制度のすき間を埋める“在宅ケア業”──医療的ケア児を支え続けて30年。えがおさんさんが目指す「笑顔の地域社会」

20周年を迎えたえがおさんさん──「伴走者としての看護」で築いた在宅ケアの30年

特定非営利活動法人　えがおさんさん

2025年12月25日 15時56分

特定非営利活動法人えがおさんさん（東京都新宿区）は、24時間人工呼吸器が必要な子どもたちが在宅で過ごす選択肢がなかった約30年前、「それでも、何とか我が子と一緒に自宅で生活したい」という母親たちの思いに寄り添う、ボランティア活動からスタートしました。
以来、在宅支援に取り組み続け、今年、法人設立20周年という節目を迎えました。

一般社団法人全国訪問看護事業協会30周年記念式典
（左）前代表理事松尾　（右）代表理事田中

この節目の年に、一般社団法人全国訪問看護事業協会30周年記念式典において、前代表理事・松尾陽子が、小児の訪問看護の普及・発展に寄与した個人として感謝状を拝受しました。

30年にわたる活動を振り返りながら、看護が「医療だけでなく生活そのものを支える存在」であることを改めて振り返ります。

看護・介護・療育の制度の枠を越え、子どもと家族が「家で暮らすあたりまえの生活」を実現するために取り組んできた歩み。それは、社会がまだ医療的ケア児という言葉さえ知らなかった時代から始まりました。

制度にない“暮らしのケア”を届けるために

1990年代、重い障がいのある子どもが自宅で暮らすことはまだ難しい時代でした。病院での医療が中心で、在宅での支援制度は十分ではありませんでした。その中で、「子どもたちが家族とともに自宅で過ごせるように」という想いから、えがおさんさんの原点となる活動が始まりました。

健康保険制度で子どもの訪問看護が構築される前から在宅生活を支えている松尾の活動。
この「制度よりも生活を優先する姿勢」が、今の私たちの根幹にあります。

病棟看護師で働きながら在宅ケアを学び始め、ボランティアとして医療的ケア児のお家に訪問していた頃の松尾

「在宅ケア業」という新しい発想

医療的ケア児の在宅支援では、医療行為だけでは生活は支えきれません。看護、介護、外出、遊び、学び——そのすべてがつながって初めて「暮らし」が成り立ちます。えがおさんさんでは、これを「在宅ケア業」と呼び、訪問看護・居宅介護・児童発達支援・放課後等デイサービス・ボランティアの5事業を連携させて支援を行っています。

「制度にとらわれず、どうすればその子と家族が笑顔で暮らせるか」を軸に、ひとり一人に合わせた在宅ケアを実現しています。また、症状の重いお子さんには、1日8時間にわたる長時間訪問を行うこともあります。医療的なケアはもちろん、家族が少しでも安心して休めるように、私たちは今もなお、「家族の黒子」として寄り添うことを大切にしています。

「看護福祉士」という生涯を支える視点

1990年代後半、当時の訪問看護制度は医療的処置が中心で、訪問時間も基本的に1〜1時間半。その時間内では、子どもの在宅でのニーズに十分応えることが難しい状況でした。また、ご利用者様やご家族からは、長時間の訪問や外出支援への要望も多く寄せられていました。

そこで、看護師が「介護職」としての役割も担うことで、訪問看護制度と障害福祉制度の両方を活用しながら、より柔軟な支援を提供できる体制を整えてきました。

この“看護”と“福祉”の視点を併せ持つ支援のあり方を、私たちは「看護福祉士」と呼んでいます。
地域に出て社会と関わり、家族と過ごす時間は、その子が持つ力を大きく引き出します。そのため、外出支援などの必要な場面では看護師が「介護職」となり移動支援などのサービスも併用しながら、その子の成長や生活の広がりを支えています。

重症心身障がい児者が「お家で生活する」ということは、単に家の中で過ごすことだけを意味するものではありません。通院や学校、地域や社会へと出かけ、遊びや友だちとの関わりなど、さまざまな経験を重ねていくことも大切な生活の一部です。

訪問看護は居宅で行う支援ですが、看護福祉士として生活全般を支えることで、ご利用者様にとってより理想的な在宅生活の実現につながります。また、病院を離れ、在宅での支援に携わりたいと考える看護師にとっても、自分が大切にしたい形でのサポートを実践できる場となります。

えがおさんさんが大切にしている「看護」と「福祉」が一体となった支援は、ご本人とご家族（支援を受ける側）、そして看護師（支援する側）の双方の想いが叶う支援のかたちだと考えています。

子どもの成長とともに歩む30年、スタッフが“ファンになる”関係性

現在、利用者は0歳から成人まで約150名。最年長のご利用者様は38歳です。私たちは年齢で区切るのではなく、「生涯を支える存在」として、家族の“黒子”のような立ち位置で寄り添い続けたいと考えています。

長い方では、0歳の頃から成人するまで十数年にわたり支援を続けています。
その成長をともに見守ることが、私たちの何よりの喜びです。

バクバクの会のイベントにて　左から、阪口（ヘルパー）、緒方（看護師）、関川（看護師）、松尾（看護師）

えがおさんさんのもう一つの特徴は、スタッフ同士、そして利用者との関係の温かさです。
現場では「〇〇ちゃんファンクラブ」という言葉が自然に生まれます。
看護師・療法士・ヘルパー・児童指導員・保育士がそれぞれの立場で支援しながら、互いの強みを引き出し合う関係が築かれています。

「支援する人も笑顔でいることが、利用者の笑顔につながる」
この循環こそが、私たちが大切にしてきた30年の財産です。

次の時代へ——笑顔の地域社会を目指して

「えがおさんさんに頼れば、きっと笑顔で暮らせる」
そう思っていただける存在であり続けることが、私たちの願いです。

30年にわたる歩みの中で、制度は少しずつ整ってきました。しかしその一方で、社会の変化や暮らし方の多様化により、時代に即した新たなニーズが生まれ、今なお制度のすき間にこぼれ落ちている課題が数多く存在しています。私たちは、こうした“すき間のニーズ”に真摯に向き合い、現場から見える課題を制度に反映していけるよう、これからも積極的に取り組んでまいります。

また、これからのえがおさんさんは、現場の経験と知見を次世代に伝える研修・教育事業にも力を入れ、「障がい児者を支える地域」をともにつくる人材育成を進めていきます。