”フェンシングは儲からない” 常識を覆す、快進撃!各界のパイオニアと挑む、2020年への戦略。― 太田雄貴 × 小澤隆生 × 嶺井政人 

【開催レポート】Fencing Vision Forum 2018 ~フェンシングの未来のために、今、私たちがやるべきこと~

2018年9月8日「WORLD FENCING DAY」に合わせて、日本では公益社団法人日本フェンシング協会による「Fencing Vision Forum2018~フェンシングの未来のために、今、私たちがやるべきこと~」が開催されました。

本記事では、その第一部「多様な個を巻き込み、組織力へ フェンシング界改革への提言!」をダイジェストでお届けします。
スピーカーは、公益社団法人日本フェンシング協会会長・太田雄貴氏、Yahoo!株式会社常務執行役員コマースカンパニー長兼コマースカンパニー統括本部長、公益社団法人日本フェンシング協会マーケティング委員長・小澤隆生氏。そして、モデレーターには、株式会社マイネット取締役副社長、株式会社ネクストマーケティング代表取締役社長・嶺井政人氏をお迎えしています。
当日は登壇者のみならず、日本フェンシング協会・選手・スポンサーを含めた支援者が一堂に会し、2020年の東京オリンピック成功のために、今為すべきアクションについて徹底議論しました。(Text By 梶川奈津子)


”昨年までは”売れなかった観戦チケット。今年、わずか40時間で完売した理由とは?

嶺井政人氏(以下嶺井)
:まず、フェンシング協会が目指しているゴールについて、お聞かせいただけますか?

太田雄貴(以下太田):会長就任後に掲げた大方針の一つが「協会登録者数を約6500人から5万人にまで増やすこと」です。特にこの1年は、新規ファンの獲得とその定着化、コミュニティ化を重視して活動してきました。そのなかで、見えてきた課題が2つあります。

一つは、競技への参入障壁の高さです。フェンシングは道具代が高く、カジュアルに始めづらい競技。また「競技中に顔が見えない」「ルールが分かりにくい」ことも、心理的な障壁となっています。まずは、これらを解決したい。そこで、当協会ではフェンシングを気軽に楽しんでいただけるよう、4種目目となる新たな種目を開発中です。剣や落ちている枝を振り回している子どもたちから着想を得て、チャンバラに近い形式を考えています。実は子供には身近なスポーツですからで、ユーザーとして獲得していきたいですね。

二つは、「フェンシングを始めたい」と思っていただけるようなブランドイメージの構築です。特に親御さんから「こんな風に育ってほしい」と思ってもらえる選手を輩出したい。たとえば「フェンシング選手は、グローバルに活躍していて、英語が話せる」など、明確なイメージを戦略的に構築し、ぜひ多くのお子さんがフェンシングを始めるきっかけを作りたいと考えます。

嶺井:直近の取り組みについても、聞かせてください。2017年の会長就任後、一大イベントであった全日本フェンシング選手権大会では、どのような施策を行ったのでしょうか?

太田:まず、2017年の全日本選手権大会では、集客強化を方針に掲げ、観客視点を追求した様々な改善を行いました。特に反響が大きかったのは、決勝戦を最終日に集約したことです。従来の大会では、男女・種目別にトーナメントが進行されており、2回戦以降の試合がいつ行われるのかが、観客には分かりづらいことが課題でした。

他にも、フェンシング初心者にもルールを理解いただけるような仕掛けを導入しています。たとえば、会場の館内ラジオでは、選手がMCとして試合解説を行ったり、LEDのディスプレイを設置し、「選手がポイントを獲ると、床が光り出す」仕立てに変更するなどしました。

結果的に集客数は前年の150人から1500人にまで伸ばすことができました。集客に注力した背景には、大会運営を収益事業化することは勿論、競技力を強化する意図がありました。オリンピック本番では少なくとも8000人程度の観客がいますから、選手にはより多くの観客に囲まれて試合経験を積んでおいてもらいたいんです。
 

 

嶺井:そして、今年12月の全日本選手権は、観戦チケット(5,500円)が発売からわずか40時間で完売したと聞きました。一体、どんな取り組みを行ったのでしょうか?

太田:今回は、フェンシング観戦の体験価値をさらに高めるべく、なんと劇場・東京グローブ座で決勝戦を実施します。「スポーツ観戦」を「劇場での鑑賞」という位置づけにし、より体験価値を上げようと考えたんです。
たとえば、新たな仕掛けとして「フェンシングビジュアライズド」と呼ばれる技術を実装する予定です。これは、世界初の試みで、選手が操る剣先の軌跡をリアルタイムで追うことができるものです。
 

 

他にも、新規ファンの獲得を目的とした、マス向けの施策も目白押しです。たとえば、告知用ポスター*は蜷川実花氏にキャッチ―に仕上げていただきました。そして、当日にはAbema TVでフェンシング初となる全6種目決勝生放送の実況をしていただきます。
 

*2018年度全日本フェンシング選手権大会のポスター

東北楽天イーグルスに学ぶ、競技ビジネスのマーケティング戦略

嶺井:本日はマーケティング委員長の小澤さんにもお話を伺いたいと思います。まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?

小澤隆生氏(以下小澤):2004年の楽天在籍時に、事業本部長としてプロ野球団・東北楽天ゴールデンイーグルスを立ち上げ、「球団をビジネスとして成り立たせる」ことにこだわってプロデュースしました。その結果、初年度には歴史的な大敗を喫した(37勝98敗)にも関わらず、パシフィックリーグで唯一の黒字を達成しました。

嶺井:黒字達成できた、一番の理由は何でしょうか?

小澤:チームの戦績に左右されない、財務体質を作ったことです。チケットが売れて、ファンに応援してもらえる状態であれば、たとえ球団が弱かろうとスポンサー費・興行費で潤沢な収益が出ますから。

そのために、ファンが多様な「球場体験」を楽しめる仕掛けを増やすことが大事です。まず、「試合の勝敗」に関わらないエンターテイメントを増やすこと。たとえば、物凄く人気のあるマスコットキャラクターを作ったり、試合のクライマックスにジェット風船を打ち上げたり、美味しい食事を提供するなど、様々な取り組みをしました。

あとは、選手のファンを増やすこと。そうすれば、たとえチームが試合で負けたとしても、ファンにとっては「選手のプレーを観る体験」自体が価値になります。選手の中にはファンサービスに消極的な方もいらっしゃいますが、ファンが来場すれば球団の収益は上がり、ひいては自分の遠征費になるなど、メリットがあるものです。私たちの場合は、試合当日の午前中に選手が小学校を訪問し、チケットを子どもに手渡しで配りました。すると、子どもに連れられて、親も球場に応援に来てくれるんです。子どもたちは打席に立つ選手に魅了され、その後は球場に何度も足を運んでくれるようになりました。こうした草の根の活動を続け、固定客を増やしていったんです。

嶺井:フェンシングのマーケティング戦略については、どのようにお考えですか?

小澤:大概のスポーツは、競技人口の方が多い「やるスポーツ」(野球・サッカー等)と、観客数の方が多い「観るスポーツ」(相撲・格闘技等)のどちらかに分けられます。フェンシングの場合は「やるスポーツ」というポジションを目指すべきではないでしょうか。なぜなら、他の「観るスポーツ」と比較して、親近感を持ちやすいからです。たとえば選手の身長・体重は一般人と同程度ですし、太田会長はフレンドリーなキャラクターとして認知されていますよね。

そして、競技人口を増やしていくためには、選手には「子どもが憧れる存在」になっていただきたい。ぜひメダルを取っていただき、認知度をどんどん上げて、その雄姿を見せていってほしい。私たち裏方は、メディアを通じて、世に知らせていきます。

嶺井:フェンシング協会としては、どのようなメディア戦略を考えているのでしょうか?

太田:当協会のメディア露出は、「競技試合の結果」「協会運営の取り組み」という2つ軸があるんです。試合のニュースがない時は、自分たちで運営面のニュースを作り、取り上げていただけることが強みですね。
とはいえ、試合結果を世の中でもっと報じていただくためにも、競技のプレゼンスを高めることが一番の課題です。実は先日、国際大会で男子エペが金メダルを取ったにも関わらず、全くテレビに報道されなかったという事態がありました。そこで、私がTwitterで呼びかけて、複数のメディアに取り上げていただいたことも…(笑)
 



嶺井:太田会長は以前から、選手のSNS活用を推奨されていますよね。

太田:はい。選手に自分で稼ぐ手段を身に着けてほしいんです。フェンシング選手は、協会の財政基盤が盤石ではないために「選んだスポーツで稼げない」「強くなるほど、練習や遠征の金銭的負担が増える」という状況にあります。これでは、将来有望な子どもたちでさえ、フェンシングの未来に希望を持てません。協会にも改善の余地はありますが、一方でまずは選手自身が取り組めることもあります。その一つが、SNSを使って自分の発信力を高めることです。
たとえば、選手がトレーニングでジムに通いたい時、自身のSNSアカウントでPRすることを条件に、無料でジムに通わせていただくことも可能になったりします。つまり、自分でアクションを起こす時に、ステークホルダーと交渉するコンテンツになるんですね。そうすることで、選手自身が試行錯誤しながら、ビジネスのマーケティング的な思考を養うこともできます。


ベンチャーならではのスピード感で、全業界に先駆けた組織運営モデルを作りたい

嶺井:太田会長は就任以降、外部から多様な人材を巻き込んでいらっしゃいます。なぜそのような取り組みが必要だとお考えなのでしょうか?

太田:まずスポーツ界全般にいえることですが、多くのスポーツ競技団体は人材の在籍年数が長く、同質性の高い組織である傾向が強い。だからこそ、意識的に人材の流動性を高めることが必要だと考えています。
最近、私は「フェンシングはベンチャースポーツだ」とよく話していますが、アマチュア業界だからこそ、他業界に先駆けた組織づくりにチャレンジしていきたい。だからこそ、外部から積極的に人材を登用したり、議論する場を設けているんです。会長業で最も大事なことは「面白い人材をどれだけ集められるか」です。集客と同様ですが、いかに試合以外の部分で魅了して、ステークホルダーを巻き込めるかが肝ですね。

小澤:私が当協会を手伝っているのは「フェンシングが伸びていて、面白そうだ」と魅了させてくれる、太田会長の人柄ゆえですね。魅力的な選手も多いですし、メディア業の立場からすると素材がいい。

太田:スポンサーを巻き込む時も同様で「メダルを取るために、1枚噛んでおこう」と思っていただけるかどうか。私たちでその機運を作っていくことが、大事なんです。

嶺井:今後、太田会長はどのような協会組織を目指したいとお考えでしょうか?

太田:私自身も、いつまでも会長という役職にいるつもりはありません。それまでに、ベンチャー組織だからこそ、先駆けて全競技団体のモデルになる取り組みをやっていきたいですね。たとえば、直近では『ビズリーチ』で戦略プロデューサー4職種を副業・兼業限定で公募を開始しました。また、PR・マーケティングは、最初のうちは外注してでも「戦略を仕掛けて果実を得られる仕組み」を構築しておきたいと考えます。いまはまだ珍しい取り組みですが、最初に誰かが第一声をあげることで、スポーツ業界でも当たり前になってくるのではないでしょうか。私が初めてオリンピックのメダルを取ってから、フェンシングの国際大会で日本人選手が活躍するのが当たり前になったように、「最初のロールモデル」を作ることが大事だと思っています。
 

 

 

嶺井:組織の多様性を高めていくなかで、選手にはどのようなことを期待していらっしゃいますか?

太田:日本で培った技術・技術を輸出できるくらいの、素晴らしい選手・コーチになっていただきたいと思っています。そのためには、将来的な引退も見据えていただきつつ、フェンシング業界内外で得た知見を、現役時代の糧にしていってほしいですね。特に、アスリートとは異なる世界の価値観・考え方を学んだ経験は、グローバルで活躍する際の土台になりますから。

当協会では「これからフェンシングが変わっていくぞ」という機運を必ず創っていきます。多方面から人材を巻き込んでいきますので、ぜひ皆さんもフェンシングに巻き込まれていってください。よろしくお願いいたします。

 
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