単眼3Dカメラ向けイメージセンサを開発
パナソニック株式会社 デバイス社は両目の機能をもつイメージセンサ[1]を開発し、一つのレンズシステム[2]と一つのイメージセンサで構成された通常のカメラシステムそのままでステレオ視による3D撮像を可能とする技術を開発しました。本開発のイメージセンサは3D撮像カメラの小型化・軽量化を実現し、医療、産業、モバイル分野などへ3D技術の適用を拡大できます。
【効 果】
本開発は左右方向から入射する光線を左右それぞれの電気信号に変換する左目/右目画素[3]を列交互に配置することで、一つのイメージセンサで左目/右目画像を同時に得ることができます。一組のレンズシステムとイメージセンサで単眼3Dカメラを構成できるので、3Dカメラの部品点数を大幅に削減でき、小型化・軽量化を実現できます。さらに、左目/右目画像のずれを利用することで位置検知、モーションセンサとしても応用可能です。
【特 長】
本開発は以下の特長を有しております。
1.ピーク感度[4]は従来イメージセンサの2倍の高感度を実現し、同一タイミングで撮像した左目/右目画像を出力
2.左目/右目画素がそれぞれピーク感度を示す入射光線角度を任意に設計でき、画面全体での均一な感度を実現
3.所望角度以外の入射光線に対する感度を抑え、クロストーク[5]を6%に抑えることにより、ゴーストを防止
4.左目/右目画素の感度差が5%未満という高い均一性により、低フリッカ性能を実現
【内 容】
本開発は以下の技術によって実現しました。
1.無機材料の粗密でレンズ効果を実現する当社独自のデジタルマイクロレンズ技術と、レンチキュラーレンズ[6]を組み合わせたデュアルオンチップレンズ構造形成技術
2.デジタルマイクロレンズの粗密構造を光の波長以下の精度で加工し、かつ粗密構造の空隙を無機材料で充填する微細の半導体プロセス技術
3.左右方向からの入射光線のみをそれぞれ左目/右目画素のフォトダイオード[7]に集光するデュアルオンチップレンズの構造設計技術
4.デジタルマイクロレンズを画素ごとの入射角度に最適設計し、左目/右目画素の感度差を無くす最適化設計技術
【従来例】
従来のイメージセンサは画素上に球形マイクロレンズを形成してフォトダイオードに入射光線を集光し、入射光線の角度に対して概ね等方的な感度を示します。3Dカメラの構成例としては、レンズとイメージセンサを二つずつ備えた二眼カメラ、一組のレンズとイメージセンサの間に左右光線を交互に遮断する光学素子を備えた単眼カメラなどがあります。二眼カメラは部品点数が多くて小型化が困難、光線遮断素子を備えた単眼カメラは左目/右目画像の同時取得が不可能で手振れに弱いという課題がありました。
【特 許】
国内19件、 海外16件 (出願中を含む)
【備 考】
本開発技術は、2月20日(現地時間)に米国サンフランシスコで開催されたInternational Solid-State Circuits Conference(ISSCC2013)で講演しました。
▼本件に関するお問合せ先
●報道関係お問合せ先
デバイス社 経営企画グループ 広報・調査チーム
TEL:06-6904-4732
●商品に関するお問合せ先
http://panasonic.net/id/jp/contact/
●パナソニック株式会社 デバイス社 ホームページ
http://panasonic.net/id/jp/
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【特長の説明】
1.ピーク感度は従来イメージセンサの2倍の高感度を実現し、同一タイミングで撮像した左目/右目画像を出力
従来の2D画像を撮影するカメラシステムは、開放絞り状態でカメラレンズの全面を通過した光線を画素に集光して電気信号に変換しています。一方、本製品を組み込んだ単眼3Dカメラシステムは、カメラレンズの左半分/右半分を通過した光線をそれぞれ左目/右目画素に集光して電気信号に変換します。左目/右目画素は垂直方向から左右に傾いた方向の感度が最大となるように設計してあり、そのピーク感度は従来イメージセンサの2倍を実現しています。2Dカメラの画素が受ける光量と比較して左目/右目画素の受光量はほぼ半分に低減しますが、ピーク感度2倍という高感度設計によって本方式の単眼3Dカメラは画像の明るさを損なうことなく撮影できます。
また本開発のイメージセンサは左右方向から入射する光線を左右それぞれの電気信号に変換する左目/右目画素を列交互に配置しています。本製品を組み込んだ単眼3Dカメラシステムは、カメラレンズの左半分/右半分を通過した光線をそれぞれ左目/右目画像として同時に出力します。3D撮像用途では、左目/右目画像の取得タイミングがずれると、手振れによって観察者が画像酔いを起こす心配があります。また三角測量の原理を用いた距離計測用途においても、手振れによって3D画像から正しく距離を算出することができなくなります。光学素子で左右光線を交互に遮断する従来の単眼3Dカメラでは3D画像を同時に取得できませんでしたが、3D画像を同時に取得する本製品では画像酔いの軽減や計測エラーの抑制が期待できます。
2.左目/右目画素がそれぞれピーク感度を示す入射光線角度を任意に設計でき、画面全体での均一な感度を実現
左目画素は垂直方向から左に傾いた方向にピーク感度を示し、右目画素は垂直方向から右に傾いた方向にピーク感度を示すように設計しています。これらの傾き角度は任意に、かつ撮像エリアを構成する個々の画素ごとに最適化設計することが可能です。単眼3Dカメラでは、レンズ左半分を通過してイメージセンサへ入射する光線の傾き角度は、撮像エリアの左側で小さく、右側で大きくなります。これとは逆に、レンズ右半分からイメージセンサへ入射する光線の傾き角度は、撮像エリアの左側で大きく、右側で小さくなります。このように左光線と右光線で異なる入射光線角度に合わせて、撮像面を構成する個々の画素における傾き角度を設計し、左目/右目画素を作りこむことにより、画面全体で均一な感度を実現しています。
3.所望角度以外の入射光線に対する感度を抑え、クロストークを6%に抑えることにより、ゴーストを防止
本製品を組み込んだ単眼3Dカメラシステムから出力された3D画像は、3Dモニター上で交互に表示して立体感のある画像となります。3D画像を構成する左目/右目画像間の信号が混じりあうクロストークは、視聴者にとって二重画像に映り不快な印象を与えます。また距離計測においても、クロストークによる二重画像は計測精度の低下をもたらします。本製品で開発した左目/右目画素は、所望角度以外の入射光線に対する感度を抑制しています。これにより、右方向/左方向から入射する光線に対する左目/右目画素の感度は6%と高いレベルでクロストークの抑制に成功しており、視聴者に快適な立体画像体験と精緻な距離計測を提供します。
4.左目/右目画素の感度差が5%未満という高い均一性により、低フリッカ性能を実現
3Dカメラから出力された3D画像を3Dモニターに表示したとき、左目/右目画像の明るさは均一であることが求められます。二つの画像間で明るさが異なると、3Dモニターで周期的に明るさが変化するフリッカとなり、視聴者が見たときのちらつきの原因となります。本製品では画素ごとに異なる入射光線角度に対応して個々の画素を最適化設計することにより、左目/右目画素の感度差は5%未満という高い均一性を実現しています。これにより、3D撮像における視聴者の画像酔い等と距離計測における測定精度の低下を抑制することができます。
【内容の説明】
1.当社独自のデジタルマイクロレンズ技術と、レンチキュラーレンズを組み合わせたデュアルオンチップレンズ構造形成技術
凸レンズは光を必要な場所に集めますが、この機能をデジタル化された光学材料の粗密パターンで実現する技術がデジタルマイクロレンズです。半導体の微細加工技術を用いて、可視光の波長(400~700nm)より短い間隔(約100nm)にデジタル化されたパターンを屈折率が異なる2種類の無機材料で形成することによりこれを実現しました。このデジタルマイクロレンズ上に色分離のためのカラーフィルタを画素単位でモザイク状に形成し、さらにレンチキュラーレンズを形成してデュアルオンチップレンズ構造を形成しています。レンチキュラーレンズは、樹脂を列方向に半円柱形状(蒲鉾形状)に整形しています。
2.デジタルマイクロレンズの粗密構造を光の波長以下の精度で加工し、かつ粗密構造の空隙を無機材料で充填する微細の半導体プロセス技術
デジタルマイクロレンズは、高屈折率材料の窒化シリコン薄膜に粗密の間隔をナノメートルの精度で刻み、この微細な窒化シリコンの空隙を低屈折率材料の酸化シリコンで充填して形成します。これら無機材料の高度な加工・充填は当社が従来培ってきた微細の半導体プロセス技術を適用することで、初めて可能になりました。
3.左右方向からの入射光線のみをそれぞれ左目/右目画素のフォトダイオードに集光するデュアルオンチップレンズの構造設計技術
左目画素と右目画素を一組とし、この左目/右目画素ペアが並んだ列の上方に一つのレンチキュラーレンズを配置しています。また個々の左目/右目画素には、それぞれデジタルマイクロレンズを配置しています。レンチキュラーレンズはカメラシステムのレンズから入射する光線を分離し、それぞれの光線が左目画素および右目画素のデジタルマイクロレンズに入射するような形状を実現しています。
デジタルマイクロレンズのデジタル化した窒化シリコンと酸化シリコンの粗密パターンは、可視光の波長(400~700nm)に相当する空間で平均化することで、その実効的な屈折率の分布を求めることができます。屈折率分布は一般的なレンズの曲面形状に相当するもので、デジタルマイクロレンズに入射した光線がフォトダイオードに集光するような屈折率分布となる粗密パターンが必要です。左目画素および右目画素のデジタルマイクロレンズの粗密パターンは、その入射光線がそれぞれ左目画素および右目画素のフォトダイオードに集光するように当社独自の光学シミュレーションツールを用いて構造設計しています。
これら2種類のレンズで構成したデュアルオンチップレンズ構造によりカメラレンズの左右から入射する光線はそれぞれ左目/右目画素のフォトダイオードのみへ集光され、高感度かつ低クロストークを実現しています。
4.デジタルマイクロレンズを画素ごとの入射角度に最適設計し、左目/右目画素の感度差を無くす最適化設計技術
撮像エリアを構成する画素ごとに異なる入射光線の傾き角度に合わせてデジタルマイクロレンズの粗密パターンは、レンチキュラーレンズで分離した光線がフォトダイオードへ最大限に集光するように設計しています。これにより、左目/右目画素の感度差を抑制することに成功しました。
【用語の説明】
[1]イメージセンサ
撮像部に投影された二次元画像を電気信号に変換する半導体デバイスのことです。
撮像部と、撮像部の信号を読み出すための走査回路から構成されています。
[2]レンズシステム
カメラレンズや、カメラレンズからイメージセンサに集光するリレーレンズなどカメラの用途に応じて構成されるレンズ系のことです。
[3]画素
写真のフィルムに相当するイメージセンサの撮像部にマトリクス状に並んでいる光の色を検知する最小単位のことです。1つの画素は、光を受けて電気信号を発生するフォトダイオードと呼ばれる光電変換素子と、その信号を読み出す働きをする部分から構成されています。
[4]ピーク感度
左目/右目画素ごとにレンズシステムに応じて設計した光線角度から入射する光で得られる最大感度のことです。
[5]クロストーク
3D画像を構成する左目画像と右目画像の信号が、他方の信号と混ざることです。信号が混ざると二重画像に映る要因となり、クロストークは3D画像を評価する主要項目の一つです。
[6]レンチキュラーレンズ
半円柱形状 (蒲鉾形状)の凸レンズを線状に繰り返し並べたレンズのことです。
[7]フォトダイオード
イメージセンサの画素ごとに設けた、入射した光を感知する受光素子のことです。光を電子(電気信号)に変換する光電変換機能と、変換された電子を蓄積する機能をもっています。
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