妊娠中の野菜摂取が乳児のアトピー性皮膚炎を予防する可能性
〜出生コホート研究における血中・母乳中カロテノイドの解析〜
本研究成果は、国際医学雑誌 Allergy にて、2023年3月30日オンライン掲載されました。
研究概要
1.乳児期のアトピー性皮膚炎(AD)は、その後のアレルギー性疾患の発症と関連している。
2.野菜・果物などに含まれるカロテノイドの摂取と、乳児期ADの発症の関連は明らかではない。
3.アレルギーハイリスク出生コホート研究において、生後6か月までに湿疹があること、母体血ルテイン濃度の低さ、1歳時の児の血中リコピン濃度の低さが、1歳時のAD発症と関連していた。
4.妊娠中のカロテノイド摂取量が少ない母親の児は、乳児期ADの発症リスクが高く、アレルギー予防のための早期介入の理想的なターゲットであることが明らかとなった。
研究の背景
これまでの疫学研究から、乳児期のアトピー性皮膚炎「(以下、AD)」は、皮膚についた異物に対してアレルギーをおこす「経皮感作」のリスクとなり、その後のアレルギー性疾患の発症と関連することが知られています。
これまで乳児期の経皮感作を予防することを目的に、スキンケアを始めとした様々な介入研究が行われていますが、現時点ではその効果は限定的です。
乳児期ADの発症メカニズム(図1)を明らかにすることは、将来のアレルギー疾患の発症予防のためにも、非常に重要であると考えられています。
カロテノイドは、細菌、菌類、植物が生合成する天然色素です(図2)。
カロテノイドには全般に高い抗酸化力があります。β-カロテンなどの一部のカロテノイドはプロビタミンA活性も有し、健康に有益な効果があることが知られていますが、ヒトなどの哺乳類は、カロテノイドを生合成することができないため、野菜や果物などから摂取する必要があります。
アレルギーにおいては、ADを持つ児が、健康な児に比べて、血清中のカロテノイド濃度が著しく低いことが知られています。
一方で、食物摂取頻度調査票を用いた、妊娠中の母親の野菜摂取量と児の湿疹との関連を評価した先行研究では、一貫性のない結果が示されています。これらの研究では、母および児の血液および母乳中の個々のカロテノイド濃度を測定していないため、母および児の野菜摂取が、児のADの予防につながるかは明らかではありません。
研究の内容と結果
本研究では、アレルギーの家族歴を持つ(アレルギーハイリスク)267名の新生児とその母親が参加した、出生コホート研究(Chiba High-risk Birth cohort for Allergy(CHIBA) study)において、妊婦(36週)および児(臍帯血・1歳)の血液と母乳(初乳・1か月・6か月)中の、個々のカロテノイド、レチノール、α-トコフェロールの濃度を測定し、医師診断により1歳時のADとの関連を検討しました。その結果、血液と母乳中の複数種類のカロテノイド濃度と総カロテノイド濃度の低さが、1歳時のAD発症と関連していました。カロテノイド以外の因子の影響を考慮するために、性別や出生体重などの背景因子や、皮膚黄色ブドウ球菌保菌などの環境因子を含めて、多変量解析(注1)を行いました。その結果、生後6か月までに湿疹があること(オッズ比34.5(注2); P<0.0001(注3)), 母体血ルテイン濃度の低さ(オッズ比 0.002; P=0.002), 1歳時の児の血中リコピン濃度の低さ(オッズ比 0.01; P=0.007)が1歳時のAD発症と関連していました。多変量解析では、母乳中のカロテノイド濃度と1歳時のAD発症に関連は認めませんでした。
本研究の特色として、母と児の双方のカロテノイド濃度を測定している点があげられます。妊娠中の母の血中カロテノイド濃度と、出生時の児の血(臍帯血)中カロテノイド濃度には明らかな相関があり、妊娠中の母の野菜・果物からのカロテノイド摂取が、児に影響していることが示唆されます。
また、母体血中の、ルテイン・ゼアキサンチン・α-カロテン・β-カロテン・リコピンの濃度には、強い相関が見られ、これらのカロテノイドを含む食品(野菜や果物など)に対する嗜好性に偏りがあることが予想されました。
今後の展望
本研究により、妊娠中のカロテノイド摂取量が少ない母親の児は、乳児期ADの発症リスクが高く、アレルギー予防のための早期介入の理想的なターゲットであることがわかりました。
今後は、妊娠中/授乳中の母や離乳後の乳児に、野菜・果物からのカロテノイドを補給することが、乳児期のAD発症を抑制できるかどうかを検討するために、介入試験を含めたさらなる研究が必要であると考えています。
用語解説
(注1)多変量解析:複数の種類のデータの間の相互の関連を分析する統計解析です。
(注2)オッズ比:ある事柄が、起こる確率と起こらない確率の比です。オッズ比が1を超えると起こる見込が高くなり、オッズ比が1を下回ると起こらない見込が高くなります。
(注3)P:p値の略語です。本研究では、p値が0.05未満となる場合に、統計解析の観点から結論が間違っている可能性が5%未満と考えられ、意味のある結果と判断しました。
掲載論文
論文タイトル: Maternal and infant serum carotenoids are associated with infantile atopic dermatitis development
著者名: Yuzaburo Inoue, Yu Yamamoto, Shigenori Suzuki, Shingo Ochiai, Akifumi Eguchi, Taiji Nakano, Fumiya Yamaide, Satomi Hasegawa, Hiroyuki Kojima, Chisato Mori, Yoichi Kohno, Hiroyuki Suganuma, Naoki Shimojo
掲載誌: Allergy. 2023 Mar 30, PMID: 36997306
DOI: https://doi.org/10.1111/all.15730
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