光電融合の最終段階「シリコンフォトニクス」 ~生成AIを支えるデバイス技術のグラント・論文・特許~
アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、光電融合に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

光電融合とシリコンフォトニクス
光は電気とくらべると伝送距離での損失やエネルギー効率においてすぐれています。その差は伝送容量が高まるほど顕著です。
電気通信を光通信でおきかえる通信の光化は、1980年代に電話局や都市間の中距離通信から光ファイバーによる導入が始まり、インターネットの普及によって海底ケーブルを使った大陸間長距離通信、さらには家庭へのアクセス回線へと普及がすすみました。社会基盤としてインターネット網が整備され、クラウドをベースにしたサービスの普及により、データセンタ内におけるサーバ機器間の通信も光化されています。
この流れを加速したのが生成AIの一大ブームです。生成AIではサーバ機器内の演算チップ間でもとめられる伝送量が大幅に増大するため、演算チップ間の光化が、本格的にはじまっています。演算チップと光送受信器を1つのパッケージ内に実装したCPO(Co-Packaged Optics)製造技術の開発が急ピッチで進んでいます。
さらにその先、光化の最終到達点として演算チップ内通信の光化があります。シリコン製演算チップのなかで光をあつかうことから「シリコンフォトニクス」と呼ばれ、研究開発がすすんでいます。
シリコンフォトニクスには演算チップ内通信の光化だけではなく、演算自体を光でおこなう光コンピューティングもふくまれ、光が得意とする並列計算や量子コンピューティングの用途での活用が期待されています。
サーバ機器の内側における光化がおもに「光電融合」とよばれています。ケーブル状の光ファイバーだった光の伝送路が、光電融合の領域では基板平面上に固定パターンとして形成された導波路からなる光集積回路(Photonic integrated circuit)へと移行するため、必要となるデバイス技術基盤も大きく変化します。国内ではNTTが光電融合技術にもとづいた次世代のネットワーク・情報処理基盤構想をIOWN(アイオン)として全社をあげて推進しています。
ここまでに述べた光化の段階を図1にまとめました。

光電融合によるサーバ内通信の光化による、もっとも大きな効果は消費電力の低減です。伝送容量の増大による信号の高周波数化にともない、電気通信では消費電力が大幅に増大するのに対し、光通信ではこれを9割以上削減できるとの試算がされています(注)。
注:Advanced Packaging and Chiplet Summit, SEMICON Japan(2025年12月17日)
Lionel C. Kimerling, Massachusetts Institute of Technology
「Electronic-Photonic Integration on Silicon: Why and What Next」
https://semi.eventos.tokyo/web/portal/609/event/14407/module/booth/369542/348771
生成AIの普及によるデータセンタの増大と、その膨大な電力消費が社会問題となるなか、光電融合の技術動向への注目は高まっています。
本レポートでは光電融合の最終段階といえるシリコンフォトニクスにフォーカスし、アスタミューゼ独自のデータベースの活用による、グラント・論文・特許・スタートアップ企業についての情報をもとに、その技術動向について分析しました。
シリコンフォトニクスに関するグラントの動向分析
アスタミューゼの保有するグラント(競争的研究資金)データベースから、「silicon photonics」および「photonic integrated circuit」を研究概要文にふくむ、2016年以降に開始したグラント約700件を抽出しました。ただし中国はグラントデータの開示状況が年により大きくことなり、実態を反映しない可能性が高いためデータから除外しています。また、公開直後のグラント情報はデータベースに格納されていないものもあり、直近の集計値については過小評価されている場合があります。
図2は、国/地域別のグラント件数および全世界の総配賦額の年次推移です。

米国、日本、英国の3国が件数の7割以上をつねに占めており、国家としての継続的な注力が見てとれます。件数の年次推移には大きな変動はみられませんが、いわゆるGAFAM企業の生成AIへの本格参入がはじまった2023年に、配賦総額の増加を確認できます。
米・日・英のグラントの中から、直近(2023年以降)に開始し配賦額の大きい代表的なものをピックアップし、以下に紹介します。
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Energy-efficient Data Centers and High-Performance Computing Enabled by On-chip Printed Microelectronic Optical Component and Circuit Manufacturing
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機関/企業:Iris Light Technologies Inc
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グラント名/国:DOE/米国
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採択年:2024年
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資金賦与額:115万ドル(累計)
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概要: ナノ材料の印刷によりシリコン上にレーザやフォトディテクタなどの光半導体素子を形成する研究。実施企業は米国アルゴンヌ国立研究所及びノースウェスタン大学からのスピンアウト。
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量子井戸混合を用いたIII-V族半導体薄膜光集積回路の基盤技術構築
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機関/企業:東京大学
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グラント名/国:科学研究費助成事業/日本
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採択年:2023年
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資金賦与額:0.47億円/約30万ドル(累計)
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概要:化合物半導体薄膜をシリコン上に貼りあわせて光半導体素子を形成し、光集積回路を実現する研究。共同研究先として仏STマイクロエレクトロニクス社やシンガポールのAdvanced Micro Foundryが参画。
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Tunnel Epitaxy of III-V on Silicon for Ultralow Power Silicon Photonic Waveguide based Modulation Devices
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機関/企業:University of Southampton
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グラント名/国:EPSRC/英国
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採択年:2025年
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資金賦与額:約226万ドル(累計)
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概要:III-V族半導体をシリコン上に直接結晶成長させる製膜技術である、トンネルエピタキシーをもちいて光半導体素子を形成した光集積回路に関する研究。結晶成長技術を有するCardiff大学との共同研究。
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これら3件は、いずれもIII-V族半導体による光半導体素子のシリコン上への形成に関する研究です。
光集積回路の根幹である発光素子には、直接遷移型とよばれる結晶構造に起因した電子状態の性質を有する半導体が必要となりますが、シリコンは間接遷移型の半導体であるため、発光素子を作る事が原理的に出来ません。光電融合の前段階であるチップ間光通信の場合は、直接遷移型であるInP(インジウム燐)やGaAs(ガリウム砒素)のようなIII-V族半導体基板で別途作製された発光素子をチップの外部に置くことができましたが、チップ内光通信のシリコンフォトニクスではIII-V族半導体を結晶性が高い膜として相性の良くない(=結晶の格子状数の不整合が高い)シリコン基板上に形成する必要があり、これが最重要課題となっています。
とりあげた3件のグラントでは、インクによる印刷、III-V族ウェハで結晶成長させた膜のシリコン貼りあわせ、特殊な製膜方法によるシリコン上へのIII-V族半導体の直接結晶成長、それぞれ異なる製膜手法による解決をめざした研究です。
シリコンフォトニクスに関する論文の動向分析
次に論文の動向分析です。2016年以降に公開され、グラントと同様のキーワードをタイトルまたは要約文にふくむ論文約7,600件を抽出しました。図3は筆頭著者の所属国別の年次推移です。

グラントとおなじ米日英の3か国にくわえ、グラントでは除外していた中国、そして新たにカナダ、ベルギー、フランス、ドイツが入っています。中国は2019年以降継続的に件数を伸ばしており、研究体制の拡大が進んでいることがうかがえます。
これらの論文を母集団とし、「未来推定」による分析をおこないました。これは母集団にふくまれるキーワードの出現頻度の年次推移を調べることで、ブームが去った技術やこれから脚光をあびると予測される要素技術を定量的に評価する手法です。分析結果が図4です。直近10年間の出現本数に対する直近5年間の出現本数に比率として算出されるgrowthという指数で増減傾向を評価しています。growth は1に近いほど直近での出現頻度が高く、その値が上位のキーワードをリストアップしました。

出現頻度上昇が高い上位4キーワードのうち、3つがニオブ酸リチウム(LN; Lithium Niobate)に関するキーワードです。ニオブ酸リチウムは電圧をかけると光の屈折率が変化する電気光学効果(ポッケルス効果)が非常に高い結晶で、レーザ光に高周波の信号をのせる光変調器として高い性能を有します。シリコンでも光変調器を作れますが、性能においてはニオブ酸リチウムに遠くおよばないため、前述したIII-V族半導体と同様にシリコン上の製膜が非常にむずかしい材料であるにも関わらず、シリコンフォトニクスの発展にむけて研究が精力的に進められています。上位2キーワードの「TFLN」(Thin Film LN)と「LNOI」(LN on Insulator)は、いずれもシリコンウェハ貼りりあわせ接合用に加工されたニオブ酸リチウム結晶の材料形態です。
出現頻度上昇の3位には、光の不揮発性メモリに関するキーワードの「non volatile」が入りました。光コンピューティングでは情報を光の状態で一旦保存する光メモリ素子の実現が課題であり、研究対象としての注目度も上がっています。
5位の「micro transfer」はIII-V族半導体やニオブ酸リチウムなどの異種材料結晶を、整列した複数チップの状態でまとめてシリコン基板上に転写する製造技術に関するキーワードです。同様の製造技術は半導体以外の領域においても、微小なLEDチップをならべて大画面ディスプレイを形成するマイクロLEDディスプレイでの活用が検討されており、技術の相互転用による進展が期待されます。
これら3種類のキーワードそれぞれについて、近年出版された論文事例を紹介します。
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High performance thin-film lithium niobate modulator on a silicon substrate using periodic capacitively loaded traveling-wave electrode
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雑誌名:APL Photonics
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DOI: 10.1063/5.0077232
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出版年:2022
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機関名:Zhejiang University(中国)ほか
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概要:TFLNをシリコン基板に接合して形成した光変調器において、進行波方向に周期的に静電容量を付加した特殊な電極構造により、低電圧で広帯域変調を実現する。
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High-speed and energy-efficient non-volatile silicon photonic memory based on heterogeneously integrated memresonator
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雑誌名:nature communications
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DOI: 10.1038/s41467-024-44773-7
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出版年:2023
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機関名:Hewlett Packard Labs(米国)
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概要:電圧印加により抵抗値が切り替わる電気素子のメモリスタにIII-V族光半導体層を接合し、光半導体層の吸収波長がメモリスタの記録状態に応じて切り替わることで実現した光メモリ素子。
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1.1-cm-long thin-film lithium niobate Mach-Zehnder modulator with low driving voltage integrated by micro-transfer printing
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雑誌名:Optics Express
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DOI: 10.1364/OE.568498
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出版年:2025
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機関名:産業技術総合研究所、古河ファイテルオプティカルデバイス(日本)
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概要:ニオブ酸リチウム基板上に作製した薄膜状の光変調器素子を素子単位で分離・ピックアップし、シリコン基板上に転写する製造方法。
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その他の上昇キーワードとして、光コンピューティングの用途として注目される「quantum computing」、シリコンフォトニクスにおける製造プロセスの標準化に関連する「foundry」があります。
最後のインジウム燐は上昇キーワードではありませんが、ニオブ酸リチウムにつぐ光変調器材料として注目が高かった時期があったため、比較対象として掲載しています。出現頻度の年次推移で比べると、2020年まではインジウム燐がニオブ酸リチウムを件数で上回っていましたが、2021年からはニオブ酸リチウムの件数が急激に上昇し、インジウム燐は減少しました。この時期に光変調器材料の研究対象としての主役がインジウム燐からニオブ酸リチウムに移行したといえます。ほかの光変調器材料としてはチタン酸バリウム(BTO)がgrowth値0.59で中程度の上昇となっています。
(以降、光電融合技術に関する特許およびスタートアップ企業の動向分析、全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)
著者:アスタミューゼ株式会社 古川 昭夫 修士(工学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「光電融合」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
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