【岡山大学】ラットがヒトの手に懐く神経回路メカニズムを解明~「愛情ホルモン」オキシトシンが鍵!~

国立大学法人岡山大学

2025(令和7)年 6月 12日
国立大学法人岡山大学

https://www.okayama-u.ac.jp/

<発表のポイント>

  • ラットがヒトの手に懐くプロセスを支える、脳内のオキシトシン神経回路メカニズムを明らかにしました。

  • 特定脳領域(VMHvl)がオキシトシンを介して、心地よい触覚刺激の効果を仲介することを発見しました。

  • 種を超えた社会的絆形成の神経基盤を明らかにし、動物介在療法(アニマルセラピー)や愛着障害の理解に新たな視点をもたらしました。

◆概 要

 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)大学院自然科学研究科博士後期課程でOU-SPRING生※である林姫花大学院生(研究当時。現、学術研究院環境生命自然科学学域(理)助教(特任))、学術研究院環境生命自然科学学域(理)の坂本浩隆教授(神経内分泌学)と、自治医科大学、島根大学、日本医科大学、独国ハイデルベルク大学などの国際研究グループは、ラットがヒトの手に懐くプロセスを支える脳内のオキシトシン神経回路メカニズムを明らかにしました。


 本研究では、若年期〜思春期のラットの同腹仔間にみられる「じゃれあい」を模した、ヒトの手による「ハンドリング」を連続して行うと、ラットがヒトの手に強い愛着を示すようになることを見いだしました。この過程で、視床下部腹内側核腹外側部(VMHvl)のオキシトシン受容体が活性化し、それがラットの愛着行動に不可欠であることを発見しました。


 実験では、ハンドリングを受けたラットは快感の証拠である50kHzで超音波発声し、自らヒトの手に近づくようになりました。また、条件付け場所選好試験においても、ラットはハンドリングを受けた場所を好むようになりました。


 さらに、研究チームは薬理遺伝学(DREADDs)技術を用いてVMHvlのオキシトシン受容体を持つニューロンの機能を一時的に抑制すると、ラットのヒトの手に対する愛着行動が減少することを発見しました。加えて、解剖学的解析により、視索上核(SON)からVMHvlへの直接的な神経連絡を同定し、この神経回路がラットとヒトの手との間の愛着形成を調節していることを示しました。


 この研究成果は、心地よい触覚刺激がオキシトシンを介して種を超えた社会的絆を形成するという新たな知見を提供するものであり、動物介在療法(アニマルセラピー)や愛着障害の理解、さらには新しい治療法開発に貢献することが期待されます。


 この研究成果は、2025年6月5日付で国際学術誌「Current Biology」電子版に掲載されました。

※OU-SPRING生

 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「次世代研究者挑戦的研究プログラム」を用いて、大学院の博士後期課程又は博士課程に進学する優秀な人材の確保を図るとともに、岡山大学の「最重点研究分野」の研究を推進する若手研究者の養成、ひいては、我が国の科学技術・イノベーション創出を担う研究者の養成等を目的に運用している制度です。選抜されたOU-SPRING生には、研究奨励費(生活費相当)と研究費を支給し、より研究に専念できる環境を提供しています。

 https://www.ou-spring.orsd.okayama-u.ac.jp/

視床下部のオキシトシン系がラットとヒトの手の間の愛着形成を促進する

◆坂本浩隆教授と林姫花特任助教からのひとこと

<坂本浩隆教授>

 ラットがヒトの手に懐くという身近な現象の裏に、脳内の精巧な“愛着回路”が隠れていたとはっ!ふと思い返せば、どんな動物も最初は警戒心を示しますが、私たちが根気強く優しく接すると次第に懐いてくるものです。実は、人間も動物もオキシトシンという分子が紡ぐ、見えない赤い糸でつながっていたのです。
 この研究は、単にラットの行動を説明するだけでなく、種を超えた絆がどのように形成されるのか、その普遍的なメカニズムに光を当てています。愛情ホルモンが仲介する脳の変化を理解することで、アニマルセラピーの効果から自閉症の新たな支援法まで、幅広い応用が期待できるかもしれません。

坂本浩隆教授

<林姫花特任助教>

 ずっと不思議に思っていた「動物同士が仲良くなる仕組み」が、ほんの少し解明できたのではないでしょうか!くすぐりでさえラットの脳内化学を変えるなら、誰かと懇ろになったり、誰かに恋焦がれたりするとき、私たちの脳内でもオキシトシンが化学反応を起こしているのかもしれません…。古の詩人が言霊で表現してきた絆の神秘を、科学がようやく分子レベルで追いはじめたのかもしれません。

林姫花特任助教

◆論文情報
 論文名: Oxytocin facilitates human touch-induced play behavior in rats
     「オキシトシンはラットとヒトの種を超えた絆形成を促進する」
 掲載誌: Current Biology
 著 者: Himeka Hayashi, Sayaka Tateishi, Ayumu Inutsuka, Sho Maejima, Daisuke Hagiwara, Yasuo Sakuma, Tatsushi Onaka, Valery Grinevich & Hirotaka Sakamoto*(*責任著者)
 D O I:https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.05.034
 U R L:https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.05.034

◆研究資金
 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(#23K23919; #22H02656; #22K19332)、岡山大学次世代研究拠点形成支援事業(拠点代表者:坂本浩隆)、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、両備檉園記念財団、ウエスコ学術振興財団、東洋水産財団、日本応用酵素協会、岡山大学次世代研究者挑戦的研究プログラム(OU-SPRING, #JPMJSP2126)からの支援を受けて実施されました。また、本論文は「岡山大学インパクトの高い国際的な学術誌へのAPC支援」を受けています。

◆詳しい研究内容について
 ラットがヒトの手に懐く神経回路メカニズムを解明~「愛情ホルモン」オキシトシンが鍵!~

 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20250605-1.pdf

◆参 考

・岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(理)神経行動研究室

 https://sites.google.com/view/okadaishinkeikodo/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

・岡山大学次世代研究者挑戦的研究プログラム(OU-SPRING)

 https://www.ou-spring.orsd.okayama-u.ac.jp/

◆参考情報1

【岡山大学】性的傾向が指に現れる?〜ラットの指の長さが行動のカギに~

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003148.000072793.html

◆参考情報2

・【岡山大学】文部科学省主催「未来の博士フェス2024」に参加した岡山大学大学院生らが那須保友学長を表敬訪問~社会変革の起爆剤となる高度専門人材(ナレッジワーカー)としての博士人材の育成・輩出へ~

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002453.000072793.html

・【岡山大学】岡山大学次世代研究者挑戦的研究プログラム対象大学院生が文部科学省主催「未来の博士フェス2024」に参加し、アサヒ賞を受賞!~社会変革の起爆剤となるナレッジワーカーとしての博士人材を推進~

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002404.000072793.html

・【岡山大学】岡山から次を拓くナレッジワーカーとしての博士人材を ~2023年度岡山大学科学技術イノベーション創出フェローシップ(OUフェローシップ)「研究成果報告会」を開催~

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001703.000072793.html

・【岡山大学】林姫花さん(大学院自然科学研究科) 令和4年度日本動物学会中国四国支部 若手研究者優秀発表賞を受賞

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000705.000072793.html

岡山大学津島キャンパス(岡山市北区)

◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(理)
  教授 坂本浩隆
  特任助教 林姫花
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス

 TEL:086-251-8656

 https://sites.google.com/view/okadaishinkeikodo/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究・イノベーション共創機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:086-251-8463
 E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
     ※ ◎を@に置き換えて下さい
 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

<岡山大学の研究機器共用(コアファシリティ)などに関するお問い合わせ先>

 岡山大学研究・イノベーション共創機構 機器共用推進本部

 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階

 TEL:086-251-8745、086-251-8746
 FAX:086-251-8748

 E-mail:cfp◎okayama-u.ac.jp

     ※ ◎を@に置き換えて下さい

 https://fspp.kikibun.okayama-u.ac.jp/


<岡山大学のスタートアップ・ベンチャーなどに関するお問い合わせ先>

 岡山大学研究・イノベーション共創機構 スタートアップ・ベンチャー創出本部

 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
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     ※ ◎を@に置き換えて下さい

 https://venture.okayama-u.ac.jp/


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 岡山大学SDGs~地域社会の持続可能性を考える(YouTube):https://youtu.be/Qdqjy4mw4ik
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 産学共創活動「岡山大学オープンイノベーションチャレンジ」2025年4月期共創活動パートナー募集中:

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003002.000072793.html

国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています。地域中核・特色ある研究大学として共育共創を進める岡山大学にご期待ください

  • 岡山大学 文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択~地域と地球の未来を共創し、世界の革新の中核となる研究大学:岡山大学の実現を加速とともに世界に誇れる我が国の研究大学の山脈を築く~

    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001935.000072793.html

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会社概要

国立大学法人岡山大学

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業種
教育・学習支援業
本社所在地
岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟
電話番号
086-252-1111
代表者名
那須保友
上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月