【岡山大学】謎に満ちたヒト脳の解明に挑む! ヒト脳の多階層な機能を計測できる革新的な脳イメージング技術 〜7テスラ超高磁場レイヤーfMRI〜

国立大学法人岡山大学

岡山大学は10学部・1プログラム、8研究科、4研究所、附属病院、附属学校を有する地域の中核となる総合大学型の国立大学法人です。
今回、最新の研究成果をわかりやすく紹介する「FOCUS ON」を2022年9月29日に発行しました。ぜびご覧ください!
2022(令和4)年 10月 10日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
 



<発表のポイント>
  • ヒトの脳は「内なる宇宙」と言われるほど謎に満ちており、ミクロな神経細胞から全脳にわたる多階層な脳機能の解明が求められています。
  • 超高磁場(7テスラ以上)磁気共鳴画像(MRI)システムを用いたレイヤーfMRI技術を開発し、ヒト大脳皮質レイヤーレベルの脳活動の計測に成功しました。
  • この技術は、現状の枠組みを突破したミクロな神経細胞とマクロな全脳をつなぐ皮質レイヤーの機能の理解を推進でき、ヒトの脳機能の全容解明に貢献できると期待されています。


◆発表者
  岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域 研究准教授 楊 家家
 (国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「創発的研究支援事業」採択研究者)
 

楊家家研究准教授楊家家研究准教授


◆概 要
 脳は、ヒトがヒトらしく生きるための根幹をなす「こころ」の基盤であると共に、身体全体を統合的に制御する機能を持っており、ヒトの脳機能の解明は現代科学最大のフロンティアです。現状の脳科学研究は、侵襲を伴う動物研究によるミクロレベルの脳の理解と、ヒトの非侵襲的脳イメージング研究によるマクロレベルの大局的な脳の理解に二極化されています。

 このように、ヒトと動物の根本的な種間差と脳計測モダリティの違いが障壁となり、それぞれの領域で専門化・細分化して進められてきました。この二極化は、脳がどのような情報処理によりヒトの高次な機能を生み出しているかの本質的な理解を阻害しています。

 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:槇野博史)学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の楊家家研究准教授のグループは、2019年4月にヒトの大脳皮質層(レイヤー)の活動を計測できる7テスラ超高磁場機能的磁気共鳴画像(fMRI)技術の開発に成功しました。さらに2022年1月に、同グループは、ヒトの触覚を司る第一次体性感覚野における予測誤差の処理に伴うレイヤー脳活動の計測に成功したなど多数の世界初の知見を見出しました。

 今後、この技術の普及により、現在脳科学分野のミクロとマクロの間のギャップを埋めることでき、ヒトの脳機能の全容解明に貢献できると期待されています。


◆導 入
 ヒトの脳は、約1000億個もの膨大な数の神経細胞が多段階の階層構造をもつ複雑な生体情報処理システムです。物質である神経細胞が可塑的なシナプス結合を介して神経連絡を形成し、さらに脳表面にある皮質層(レイヤー)間の特徴的な神経連絡の繰り返しによってより複雑な神経回路が構築され、高度な情報処理を可能にしています。
 また、その神経回路の破綻は、認知症などの神経疾患を引き起こし、日常生活に支障をきたしています。従って、脳の各階層における神経回路の動作原理の理解、それに基づいた神経疾患の病因解明および治療法の開発は極めて重要な課題となっています。


◆背 景
 ヒト大脳表面は厚さ2〜4mm程度の灰白質で覆われており、特徴的な形態と役割を持つ神経細胞が6層のレイヤー構造を成しています。厚さ数ミリほどの大脳皮質レイヤーは、外界環境の知覚・認知・判断などの様々な高次脳機能の中枢となっています。
 しかし、従来の技術ではヒト生体脳のレイヤーレベルの脳活動を計測できず、神経細胞や皮質レイヤーの機能について侵襲を伴う動物研究の知見に頼っている状況です。2000年代初頭にヒト用7テスラ(T)超高磁場磁気共鳴画像(MRI)システムが誕生したことにより、従来困難であった百ミクロン単位での大脳皮質レイヤーの活動を計測できる撮像法の開発に希望を与えました。
 それから約20年を過ぎた今でも、大脳皮質レイヤーの機能的な活動を計測できる撮像法は未だ確立されておらず、欧米中心の研究グループが開発に取り込んでいるのが現状です。
 岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の楊研究准教授は、日本で初めて7T-MRIを用いたレイヤーfMRI撮像法の開発に成功し、世界で初めてヒトの体性感覚野のレイヤー活動計測に成功しました。


◆研究内容・業 績
 MRIは、強い磁場の中でヒト体内にある水素原子(プロトン)の共鳴現象を利用して、内臓や筋肉などのプロトン密度の違いを画像化して、あらゆる病気の臨床診断に用いられています。1990年ごろに、脳神経活動に伴う血中酸素の濃度変化をMRIによって計測できることが証明されたのちに、この手法をfunctional MRIと名付けてヒトの脳機能理解に大いに貢献しています。
 一方で、一般的に用いられるfMRI信号(血中酸素濃度依存信号)は脳表面を走行する静脈の影響を受けるため、レイヤーレベルの脳活動信号を同定できないという大きな課題に直面しています。
 楊研究准教授は、脳局所の毛細血管の血液量変化に敏感なVASO信号を用いたレイヤー撮像法の開発に成功し、従来のfMRI信号に内在する課題を克服しました。そして、この超高磁場MRIを用いたfMRI技術を「レイヤーfMRI」と名付けて、ヒトの触覚認知の背後にある脳神経基盤の解明を目指した研究に応用しました。
 触覚情報は、皮膚内部にある受容器群によって検出され、脊髄や視床などを介して大脳皮質の一次体性感覚野(S1)の中間レイヤーに到着した後、レイヤー間と脳領域間の情報伝達を行い、ミクロからマクロに至る脳の各階層で分析・処理されると考えられます(図1)。
 

図1. ヒトの触覚情報処理の流れと一次体性感覚野のレイヤー構造図1. ヒトの触覚情報処理の流れと一次体性感覚野のレイヤー構造


 しかし、触覚情報のレイヤーレベルの処理機序の細部については未だ不明な点が多くあります。そのために、楊研究准教授らはヒトの予測する脳の性質に着目して、指先に刺激されるタイミングを予測する課題を設計して、ヒトのS1における予測および予測誤差のレイヤー脳機能を検討しました。その結果、 触覚信号がヒトS1の中間層に入力し、予測フィードバック信号がS1の表層と深層に入力することを世界で初めて明らかにしました(図2)。さらに、その後続研究により予測誤差の処理がS1の深層の活動と深く関係していることがわかりました。2022年に、楊研究准教授は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「創発的研究支援事業」に採択され、ヒト脳レイヤーイメージング研究分野の開拓に努めています
 

図2. ヒトのS1のレイヤー活動図2. ヒトのS1のレイヤー活動


◆展 望
 この技術普及により、ヒト脳機能の神経基盤の全容解明を促進すると期待されます。ミクロとマクロの両面からヒトの脳機能を理解することで、DALYs(疾患による生命と生活への損失指標)が医学疾患中、最大である神経疾患の理解と早期診断・治療法の開発につながると期待されます。

 

〇岡山大学における大学院生・若手研究者等支援の取組:研究准教授制度について
 岡山大学では、研究力強化促進と若手研究者育成などの観点から、優れた研究業績を有する研究者の全学を挙げた支援を実施しています。その支援のひとつとして、「准教授」が独立した研究代表者(PI:Principal Investigator)として活躍することを促進するため、「研究教授」の称号と研究費配分や研究活動の充実などのインセンティブを付与する「研究教授」制度を2018年度から実施しています。
 また、2020年4月からは、講師と助教を対象とした「研究准教授」制度を実施しています。
 今回の楊研究教授も2021年6月24日に「研究准教授」として選任し、9月23日に研究准教授の称号が槇野学長より付与されています。
 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/kenkyusha/research-professor/
 

岡山大学における大学院生・若手研究者等支援の取組岡山大学における大学院生・若手研究者等支援の取組



◆参 考
・岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科
 https://www.gisehs.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域 応用脳科学研究室
 https://sites.google.com/view/jiajiayang-jp
・岡山大学 工学部
 https://www.engr.okayama-u.ac.jp/


◆参考情報
・【岡山大学】楊 家家助教に岡山大学「研究准教授」の称号を付与
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000284.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学広報「いちょう並木」Vol.98を発行しました〔楊研究准教授の研究活動を特集〕
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000324.000072793.html
・【岡山大学】槇野学長と若手研究者(創発的研究支援事業、稲盛研究助成)の懇談会を開催しました
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000072793.html


◆参考情報:FOCUS ON
・【岡山大学】全身性エリテマトーデスで免疫力が低下する原因分子を同定
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000419.000072793.html
・【岡山大学】酵母が必要としている栄養素を酵母に語らせる技術を開発
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000516.000072793.html
・【岡山大学】神経内分泌腫瘍治療への新しい挑戦 ~新しい放射線治療の導入~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000582.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学病院麻酔科蘇生科におけるAcute Pain Serviceへの取り組み ~手術を受ける患者様への安全・安心・満足度向上を目指して~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000615.000072793.html
・【岡山大学】フェイクコンテンツの真偽判定技術 ~AIによるウソ発見器~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000703.000072793.html
・【岡山大学】新炭素材料Qカーボンでエネルギー・環境問題に挑戦
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000708.000072793.html
・【岡山大学】岡山の古墳人は「炊いたお米」を食べていた? 歯石内残留デンプン粒の検出から得られた新たな知見
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000772.000072793.html
・【岡山大学】医療ビッグデータを用いたデータサイエンスによって広がるドラッグリポジショニングの可能性
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000807.000072793.html
・【岡山大学】体中で高機能な抗体が作られる仕組みを解明し免疫能力の向上を目指す
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000920.000072793.html

 

岡山大学津島キャンパス(岡山市北区)岡山大学津島キャンパス(岡山市北区)



◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域 研究准教授 楊 家家
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス
 TEL:086-251-8053
 FAX:086-251-8266
 E-mail:yang◎okayama-u.ac.jp
      ※◎を@に置き換えて下さい。
 https://sites.google.com/view/jiajiayang-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0?authuser=0

<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:086-251-8463
 E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

 岡山大学メディア「OTD」(ウェブ):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000215.000072793.html
 岡山大学SDGsホームページ:https://sdgs.okayama-u.ac.jp/
 岡山大学SDGs~地域社会の持続可能性を考える(YouTube):https://youtu.be/Qdqjy4mw4ik
 産学共創活動「岡山大学オープンイノベーションチャレンジ」2022年10月期共創活動パートナー募集中:
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000905.000072793.html

 岡山大学『THEインパクトランキング2021』総合ランキング 世界トップ200位以内、国内同列1位!!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000072793.html
 岡山大学『大学ブランド・イメージ調査2021~2022』「SDGsに積極的な大学」中国・四国1位!!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000373.000072793.html
 岡山大学『企業の人事担当者から見た大学イメージ調査2022年度版』中国・四国1位!!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000072793.html

国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています

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設立
1949年05月