パーソル総合研究所、対面と非対面におけるコミュニケーションへの影響に関する実験結果を発表
メタバース空間におけるVRアバターを介した営業は、精神的ストレスを受けにくい ただし、初対面では誤解を生みやすいリスクも
株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、大森隆司名誉教授(玉川大学)らと共同研究を実施し、対面と非対面(VRアバター、Web会議)のコミュニケーションの違いに関する実験結果を発表いたします。本研究では、対面と非対面の形態の違いがコミュニケーションに引き起こす影響について、データに基づき解明するための基礎的実験を行いました。今後の研究の仮説生成と共に、VRアバターを介したさまざまな営為に対する現時点での注意喚起や利活用の促進に資することを目的としています。
■ 実験方法
・ 実験手順:「対面営業(以下、対面)」「VRアバター営業(以下、VRアバター)」「Web会議*営業(以下、Web会議)」の3つのコミュニケーション形態において、「Ⅰ.アンケートデータ」「Ⅱ.心拍データ」「Ⅲ.映像・音声データ」を用いて比較分析。 *Web会議は画面に「顔出し」で実施。
・ 実験対象者:協力企業(IT系広告会社)の営業担当者13名。うち、営業経験4年以上の20代~30代男女が6名(営業熟練者)、営業経験4年未満の20代男女が7名(営業非熟練者)。
・ 使用機材:心拍計「POLAR 腕装着型」、全方位カメラ「コダック PIXPRO SP360 4K」、Web会議ツール「Zoom」、Head Mounted Display (HMD)「Meta quest 2」、VRアバター「Workrooms」。
・ 実験用シナリオ(商談場面設定):日常的な商談場面に近い状況で実験を行うため、営業部門責任者への事前インタビューを基に、次の3種類のシナリオを用意。
■ 実験結果
Ⅰ.アンケートデータ
① 「自分の意図が伝わった」「相手の意図を理解できた」と感じる度合いは、「対面」が最も高い傾向
実験対象の営業担当者13名に対し、3つのコミュニケーション形態それぞれを体験した直後に、「相手に意図が伝わったと感じたか(意図の発信)」、「相手の意図が理解できたと感じたか(意図の受信)」、「精神的な安定度合いはどうだったか(心理的負荷)」の3点を確認したところ、意図の発信・受信ともに「対面」が最も高い評価となった。心理的負荷については、「VRアバター」が最もストレスを受けないという結果となった【図1】。
なお、営業熟練者群では、「Web会議」と「対面」はほぼ同じ傾向であったが、「VRアバター」は意図の発信・受信ともに低評価であった【図2】。
図1.意図の発信・受信、心理的負荷についてのアンケート結果(被験者全体)
営業場面を体験した被験者の感性評価をコミュニケーション形態別に分析しところ、「対面」は、やや「動的」「機敏な」といった印象を抱き、他の形態と比較して「近く」「信用できる」ものの「緊張した」と評価していた。「VRアバター」は、やや「軽い」印象を抱き、他の形態と比較して「わくわく」するものの「嘘くさい」と評価していた。「Web会議」は、やや「静的」「地味な」「暗い」「陰気な」「鈍い」「退屈な」「遠い」といった印象を抱きつつも、他の形態と比較して「誇らしい」と評価していた【図3】。
図3.コミュニケーション形態による感性評価 (被験者全体)
被験者(13名)に対し、3つのコミュニケーション形態(対面・VRアバター・Web会議)ごとに3種類のシナリオ(A・B・C)を設定し、商談実験を実施。各コミュニケーション形態における平均心拍数より、コミュニケーション形態等の特徴を確認した。
③ 「対面」での「初対面(実験1回目)」は心拍数が高くなるが、「VRアバター」「Web会議」では高くならない
コミュニケーション形態別に測った心拍数を、実験順(実験状況への慣れによる影響を考慮)と、3種類のシナリオ別に比較分析したところ、被験者全体で平均心拍数が最も高かったのは「対面」であった【図4左上表】。対面のコミュニケーションは営業担当者にとって緊張度の高い場面であると考えられる。ただし、「対面」の心拍数が高いのは、実験順が1回目の「初対面」に限られており、それ以外の回ではそう高い結果ではなかった【図4青▼部分】。それに比べ、「VRアバター」や「Web会議」は、初対面でも心拍数は高くならないという結果が得られた。なお、実験順やシナリオにかかわらず全般的に、営業熟練者の平均心拍数は、非熟練者の平均心拍数より低い傾向も確認された。
図4.コミュニケーション形態による心拍数の比較(実験順×シナリオの組み合わせ別)
3つのコミュニケーション形態における被験者(13名)の営業場面を撮影した動画に対し、専門職者が意味づけ記録を行う「アノテーション」により、特徴的な行動傾向を分析した。
④ 高圧的な態度をとる営業相手には、営業経験年数にかかわらず緊張度が高まるが、
「対面」よりも、「VRアバター」や「Web会議」などのオンライン環境のほうが心拍数を低く抑えられる
3種類のシナリオのうち、「シナリオC」は最も非定型であり、高圧的な態度を取る相手に対し、言いにくい悪い成果報告をしなければならないという緊張を強いられる場面の多い内容であった。その「シナリオC」では、営業経験の多寡にかかわらず、被験者全体に心拍数が高い傾向が見られた。また、心拍数が大きく増える場面では、表情変化や身振り、声量/発話スピードの変化といった特徴的な行動が多い傾向にあった。ただし、「対面」に比べると、「VRアバター」や「Web会議」などのオンライン環境のほうが、心拍数が低いという傾向が確認された【図5】。
図5.高圧的な態度をとる相手との商談時の心拍変化
■分析コメント
~ストレス低減のメリットがある一方、意思疎通には課題がある「VRアバター営業」、技術進展の先に広がる新しい働き方の可能性に期待~
このような市場動向に対応し、今後は仮想空間内でアバターを介して営業や販売などを行う新たな専門人材のニーズが高まることも想定される。仮想空間内での新たな仕事が生まれれば、はたらく時間や地域に制限がある人々や、年齢による体力の衰え、病気や障害があることなどによって就業機会が限られていた人々にも、より柔軟に就業機会の提供が可能となるだろう。
今回の実験では、HMDを用い、VRアバターを介して仮想空間内で実施する商談において、VRアバターを介することで過度な緊張を回避できる可能性などが示唆された。他方で、対面やWeb会議のように相手の表情などから十分な情報を得ることができず、声や会話内容とデフォルメされたVRアバターとのアンマッチによって、ユーザーの意図に反した誤解が生じるリスクも示唆された。実験後の被験者に対するインタビューでは、VRアバターの活用場面として、「初対面の相手よりも、一定の《人となり》を承知している相手との対話などに向いていると思う」、「営業的な説明・折衝場面よりも、複数人でアイディア発想するなど創造的ワークに利点があるのではないか」といった意見もあった。今回の実験は13名に限定した予備的な実験であるため、今後こうした仮説をさらに検証していく必要がある。
また、メタバース黎明期である今日、乗り越えるべき技術的課題や法整備、ユーザーのリテラシーなどの課題は少なくない。しかし、メタバースの世界では、ユーザー一人ひとりが自分というアイデンティティを、アバターを通じて多様に変化させたり拡張したりできる点で、これまでにない新たな働き方の提案にもつながる可能性も秘めている。そんなメタバースが開く新たな世界(Well-being Society)に大いに期待したい。
*¹ 総務省「令和4年版 情報通信白書」
・ 本実験結果を引用いただく際は、下記の出所を記載してください。
パーソル総合研究所&玉川大学 「メタバース社会における対人インタラクション研究(Phase1)」
・ 実験結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/metaverse.html
■調査概要
■【株式会社パーソル総合研究所】<https://rc.persol-group.co.jp/>について
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
■【PERSOL(パーソル)】<https://www.persol-group.co.jp/>について
パーソルグループは、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに、人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、ITアウトソーシングや設計開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開しています。グループの経営理念・サステナビリティ方針に沿って事業活動を推進することで、持続可能な社会の実現とSDGsの達成に貢献していきます。また、人材サービスとテクノロジーの融合による、次世代のイノベーション開発にも積極的に取り組み、市場価値を見いだす転職サービス「ミイダス」、テクノロジー人材のエンパワーメントと企業のDX組織構築支援を行う「TECH PLAY」、クラウド型モバイルPOSレジ「POS+(ポスタス)」などのサービスも展開しています。
・ 実験手順:「対面営業(以下、対面)」「VRアバター営業(以下、VRアバター)」「Web会議*営業(以下、Web会議)」の3つのコミュニケーション形態において、「Ⅰ.アンケートデータ」「Ⅱ.心拍データ」「Ⅲ.映像・音声データ」を用いて比較分析。 *Web会議は画面に「顔出し」で実施。
・ 実験対象者:協力企業(IT系広告会社)の営業担当者13名。うち、営業経験4年以上の20代~30代男女が6名(営業熟練者)、営業経験4年未満の20代男女が7名(営業非熟練者)。
・ 使用機材:心拍計「POLAR 腕装着型」、全方位カメラ「コダック PIXPRO SP360 4K」、Web会議ツール「Zoom」、Head Mounted Display (HMD)「Meta quest 2」、VRアバター「Workrooms」。
・ 実験用シナリオ(商談場面設定):日常的な商談場面に近い状況で実験を行うため、営業部門責任者への事前インタビューを基に、次の3種類のシナリオを用意。
- シナリオA:新規顧客に対し、自社サービスを提案するが、対する顧客は無表情で反応が悪い
- シナリオB:新規顧客に対し、自社サービスを提案するが、懐疑的で厳しい質問が次々にされる
- シナリオC:担当変更挨拶とともに受託案件の悪い成果報告を行うが、前任者や成果に対し、厳しい反応
■ 実験結果
Ⅰ.アンケートデータ
① 「自分の意図が伝わった」「相手の意図を理解できた」と感じる度合いは、「対面」が最も高い傾向
実験対象の営業担当者13名に対し、3つのコミュニケーション形態それぞれを体験した直後に、「相手に意図が伝わったと感じたか(意図の発信)」、「相手の意図が理解できたと感じたか(意図の受信)」、「精神的な安定度合いはどうだったか(心理的負荷)」の3点を確認したところ、意図の発信・受信ともに「対面」が最も高い評価となった。心理的負荷については、「VRアバター」が最もストレスを受けないという結果となった【図1】。
なお、営業熟練者群では、「Web会議」と「対面」はほぼ同じ傾向であったが、「VRアバター」は意図の発信・受信ともに低評価であった【図2】。
図1.意図の発信・受信、心理的負荷についてのアンケート結果(被験者全体)
図2.意図の発信・受信、心理的負荷についてのアンケート結果(営業熟練度別)
② 対面は「近く」「信用できる」が「緊張した」、VRアバターは「わくわく」するが「嘘くさい」、Web会議は「誇らしい」
営業場面を体験した被験者の感性評価をコミュニケーション形態別に分析しところ、「対面」は、やや「動的」「機敏な」といった印象を抱き、他の形態と比較して「近く」「信用できる」ものの「緊張した」と評価していた。「VRアバター」は、やや「軽い」印象を抱き、他の形態と比較して「わくわく」するものの「嘘くさい」と評価していた。「Web会議」は、やや「静的」「地味な」「暗い」「陰気な」「鈍い」「退屈な」「遠い」といった印象を抱きつつも、他の形態と比較して「誇らしい」と評価していた【図3】。
図3.コミュニケーション形態による感性評価 (被験者全体)
Ⅱ.心拍データ
被験者(13名)に対し、3つのコミュニケーション形態(対面・VRアバター・Web会議)ごとに3種類のシナリオ(A・B・C)を設定し、商談実験を実施。各コミュニケーション形態における平均心拍数より、コミュニケーション形態等の特徴を確認した。
③ 「対面」での「初対面(実験1回目)」は心拍数が高くなるが、「VRアバター」「Web会議」では高くならない
コミュニケーション形態別に測った心拍数を、実験順(実験状況への慣れによる影響を考慮)と、3種類のシナリオ別に比較分析したところ、被験者全体で平均心拍数が最も高かったのは「対面」であった【図4左上表】。対面のコミュニケーションは営業担当者にとって緊張度の高い場面であると考えられる。ただし、「対面」の心拍数が高いのは、実験順が1回目の「初対面」に限られており、それ以外の回ではそう高い結果ではなかった【図4青▼部分】。それに比べ、「VRアバター」や「Web会議」は、初対面でも心拍数は高くならないという結果が得られた。なお、実験順やシナリオにかかわらず全般的に、営業熟練者の平均心拍数は、非熟練者の平均心拍数より低い傾向も確認された。
図4.コミュニケーション形態による心拍数の比較(実験順×シナリオの組み合わせ別)
Ⅲ.映像・音声データ
3つのコミュニケーション形態における被験者(13名)の営業場面を撮影した動画に対し、専門職者が意味づけ記録を行う「アノテーション」により、特徴的な行動傾向を分析した。
④ 高圧的な態度をとる営業相手には、営業経験年数にかかわらず緊張度が高まるが、
「対面」よりも、「VRアバター」や「Web会議」などのオンライン環境のほうが心拍数を低く抑えられる
3種類のシナリオのうち、「シナリオC」は最も非定型であり、高圧的な態度を取る相手に対し、言いにくい悪い成果報告をしなければならないという緊張を強いられる場面の多い内容であった。その「シナリオC」では、営業経験の多寡にかかわらず、被験者全体に心拍数が高い傾向が見られた。また、心拍数が大きく増える場面では、表情変化や身振り、声量/発話スピードの変化といった特徴的な行動が多い傾向にあった。ただし、「対面」に比べると、「VRアバター」や「Web会議」などのオンライン環境のほうが、心拍数が低いという傾向が確認された【図5】。
図5.高圧的な態度をとる相手との商談時の心拍変化
※上の図は高圧的な相手と対峙した際に高い心拍数を示した2名(代表例)の心拍変化。色分けされた円部分は、各実験での心拍の揺らぎが確認され、かつ、アノテーションによる意味づけ可能箇所
■分析コメント
~ストレス低減のメリットがある一方、意思疎通には課題がある「VRアバター営業」、技術進展の先に広がる新しい働き方の可能性に期待~
メタバースの世界市場は、2021年に4兆2,640億円だったものが2030年には78兆8,705億円にまで成長するとの試算*¹もあり、今後は、先行するゲームやエンタメ業界以外のビジネス場面においても「メタバース」という用語を耳にする機会が増えていくことだろう。
このような市場動向に対応し、今後は仮想空間内でアバターを介して営業や販売などを行う新たな専門人材のニーズが高まることも想定される。仮想空間内での新たな仕事が生まれれば、はたらく時間や地域に制限がある人々や、年齢による体力の衰え、病気や障害があることなどによって就業機会が限られていた人々にも、より柔軟に就業機会の提供が可能となるだろう。
今回の実験では、HMDを用い、VRアバターを介して仮想空間内で実施する商談において、VRアバターを介することで過度な緊張を回避できる可能性などが示唆された。他方で、対面やWeb会議のように相手の表情などから十分な情報を得ることができず、声や会話内容とデフォルメされたVRアバターとのアンマッチによって、ユーザーの意図に反した誤解が生じるリスクも示唆された。実験後の被験者に対するインタビューでは、VRアバターの活用場面として、「初対面の相手よりも、一定の《人となり》を承知している相手との対話などに向いていると思う」、「営業的な説明・折衝場面よりも、複数人でアイディア発想するなど創造的ワークに利点があるのではないか」といった意見もあった。今回の実験は13名に限定した予備的な実験であるため、今後こうした仮説をさらに検証していく必要がある。
また、メタバース黎明期である今日、乗り越えるべき技術的課題や法整備、ユーザーのリテラシーなどの課題は少なくない。しかし、メタバースの世界では、ユーザー一人ひとりが自分というアイデンティティを、アバターを通じて多様に変化させたり拡張したりできる点で、これまでにない新たな働き方の提案にもつながる可能性も秘めている。そんなメタバースが開く新たな世界(Well-being Society)に大いに期待したい。
*¹ 総務省「令和4年版 情報通信白書」
・ 本実験結果を引用いただく際は、下記の出所を記載してください。
パーソル総合研究所&玉川大学 「メタバース社会における対人インタラクション研究(Phase1)」
・ 実験結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/metaverse.html
■調査概要
■【株式会社パーソル総合研究所】<https://rc.persol-group.co.jp/>について
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
■【PERSOL(パーソル)】<https://www.persol-group.co.jp/>について
パーソルグループは、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに、人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、ITアウトソーシングや設計開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開しています。グループの経営理念・サステナビリティ方針に沿って事業活動を推進することで、持続可能な社会の実現とSDGsの達成に貢献していきます。また、人材サービスとテクノロジーの融合による、次世代のイノベーション開発にも積極的に取り組み、市場価値を見いだす転職サービス「ミイダス」、テクノロジー人材のエンパワーメントと企業のDX組織構築支援を行う「TECH PLAY」、クラウド型モバイルPOSレジ「POS+(ポスタス)」などのサービスも展開しています。
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