バイオハイブリッド:「生体組織」と「機械」の融合によるロボットとセンシング技術 ~特許・論文・研究資金の最新動向~

アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、バイオハイブリッドシステムに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

バイオハイブリッドとは

細胞や組織などの生体由来の部材と、人工的な構造体(エレクトロニクス素子や機械構造体など)を統合し、生物のもつ高感度センシングや自己修復、高効率駆動を直接活用する技術を「バイオハイブリッドシステム」といいます。この技術は、目的におうじて、「駆動」がメインの「バイオハイブリッドロボット」と、「検知」がメインの「バイオハイブリッドセンサ」に大別されます。

バイオハイブリッドロボットでは、生体組織がアクチュエータのような能動的な機能要素となります。培養骨格筋細胞で二足歩行と旋回を実現する機構、生きた皮膚被覆の指型ロボット、空気駆動骨格筋アクチュエータなどが開発されています。これらは「バイオメカトロニクス」や「ソフトロボティクス」から派生した新分野として位置づけられます。

一方、バイオハイブリッドセンサは、生きた細胞の生理応答を人工インターフェースで信号化するもので、昆虫嗅覚・味覚機構や再構成細胞膜などをもちいて分子レベルの化学物質検出を可能にする技術です。

本レポートでは、バイオハイブリッドシステムを網羅的にとらえるため、ロボティクス関連技術のみならず、生物の代謝機能を活用したエネルギー変換系、植物の構造を利用した環境発電といったハイブリッドシステムも調査対象にふくめました。

バイオハイブリッドシステムは医療診断デバイス、臓器チップ、食品安全検査、環境モニタリング、人間共存ロボットへの活用が見こまれています。公的な支援体制も急速に整備され、日本政府もAIやソフトロボットなどにくわえてバイオアクチュエータ、バイオハイブリッドロボットの先端技術群を国家戦略分野と位置づけ、第6期科学技術・イノベーション基本計画や統合イノベーション戦略2025で重点推進しています。こうした背景から、本分野は、バイオと工学が融合した新産業の創出のみならず、多分野の社会課題を解決する次世代のフロンティアとして、その進展が注目されている領域といえます。

以下、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許・論文・グラント(研究プロジェクト)における「バイオハイブリッドシステム」に関する技術動向を分析しました。

補足:「Biobot(Xenobot、Anthrobotなど)」は生体細胞のみで構成される自己組織化ロボットであり、人工構造体を基盤とするバイオハイブリッドロボットとは区別されます。また、「バイオメカトロニクスシステム(MyoRobotなど)」は生体を測定対象としてあつかう計測装置であり、生体がロボット身体の構成要素となるバイオハイブリッドロボットとはことなります。そのため、これらの要素は調査範囲外としました。

バイオハイブリッドシステムに関する特許の動向分析

アスタミューゼの保有する特許データベースより、要約に「バイオハイブリッド」関連用語をふくむ特許を検索したところ、34件の特許が抽出されました。企業や研究機関が出願する特許は、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みの技術といえます。今回抽出された特許は7つのカテゴリに分類できます(図1)。

図1:バイオハイブリッドシステムに関連する特許母集団の概要

以下に、もっとも件数の多かった「筋肉アクチュエータ・組織工学」、つぎに件数の多かった「バイオハイブリッドセンサ」カテゴリに該当する特許事例を紹介します。

  • US10906169B1「筋肉駆動型生物学的機械」

    • 機関/企業:The Board of Trustees of the University of Illinois

    • 国:アメリカ

    • 公開年:2021年

    • 概要:3Dプリンタで作製したハイドロゲル骨格に、骨格筋と運動ニューロンが融合した組織リングを装着した「生物学的機械」。従来の心筋駆動型とはことなり、神経筋接合部を介して光や化学物質、電気刺激をあたえることで、筋収縮のオン・オフや移動が精密に制御可能。

  • US2020/0371530A1「バイオハイブリッド臭気誘導型自律手のひらサイズ航空機」

    • 機関/企業:US Government as represented by the Secretary of the Air Force

    • 国:アメリカ

    • 公開年:2020年

    • 概要:蛾の触角(生体センサ)を搭載した手のひらサイズの自律飛行ドローン「Smellicopter」。従来の化学センサよりも高感度かつ高速な生体触角からの電気信号(EAG)を利用し、臭気プルームを検知する。オプティカルフローや距離センサによる障害物回避と、昆虫の行動を模した探索アルゴリズム(キャスト&サージ)を組みあわせることで、GPSなしで臭源を特定し、マッピングできる。

バイオハイブリッドシステムに関する論文の動向分析

企業や研究機関の発表する論文は、研究開発段階にあり、特許と比較すると社会実装に時間が必要な技術といえます。特許分析と同様に、バイオハイブリッドに関連したキーワードをふくむ論文を1,326件抽出しました。

論文母集団を特許と同様にカテゴライズすると、「生体分子・タンパク質複合体」、「細胞・組織工学ハイブリッド材料」、「バイオハイブリッドセンサ」に関する事例が半数以上を占めることが明らかになりました(図2)。

図2:バイオハイブリッドシステムに関連する論文母集団の概要

特許が筋肉アクチュエータや心臓系といった「マクロな動力源」としての実用化や権利化に注力しているのに対し、論文ではミクロな階層における統合原理の探求が主流となっているようです。これは、生物の機能をたんなる機械の代替パーツとして利用する段階から、タンパク質や細胞レベルで人工材料と分子制御をおこなう次世代のバイオハイブリッド技術基盤の構築フェーズにあることをしめしています。

つぎに、抽出された母集団を対象として、文献にふくまれるキーワードの年次推移から近年進展のある技術要素を特定する「未来推定」分析をおこないました。キーワードの変遷を把握し、ブームが去った技術やこれから脚光をあびる技術を定量的に評価することで、要素技術に対する技術ステータス(黎明・萌芽・成長・実装)の予測をおこなう分析です。

バイオハイブリッドシステムに関連する2015年以降の論文にふくまれるキーワードの年次推移が図3です。

図3:バイオハイブリッドシステムに関連する論文に含まれるキーワードの年次推移

キーワードごとの成長率(growth)は、2015年以降の文献中における出現回数と、2020年以降の文献中における出現回数の比で定義され、値が1に近いキーワードほど直近での出現頻度が高いといえます。

近年増加傾向にあるキーワードを分析すると、技術の深化と応用の広がりが見てとれます。たとえば「bioprinting」や「scaffolds」といった製造技術、「neuromorphic」や「bioelectronic」など人体の信号伝達機構を有機人工ニューロンとバイオハイブリッドシナプスで再現するといった文脈で使われるキーワードが2020年以降に存在感を増しています。シミュレーションベースの基礎研究レベルではあるものの、神経系を再現した適応的学習や信号制御の研究が進行しているようです。また「microrobot」や「nanoscale」など、より高度なロボティクスや生体親和性の高い次世代の「implantable」デバイスなどの実現をめざしている様子がうかがえます。

バイオハイブリッドシステムにおけるエネルギー変換の文脈においては「biocatalysts」や「hydrogenase」、これらを統合した「solar-driven」などのキーワードが出現しています。生物の洗練された触媒機能を人工電極に融合させ、持続可能な水素生成や物質生産を実現しようとする、グリーンエネルギーへの応用を見すえた基礎研究もさかんになっています。

以下に、近年の論文事例を紹介します。

  • Biohybrid Microrobots Based on Jellyfish Stinging Capsules as Nanoinjectors(クラゲの刺胞を利用したナノインジェクター搭載バイオハイブリッドマイクロロボット)

    • 雑誌名:Small Science

    • DOI:10.1002/smsc.202400551

    • 出版年:2025年

    • 機関名:Tel-Aviv大学(イスラエル)、Haifa大学(イスラエル)

    • 概要:クラゲの刺胞(stinging capsules)をナノインジェクターとして活用したバイオハイブリッドマイクロロボットを開発。Janus粒子表面に刺胞を固定し、磁場制御による標的到達後、触覚刺激で薬剤を注入する。生分解性・生体適合性が高く、精密薬物送達・細胞操作に応用可能。従来の人工ナノボットより高効率な注入性能を示し、海洋生物由来材料のロボティクス応用の事例。

  • A modular organic neuromorphic spiking circuit for retina-inspired sensory coding and neurotransmitter-mediated neural pathways(網膜に着想を得た感覚符号化と神経伝達物質を介した神経経路のためのモジュール式有機ニューロモーフィックスパイク回路)

    • 雑誌名:Nature Communications

    • DOI:10.1038/s41467-024-47226-3

    • 出版年:2024年

    • 機関名:Eindhoven大学工科(オランダ)、RWTH Aachen大学(ドイツ)など

    • 概要:有機スパイキングニューロンと神経伝達物質依存のbiohybrid synapseを組みあわせ、網膜様神経経路を構築する。光刺激で感覚符号化し、ドーパミンでシナプス可塑性を誘導、セロトニンでスパイク周波数変調を実現。生物学的学習・記憶機構を模倣したモジュール式回路で、視覚前処理と神経調節の相互作用を有機電子デバイスで再現する。

(以降、バイオハイブリッドシステムに関するグラントの動向分析、および全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)

著者:アスタミューゼ株式会社 中曽根 大輝 博士(理学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「バイオハイブリッドシステム」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。

コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/

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会社概要

アスタミューゼ株式会社

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https://www.astamuse.co.jp/
業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区神田錦町2丁目2-1 KANDA SQURE 11F WeWork
電話番号
03-5148-7181
代表者名
永井 歩
上場
未上場
資本金
2億5000万円
設立
2005年09月