「メタボ」と「ロコモ」の深い関係を3万人超の健診データで解明― 50代から進行する運動機能の低下を予測する手がかりに―
千葉大学大学院医学研究院 中川 良特任准教授らの研究グループは、健診受診者のリアルワールドデータ(注1)を用いて、ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)とメタボリックシンドローム(以下、メタボ)(注2)の有病率とその関連性を解析し、両者が50代から重複して出現しやすいこと、および早期介入の重要性を明らかにしました。
本研究成果は、2025年4月19日に国際学術誌Scientific Reportsに掲載されました。
■研究の背景
ロコモは加齢に伴い進行する運動機能の低下を示し、将来的なフレイル(注3)や要介護状態につながる重要な前兆とされています。特に勤労者のロコモは腰痛や転倒と密接な関係があり、健康的な社会生活を維持していくために早期からの予防が重要とされ、積極的な対策が望まれています。一方、メタボは心血管疾患や糖尿病のリスクを高める病態であり、日本では特定健診等を通じて積極的な検出と介入が行われています。
本研究では、医療法人大宮シティクリニックの健診データベースを用いて、ロコモとメタボがどの年代から重なって出現するのかを明らかにし、予防介入の可能性を検討しました。
■研究の成果
本研究では、2021年度に健診を受けた35,059人(平均年齢50歳、標準偏差±9.6歳、男女比6:4)のデータを解析しました。ロコモは、日本整形外科学会の「ロコモ度テスト(注4)(立ち上がりテスト・2ステップテスト・ロコモ25)」に基づいて評価し、メタボは、米国のNational Cholesterol Education ProgramのAdult Treatment Panel IIIが提唱しているガイドラインに準じて判定しました。
その結果、ロコモは全体の約15%、メタボは約7.5%に該当することが明らかになりました。ロコモ該当者の割合は、メタボ該当者で約24%と、非メタボ該当者の約15%に比べて有意に高く、多変量解析においても、年齢や性別を調整したうえでメタボ該当者ではロコモのリスクが1.87倍に上昇することが示されました。メタボの有無に関係なく加齢に伴いロコモの割合は増加すると共に、全年齢でメタボのある者はメタボのない者と比べ、ロコモの割合が高いことも示されました(図1)。

特に50代の男女において、ロコモとメタボの重複率が高く、50代メタボ該当者のうち、男性の32.0%、女性の53.2%がロコモも併発しており、これは非メタボ該当者(男性15.2%、女性25.3%)の2倍以上に相当します(男性:2.11倍、女性:2.10倍)。また、ロコモとメタボの合併している50代の男女では腹囲と血糖値の有意な上昇とともに、高血圧、糖尿病、高脂血症の治療をしている人の割合が有意に高いことが示されました(表1)。

従来、ロコモは高齢者の足腰の衰えとして捉えられがちですが、本研究により、中高年期におけるメタボがロコモのリスク因子となることが統計的に示されました。ロコモとメタボの合併は、肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症といった代謝性疾患を悪化させるとともに、高齢期における要介護リスクをさらに高める可能性があります。
そのため、こうしたリスクを中年期の段階で早期に発見・介入するためにも、メタボとロコモの同時健診の導入が有効であると考えられます。
■今後の展望
本研究は、日本における健診制度を活用し、「ロコモ評価をメタボと併せて行うこと」の重要性を初めて示した大規模リアルワールド解析です。今後は、この知見をもとに、中年期からの包括的な健康評価システムの構築や、生活習慣指導の標準化へとつなげていく予定です。
■用語解説
注1)リアルワールドデータ:病院や健診施設などで日常的に集められる医療データのことで、実際の診療や健康診断を通じて得られた情報を指す。年齢や生活習慣の異なる多くの人々のデータを含んでおり、臨床試験とは異なる「現実の医療の姿」を反映しているのが特徴である。今回のように数万人規模の大規模(ビッグデータ)な解析に使うことで、より実生活に即した傾向や関連性を明らかにすることができる。
注2)メタボリックシンドローム(メタボ):内臓脂肪型肥満に加えて、高血圧・高血糖・脂質異常のうち2項目以上を併せ持つ状態。心血管疾患などの生活習慣病の発症リスクが高まる。
注3)フレイル:加齢に伴い、身体的・精神的・社会的な機能が全体的に衰えた状態。健康な状態と要介護の中間に位置づけられ、早期発見と予防介入が極めて重要とされている。
注4)ロコモ度テスト:日本整形外科学会が推奨する、ロコモティブシンドロームのスクリーニング手法。2つの運動試験(立ち上がりテスト、2ステップテスト)と、25項目の質問票(ロコモ25)の3種類で構成され、移動機能の状態を多角的に評価する(参考:日本整形外科学会ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト https://locomo-joa.jp/check/test)。
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の各機関に所属する研究者との共同研究体制により実施されました。本共同研究グループでは、健診データに基づいて中年期からのロコモの成り立ちを明らかにし、運動器の評価を含む包括的な健康指標の構築を目指しています。
- 中川 良 研究代表者 (千葉大学 大学院医学研究院 特任准教授)
- 山田 恵子(埼玉県立大学 保健医療福祉学部 准教授)
- 山口 智志(千葉大学 大学院国際学術研究院 准教授)
- 新井 智之(埼玉医科大学 保健医療学部 理学療法学科 准教授)
- 丸谷 康平(日本保健医療大学 理学療法科 准教授)
- 森山 優(医療法人大宮シティクリニック 副院長)
- 石橋 英明(伊奈病院 副院長/整形外科科長、ロコモチャレンジ!推進協議会副委員長)
また、本研究は一般社団法人日本人間ドック学会の学術委託研究の支援を受けて行われました。
■論文情報
論文タイトル:Prevalence and coexistence of locomotive syndrome with reduced mobility and metabolic syndrome: A cross-sectional study of 35,059 Japanese adults
雑誌:Scientific Reports
著者:Chihiro Goto, Kohei Maruya, Yasuhiro Morita, Tomoyuki Arai, Satoshi Yamaguchi, Keiko Yamada, Masaru Moriyama, Hideaki Ishibashi, Ryo Nakagawa
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