日本初、出版社49社による書店向けWeb商談会の結果報告
有志の出版社からなる書店向けWeb商談会実行委員会は、2020年6月29日(月)~7月17日(金)の3週間、書店向けにオンラインの商談会を開催致しました。ウィズ・コロナ、アフター・コロナを見据えた日本初の試みが、どのような結果を生み、今後どのように展開していくか、出版社・書店へのアンケート結果を元にご報告いたします。
▲Web商談会中の様子
▲店頭での展開例を見せながら商談の様子
- 結果概要
参加書店に関しては、北海道から九州まで、全国より104人の書店員が参加。各書店員が担当する書籍分野(複数回答)の上位3分野は児童書が約6割と最も多く、次いで芸術書が約4割、人文書が約3割と、今回の出展社の出版分野を反映した結果となりました。
商談は、1対1で行う商談は全社合わせて253回行われ、商談数の多かった出展社の上位3社は、朝日出版社(28回)、パイ インターナショナル(22回)、亜紀書房(20回)でした。
1対Nで行う商談(複数の書店が参加可能な説明会)については、5社で計9回実施し、合計34名が参加。最も多い説明会で12名の参加がありました。
開催後の調査では、参加した出展社・書店ともに、次回も参加したいという声が9割以上と期待の声が高い一方で、参加を見送った書店の約半数からは「業務として商談に時間を割く権限がない」「上長の許可や指示が必要」という声があり、課題を残しました。次回は今回の倍の100社程度の出展規模で、2020年10月開催を目標と致します。
- 開催概要
延長会期:2020年7月6日(月)~7月17日(金)の平日10日間
商談方法: Zoomを使用
主催:書店向けWeb商談会実行委員会
特設ページURL:https://dms838.wixsite.com/web-shodankai
※関連リリース:「業界初、出版社45社が書店向けWeb商談会を開催。Withコロナ時代の新たな挑戦を始めます」2020年6月15日配信
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000574.000012505.html
- 出展社一覧
当初会期(47社):
語研、ブロンズ新社、グラフィック社、マール社、Jリサーチ、西村書店、リトルモア、ポプラ社、アシェット・ジャポン、芸術新聞社、求龍堂、武蔵野美術大学出版局、晶文社、白水社、国書刊行会、パイ インターナショナル、合同出版、食べもの通信社、彩流社、東京美術、亜紀書房、ラボ教育センター、太郎次郎社エディタス、廣済堂あかつき、かもがわ出版、ロクリン社、好学社、ひさかたチャイルド、絵本館、のら書店、子どもの未来社、光村図書、クレヨンハウス、視覚デザイン研究所、出版ワークス、ビーナイス、アノニマ・スタジオ、朝日出版社、偕成社、青弓社、現代書館、チャールズ・イ・タトル出版、自然食通信社、大和書房、大日本図書、新星出版社、ミシマ社
延長会期(38社):
ライツ社、ジャムハウス(以上2社は延長会期から出展)、リトルモア、朝日出版社、光村図書、西村書店、亜紀書房、国書刊行会、自然食通信社、出版ワークス、太郎次郎社エディタス、アシェット・ジャポン、チャールズ・イ・タトル出版、絵本館、大日本図書、ミシマ社、彩流社、東京美術、新星出版社、好学社、ビーナイス、クレヨンハウス、食べもの通信社、求龍堂、白水社、武蔵野美術大学出版局、青弓社、現代書館、のら書店、大和書房、視覚デザイン研究所、合同出版、晶文社、子どもの未来社、ロクリン社、Jリサーチ、パイ インターナショナル(以上36社は当初会期から継続出展)
- 出展社 参加後のアンケート結果(当初会期出展社中、全47社の回答)
商談の満足度に関しては、商談の回数が物足りないとした社が45%あるものの、商談の質に関しては、出展社は「回数も質も満足」「回数は物足りないが質は満足」を合わせると、77%が満足という結果でした。満足とした理由は、「遠方でもお会いできる」「初対面でも顔を見て話せる」「画面共有は紙を見せるより便利」「事前に書店にご予約いただくことで、資料など事前に準備ができるため、訪店営業に比較して落ち着いて話ができる」といった理由が挙げられました。
また、次回も「参加したい」と答えた出展社は92%と、今後への期待も高いことがわかりました(「参加しない」2%、「わからない」6%)。参加したい理由として、「コロナ禍の収束が遅れそう」と、ウィズ・コロナを意識した理由がある一方、「コロナに関わらず、今後の営業スタイルの新しい形態になっていくと思われる」「Web商談を今後も希望する書店がある」と、アフター・コロナも見据えた理由が見られました。
- 参加した書店のアンケート結果(参加した書店のうち、34名からの回答)
なお、「商談が業務時間内に行われたか」の問いに対して、約3分の1の32%が「いいえ」と回答し、通常の業務時間中での商談時間の確保が難しい書店員が一定数いることもわかりました(「はい」62%、その他6%)。これは、書店では商談が通常業務の一環としてみなされない場合があることを示唆していると考えられます。
- 参加を見送った書店のアンケート結果(SNSやメールを通じてアンケートを実施。29名より回答を得た)
参加を見送った理由に「業務として商談に時間を割ける権限がない」(52%)が最も多い結果となり、参加できる条件に「上長の指示・許可があれば」(48%)が最多となったことは、前述の「商談に参加した書店中3分の1が業務時間外での参加」となった事実が示唆したように、書店の現場では出版社との商談そのものが業務としてみなされづらい環境があることをより裏付ける結果となりました。
- 参加書店・非参加書店の比較(参加書店34名、非参加書店29名が回答)
一般に、全国への書籍流通の多くは大手取次店(㈱トーハン、日本出版販売㈱など)が担っています。一方で、近年は直接取引を含めた多様な流通も存在するため、今回の商談会では「書店と名の付く店舗であればどんな取引形態でも参加可能」としたところ、非参加書店では直接取引の割合が3割程度にとどまるのに対し、参加書店では8割近くが直接取引を行っているという違いが特徴的です。
次に比較するのが、書店が利用するオンライン発注システムの利用状況です。
オンライン発注システムの利用状況
※TOENTS V(トーハン)・NOCS7(日販)・フロント(楽天ブックスネットワーク)等
出版業界には書店が使用するオンライン上の発注システムがあり、大手取次が提供するものから大手出版社が提供するものなど様々です。この利用状況も比較したところ、商談会に参加した書店よりも参加を見送った非参加書店のほうが利用率が高い傾向にあり、特に大手出版社㈱KADOAKWAが提供するWebHotLineでは参加書店が35%の利用に対し、非参加書店が68%と倍近くの差がありました。日常的にオンライン発注を行えていることが、商談会へ参加せずともよい理由の一つになっているものと推測します。
- リアルタイムな商談システムの進化
書店要望によるシステム変更
今回の会期中に、書店からTwitterやLINEを通じて要望を受け、重要なシステム変更を2度行いました。一つは「出版社ごとに、返品を受け付けるかわかるようにしてほしい」というものです。書店にとっては、注文した書籍がもしも返品できない買い切りの商品だった場合、売れ残りの在庫を持つリスクがあるため、商談をする上で返品できるかどうかは確かに重要です。また出版社によっては買い切りのみで返品を受け付けない場合もありえるため、各出版社の返品条件について緊急アンケートを行い、結果を特設ページ上で公開しました。返品などの取引条件はデリケートな情報のため、パスワード保護された参加書店向けページでの公開としています。
もう一つは、「参加申込時に記入する『商談希望分野』を、単一回答ではなく複数回答できるようにしてほしい」というものでした。書店が参加の際にはPeatixで参加者情報を登録しますが、この際に希望する商談の分野を「児童書」「芸術書」などいずれかひとつしか選択できませんでした。要望を受け入れ複数選択できるように変更したことで、のちに「プッシュ型営業」に大いに役立つことになりました。
プッシュ型営業について
リアルの商談会では、出展社は出展ブースを構えたらあとは書店がブースに立ち寄るのを待つばかりです。これに対しプッシュ型営業とは、出展社側から積極的に参加書店に自社ブースへ立ち寄るよう声掛けをすることを指します。これを行うには、どの書店が参加しているかを各出展社が知る必要があるため、Peatixでの書店参加申込の際に、「参加している事実を出展社に開示してよいか」という設問を設けました。これに対しPeatixでの申込者86名中、84%にあたる72名が情報開示に許諾いただけたため、これを出展社に共有。出展社からは情報開示した書店へ商談予約を促すメールを送信しました。この際、事前に前述の「商談希望分野」を確認できているため、自社の出版分野とのマッチングが取れた上でのプッシュ型営業を行なえました。また、プッシュ型営業の成立数が特に多い出展社のノウハウを、出展社間で共有したことで、延長会期中には商談回数70回中、71%にあたる50回がプッシュ型営業による商談成立数となりました(延長会期出展社のうち18社の回答より集計)。もしも前述の書店からの要望がなく、「商談希望分野」がひとつしか選べないままであったなら、ここまでの数の商談は成立しなかったでしょう。
LINEオープンチャットの活用
業界初の試みということもあり本商談会は注目を集め、会期中に様々な方からご提案をいただきましたが、そのうちの一つがLINEオープンチャットの開設です。九州選書市というイベントでも導入された機能です。出版社からはSNSなど公開の場では紹介できないような販促情報を提供し、書店からは前述の返品情報に関する提言を含め、様々な意見や質問が寄せられ、書店と出版社の間で活発な意見交換が行われました。
- 詳細なアンケート結果
https://dms838.wixsite.com/web-shodankai/beta-report
- 総括:実行委員長 三芳寛要(パイ インターナショナル代表)
今回はβ版の名にふさわしく、開催してみてわかったことが多々ありました。まず、想定する参加書店には、毎年全国で行われるリアルな商談会に参加している方を想定していました。しかし実際に参加した書店はリアルな商談会でもお会いしてこなかった遠方の書店や小規模な書店、大手取次と取引のない書店の参加も多く、たくさんの新規の出会いがありました。これは、オンラインの商談会がリアルの商談会を代替するだけでなく、リアルを補完する意味があり、コロナ禍中に限定した手段ではなく、今後も継続して必要とされる手段であると感じました。
一方で、参加書店でもその3分の1が「業務時間外の参加」であったことや、非参加書店の参加見送り理由の最たるものが「業務として商談に時間を割ける権限がない」こと、参加に必要な条件が「上長の指示・許可があること」であったことは、様々な問題を示唆しています。オンラインかリアルかの問題ではなく、そもそも書店にとって対面営業は必要なのだろうか。オンラインの発注システムやFAX、メール、電話で十分、と感じている方は多いでしょう。しかし今回、商談会に参加した書店さんが、対面に価値を見出していただいたのも事実です。参加できなかった方の中にも、上司のお墨付きがあれば大手を振って参加できるのに、という方もいるのではないか。対面であれ非対面であれ、書店の現場に必要と感じていただけるような価値と利便性を追求することも重要ですが、書店の経営層とも、どんなことに価値があるのかを対話していく必要性を改めて感じました。
そして出版社を経営する上で大事な次の2点、「出版社に相談したいと思っていただける書店と、対話するチャネルを開いておきたい」と「細くてもよいので、新規の出会いのチャネルを持ちたい」、オンライン商談はこれらの機能を十分に果たす仕組みであったことが確認できました。
今回は何もかも急ごしらえで、反省点はいくつもあります。そんな中で参加いただいた書店、出展社、協力いただいた関係者の皆様に心から感謝しております。今後の開催に関しては、今回の気づきや、出展社・書店のアンケート結果を踏まえ、システムの改善と、書店・流通会社・出版の関係者や業界団体との事前の連携を行い、次回2020年10月開催を目標に、継続可能な組織づくりを進めて参りたいと思います。出展社は今回の倍の100社程度を見込んでいますが、今回でいうと児童書・芸術書・人文書分野で顕著なように、ある程度出版分野が共通した出版社が参加したほうが、書店としても参加しやすさにつながることがわかりましたので、そこは意識したいと思います。大手出版社にも参加を呼び掛け、大手取次にも協力をお願いしていくことになります。そして参加いただく方々には、全国の書店の皆様はもちろん、百貨店、文具店、美術館、雑貨店、画材店など、書籍を扱う、あるいはこれから扱いたいと考えているあらゆる業態へ参加を呼び掛けていきたいと考えています。
今年は、9月・北海道、10月・東京、11月・大阪と、全国で予定されていた書店商談会の中止が次々と発表されています。そうした中で、本商談会が業界内のコミュニケーションを安全に続けるための一助、読者の皆様に本を届ける一助として役立てられればと願っています。
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