
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