非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズの発売から50周年
非球面レンズは、光を一点に集める理想的な曲面を持つレンズです。「RF15-35mm F2.8 L IS USM」(2019年9月発売)、「RF24-70mm F2.8 L IS USM」(2019年9月発売)、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」(2019年11月発売)からなるプロ・ハイアマチュアユーザー向けの「F2.8 L IS USM ズームレンズシリーズ」や、ズーム全域で開放F値2を実現した「RF28-70mm F2 L USM」(2018年12月発売)などに採用することで諸収差を低減し、高画質を実現してきました。
球面レンズには、「平行光線を完全な形で1点に収束させられない」という原理的な宿命があります。レンズの面が球面であるために発生する収差の一つとして、像がぼけてしまう「球面収差」があります。この球面収差を補正するには、複数枚の球面レンズを組み合わせなければなりませんが、非球面レンズはその特性により、1枚用いることで同程度の補正効果が得られます。キヤノンは、レンズを通過する光を1点に集め、ぼけのない忠実な像を得るために、「夢のレンズ」と呼ばれた非球面レンズの開発に1963年より着手し、高性能レンズの研究開発に取り組みました。
非球面レンズを量産するためには、0.1マイクロメートル(※1)以下の精度が要求される加工技術や、0.01マイクロメートル以下の測定を可能とする高精度計測装置が不可欠です。キヤノンは、設計や加工方法を繰り返し検討し、試作を重ねていくことで、非球面レンズの量産技術を確立し、1971年3月に研削非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズ「FD55mm F1.2AL」を発売しました。また、1973年にはナノメートル(※2)オーダーの超精密非球面研削機「ALG-Z」を開発し、レンズの加工精度を向上させました。さらに、1985年には大口径ガラスモールド(GMo)非球面レンズの実用化に成功し、世界で初めてGMo非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズ「New FD35-105mm F3.5-4.5」(1985年12月発売)を発売しました。以降も研究開発を進め、現在に至るまで非球面レンズの成形・測定技術はキヤノンの高性能レンズを実現する重要な技術のひとつとなっています。
キヤノンは、これからも光学技術に磨きをかけ、幅広いユーザーの期待に応える技術や製品を提供していきます。なお、WEBサイト「キヤノンカメラミュージアム」にて、「(50周年記念)超精密加工への挑戦が生んだ非球面レンズ」(https://global.canon/ja/c-museum/special/exhibition1.html)を本日より公開し、非球面レンズに関する技術や歴史などを紹介します。
※1 1マイクロメートルは、100 万分の 1 メートル。
※2 1ナノメートルは、 10 億分の 1 メートル。
- <非球面レンズの加工技術>
また、キヤノンではレンズの加工機も独自に開発しており、高精度な非球面レンズの製造を実現しています。例えば、設計値に対する加工後の形状誤差は、0.1マイクロメートル以下の精度を実現しており、レンズ面の大きさを東京ドームの屋根(直径:約244m)に置き換えると、誤差は一般的なシャープペンシルの芯の太さ(0.5mm)以下となります。
さらに、4種類の中で最も高い精度を誇る研削非球面の加工技術は、一眼カメラ用の非球面レンズのみならず、学術分野にも展開されています。国立天文台のすばる望遠鏡では、高い精度が要求される主焦点カメラ用補正光学系に、自社製の高精度計測装置と加工装置を用いて完成させた非球面レンズが搭載されています。
・非球面レンズ4種類の加工イメージ
- <非球面レンズの効果>
一眼カメラ用交換レンズを球面レンズのみで構成した場合、例えば、大口径レンズと広角レンズでは、球面収差と歪曲収差がそれぞれ増大してしまいます。
球面収差は、レンズに光軸と平行な光線を入射させたとき、レンズの光軸に近い光線の結像位置に比べ、光軸から離れたレンズ周辺部に入射した光線の結像位置がレンズに近い方にズレて像がぼけて写る現象です。また、歪曲収差は、被写体とレンズによる結像が相似形とならず、直線が歪んで写る現象のことです。球面ではない曲面形状により、これらの球面レンズの課題を解決し、理想的な結像状態を生み出すのが「非球面レンズ」です。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像