キヤノンが次世代ディスプレイに適用可能なペロブスカイト量子ドットインクを開発 耐久性を向上し高画質ディスプレイへの応用に期待
ディスプレイデバイスの性能や画質は日々進歩を遂げています。中でもディスプレイの高画質化のニーズに応えるため、量子ドット(QD)を活用する動きが活発になっています。量子ドットは、高輝度で高い色純度の光を発光することのできる、直径数ナノメートルの半導体微粒子です。量子ドットを用いたディスプレイは色域が広く、表現力が高いとして注目されています。量子ドットには高い色純度と光の利用効率が求められ、加えて、環境配慮の視点から、これまで代表的な材料であったCd(カドミウム)を使用しないものへの関心が高まっています。
キヤノンはペロブスカイト量子ドットインクに注目し、開発を進めてきました。Cdフリー材料として、InP(リン化インジウム)量子ドットと並び注目されているペロブスカイト量子ドットは、色純度と光の利用効率がともに高く、高輝度・広色域・高解像度を兼ね備えたディスプレイを実現できることが期待されています。しかし、実用化に向けては耐久性の低さが課題となっていました。そこでキヤノンは、プリンターのインクやトナーの開発を通して培ってきた技術を応用し、独自の手法でペロブスカイト量子ドットに保護層を形成することで、色純度と光利用効率を保持したまま、実用可能な耐久性を実証したペロブスカイト量子ドットインクを開発しました。
InP量子ドットインクでは、ITU-R BT.2020(※3)の色域の88%をカバーしているのに対し、キヤノンのペロブスカイト量子ドットインクは94%をカバーすることが可能です(※4)。また、光の利用効率が高いため、消費電力を約2割(※5)削減することができると見込んでいます。本インクを用いることで、将来的にはこれまでは実現できなかった、量子ドットを用いた8Kなどの超高精細な有機ELディスプレイが実現できる可能性があります。
なお、本インクの技術開発の成果および高品質なペロブスカイト量子ドットを量産可能な技術について、米国・ロサンゼルスで開催のSID Display Week 2023において、2023年5月26日(現地時間)に口頭発表を行いました。
※1. T90=約1万時間。実際の使用環境相当である1000nit(明るさの度合いを示す単位)の青色光照射条件下において、輝度が初期の90%になるまでの時間。
※2. 2023年5月28日現在。(キヤノン調べ)
※3. ITU(国際電気通信連合)策定の UHDTV 放送方式の映像信号を規定する勧告。
※4. 赤色・緑色のインク硬化膜と適切な青色光源と組み合わせてディスプレイを構成した場合の試算。
※5. 現行の量子ドットを用いた有機ELテレビに適用した場合の試算。
〈開発したペロブスカイト量子ドットインクについて〉
●InP量子ドットインクでは、ITU-R BT.2020の色域の88%をカバーしているのに対し、キヤノンのペロブスカイト量子ドットインクは94%をカバーすることが可能。
●本インクを用いることで、画素サイズが小さい場合でも効率良く光を変換できるため、将来的にはこれまでは実現できなかった8Kなどの超高精細量子ドットディスプレイが実現できる可能性。
〈量子ドットを用いた有機ELディスプレイについて〉
●青色の光源を量子ドットによって赤色と緑色に変換。白い光源を用いる場合と比較し、色純度の高い赤色と緑色の光を得ることができ、より広い色域のディスプレイを実現することが可能。
〈ペロブスカイト量子ドットについて〉
●量子ドットの組成と粒径によって発光波長(色)を制御可能。
〈ペロブスカイト構造とは〉
ペロブスカイト構造とは、結晶構造の一種です。ペロブスカイト構造を構成する元素を変えることで超伝導、強誘電性、発光、光電変換などさまざまな特性を発現させることができ、機能性材料としての利用が期待されています。近年、安価で設置場所を選ばないペロブスカイト太陽電池が注目されています。
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