【ファンケル】保湿成分「ヒト型セラミド」の機能をさらに高めたナノカプセル(1)「液晶ニオソーム(2)」の開発に成功
― 水分蒸散を大幅に抑え、うるおいを守る新技術 ―
株式会社ファンケルは、スキンケア製品の保湿効果を高めることを目的にナノカプセルの研究を行ってきました。これまでに、保湿効果が高いヒト型セラミドをナノカプセルの一種であるニオソームに組み込んで安定配合することを実現しています。さらなる保湿性の向上を目指して、結晶性の高いヒト型セラミドを液晶(3)化してニオソームと組み合わせたところ、ヒト型セラミドだけを組み込んだニオソームよりも、保湿性に優れた「液晶ニオソーム」の開発に成功したことをお知らせします。
なお、本研究成果を、2025年9月に開催された「第63回 日本油化学会年会」(於:長野)にて発表しました。
【要約】
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ヒト型セラミド、フィトステロールズ、ステアリン酸ポリグリセリル-10を特定の比率で混合し、偏光顕微鏡(4)で確認して「液晶」状態を形成する条件を特定。これをニオソームの膜に取り込んで「液晶ニオソーム」を作製しました。
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作製した「液晶ニオソーム」は約150nmの球状で、20~40度の幅広い温度帯で従来の「セラミドニオソーム」より膜が柔らかいことを確認しました。
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肌上で起きる水分蒸発を模した条件で、「液晶ニオソーム」が巨大な線維状構造に変化。一方、従来の「セラミドニオソーム」は球状・棒状のままでした。
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メンブレンフィルター(5)を用いた水分透過試験で、「液晶ニオソーム」処理が水分の蒸発を顕著に抑制。液晶ニオソームの巨大な繊維状構造への変化が保湿性の維持や、肌のバリア機能の向上に寄与する可能性が示されました。
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研究背景として、セラミドは結晶性が高く膜を硬くしがちで、肌上で効果を発揮する形に変化しにくい課題がありました。液晶化してニオソームに組み込むことで柔軟性を持たせ、より効果的な保湿が得られることを狙ったものです。
【研究方法・結果】
<ヒト型セラミドを含む液晶組成物の作製に必要な比率を確認>
ヒト型セラミドを含む液晶組成物を作製するため、セラミド、フィトステロールズおよびステアリン酸ポリグリセリル-10をさまざまな比率で混合し、状態を偏光顕微鏡(4)で観察しました。その結果、三相図(6)(図1の左側)の●で示した比率において液晶を形成することが明らかになりました。■および▲で示した比率においては、それぞれ結晶、結晶と液晶が混在した状態となりました。また、結晶ができる比率では偏光顕微鏡で暗い画像しか得られないのに対し、液晶の場合はその構造に由来する微細な十文字に光る視野が認められました(図1の右側)。この結果から、特定の比率においてセラミドを含む液晶構造が形成されることが明らかになりました。

<液晶ニオソームの作製>
次にナノカプセルの一種であるニオソームを作るため、非イオン界面活性剤を保湿剤に溶解させ、水を加えました。非イオン界面活性剤には、親水基と親油基があり、水中で親油基が水を避けるように集まって向かい合うことで、ニオソームの膜が形成されます。このニオソーム膜の作製時にセラミドを含む液晶組成物を加えると、膜中に取り込まれて「液晶ニオソーム」が形成されます(図2)。
作製した「液晶ニオソーム」の粒子径測定とともに、透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察を行い、「液晶ニオソーム」は約150 nmほどの大きさで、球状の形態をとることを確認しました。

<ニオソーム膜の性質を確認>
「液晶ニオソーム」と、従来のセラミドのみを配合した「セラミドニオソーム」との膜の性質の違いを調べるために、蛍光測定(7)を用いてさまざまな温度帯でニオソームの膜流動性(柔軟性)を評価しました。温度帯は、室温および体温を想定して20~40度の条件としました。この試験において、ニオソームの膜流動性が高いほど、蛍光異方性(8)は低い値を示すことが知られています。
その結果、20~40度のいずれの温度帯においても、「液晶ニオソーム」は「セラミドニオソーム」よりも高い膜流動性を有していることが分かりました(図3)。つまり、セラミドを含む液晶組成物を配合することで、ニオソームの膜が柔らかくなっていることが明らかになりました。
<ニオソーム濃縮時の形態変化>
さらに、「液晶ニオソーム」と「セラミドニオソーム」を10倍に濃縮した際の微細構造をTEMにより観察しました。ここでの10倍濃縮は、スキンケア製品として肌に塗布した際、配合されている水分が蒸発して肌に残った状態を模倣したものです。

「セラミドニオソーム」は濃縮した後においても、ナノサイズの球状または棒状の構造を維持しているのに対し、「液晶ニオソーム」は巨大な繊維状の構造に変化していることが明らかになりました(図4)。
この構造変化について、現状で詳細なメカニズムは明らかになっていませんが、柔らかい膜を持つ「液晶ニオソーム」が濃縮された際に、ニオソームの膜が融合して巨大な繊維状の構造に変化したことが推察されます。
<水分透過抑制効果の検証>
「液晶ニオソーム」の機能を確認するため、ニオソームを塗布したメンブレンフィルターの水分透過抑制効果の検証を行いました。この試験では、「セラミドニオソーム」、「液晶ニオソーム」、水でそれぞれ処理した3種のメンブレンフィルターを用い、密閉した容器からの水分蒸発過程を観察しました。
図5は、縦軸が容器の重量変化、横軸が時間経過を表しており、時間経過による重量減少が大きいほど水分がメンブレンフィルターを透過して蒸発していることを示しています。

まず、水で処理したメンブレンフィルターでは、重量が直線的に減少し、水分透過を抑制する効果は無いことが分かりました。「セラミドニオソーム」で処理したものも水とほとんど同程度の結果でした。一方で、「液晶ニオソーム」で処理したメンブレンフィルターは容器からの水分の蒸発を顕著に抑制しました。この結果から、「液晶ニオソーム」が濃縮される際に形成された巨大な繊維状の構造(図4)が、からみあってメンブレンフィルターを閉塞し、水分蒸発を防いだと考えられます。
以上の結果から、「液晶ニオソーム」は、肌に塗布した場合においても、保湿性の維持やバリア機能の向上に寄与することが期待できます。
【研究背景・目的】
これまで当社ではさまざまな成分を用いたナノカプセルを作製し、特定の成分で作製したニオソームを用いることで、配合が難しかったヒト型セラミドを安定に配合できることを明らかにしてきました。一方で、セラミドは結晶性が高いことからニオソームの構造を強固にするため、肌に塗布した際にセラミドが効果を発揮できる形に変化しづらい懸念がありました。
そこで、本研究ではセラミドを他の成分と併せて液晶組成物(結晶性が低い状態)とし、それをニオソームと組み合わせることで、セラミドの保湿効果をより発揮できる、柔軟性の高い「液晶ニオソーム」の開発を目指しました。
【用語説明】
(1) ナノカプセル
粒子径がナノサイズ(1nm:10億分の1m)の球状の製剤。機能性成分を膜の内部や膜中に組み込むことで持続的な放出や標的部位まで届けるDDS(ドラッグデリバリーシステム)技術に応用される。
(2) ニオソーム
膜の構成成分が非イオン界面活性剤からなる二分子膜の閉鎖小胞体。リン脂質からなるリポソームと同様、DDS技術に応用される。
(3) 液晶
固体のように規則正しく並んでいる部分と、液体のように自由に動ける部分の両方の性質を併せ持った状態。
(4) 偏光顕微鏡
光の偏光(特定の方向にだけ振動する光)という性質を利用して、通常の顕微鏡では見ることが難しい試料の構造や特性を観察できる顕微鏡。
(5) メンブレンフィルター
特定のサイズの粒子を効率的に分離する薄い膜上のフィルター。
(6) 三相図
3種類の成分が混在する系において、それらの比率を表す図。
(7) 蛍光測定
物質に光(励起光)を照射し、その光によって励起された分子が放出する蛍光(発光)を検出することで試料の成分、構造、または状態を分析する手法。
(8) 蛍光異方性
蛍光を放射する分子の励起光と放射光の偏光方向の関係を解析する方法。分子の動き、形状、結合状態などを調べることができる。

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