食欲の低下が心配だと思っている高齢者は約3%
実際には約3割で食欲が低下しているという結果に~食欲の低下は食事にも影響が~
フレイルとは、加齢とともに心身の活力が低下した、健康な状態と要介護状態の中間の状態を指します。放っておくと要介護につながる危険が高まる一方で、フレイルに早めに気づき適切な対策を行うことで、進行を防ぎ、健康寿命を延ばすことにつなげられる可能性もあります。東京都健康長寿医療センター研究所の研究によると、日本国内で、65歳以上の8.7%がフレイル、フレイルに移行する前の段階であるプレフレイルは40.8%と、2人に1人はフレイル・プレフレイルであったことが報告されています※1。
※1 Murayama et al. National prevalence of frailty in the older Japanese population: Findings from a nationally representative survey.
Arch Gerontol Geriatr. 2020 Aug 9;91:104220.
フレイルを加速させる原因のひとつとして“食欲の低下”が挙げられていますが、ある健康ニーズ調査において、男女60-70代の男女446名を対象に気になる体調について質問したところ、“食欲不振”が気になる人は3.4%(15名)しかおらず、食欲への関心は薄いことがわかりました。※2。
※2 出典 株式会社日本能率協会総合研究所 「健康ニーズ基本調査2022」
(首都圏15~79歳の男女n=1,600のうち、男女60-70代n=446の結果を抜粋。)
そんな中、6月に東京都健康長寿医療センター研究所の本川先生より客観的分析では約3割の人が食欲不振に該当し、食欲不振が食事にも影響することが報告されました。そこで今回は、フレイルを加速させる原因のひとつである“食欲の低下”に注目し、専門家に食欲と栄養摂取量の関わりについて最新の研究成果をお聞きしました。
<東京都健康長寿医療センター研究所 本川佳子先生インタビュー>
東京都健康長寿医療センター研究所
研究員 本川佳子先生
東京農業大学大学院修了、博士(食品栄養学)、急性期病院勤務を経て在宅栄養管理を行う。2015年から東京都健康長寿医療センター研究所非常勤研究員、2017年より現職。専門は高齢者の栄養疫学。趣味は読書(漫画)。
聞き手
森永乳業 健康栄養科学研究所
主任研究員 坂田穏行
2005年入社。入社後、工場への配属を経て、2010年より現職。現在は、栄養補助食品の研究に従事している。趣味は動画鑑賞。
坂田: 健康ニーズ調査の結果を見ると、ご自身の食欲の低下について気になっている方は多くないようです。食欲は私たちにとって非常に身近なものですが、高齢者にとって重要なポイントになるのでしょうか?
本川先生: 食欲は、フレイルの加速因子としてだけでなく、高齢者の栄養状態に影響するとても重要な要素であることが知られています。加齢による食欲不振は、空腹感を感じにくくなることや、消化管の運動機能の低下など様々な要因によってもたらされることが知られています。しかし、地域在住高齢者における食欲と栄養素等の摂取量についての実態調査はあまり実施されておらず、エビデンスを構築することが課題でした。
坂田:6月16-18日に開催された第65回日本老年医学会学術集会で調査結果をご発表いただきましたが、地域在住高齢者の食欲と栄養素等摂取量との関わりを明らかにするための調査を行ったということですね。
本川先生: 今回は東京都にお住いの65歳以上の地域在住高齢者630名を対象に調査しました。食欲は、SNAQ-Jという質問紙を使い、20点満点中14点以下を食欲不振としたところ、食欲良好な方は425名であったのに対し、食欲不振は205名と、約3割の方が該当しました。(図1)
図1 食欲不振者の割合
さらに、簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)という手法を用いて、栄養素等摂取量を調査しました。エネルギー産生栄養素である、たんぱく質、脂質、炭水化物の摂取量は、食欲不振による栄養素の偏りは大きくなかったものの、全体としてエネルギー摂取量が少ないことが分かりました。(表1)また、その他にも食欲不振者では、鉄、食物繊維、ビタミンC, Eの摂取量が少ないことが分かりました。(図2)
表1 食欲良好群と食欲不振群の栄養素等摂取量の比較
※ Row data中央値。()内は密度法による1000kcalあたりの摂取量
坂田:この調査に参加された方は、ご自身で会場まで来ることのできる元気な方々と伺っていますが、それでも約3割と非常に多くの方が食欲不振に該当したことに驚きました。また、食欲低下で栄養摂取量が減ってしまうことも感覚的には理解していましたが、数値として可視化されると、高齢者の栄養状態への影響の大きさを改めて認識しなおす必要があると感じました。食欲がない時こそ、しっかり栄養を取らないといけないということですね。
図2 食欲良好群を基準(100%)とした食欲不振群との摂取割合の比較
本川先生:地域在住高齢者において食欲不振は栄養素等摂取量に影響することが明らかになりましたので、今後、身体活動量の増加など、他の要因も含めた食欲不振の予防啓発と、食欲不振に該当する方へ適切な栄養ケアをしていくことが重要と考えています。
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https://prtimes.jp/a/?f=d21580-968-b5670e4090fb0fe529fa5895e3e40935.pdf
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