知の巨人たちが語る、科学と未来のクロストークに会場もビックリ? 『東大教授が語り合う10の未来予測』刊行記念イベントリポート!
豪華教授陣が勢ぞろい
『東大教授が語り合う10の未来予測』(11/18発売)は「普段集まることのない異分野の東大教授たちが集まり未来予測トークを行う」という趣旨。時代に適応したいビジネスパーソンはもとより「科学のスゴイ話を聞きたい!」というシンプルな好奇心にも応えてくれるコンテンツが盛りだくさんだ。
そんな本書の発売翌日に開催された刊行記念イベント。書籍に登場する教授陣のうち7名(暦本純一教授、松尾豊教授、黒田忠広教授、川原圭博教授、中須賀真一教授、戸谷友則教授、加藤真平特任准教授)が出席したほか、東大ゆかりの経営者、起業家、メディア関係者、タレントが参加するなど、華やかなひとときとなった。
今回のイベントの白眉は、この日出席した教授陣を壇上に呼んでのクロストーク。本書同様、司会を編著者の瀧口氏と加藤真平特任准教授が務めた。「本書の世界観をライブで感じてもらおう、という意図です」という瀧口氏の言葉どおり、エキサイティングなトークセッションがスタートした。
トークセッションスタート! 先陣は「その場でオーダーメイドの服を作れる」未来予測!
トークテーマはずばり、“まだまだ語り合う未来予測!”。教授陣が書籍で語り切れなかった部分をアドリブで話し合ってもらう、というものだ。
まず口火を切ったのは、川原圭博教授(情報工学が専門)。会場に示されたのは、「折り紙シートでなんでも作れる時代が来る?」という一節だった。要約すると、熱で収縮するシートを使って自動で折り紙を細かく折る技術と、その応用のことだという。この折り紙シートにより、未来では「例えばスケッチや写真を入力するだけで、自宅のインクジェットプリンターでオーダーメイドの服が作成可能になるかもしれません」と川原教授。会場から驚きの声が上がるなか、中須賀真一教授(宇宙工学が専門)からは「この技術は、宇宙ともすごく相性がいいんですよ」という発言が。つまり、折り紙シートを応用すれば、人工衛星の大きなアンテナを折りたたむことができるため、従来よりずっと小さなロケットで打ち上げられる。すると、「安く・速く」打ち上げることができ、民間企業でも手軽に宇宙ビジネスに参加できるようになるという。まさしく情報工学×宇宙工学という分野横断的な研究の魅力が伝わるトークが冒頭から飛び出した。
地球外生命体をめぐる熱い議論も
続いては、戸谷友則教授(天文学が専門)による「宇宙の生命を見つけることができる?」というテーマでのトーク。戸谷教授は今年3月、地球外生命体の新たな探索法を発表した。それは、「太陽系の外から降り注ぐ微粒子から生命の痕跡を探す」というもの。
「約6600万年前、地球に超巨大隕石が衝突したように、現在でも太陽系の外側でどこかの惑星に隕石がぶつかっています」と戸谷教授。その際に出る隕石の粒子を分析できれば、新たな生命につながる情報をキャッチできるのでは、というのだ。
さらに暦本純一教授(人間の能力拡張を研究)から、生命の定義について「いま我々が想定している生命というのは炭素をベースにしたものですが、今後はその定義も変わってくるかもしれません。AIを生命と言えるのかどうか」という問いかけもなされた。
と、ここで意外な展開が。松尾豊教授(人工知能が専門)が「ちょっとだけ反論してもいいですか」と告げたのだ。松尾教授いわく、「そもそもこれだけ大量の銀河が存在するのだから、絶対に生命は存在すると思うんですよ。むしろいないとしたらどういう仮説から来るのかを知りたいです」。
これに対し戸谷教授は、「すべての星で生命が生まれる必然性もないんです。とくに、生命の起源を研究している人は、これほどまでに複雑なもの(生命体)がそう簡単には生まれないという認識を持っています。地球の歴史上、生命体がゼロの状態から1つが生まれた事象は1回しかありません。それほどまでに珍しい現象ではあるということなんです」と応答。フリートークならではのスリリングな展開となったが、結果的にテーマの意義が深まるセッションとなった。
ITのカギを握る半導体は「月で作るべき」!
続いて、黒田忠広教授(半導体集積回路が専門)は「半導体工場は月に作るべきだと思うんですよ」と、一見ユニークな持論を展開する。半導体とは、ある条件によって電気(電子)を通す場合と通さない場合がある物質のことで、あらゆる先端デバイスに欠かせないテクノロジー。「ムーアの法則」が地上では終焉に近いと言われる一方で、宇宙ではこれから始まるらしい。月で製造した方が宇宙空間に運ぶコストが圧倒的に安くなる。さらに、半導体の主材料となるシリコンは月にたくさん存在しているため、「あとは水と電気さえなんとかすれば、半導体は月で作るべきです」と黒田教授。宇宙工学を専門にする中須賀教授も、「月というのは、いまとてもホットな分野で、建設会社がたくさん投資していますよね」と同意した。
東大教授はOpenAI騒動をどう見るか
最後に暦本純一教授(人間の能力拡張を研究)から飛び出したのは、AGI(汎用人工知能)について。それも、この日もっともニュース性の高いテーマであろう、OpenAIのサム・アルトマンCEOが突如解任されたニュースについての話だった(現在は、CEOへの復帰が発表されている)。「今までは、人間がテクノロジーを生み出し、使う側でした。しかし今はすでに、テクノロジーと人間のどちらが主でどちらが従なのか、わからなくなりつつありますね」と話し、技術革新を手放しで喜んでよいのかどうか、という問題提起につながりそうな視点を提供。テクノロジー礼賛だけでは終わらない本書の別の側面も提示された格好となった。
最後に加藤准教授からは、今日、話を聞いていて痛感したこととして「研究者あるあるですけど、自分たちの分野ではよくわかっていたり、あるいは何年も前に考え終わったりしていたことが、分野が違うと全然知られていなかったというケースはよくあります。「無えっつってんじゃん!」ていう(笑)。3年前くらいにその話終わってるよってこととかよくありますよね(笑)」という本音(?)も飛び出し、会場は一層和やかな雰囲気に。アカデミックでありながらリラックスもしている時間であることが伝わってきた。
「せっかく本郷に来ていただいた皆様に、ぜひ東大らしい雰囲気を感じてほしい」という瀧口氏の思いから、実際の講義でも使われている講堂にて行われた、この日のトークセッション。東大生でも受けることのないような豪華教授陣による特別講義(?)に、参加者一同、深い満足感を共有していた。
書籍概要
書名 :東大教授が語り合う10の未来予測
編者 :瀧口友里奈
発売日:2023年11月18日
判型 :四六判
頁数 :264頁
定価 :1980円(税込)
発行元:株式会社大和書房 https://www.daiwashobo.co.jp
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