採用時の最低時給は1,167円人材確保を背景に最低賃金より112円高く「東京」が唯一1,300円超え、都市部と地方で格差が顕著に
最低賃金と採用時の最低時給に関する企業の実態調査(2024年9月)
毎年10月に改定される最低賃金。2024年の全国加重平均は、2023年より51円高い1,055円となった。
目標としていた全国加重平均1,000円を2023年に達成した政府は、次なる目標として2030年代半ばまでに1,500円を目指すことを「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針2024)で示している。また、2024年10月15日公示の衆議院選挙で各政党が2020年代に1,500円に引き上げることを選挙公約として掲げている。しかし、継続的な賃金の引き上げは、労働者の収入増加による消費の活性化などが期待される一方で、企業側からみると人件費上昇による収益の悪化などが懸念されている。
そこで、帝国データバンクは、最低賃金改定に対する企業の見解について、全国の企業に調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2024年9月調査とともに行った。
<調査結果(要旨)>
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従業員採用時の最低時給は平均1,167円、2024年改定の最低賃金を112円上回る
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業界別では、『金融』『不動産』がともに1,261円でトップ
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「東京都」は1,340円で唯一1,300円超、地域間での格差が顕著に
※ 採用時最低時給(平均値)は、小数点第1位を四捨五入している(日給、週給、月給の場合、時給に換算)
※ 調査期間は2024年9月13日~30日、調査対象は全国2万7,093社で、有効回答企業数は1万1,188社(回答率41.3%)
※ 本調査における詳細データは、帝国データバンクホームページ(https://www.tdb.co.jp)のレポートカテゴリにある協力先専用コンテンツに掲載している
※調査機関:株式会社帝国データバンク
従業員採用時の最も低い時給は平均1,167円、最低賃金時間額を112円上回る
正社員、非正規社員を問わず、従業員を採用するときの最も低い時給を尋ねたところ、全体平均は1,167円となり、改定後の最低賃金の全国加重平均1,055円を112円上回った。
業界別では、『金融』『不動産』がともに1,261円でトップとなった。以下、『建設』(1,249円)、『サービス』(1,208円)、『卸売』(1,175円)が続き、5業界で全体平均を上回った。特に、『サービス』を詳細にみると、「情報サービス」(1,374円)や経営コンサルタントなどを含む「専門サービス」(1,313円)で1,300円を超え、相対的に高い水準だった。他方、同じ業界でも「旅館・ホテル」(1,037円)や「飲食店」(1,051円)は2024年の最低賃金1,055円を下回る水準にとどまり、業界間だけでなく、同じ業界内でも差が大きいことが分かった。
都道府県別、「東京都」は1,340円で唯一1,300円超、一方で地域間での格差が顕著に
正社員、非正規社員を問わず、採用時の最低時給を都道府県別で比較すると、最も高かったのは「東京」の1,340円で、全国で唯一1,300円を超えた。以下、「神奈川」(1,277円)、「大阪」(1,269円)、「愛知」(1,208円)、「埼玉」(1,205円)と続き、「千葉」(1,202円)の5府県で1,200円台となった。とりわけ、「東京」においては、改定された最低賃金と採用時の平均時給の差額が+177円と最大だった。
一方で、「青森」(984円)、「秋田」(990円)、「鹿児島」(991円)の3県は最低時給の平均が1,000円を下回った。特に、「青森」は改定された最低賃金と採用時の平均時給の差額が最小で、その差額は+31円であった。なお、「秋田」「鹿児島」も+30円台後半の差額となっており、地方において差額が小さくなる傾向が表れた。
都道府県別の最低時給は、地域間の格差が顕著に表れるとともに、2024年度の最低賃金時間額と採用時の最低時給との間に乖離がみられた。
本調査の結果、従業員を採用するときの最低時給の、全体平均は1,167円となった。2024年改定後の最低賃金の全体平均1,055円を112円上回った。最低賃金での募集では継続的な従業員の確保が難しいため、最低賃金を上回る金額に引き上げざるを得ない企業が多いと考えられる。業界間で格差が表れるだけでなく、同じ業界内においても差異がみられた。また、物価の違いなどにより、地域間での格差が顕著に表れ、2024年度の最低賃金時間額と採用時の最低時給との間に乖離が生じていることが確認できた。
物価上昇が続くなかで「従業員の給料を上げることで消費を促す必要がある」といった声がある一方、「130万円の壁を超えないようにするため、労働時間を意図的に抑える従業員が増え、人手不足が加速する」という声も多数寄せられている。
政府は、最低賃金の引き上げを続けるだけではなく、人手不足や価格転嫁への対応、社会保障制度の改定など、企業の経営状況がひっ迫しないよう政策を打ち出していく必要があろう。
〈参考〉 企業からのコメント
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最低賃金はもっと上げるべきで、賃金を上げられない企業は淘汰されるべきと考える。若者の賃金が低く、人口のわりに活気がない(農林水産、広島県)
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役員報酬を下げて賃金を引き上げている(専門商品小売、栃木県)
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もっと最低賃金を上げるべきである。最低賃金が上がらないと賃金全体が上がらない。1,500円から1,800円くらいが妥当と考える(その他の卸売、神奈川県)
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新規・中途採用が難しくなってきており、最低賃金の引き上げ幅を上回る水準での賃上げが必要とされている状況(鉄鋼・非鉄・鉱業、大阪府)
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最低賃金の引き上げは仕方ないものと認識しているが、中小企業においては経費加算になる一方で、人員不足のままだと売り上げに響くばかりで不安でしかない (飲食料品小売、鹿児島県)
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就労意欲の向上も含め、労働者にとって良いことだと感じる。一方で、企業体力の弱い中小企業者にとっては厳しいものでもある (金融、新潟県)
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少し急激過ぎる。客先との交渉が増え困難さが増した(人材派遣・紹介、静岡県)
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正規、非正規の給料格差が縮まっており正規雇用者の離職につながることが懸念される (各種商品小売、愛知県)
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「130万円の壁」が変わらないなか、最低賃金ばかり上がって行くのは困る。労働者も労働時間が減るだけ、雇用者は人を増やさなければいけない(飲食料品卸売、岐阜県)
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