ピーマンの苦味を感じるメカニズムの一端を解明。同時に卵黄タンパク質がピーマンの苦味を抑制する可能性も示唆
3月24日(日)~27日(水)に開催の日本農芸化学会で発表。子どもの野菜嫌い克服と野菜摂取量向上へ
キユーピー株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役 社長執行役員:髙宮 満、以下キユーピー)は、国立大学法人東京大学(総長:藤井 輝夫)の三坂 巧准教授と連携し、ピーマンの苦みを感じる機構の一端を解明しました。この研究成果について、2024年3月24日(日)~27日(水)で開催の「日本農芸化学会2024年度大会※1」にて発表を行いました。
■研究の目的
25種類のヒト苦味受容体(以下、苦味受容体)の中から、ピーマンの主要な苦味成分であるクエルシトリン※2を受容するものを探索し、苦味を感じるメカニズムの解明を目指しました。
■結果の概要
25種類のうち複数の苦味受容体でクエルシトリンを受容することが確認できました。中でも苦味受容体「TAS2R8」は活性化の程度が大きく、ピーマンの苦味の認識に最も寄与していることが分かりました。さらに、クエルシトリンと一緒に卵黄タンパク質を投与することで「TAS2R8」の応答強度が下がることを確認し、卵黄タンパク質がピーマンの苦味を抑制する可能性が示唆されました。
※1 日本農芸化学会2024年度大会 https://www.jsbba.or.jp/2024/
※2 恩田恵子ほか, 苦味の少ないピーマン「こどもピーマン(品種名:ピー太郎)」とピーマンの苦味に関する研究. 日本農芸化学会大会.2012, 4J14A02
本研究で明らかになった“ピーマンの苦味を感じるメカニズム”や、今回確立した“人が感じる苦味を客観的に数値化できる計測技術”は、今後、おいしさの本質を明らかにし、野菜嫌い克服の提案につながる成果です。キユーピーは、今後も食にまつわる課題解決に向けた研究や発信を続けることで、豊かな食生活の実現に貢献していきます。
研究背景
野菜は1日350gの摂取が推奨されています※3が、日本人の野菜摂取量の平均値は280gと70g足りていないのが現状です。また子どもの成長にも野菜摂取は重要ですが、子どもの味覚は苦味・渋味を本能的に避けると言われており、野菜独特の苦味や青臭さが野菜嫌いの一因にもなっています。
中でもピーマンは、ビタミンC、ビタミンKなど栄養が豊富な一方、苦味を理由に子どもが苦手な野菜の代表格でもあります。キユーピーでは、子どもの野菜嫌い克服と野菜摂取量向上を目指し、これまでマヨネーズ中の卵黄がピーマンの苦味を低減する効果などを検証してきました※4。さらに研究を進めるため、今回は苦味を感じるメカニズムに着目しました。
人の舌には、5つの基本味(甘味、うま味、苦味、酸味、塩味)に対応する5種類の「味細胞」が存在し、その表面には「味覚受容体」があります。味覚受容体が味物質を受け取り、味覚神経を介して情報を脳に伝達することで、人は味を認識しています。甘味やうま味を受け取る受容体はそれぞれ1種類であるのに対し、苦味の受容体は25種類も存在することが知られています。しかしながら、ピーマンの主要な苦味成分「クエルシトリン」を、どの受容体が受け取ることで苦味を感じているのか、詳しいメカニズムは分かっていません。また、人が食物から感じることができる苦味の強度は非常に弱く、高い感度を持つ測定法が求められます。
そこで今回、ヒト苦味受容体を導入した培養細胞の応答強度を評価する技術(図1参照)を用いて、クエルシトリンを受容する受容体の探索と苦味強度の測定に取り組みました。さらに、先行研究※4で官能試験によって報告された“卵黄の苦味抑制効果”について、同様に培養細胞を用いた試験でも効果が確認できるか、検証を試みました。
※3 厚生労働省が策定した、健康政策「健康日本21」の中で示されている野菜の摂取目標量
研究概要
試験1:クエルシトリンを受容するヒト苦味受容体の探索
(試験内容)
25種類の苦味受容体を導入した培養細胞を作製し、それぞれにクエルシトリンを投与しました。クエルシトリンにより受容体が活性化することで生じる細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を、蛍光指示薬を用いて可視化し、クエルシトリンを受け取る苦味受容体の特定を目指しました。
(結果)
複数のヒト苦味受容体でクエルシトリンに対する応答が確認され、中でも受容体「TAS2R8」の応答感度が高いことが示唆されました。
試験2:クエルシトリンを受容するヒト苦味受容体の応答強度の比較
(試験内容)
25種類の苦味受容体とカルシウムイオン結合型発光タンパク質※5を導入した培養細胞を作製し、それぞれにクエルシトリンを投与しました。クエルシトリンにより受容体が活性化することで生じる細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を発光強度の変化量で測定し、クエルシトリンに対する各受容体の応答感度の強さを比較しました。
※5 あらかじめ細胞内にカルシウムイオン結合型発光タンパク質を導入することで、受容体の活性化に続いて生じる細胞内カルシウムイオン濃度変化を、発光強度の変化量として測定する(発光法)。試験1(蛍光法)では試料中の蛍光物質まで検出してしまうが、発光法ではそれがなく、また蛍光法に比べ応答感度も高いことが知られている。
(結果)
試験1と同様に、受容体「TAS2R8」で最も強い応答が確認され、「TAS2R38」でも強い応答が確認できました。また、カルシウムイオン結合型タンパク質の導入により、試験1(蛍光法)に比べて受容体の応答強度が上がったことから、本評価法(発光法)が苦味感度の定量法としても有効であることが示唆されました。
試験3:卵黄タンパク質による苦味抑制効果の検証
(試験内容)
受容体「TAS2R8」とカルシウムイオン結合型発光タンパク質を導入した培養細胞に、「クエルシトリン」または「クエルシトリンと卵黄タンパク質の混合液」を投与しました。受容体が活性化することで生じる細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を、発光強度の変化量で測定しました。卵黄タンパク質は、卵黄を脱脂及び噴霧乾燥した後、不純物を除去して作製しました。
(結果)
「クエルシトリン」のみの投与と比べて、「クエルシトリンと卵黄タンパク質の混合液」の投与では応答が低い(苦味が低減している)ことが確認できました。この結果から、卵黄タンパク質には、ピーマンの苦味を抑制する効果がある可能性が示唆されました。本結果は、先行研究※4の官能評価で報告された「卵黄によるピーマンの苦味抑制効果」を支持するものと言えます。
【参考】
研究レポート:「ピーマンの苦味研究で野菜を好きな子どもたちを増やす」
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