【第1回】百年先も、美味しい日本茶が飲めるのか?
急成長の時間軸と、50年先へ繋ぐ精神性の時間軸を重ね合わせて
世界的な変化の中で、問い直すこと
いま、世界中で「MATCHA」をはじめとする日本茶の価値が見出され、多様な形で親しまれています。グローバルに市場が広がり、日々多くの人々の手に届くようになったことは、お茶に携わる一人として非常に嬉しく、素晴らしいことだと感じています。
しかし、その勢いのある経済の循環の傍らで、私たちはもう一つの静かな問いに向き合うこともできるはずです。 「このままの変化の先に、百年先も、本当に美味しい日本茶が飲めるのだろうか?」
京都府南部、宇治茶の主産地である和束町。霧が立ちのぼる美しい茶畑が広がるこの地には、先人が1000年かけて育んできた卓越した職人技と、お茶という存在を通じた「内省と調和」の精神文化が息づいています。 現代の効率性やスピードを重視する流通システムは、多くの人にお茶を届けるために最適化された立派な社会の仕組みです。ただ、その速さのなかで、お茶が本来持っている「時間をかけて自分と向き合う」という精神的な価値や、土を耕し続ける生産者の繊細な営みへ、十分に光が当たりきらない側面があることも事実です。

どちらが正しい、間違っているということではありません。急速な広がりを見せる経済の軸があるからこそ、私たちはもう一方の軸として、文化の根幹を「未来へ美しく繋ぐための構造」を並立させる必要があるのではないか、と考えています。
アスリートの規律と、最前線で触れたフロンティアスピリット
私、竹谷 俊哉(たけたに・としや)は、和束町で300年以上続いたお茶の家系に生まれました。しかし、時代の変化や産業構造の変遷のなかで、代々続いてきた茶業は一度、完全に途絶えていました。
一度お茶の文脈から離れた私は、16歳からアメリカンフットボールの世界に没頭し、19歳で日本代表選手に選出されました。150人近い巨大な組織のなかで、個人としてどう規律を持ち、全体にどう貢献するかを考え続けた日々。その後、サンフランシスコ州立大学で国際ビジネスを学び、シリコンバレーのスタートアップへの参画や、ニューヨーク・東京での投資・コンサルティング業務を経験しました。
そこで目にしたのは、理想の実現に向けて情熱を燃やす起業家たちの、純粋に「かっこいい生き方」そのものでした。 彼らが持つフロンティアスピリットに深く共感し、ビジネスが持つ大きな可能性を今も信じているからこそ、私は自分自身の役割をより深く見つめ直すようになりました。
短期的な数値達成や時価総額の極大化を目指す、Jカーブの急成長モデル。それは現代の経済を牽引する強力なエンジンです。一方で、日本茶が内包する「利他・規律、内省・調和」といった、時間とともに深まっていく文化の本質や精神性を守り育むには、また異なるアプローチが必要になります。
一般的なアクセラレーターやスタートアップの基準とは、時間軸の重ね合わせ方が異なるかもしれません。それでも私は、この2つの時間軸を否定し合うのではなく、自分の事業のなかで両立させたいと考えました。
役割は、壮大な歴史のスケールの中で「美しくつなぐこと」
いま、京都や奈良に世界中から人々が訪れるのは、過去の日本人が「未来に残す」と覚悟を決め、長い時間をかけてその本質を繋いで置いてくれたからです。私たちは今、その恩恵を授かっています。 では、私たちが生きる今の時代の先に、50年後、100年後のこの土地にはどのような人が暮らし、どのような美しさが残っているのでしょうか。
私は、自分が壮大な歴史のスケールの中の一時的な当事者であり、役割は次の世代へ「美しくつなぐこと」だと思い定めています。情報過多や効率、時短に追われ、自ら覚悟を決めづらくなっている現代だからこそ、お茶という存在、そしてそれが生み出す「徹底的な透明性と参加性」を持った空間は、人間の精神的葛藤を癒やす確かな居場所になると確信しています。

WMATCHA & CO. は、既存の経済のあり方を否定するものではありません。 体育会の規律と利他、そして茶の湯の内省と調和を帯びた『新しい公共性の美学』を、現代の経済循環の中に静かに並立させたい。受動的な消費で終わらせるのではなく、文化の持続可能性を共に支える「参加者」になれる仕組みを、デジタルデザインを通じて現代人へシームレスに翻訳していく挑戦です。
短期的な成長のみを前提とした評価軸にそのまま当てはめようとすれば、バランスに葛藤が生まれることは正直に告白します。 それでも今回、この50年先を見据えた挑戦を社会に提示したのは、数値と思想を両立させ、世界へ打って出るための「本質的な思想の共鳴者」を、この場所で見つけたいからです。
時間軸を超えた深い対話を、皆様と重ねられることを切に願っています。
竹谷 俊哉(たけたに・としや)
WMATCHA&CO.合同会社
ウェブサイト:https://linktr.ee/wmatchaco
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