光渦の照射による金ナノインクの超精細パターニングに成功! -次世代プリンタブルエレクトロニクス技術の確立-

国立大学法人千葉大学

 千葉大学分子キラリティー研究センターの尾松孝茂教授、宮本克彦准教授、青木伸之教授、千葉大学大学院融合理工学府の魏榕さん、川口晴生さん、佐藤魁哉さん、甲斐清香さん、北海道大学大学院工学研究院の森田隆二教授、山根啓作准教授、大阪公立大学大学院理学研究科の柚山健一講師、大阪大学大学院基礎工学研究科の川野聡恭教授らの共同研究グループは、金ナノ微粒子が分散する懸濁液(金ナノインク)に光渦(注1)を照射することで、従来のインクジェット技術の限界を凌駕する微小なドットが印刷できることを実証しました。さらに印刷されたドットの内部は金ナノ微粒子が高濃度に充填されていることを発見しました。この結果は熱処理しなくても高い電気伝導を示す高精細な金ナノインク印刷が可能であることを示唆します。
 この印刷技術は、半導体インク材料や他の金属インク材料にも適応できるため、次世代プリンタブルエレクトロニクス技術の基盤技術としてフレキシブル回路の量産技術などへ発展することが期待されます。
本研究成果は、2024年3月11日(現地時間)に学術誌APL photonicsにてオンライン掲載されました。
  • 研究の背景

 近年、電子デバイスのフレキシブル化や製造のオンデマンド化の需要の高まりに伴い、半導体・電子製品などを印刷(プリンティング)して製造するプリンタブルエレクトロニクス技術に注目が集まっています。

しかし、従来のインクジェット印刷技術ではノズルが目詰まりを起こすため、高粘度材料の印刷が困難でした。それを可能にしたのが、レーザー誘起前方転写法(注2) (Laser-Induced Forward-Transfer: LIFT)です。LIFTは、パルスレーザー加熱によってドナー膜(転写したい材料)に形成されたキャビテーションバブル(液体中で圧力の急激な変化によって発生する微小な気泡)の膨張・収縮によってドナーの液滴が吐き出されてレシーバー基板に転写される現象で、次世代プリンタブルエレクトロニクスの印刷手法として期待されています。

 しかし、LIFTはドナー物質の液滴が吐出される方向を制御することは原理的に不可能でした。この課題を克服するため、研究チームは光渦と呼ばれる特殊なレーザー光を用いた光渦レーザー誘起前方転写法(光渦LIFT)を考案しました(図1)。光渦はらせん状の波面を持つ光波の総称であり、照射した物質にトルク(軌道角運動量)を与えることが知られています。光渦の軌道角運動量がLIFT現象によって吐出された液滴を自転させます。その結果、液滴が安定して直進飛翔するため、より精密にプリントすることが可能になります。



  • 実験の詳細

  研究チームは、優れた電気伝導を示す金ナノインクにおいて、光渦LIFTを用いることでどのような印刷が可能になるか検証しました。具体的には、波長532 ナノメートルの光渦ナノ秒パルスレーザーをガラス基板上のドナーである金ナノインクにビームスポットが35 マイクロメートルになるようにレンズで集光しました。単一パルス照射によって、液膜から単一液滴を吐出し、ドナー基板に平行して設置されたレシーバー基板にドットとして印刷されました。


  • 研究の成果

 その結果、図2(a),(b)のような金属ナノ微粒子が密に充填された真円性・均質性の高いドットが印刷できました。この現象は、吐出された液滴が光渦の軌道角運動量によって自転運動すること、光渦照射によってできたキャビテーションバブルの収縮に伴って、収縮圧力が液滴に働くことから説明できます。印刷されたドットは、熱処理しなくても十分高い電気伝導を示します。

 一方、ガウシアンビーム(注3)を用いた従来のLIFTで転写されたドットは、図2(c),(d)のように、いびつでドット中のナノ微粒子も不均一に分布していることがわかります。また、ドット径も光渦の結果と比較してかなり大きく、周辺に多くの余分なインクや粉末であるデブリが散乱しています。このことは、光渦のトルクがインク液滴の自転運動を促したことで金ナノ微粒子の充填を促進したことを示唆しています。その結果、真円性・均質性の高いドットが印刷されます。


さらに、印刷したドットの位置精度(ドットを印刷したい位置から実際にドットが印刷された位置の距離差)を評価したところ、光渦LIFTはガウシアンビームを用いた通常のLIFTよりも半分以下の距離差となり、高い位置精度でドットを印刷できることが分かりました(図3(a),(b))。その結果、図3(c)に示すように金ナノインクの文字パターニングが可能になりました。さらに集光ビーム径を制御することで最小直径9マイクロメートル(通常のインクジェットで印刷できるドットの最小直径の半分程度)のドット印刷にも成功しました。この結果から、光渦LIFTは高精細かつ高分解能でねらった位置にドットを印刷できる革新的な印刷技術であることがわかります。




  • 研究者のコメント

 本研究成果を活用すると、金ナノインクの高精細な印刷が可能になるだけでなく、熱処理などの後処理がなくても十分な電気伝導を示す電気配線も可能となります。また、金ナノインクに限らず半導体材料等金属ナノコアの材料にも適用可能です。さらに生体材料を使用することで、バイオセンサーなどへの応用も期待できます。本研究で提供する光渦LIFTは、次世代プリンタブルエレクトロニクス・フォトニクスの基盤技術へと発展することが期待できます。


  • 用語解説

注 1) 光渦:同じ位相になる面(波面)が螺旋状になっており、円環型の強度分布をもつ光を光渦と呼ぶ。

注2)レーザー誘起前方転写法(LIFT):透明基板上に形成したドナー液膜に対してレーザーパルスを照射して、前方にドナー液滴を飛翔させて転写する印刷技術。原理的に転写できる物質の粘度や濃度に制限がない。

注3)ガウシアンビーム:平行な波面とガウス分布状の強度分布を持つ光。


  • 論文情報

・論文タイトル:High-definition direct-print of metallic microdots with optical vortex induced forward transfer

・著者:Rong Wei, Haruki Kawaguchi, Kaito Sato, Sayaka Kai, Keisaku Yamane, Ryuji Morita, Ken-ichi Yuyama, Satoyuki Kawano, Katsuhiko Miyamoto, Nobuyuki Aoki, Takashige Omatsu

・雑誌名:APL Photonics

・DOI:https://doi.org/10.1063/5.0187189


  • 研究プロジェクトについて

本研究は、科学研究費補助金基盤研究A、科学研究費補助金学術変革領域研究A「光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革」および科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われました。また、千葉大学分子キラリティー研究センター内における共同研究の成果です。


  • 参考文献

プレスリリース「光渦を照射するだけで微小液滴レーザーを直接印刷!-次世代プリンタブルフォトニクスへの応用に期待-」(2023年9月14日)

https://www.chiba-u.jp/news/files/pdf/230913_OV-LIFT_02.pdf


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会社概要

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業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月