寒さに強いマウスは、細胞も寒さに強い -哺乳類の低温耐性は細胞に宿る-〔理化学研究所、岡山大学〕

国立大学法人岡山大学

理化学研究所と岡山大学の共同プレスリリースです

2023(令和5)年 8月 20日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/



◆概 要

 理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター冬眠生物学研究チームの吹田晃享研修生(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生学教室博士課程4年)、砂川玄志郎チームリーダーらの共同研究グループは、休眠時の体温が特に低くなるマウス系統を見いだし、その細胞は培養下でも寒さに強いことを発見しました。


 本研究成果は、冬眠動物に特有の低温耐性の解明を進め、ヒトを含めた非冬眠動物を冬眠させる人工冬眠の実現や、その応用による救急医療、臓器保存の技術開発に貢献すると期待できます。


 マウスは冬眠しませんが、飢餓状態に置かれると日内休眠と呼ばれる一過性の低代謝状態に陥り飢餓を乗り越えようとします。その際に低代謝により体温が低下します。


 今回、共同研究グループは、休眠時の低体温が系統によって異なることを発見し、STM2という近交系マウスで休眠中の体温が特に低く保たれていること(最低体温22℃)を見つけました。冬眠動物の組織は、冬眠していなくても低温に強いことが知られています。STM2系統から樹立したES細胞を通常よりも低い温度で培養したところ、他の系統由来のES細胞と比べて、低温になってもミトコンドリアを使った代謝を維持していることが分かりました。さらに、STM2マウスから摘出した肝臓を組織培養した場合も、同様の低温耐性が確認できました。


 本研究は、科学雑誌『Cell Reports』オンライン版(2023年8月17日付:日本時間8月18日)に掲載されました。



3系統のマウスの休眠時の低体温と、ES細胞の低温培養時の代謝特性の比較3系統のマウスの休眠時の低体温と、ES細胞の低温培養時の代謝特性の比較



近交系マウス間で異なる飢餓性休眠の表現型近交系マウス間で異なる飢餓性休眠の表現型



グルコース消費量と乳酸産生量の比グルコース消費量と乳酸産生量の比



ES細胞の代謝様式の培養温度による変化を検証ES細胞の代謝様式の培養温度による変化を検証



培養温度で変化する肝臓切片の代謝様式培養温度で変化する肝臓切片の代謝様式



◆論文情報
<タイトル>
 Mouse embryonic stem cells embody organismal level cold resistance
<著者名>

 Koukyou Suita, Kiyomi Ishikawa, Mari Kaneko, Ayaka Wataki, Masayo Takahashi, Hiroshi Kiyonari, Genshiro A. Sunagawa
<雑誌>
 Cell Reports
<DOI>
 10.1016/j.celrep.2023.112954



◆共同研究グループ

理化学研究所 生命機能科学研究センター

冬眠生物学研究チーム

 研修生 吹田晃享(スイタ・コウキョウ)(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生学教室 博士課程4年)

 テクニカルスタッフII 石川清美(イシカワ・キヨミ)

 テクニカルスタッフII 砂川玄志郎(スナガワ・ゲンシロウ)

生体モデル開発チーム

 テクニカルスタッフⅠ 金子麻里(カネコ・マリ)

 チームリーダー 清成 寛(キヨナリ・ヒロシ)

網膜再生医療研究開発プロジェクト(研究当時)

 プロジェクトリーダー(研究当時)髙橋政代(タカハシ・マサヨ)(現 科技ハブ産連本部 バトンゾーン研究推進プログラム眼科領域遺伝子細胞治療研究チーム 客員研究員)



◆研究支援
 本研究は、理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究センタープロジェクト「休眠プロジェクト(研究代表者:砂川玄志郎)」)、日本学術振興会(JSPS)新学術領域研究『温度生物学』公募研究「近交系マウスを用いた低体温メカニズムの解明」(18H04706、研究代表者:砂川玄志郎)、同基盤研究(A)「哺乳類の低代謝機構を応用した革新的組織保存法の開発」(19H01066、研究代表者:髙橋政代、研究分担者:砂川玄志郎)、同学術変革領域研究(B)冬眠生物学~哺乳類の低代謝・低体温による生存戦略「能動的低代謝の分子機構:冬眠様低代謝の誘導による休眠省エネ機構の解明」(20H05767、研究代表者:砂川玄志郎)による助成を受けて行われました。



◆詳しい研究内容について

 寒さに強いマウスは、細胞も寒さに強い-哺乳類の低温耐性は細胞に宿る-

 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r5/press20230817-1.pdf



◆本件お問い合わせ先

<発表者> ※研究内容については発表者にお問い合わせください。
 理化学研究所 生命機能科学研究センター 冬眠生物学研究チーム
 チームリーダー  砂川玄志郎 (スナガワ・ゲンシロウ)
 研修生  吹田晃享 (スイタ・コウキョウ)
 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生学教室 博士課程4年)

<機関窓口>
 理化学研究所 広報室 報道担当
 TEL: 050-3495-0247

 岡山大学 総務・企画部 広報課
 TEL: 086-251-7292


<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:086-251-8463
 E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
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1949年05月