2025年日本国際博覧会にて『肺の健康への変革:日本とアジアへの機会』フォーラム開催
“日本における肺の健康に関する早期診断等の課題認識”を共有
アストラゼネカ株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役社長:堀井 貴史、以下、アストラゼネカ)は、2025年9月16日(火)、大阪・関西万博(英国パビリオン)において、保健医療システムの変革を通じた「呼吸器疾病への包括的な挑戦」をテーマに『肺の健康への変革:日本とアジアへの機会』フォーラムを開催しました。
本フォーラムでは、国内外の肺がん検診における最新の取組みや、肺がん検診と慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease、以下、COPD)を含む肺疾患の早期発見にむけた包括的な医療体制の構築、エビデンスに基づいた検診の拡充等、様々な視点から、肺の健康に向けた活動に関する議論が行われました。さらに、”日本における肺の健康に関する早期診断等の課題認識”が整理され共有されました。

■世界・日本における肺疾患の現状
肺疾患には、肺がん、COPD、喘息等の非感染性疾患(NCDs)に加え、COVID-19などの感染症も含まれ、いずれも世界の死因の主要な部分を占めています(1)。中でも、肺がんやCOPDはすべての死因において上位を占めていることから、肺の健康は世界的な課題となっており、健康寿命の延伸に向けて、これらの早期発見・早期治療がますます重要になっています。
超高齢社会の日本においても、毎年12万人以上が肺がんと診断されており、肺がんは日本人のがん死亡原因第1位となっています(2)。また、COPDがあると肺がんのリスクを高めることが知られており、肺がんはCOPD患者さんの主な死因の1つです。加えて、COPDは心不全等の心血管系疾患のリスクを高めることもわかっています(3)。
■本フォーラムにおける議論の要約
本フォーラムでは、海外や国内における産官学の有識者とともに、肺の健康に関するトランスフォームケア(保健医療の変革)に関する取り組みについて、現在の課題とその解決策について議論を行いました。
【第一部:課題を機会へ、肺の健康への幕開け】
2025年5月に開催された世界保健総会(WHA)では、日本も共同提案国となった「包括的な肺の健康へのアプローチを推進・優先するための決議」が採択されたことを受け、肺の健康への対応では、保健医療システムの強化と医療へのアクセス拡大に加え、大気汚染、たばこの使用、職業上のリスクといった社会的決定要因への対策も不可欠であること、さらに多様なステークホルダーとの連携や部門横断的な協力の推進が求められることが強調されました。今後、2025年9月25日には第4回国連NCDsハイレベル会合が開催される予定であり、肺の健康を含むNCDs対策の機運の高まりを機会として捉えていくべきと指摘されました。
【第二部:高リスクグループにおける肺の健康管理を改善するためのベルトプラクティスの活用】
日本、オーストラリア、タイ、マレーシア等における肺がん検診の取り組みがベストプラクティスとしてリスクグループに応じた異なる肺がん検診のアプローチやAIなどの最新技術の活用などが紹介され、こうした優れた事例や革新的なモデル、実証的エビデンスを各国間で積極的に共有することが、肺の健康に関する保健医療システムの変革につながると述べられました。続いて行われたパネルディスカッションでは、肺がんの検診や診断機会の最適化に向け、必要とされる戦略や連携のあり方について活発な議論が交わされました。
【第三部:日本における肺の健康の実践】
日本における肺がん検診に対する政策と、エビデンスに基づく政策立案(Evidence Based Policy Making、以下、EBPM)を中心に、議論が行われました。
1. 日本の呼吸器疾患政策の歩みと課題
日本の呼吸器疾患対策は1951年の結核予防法に始まり、肺がん検診等の制度整備を経て発展してきました。しかし現在は、疾患ごとに異なる法制度(がん対策、感染症法、難病対策等)が分立しており、さらに自治体・医療機関・職域で検診データが分断されることから包括的な管理・対応が困難となり、保険者ごとの検診・精密検査の運用差も大きくなっていることが指摘されました。
2. EBPMとデータ利活用による次世代対策
厚生労働省が医療DX推進本部を設立し、全国的な健診・パーソルヘルスレコード・がん登録等のプラットフォーム構築を進行する中、各自治体や保険者間でもデータ連携を強化し、EBPM支援のためのデータ標準化が進行しています。このような状況を受け、制度横断的な整備・一元化も見据えた政策発展や、技術革新・データ・制度の三位一体で「健康寿命延伸」「公平な医療アクセス」を推進することの必要性について話し合われました。
3. 低線量CT(以下、LDCT)検診と偶発所見の活用
国立がん研究センターは、2025年4月に高リスク群(50歳以上・30 pack-year以上の喫煙歴)を対象にLDCTを用いた肺がん検診を推奨しており、将来、LDCTを用いた肺がん検診が導入されると、肺気腫や間質性肺炎等の非腫瘍性疾患も偶発的に検出されると予想されることから、呼吸機能検査との組み合わせや地域連携による診断・治療体制の構築により、肺疾患の早期発見につながる機会が増えると考えられます。これらの取組が進むことで、今後、「LDCTが肺の検診/健診」となっていく可能性が示唆されました。
4. 地域・職域連携による診療・予防モデルの拡充
日本における先進的な取り組みの事例として、奈良県広陵町と京都府京都市の事例が紹介されました。
広陵町においては、LDCTを契機としたCOPD疑い症例の発見から、診断・治療介入への「地域一体型」モデルが展開されており、住民の健康寿命延伸と医療費抑制の両立を目指しています。
また京都市では、独自の統合データベース(国保・後期高齢・がん登録等を匿名連結)を活用し、肺がんと慢性肺疾患の診療実態と予後分析を通じた政策提言が行われており、都市型EBPMモデルとして注目されています。


■“日本における肺の健康に関する早期診断等の課題認識”を共有
肺の健康は世界的な課題であり、2021年には肺疾患が1800万人以上の死亡原因となっています。そのうち非感染性疾患、特に肺がんはがん死の中でも男女ともに最多であり、またCOPDも死因の4位であるなど、世界の死因の主要な部分を占めています。こうした状況から、2025年5月に開催された世界保健総会では包括的な肺の健康に対する決議が採択されました。
日本においても世界同様、肺がんはがん死の1位を占めており、2024年には男女計で約7万8千人が肺がんにより命を失っています。また、COPDは実際に治療を受けている患者数が約38万人にとどまる一方で、潜在患者数は500万人以上と推定されています。未診断COPDは心疾患や肺がんなど他の疾患に合併しているケースもあり、それぞれの疾患への治療介入を困難とするなど医療にも社会にも大きな負荷を与えていると想定されています。
このように社会的な負担となっている肺疾患を正しく早期に診断し、適切な治療へ結び付ける重要性は高まっており、包括的な肺の健康への道筋を見出す必要性について私たちは以下の通り共同で宣言します。
1) 肺疾患の包括的な早期診断の推進
地方自治体・地域医師会など関連するステークホルダー間の議論の活発化および、新たな技術の導入も考慮した肺がん検診および他の呼吸器疾患の早期診断体制の充実
2) 学術的連携および関連エビデンスの創出
アカデミア・行政などの間での、エビデンス・ガイドライン・政策など、関連情報の積極的共有および、疫学・実臨床・費用対効果などの必要なエビデンス創出の活発化
3) 教育機会の整備と人材育成・確保
画像読影やスパイロメトリー実施、また関連する新たなテクノロジーの導入に必要な能力の同定および教育機会の整備や人材確保への協働
本宣言は、包括的な肺の健康に対して関係者が継続的に協力し、この取り組みを通じて一人一人の健康寿命延伸と肺疾患による社会的負担軽減を目指しています。

[“日本における肺の健康に関する早期診断等の課題認識”共有メンバー]※敬称略, 五十音順
石見 拓 京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野 教授
井上 浩輔 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 教授
中山 富雄 国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 検診研究部 部長
林 英恵 Down to Earth 株式会社 代表取締役、パブリックヘルスストラテジスト
堀井 貴史 アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長
室 繁郎 奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授
[フォーラム登壇者]※敬称略, 五十音順
石見 拓 京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野 教授
石崎 達郎 京都市保健福祉局 健康⻑寿のまち・京都推進室 担当部⻑
井上 浩輔 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 教授
江副 聡 厚生労働省 大臣官房 国際保健福祉交渉官
鶴田 真也 厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長
中山 富雄 国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 検診研究部 部長
林 英恵 Down to Earth 株式会社 代表取締役、パブリックヘルスストラテジスト
堀井 貴史 アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長
室 繁郎 奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授
キャロリン・デビッドソン 2025年万博 イギリス政府代表
ソムチャイ・タナシッティチャイ タイ保健省医療サービス局 国立がん研究所(NCI)所長
デイビッド・フレドリクソン アストラゼネカ オンコロジー事業部門 執行副社長(VTR)
デイビッド・ボールドウィン ノッティンガム大学医学部 教授(オンライン)
ティ・フウェイ・ハウ アストラゼネカ インターナショナルオンコロジー部門 バイスプレジデント
ドロシー・キーフ キャンサー・オーストラリアCEO, アデレード大学医学部 名誉臨床教授(オンライン)
ノル・ハズリン・タリブ マレーシア家庭医専門医協会
ホセ・ルイス・カストロ WHO慢性呼吸器疾患特使(VTR)
以上
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肺がんについて
毎年、世界中で肺がんと診断される患者さんは240万人と推定されています(4)。肺がんは、男女ともにがんによる死因の第1位であり、すべてのがんによる死亡の約5分の1を占めています(4)。肺がんの最大の原因は喫煙ですが、喫煙をしていない人でも肺腺がんという肺がんに罹患する人が多いことが報告されています。早期肺がんは、体系的な検診が行われていない場合、偶発的に撮像された画像で発見され、診断されることがほとんどです(5,6)。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)について
COPDは、肺の気流閉塞により息切れが起き、体力が消耗する進行性の疾患です(7)。肺機能の改善、増悪の減少、また、息切れ等の日常的な症状を管理することが、COPDの重要な治療目標です(7)。COPDが悪化すると、著しい肺機能の低下(8)、生活の質の大幅な低下(8)、平均余命の大幅な短縮、死亡リスク増加につながる可能性があります(9,10)。
COPDは世界中で推定3億9,190万人に影響を与え(11)、世界の死因第3位(COVID-19を除く)です1。日本においては推定有病患者数が約530万人(12)とされる中、治療を受けているCOPD総患者数は約38.2万人(13)と報告されており、未受診率・未診断率の高さが課題となっています。
アストラゼネカについて
アストラゼネカは、サイエンス志向のグローバルなバイオ医薬品企業であり、主にオンコロジー領域、希少疾患領域、循環器・腎・代謝疾患、呼吸器・免疫疾患からなるバイオファーマ領域において、医療用医薬品の創薬、開発、製造およびマーケティング・営業活動に従事しています。英国ケンブリッジを本拠地として、当社の革新的な医薬品は125カ国以上で販売されており、世界中で多くの患者さんに使用されています。詳細については https://www.astrazeneca.com/ または、ソーシャルメディア@AstraZenecaをフォローしてご覧ください。
日本においては、主にオンコロジー、循環器・腎・代謝、呼吸器・免疫疾患およびワクチン・免疫療法を重点領域として患者さんの健康と医療の発展への更なる貢献を果たすべく活動しています。アストラゼネカ株式会社については https://www.astrazeneca.co.jp/ をご覧ください。アストラゼネカのFacebook、Instagram、YouTubeもフォローしてご覧ください。
References
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World Health Organization. The Top 10 Causes of Death. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/the-top-10-causes-of-death [last accessed Sep 2025]
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国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#anchor1
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日本呼吸器学会:COPD診断と治療のためのガイドライン2022[第6版]
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20220512084311.html
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World Health Organization. International Agency for Research on Cancer. Lung Cancer Fact Sheet. Available at: https://gco.iarc.who.int/media/globocan/factsheets/cancers/15-trachea-bronchus-and-lung-fact-sheet.pdf. Accessed March 2025.
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Khunti K, et al. Prim Care Diabetes. 2017; 11(2):105-106.
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Suissa S, Dell’Aniello S, Ernst P. Long-term natural history of chronic obstructive pulmonary disease: severe exacerbations and mortality. Thorax. 2012; 67 (11): 957-63.
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Adeloye D, Song P, Zhu Y, et al. Global, regional, and national prevalence of, and risk factors for, chronic obstructive pulmonary disease (COPD) in 2019: a systematic review and modelling analysis. Lancet Respir Med. (2022) Vol 10(5); 447-458
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Fukuchi Y et al. COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study: Respirology.2004; 9(4):458-465
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厚生労働省e-Stat:令和5年(2023年)患者調査/ 全国編/ 年次/ 表番号158
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