眼科医療機関における運転外来の普及を目指す一般社団法人Vision & Mobility設立のお知らせ

一般社団法人Vision & Mobility

2025年12月17日 13時00分

設立の趣旨

　この度、視覚障害者の福祉と交通安全の向上を目的とする一般社団法人Vision & Mobility（ビジョン・アンド・モビリティ）を設立いたしました。

　本法人は、視覚に障害を抱える方々が障害の程度に応じて安全に自動車運転を継続でき、また運転の継続ができなくなったとしても自立した移動を維持できる社会の実現に向けて、眼科医療機関、自動車運送事業者、自動車メーカー、技術開発者、研究者、行政等と連携して、多面的な支援・研究・啓発活動を展開してまいります。

設立の背景

　現在、社会の高齢化に伴って視覚に問題を抱えるドライバーが増加しており、その対応が社会的な課題となっています。なかでも、視野障害や視機能の低下に起因する運転リスクへの対応は、医療・運輸・福祉の各分野で連携した取り組みが求められます。

　しかし、視覚障害に特化した運転リスク評価や運転継続への支援体制は十分ではありません。視覚障害者の運転の継続・中止を判断するためには運転リスクの客観的な評価が不可欠ですが、そのような評価を提供できる眼科医療機関は少数です。また、運転中止後の就労の継続や移動手段の確保についても、支援体制が整っているとは言えません。

　こうした背景から、視覚に障害をお持ちの方が安全・安心に移動し続けられる社会環境づくりを目的として、Vision & Mobilityは設立されました。

代表理事挨拶

一般社団法人Vision & Mobilityの設立にあたって

代表理事　伊藤誠

　この度、一般社団法人 Vision & Mobilityを設立させていただくことになりました。この法人では、視野に障害のある方の自動車の運転を中心に、運転能力の評価、助言、技術的支援などについて研究し、実践していきたいと考えています。

　一番大事なことは、視野に障害があっても不自由なく日々の生活を送ることができる社会的環境を実現することであって、自動車を利用した移動はその一つの手段にすぎません。長い目で見れば様々な対応策を考えることはもちろん可能です。しかし、現実的に今すぐにできること・すべきこととして、視野に障害のある方による自動車運転の安全を確保することを、この法人では目指したいと考えています。

　視野に障害があるからといって、直ちに自動車運転を取りやめないといけないわけではなさそうです。実際、これまでの経験では、少々視野が欠けていても、安全に運転できている人はいます。もちろん、障害の程度が重くなった場合には、どこかの段階で自動車の運転をあきらめていただかないといけない場合はあります。問題は、視野の障害に関して、自動車の運転能力をどう評価し、どう助言をし、どう支えていけるか、あるいは、どこまで悪くなったら運転を取りやめる判断をすべきか、ということについての方法論が完全には確立できていないところにあります。

　この法人の設立に先立ち、一部有志の先生方の努力によって、眼科に「運転外来」を開設し、成果を上げ始めています。自動車の運転能力について視野という観点から具体的に検討できるのは、やはり正確な視野検査が可能な眼科の外来です。本法人では、運転外来で蓄積した知見をもとに、眼科にかかわる皆様と情報・意見交換を深めるとともに、可能な施設には運転外来の導入をお手伝いしてまいります。

　自動車運転能力の評価・向上の手法をより良いものにしていくためには、眼科の皆様のみならず、道路交通、自動車技術を専門とする皆様のご支援も不可欠です。

　本法人の趣旨にご賛同いただける、幅広い分野の皆様のご協力をお願いできれば幸いです。

視野障害者向け自動車運転リスク評価用ドライビングシミュレータ “ViMo”

　緑内障や網膜色素変性などの眼疾患は視野に異常を生じさせます。日本における緑内障の推定患者数は490万人、網膜色素変性の推定患者数は3万人と言われています。

　現在、日本では普通自動車免許の取得・維持にあたって視野に関する十分な基準はありません。しかし、視野障害が一定程度進行すれば運転に影響を及ぼすことは明らかです。その一方、移動を車に頼ることが多い社会状況を考えると、運転の中止は大きく活動量・活動範囲を減少させ、生活の質を低下させます。高齢者の運転中止は認知症リスクを高めるとの研究もあります。したがって、運転リスクに影響を及ぼさない程度の視野障害であれば、運転を継続することが望ましいということになります。

　緑内障も網膜色素変性も進行性の疾患で、初期には視野障害の範囲はごく限られています。また、緑内障は適切な治療を継続することで進行を抑えることができます。さらに、その他の疾患でも、視野障害の程度は人それぞれです。したがって、運転の継続が可否の判断には、視野障害がどの程度運転に影響しているのかを適切に評価することが必要になります。

　そこで、本法人の理事である國松は、代表理事の伊藤、監事の桑名と共に視線計測機能付き視野障害患者向けドライビングシミュレータを開発し、2019年に西葛西・井上眼科病院において常設での眼科医療機関における運転外来を日本で初めて開設いたしました。そして、これまでの運転外来での経験を生かし、臨床での使用に向けたさまざまな改良を施した運転外来用ドライビングシミュレータ “ViMo” をリリースしました。我々は、運転外来の実施を希望する眼科医療機関に、この “ViMo” をそのノウハウと共に提供いたします。

　“ViMo” において視野障害で事故・違反を起こしやすい場面を含むコースを運転し、運転中に記録した視線移動の傾向と視野検査の結果とを合わせて評価することで、患者様の視野障害が運転に及ぼす影響を総合的に判断します。また、運転場面を医療者と一緒に振り返ることで、患者様がご自身の運転と視野障害の状態を客観的に把握することができ、安全運転につながると期待されます。

　眼科医療機関への “ViMo” の提供と運転外来実施の支援を通じて、視野障害をお持ちの方の安全な運転の継続や、視野障害をお持ちの患者様と医療者双方が納得した形での運転中止の判断をサポートしたいと考えています。