作物を病気に強くする遺伝子が害虫の成長を抑制 -作物の新しい病害虫防除技術の開発に貢献-〔農研機構, 岡山大学〕
2024(令和6)年 3月 24日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
農研機構と岡山大学は、イネのBSR1(ビーエスアールワン)遺伝子を強く働かせることにより、病害を防ぐだけでなく、葉を食べる害虫(クサシロキヨトウの幼虫)の成長を抑制することを明らかにしました。この発見は、作物を病原菌と害虫の両方に強くすることができる新しい病害虫防除技術の開発につながります。
◆概 要
農作物はさまざまな病原菌が引き起こす病害だけでなく、害虫による養分の吸汁や葉の食害等を受けます。このような多様な外敵に対して複数の化学農薬(殺菌剤や殺虫剤等)を使用した防除が行われており、化学農薬使用量低減に向けて病原菌と害虫との両方に有効な新しい防除技術が求められています。
農研機構はこれまでに、イネを病原菌から守る遺伝子(病害抵抗性遺伝子)の探索を他機関と共同で行ってきました。2010年には、イネいもち病菌など4種類の病原菌に対する病害抵抗性遺伝子BSR1をイネから発見し、その機能について調査を進めてきました。2023年2月には、このBSR1遺伝子を遺伝子組換え技術によりサトウキビ、トマト、トレニアに導入して強く働かせた場合でも、病原菌に対して抵抗性を示すことを明らかにしました。
今回、農研機構と岡山大学は、東京大学、東京理科大学と共同で、BSR1遺伝子を遺伝子組換え技術によりイネで強く働かせると、葉を食べる害虫(クサシロキヨトウの幼虫)に対する抵抗性が高まること、また、そのメカニズムにイネが生産する抗菌性化合物が関わることを明らかにしました。たった一つの遺伝子の働きが病原菌や害虫という幅広い外敵に抵抗性を示すことは珍しく、この発見は新しい病害虫防除技術の開発の糸口になると考えられます。
今後は、BSR1遺伝子の作用メカニズムをさらに詳細に解明するとともに、BSR1遺伝子の働きを強める技術を開発することにより、作物を病原菌と害虫の両方から守る新たな防除法につながると期待されます。また、幅広い種類の作物がBSR1に似た遺伝子を持っており、将来的にはこれらの作物に応用していくことも展望できます。
この成果は2023年6月20日に国際誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載され、2024年3月19日に農研機構と岡山大学から公開されました。
BSR1が害虫(クサシロキヨトウ)に対するイネの防御応答を制御する
害虫が植物を食べると、植物は傷口に付着した害虫の唾液等に反応して防御応答を起こします。今回の研究で、この防御応答のオン/オフをBSR1が制御していることがわかりました。さらに、防御応答がオンになったイネが蓄積するモミラクトンBという化合物が、害虫の体重増加を抑制する効果を示すこともわかりました
BSR1遺伝子を強く働かせたイネ(BSR1高発現イネ)のヨトウ虫抵抗性
2種類のBSR1高発現イネまたは通常のイネ(日本晴)をエサとしてクサシロキヨトウの幼虫を育てる実験を行いました。BSR1高発現イネをエサとして育てた幼虫では通常と比べて体重の増加が抑制されました
イネ由来の抗菌性化合物モミラクトンBによるヨトウ虫成長抑制効果
(A)イネの葉に傷をつけてクサシロキヨトウの唾液を塗るという食害を模した処理(疑似食害処理)を行いました。通常のイネでのモミラクトンBの蓄積量は検出限界以下だったのに対し、BSR1高発現イネでは有意に多く蓄積していました。なおこの処理をしない場合はほとんど蓄積していませんでした。(B)モミラクトンBをエサに添加して幼虫を育てたところ、通常のエサと比べて幼虫の体重増加が抑制されました
◆発表論文
BSR1, a Rice Receptor-like Cytoplasmic Kinase, Positively Regulates Defense Responses to Herbivory
Yasukazu Kanda, Tomonori Shinya, Satoru Maeda, Kadis Mujiono, Yuko Hojo, Keisuke Tomita, Kazunori Okada, Takashi Kamakura, Ivan Galis, & Masaki Mori
International Journal of Molecular Sciences
https://doi.org/10.3390/ijms241210395
◆予 算
科学研究費補助金(20H02953、21H02196、21K05506)
◆詳しい研究内容について
作物を病気に強くする遺伝子が害虫の成長を抑制-作物の新しい病害虫防除技術の開発に貢献-
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r5/press20240319-1.pdf
◆本件お問い合わせ先
研究推進責任者:農研機構 生物機能利用研究部門所長 中島信彦
研究担当者:同 作物生長機構研究領域研究員 神田恭和
岡山大学資源植物科学研究所教授 Galis Ivan、准教授 新屋友規
広報担当者:農研機構 生物機能利用研究部門 研究推進室 小川智子
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