ダイヤモンド量子デバイス:量子技術を変える「宝石」の可能性

アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、ダイヤモンド量子デバイスに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

量子技術とダイヤモンド

第二世代量子技術(量子技術2.0)ということばが近年使われはじめています。量子技術とは、電気や光を構成する単一の粒子である電子や光子がもつ、マクロな物理法則では説明できない量子力学的性質を利用する技術です。

従来の量子技術(第一世代量子技術)では大量の電子や光子を集団としてあつかい、その平均的な量子効果を利用することで半導体やレーザーなどの製品を生み出してきました。

これに対して第二世代の量子技術では個々の粒子の状態を直接操作・制御して利用します。この単一粒子の直接操作によって、高速な情報処理が可能な量子コンピューティングや、安全な情報伝達が可能な量子暗号通信、超高感度な量子計測などへの応用が可能になります。

一方、単一の粒子の量子状態は外部からの擾乱に弱く、きわめて不安定なため、これを保持し操作・制御するには極低温の特殊な環境をつくる必要がありました。そのために大型の冷却・断熱装置が必要となる場合があり、第二世代量子技術の産業化における大きなハードルのひとつとなっています。そこで、量子状態を安定して保持する材料として注目されているのがダイヤモンドです。

ダイヤモンドはその宝石としての美しさの源でもある強固な炭素原子の四面体からなるダイヤモンド型結晶構造により、磁気ノイズや熱振動のような内部擾乱がきわめて少なく、さらに高い光透過性を有します。このため、結晶中に量子状態を形成できれば、これを安定的に保持し、光や電波によって外部から操作・制御することが可能になります。

ダイヤモンド中に量子状態を作り出す方法は、1997年にヨルグ・ヴラハトルップ(Jörg Wrachtrup、現ドイツ・シュトゥットガルト大学教授)らの研究チームが、以前から知られていたダイヤモンド中に窒素(N)と空孔(V:炭素原子が抜けた位置)がならんだ複合欠陥(NV中心)を単一電子スピンの量子状態としてあつかうことに成功し、量子技術への応用が大きく発展しました。窒素を加速してダイヤモンドに打ち込み、熱処理することでNV中心を人工的に形成できます。

2000年代に入ると、従来の量子デバイスでは不可能だった室温環境下での量子状態の保持や操作がダイヤモンドNV中心で実証され、今日に続くダイヤモンド量子デバイスの研究開発が進展してきました。

現時点におけるダイヤモンド量子デバイスの主な用途は以下に分類できます。

  • 量子コンピューティング

    • 動作原理:NV中心等の電子スピンを量子ビットとし、重ね合わせや量子もつれを利用して高速な並列計算を行う

    • 制御方法:レーザー光でスピンを初期化し、マイクロ波パルスで論理ゲート操作を行い蛍光で読み出す

  • 量子暗号通信

    • 動作原理:欠陥から発生する単一光子の量子状態に暗号鍵を乗せ、第三者の観測による状態の変化で盗聴を検知する

    • 制御方法:レーザーに単一光子を発生させ、欠陥スピンと光子を量子もつれさせて偏光や位相を制御しファイバ送出する

  • 量子センサ

    • 動作原理:外部磁場や温度によるスピンの共鳴周波数シフトを微小なエネルギー変化として捉える

    • 制御方法:レーザー光でスピンを初期化後、マイクロ波パルスでスピンを操作し、蛍光強度の変化で外部磁場や温度変化を読み取る

このように、現時点での用途は限定的ですが、それぞれの用途において従来技術ではむずかしかった室温動作が可能となっており、第二世代量子技術の産業化を飛躍的に進める基盤技術として期待されています。

本レポートでは、ダイヤモンド量子デバイスを対象に、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、グラントや論文、特許、スタートアップ企業の情報をもとに、その技術動向を分析しました。

ダイヤモンド量子デバイス関するグラントの動向分析

まず、アスタミューゼが保有するグラント(競争的研究資金)データベースから、研究概要文に「ダイヤモンド」および量子・窒素-空孔関連のキーワードをふくむ、2016年以降に開始されたグラント1,181件を抽出しました。なお、中国はグラントデータの開示状況が年によって大きく異なり、実態を反映しない可能性が高いため分析対象から除外しています。また、公開直後のグラント情報はデータベースに格納されていないものもあるため、直近の集計値については過小評価されている場合があります。

図1に国・地域別のグラント件数と、全世界の総配賦額の年次推移をしめします。

図1:ダイヤモンド量子デバイスに関するグラントの国別件数(縦棒)および配賦総額(横線)の年次推移(2016~2025年)

件数では日本がもっとも多く、全体の4割を占めます。これに米国(25%)、英国(14%)が続きます。総件数は2022年までは横ばいでしたが、2023年以降は増加傾向がみられます。総配賦額では2023年の件数増加後も横ばいで、1件あたりの配賦額の減少が読みとれますが、2025年には件数の集計が途中段階にも関わらず同水準の総配賦額を維持している事から、1件あたりの配賦額が上昇し始めていることがわかります。

これらのグラントを母集団として、「未来推定」による分析をおこないました。これは母集団のタイトルや概要文にふくまれるキーワードの出現頻度の年次推移を調べることで、ブームが去った技術やこれから注目をあびると予測される要素技術を定量的に評価する手法です。

分析結果が図2です。ここでは増減傾向を直近10年間の出現本数に対する直近5年間の出現本数の割合として算出される「growth」という指数で評価しています。growthは1に近いほど直近での出現頻度が高いといえ、その値が高い注目キーワードをとりあげました。

図2:ダイヤモンド量子デバイス関連グラントにおける出現頻度上昇キーワードとその出現本数年次推移(2016~2025年)

最初にあげた「navigation」は、ダイヤモンドNV中心をもちいた地磁気センサにより、GPSが使用できない環境等におけるナビゲーションを実現する研究に対するグラントのキーワードです。ダイヤモンド量子センサが商用化段階となりつつあり、その用途の開拓に研究資金がむかいはじめていることがうかがえます。

つぎにあげる「tin-vacancy」は窒素-空孔のNV中心と同様にダイヤモンド中のスズ原子不純物が空孔と結合して形成されるSnV中心を指すキーワードです。SnV中心はNV中心と比較して外部環境に対する感受性が低いためセンサとしての用途には向きませんが、光の発生効率が非常に高いため、量子通信や量子計算の用途においてより高い性能が期待されています。

続いて、「addressable」はNV中心のアレイから読み出す点を光で選択する「optically addressable」にふくまれるキーワードです。NV中心を量子ビット(qbit)として量子計算にもちいるデバイスの読み出し方式として、研究資金の対象となっていると考えられます。

最後の「nanodiamond」はナノ粒子状のダイヤモンド量子センサを生体細胞などの測定対象に導入することで高感度に解析するための材料形態です。グラントにおけるgrowthはそれほど高くありませんでしたが、後述する特許において出現頻度がのびている点から、注目キーワードとして掲載しています。

これらの注目キーワードをふくむグラントから、直近(2021年以降)に開始され、配賦額の大きい代表的なものを以下に紹介します。

  • ダイヤモンド中のIV族‐空孔中心の電荷制御と量子ネットワークデバイスの創製

    • 機関/企業:東京科学大学

    • グラント名/国:科研費/日本

    • 採択年:2022年

    • 資金賦与額:1.93億円(累計)

    • 概要:量子通信ネットワークに向けたダイヤモンド量子光源材料として、ダイヤモンド中にスズ-空孔および鉛-空孔の発光中心を形成する製造プロセスと光学特性評価技術の開発をおこなう。

  • FuSe2 Topic 2: Co-designing a Semiconductor-based Quantum Architecture Platform for Scalable Quantum Information Processing

    • 機関/企業: Massachusetts Institute of Technology

    • グラント名/国:NSF/米国

    • 採択年:2024年

    • 資金賦与額:200万ドル(累計)

    • 概要:光学的に制御されるダイヤモンド量子素子による光集積回路と、電気的に制御される半導体回路を協調設計によって統合し、大規模な量子演算チップの実現を目指す。

  • QuSeC-TAQS: Nanodiamond Quantum Sensing for Four-Dimensional Live-Cell Imaging

    • 機関/企業: Purdue University

    • グラント名/国:NSF/米国

    • 採択年:2024年

    • 資金賦与額:200万ドル(累計)

    • 概要:ナノダイヤモンド量子センサ粒子を細胞内に導入し、光学顕微鏡技術との組み合わせにより細胞内の温度や磁場、pH、代謝物濃度などの局所環境パラメータの時間変化を、3次元で空間的に計測する基盤技術を確立する。

グラントの件数が多い日本と米国からそれぞれ1件と2件をあげましたが、日本のグラントが対象領域を絞り込んだ研究となっているのに対し、米国のグラントはより広範な領域に大型の予算で取り組む内容となっています。

(以降、ダイヤモンド量子デバイスに関する論文、および特許の分析と代表事例、およびスタートアップ企業の事例紹介、それらをふまえた全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)

著者:アスタミューゼ株式会社 古川 昭夫 修士(工学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「ダイヤモンド量子デバイス」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

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会社概要

アスタミューゼ株式会社

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URL
https://www.astamuse.co.jp/
業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区神田錦町2丁目2-1 KANDA SQURE 11F WeWork
電話番号
03-5148-7181
代表者名
永井 歩
上場
未上場
資本金
2億5000万円
設立
2005年09月